政府は2022年11月24日に「スタートアップ育成5か年計画」[1]を発表しました。この5か年計画では、2027年末までにスタートアップを10万社、ユニコーン企業を100社創出するために政府が10兆円を投資するとしています。
日本経済の課題を解決し、再成長を加速するためのソリューションとして重要な位置づけとされているこの施策ですが、そもそもユニコーンを増加させることは、問題の解決策になるのでしょうか?
上場後の成長が続かない日本のスタートアップ
まず、前提として日本市場の特徴について整理していきましょう。
世界に占める各国のGDPとユニコーン企業数の割合を比較すると、表1のようになります。日本は、GDPで米国と中国に次ぐ世界第3位である一方で、ユニコーン企業数ではアジアの中国、インド、韓国、シンガポールに劣っています。
表1

・出所:CB Insights[2]、世界銀行[3]などのデータから作成
・ユニコーン比率は2023年1月16日時点。GDP比率は2021年ベース。GDP比率=各国のGDP÷世界のGDP合計額、ユニコーン比率=各国のユニコーン数÷世界の全体のユニコーン数で計算
一方で、上場会社の数という点では、東証の上場企業数は3,867社[4]です。これは、ニューヨーク証券取引所の約2,400社[5]よりも多く、ナスダック証券取引所の約4200社[6]よりも若干少ない社数となっています。
2011年以降だけでも日本では、約1000社の未公開会社が新規上場(IPO)を果たし、多くの上場企業を生み出しました。したがって、数だけをみれば、日本のスタートアップ育成政策は成功したと思われます。
しかし、数を重視したために、2017年以降に上場した会社のうち、現在の株価が初値を上回っている会社は、表2のとおり約3割程度です。これでは上場を果たした企業が継続的に企業価値を向上させているとは言えません。
では、日本企業が上場後に企業価値を向上させられない理由はどこにあるのでしょうか?
表2

「小型IPO」が上場後の成長を阻んでいる
日本において現在の時価総額が初値ベースの時価総額を下回る会社、つまり上場後に企業価値を向上させられない企業が多い理由には、「IPO時点での時価総額が小さすぎる」ことが大きいと指摘されています。
日本のスタートアップの場合、レイターステージでのファイナンスを支えられるVC(ベンチャーキャピタル)が限定的だったことと、IPOをする際の基準が比較的緩やかだったため、表3の通り米国におけるシリーズB~C程度のステージで上場してしまう傾向があります。
表3

・出所:fundz、東証などのデータから筆者作成
・データ期間:日本のIPOは2018年~2022年の初値時価総額の中央値。米国は2022年1月1日~11月23日のデータ
その結果、東証における時価総額500億円未満の会社は、表4の通り約7割となっています。
しかし、市場での時価総額が500億円未満の上場企業は、証券会社のアナリストによる分析対象となりにくく、大口の機関投資家も流動性や投資規模の基準から投資の対象としないことが多いと言われています。
よって、IPO後の時価総額が増加しにくく、成長のための資金調達(エクイティファイナンス)も行えないという悪循環に陥ることがあります。
表4

・出所:各種公表データ
つまり、時価総額500億円以下の小型IPOを増やしてもその後の企業価値向上は難しく、国全体としても資本市場の発展に繋がりにくいのです。
この点からすれば、時価総額1000億円以上のユニコーンのIPOを増やすことは、確かに現在の日本市場の問題点をクリアし、その発展を通じた経済の成長に有効であると言えそうです。
それでは、実際にユニコーンとしてIPOをした会社は、上場後も企業価値を向上させ続けているのでしょうか?
(次回に続く)
(執筆:芦澤 公二)
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【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
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お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
日本で最も選ばれているビジネススクール、グロービス経営大学院(MBA)。
ヒト・モノ・カネをはじめ、テクノベートや経営・マネジメントなど、グロービスの現役・実務家教員がグロービス知見録に執筆したコンテンツを中心にお届けします。
Photo by:Annie Spratt
参考
[1] https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/bunkakai/suikusei_dai3/siryou2.pdf
[2] https://www.cbinsights.com/research-unicorn-companies
[3] https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.CD
[4] 日本証券所グループ 2023/2/24時点 https://www.jpx.co.jp/listing/co/index.html
[5] NYSE 2023/2/04時点 https://www.nyse.com/listings/international-listings
[6] 2021年12月末時点 https://ir.nasdaq.com/static-files/a6d48019-710d-40ed-9dd5-0f256b579b47