GCP(Globis Capital Partners:グロービス・キャピタル・パートナーズ)は、7号ファンドにつき2023年3月末をもって合計727億円で募集完了した。

本記事では、7号ファンド立ち上げの背景や、目指す方向性などについて、7号ファンドからジェネラルパートナーとなった福島智史と湯浅エムレ秀和の2人に聞いた。(聞き手=吉峰史佳)

 

優秀な人材が継続的にスタートアップに流入するように

――7号ファンドはなぜ2022年というタイミングで組成されたのでしょうか。

 

福島:エムレさんも私もこの仕事を始めて9年になりますが、変化という意味では、これまでスタートアップに来なかったような優秀な人が、一時的ではなく持続的にスタートアップに流入するようになってきました。その結果、大規模な資金調達が可能になり、これまででは出来なかったようなチャレンジをするスタートアップが増えています。

政府もスタートアップを日本の新しい競争力の源泉と見なすように変わっています。そういう環境の中で、従来の起業家に寄り添ったサポートを継続しながらも、世界に向けてスケールの大きいチャレンジをするスタートアップを応援できるパワーを持ちたい、と。それが7号ファンド設立の狙いです。結果として、7号ファンドは727億円と、400億円の6号ファンドと比較しても一社あたりに投資できる金額を拡大したものになりました。

 

湯浅:補足すると、4号(115億円)は2013年、5号(200億円)は2016年、6号は2019年というように、3年ごとにファンドレイズしながら、2022年に7号ファンドを立ち上げています。基本ポリシーとしての「3年ごと」は従来通りですが、今後はさらに大きなチャレンジをするスタートアップが現れるだろうと予想しているので、そこを応援するために、過去最大規模のファンドを立ち上げるに至ったのです。

 

――経営者だけではなく、従業員も優秀な人がスタートアップに集まって、より大きな事業をされようとしている。それが1つ2つではなく、業界としての方向性になっているということでしょうか?

 

福島:そうですね。社会に新しい価値を提供できるような、世の中全体をアップデートできるような大きなチャレンジのために自分のキャリアを投資したいと考える方が増えていますね。

 

湯浅:その野心や取り組みの規模も拡大しています。たとえば、メルカリは上場時に評価額4000億円、その直後に7000億円をつけて、1兆円を超えたこともありました。なおかつ日本だけではなくアメリカも攻めている。こういう会社が日本から出てくると、野心のある起業家は、同様の大きなチャレンジをしたいと考えます。

メルカリの成功を中で体験した人が、次にどこかスタートアップにジョインする時、もしくは自分で起業する時は、その成功体験からの学びを生かせます。そういう形で天井を引き上げていくような効果があると思います。

 

「ユニコーン超え」のスタートアップ支援を

――7号ファンドでは、どのようなスタートアップに投資したいと考えていますか。

 

湯浅:6号は「ユニコーンファンド」と捉えていましたが、7号は「ユニコーン超え」を応援したいと考えています。その領域は2つです。

1つは医療、建設、製造業、不動産など国内だけで十分に大きな市場がある業界。

もう1つは、国内発で海外に出ていって現地で日本の強みが生かせる領域です。後者は日本のコンテンツ産業やエンタメなど、海外でも評価されている領域です。そこをしっかり後押ししていきたいのです。

 

――これまでも原則として「市場規模が大きいところ」に投資をされてきたと思うのですが、何が違うのでしょうか。

 

福島:今までのスタートアップは、大きな産業における特定の課題解決にフォーカスしていました。たとえば、これまでのVC(ベンチャーキャピタル)やスタートアップに流れるお金の量では、工場を効率化するためのプログラムやAIの活用はできても、工場そのものはつくれませんでした。だから、ロボット技術を得意とするハードウエア会社と、ロボットにAI的な機能を搭載することが得意なソフトウエア会社は、個々に立ち上がっていました。

それが優秀な人材と、調達資金が大きくなったことで、一致団結して新しいソリューションを生み出せるようになるかもしれない。そういう違いがあります。

なので、7号ファンドからは一つの枠組みに捉われない拡張性のある事業、もしくは事業のシナリオに対してもチャレンジしていくことになるでしょう。

 

複数のエリアで同時にグローバル展開することが可能に

――グローバル市場も同じでしょうか。

 

湯浅:最近は日本でもスタートアップが1社で数百億円の調達をする事例が増えています。このような大型調達が益々可能になると、起業家も最初からグローバル市場にアクセスして攻めたいと考えるだろうし、そこから逆算して事業を起こすような事例も出てくると思います。

 

福島:私が担当しているAIメディカルサービス社のようなグローバルで競争力のある特定のサービスや技術の場合、いろいろな国からの引き合いが同時多発的に来ます。これまでだったら南北アメリカとヨーロッパ、そしてアジアを同時に攻めるという話があったとしても、「無茶だ」「資金はどうするんだ」とストップがかかったと思いますが、今なら、そういうケースでも十分に手当ができるのです。そういう背景から、ファンドサイズを大きくしているし、チームも増強しているのです。

 

ファンドサイズの拡大に伴いGCPの役割も変化

――そうしたなかでGCP(Globis Capital Partners:グロービス・キャピタル・パートナーズ)としての対応はどう変わってくるのでしょうか。

 

湯浅:もともとGCPは、「ハンズオン支援」を強みとしてきました。ハンズオン支援とは、投資先に資金を提供するだけではなく、社外取締役などに入って経営陣と近い関係で日々の経営課題に対して共に解決を目指すものです。その過程において、我々キャピタリストが持つネットワークによって人の採用をしたり、顧客候補や事業提携先を探したりと、アクティブに展開していきます。

投資先が多様化し、やることがより複雑に、そして野心的になっていく中では、支援する我々も変わっていく必要があります。3年ほど前から、「GCPX」という投資先支援専門チームを立ち上げ、エグゼクティブハイヤリングやミドルマネジャーの採用といった主に組織系の支援をしています。最近ではエンジニアの採用までお手伝いできるようになっています。

しかし、これだけでいいとは思っていません。今後はグローバル展開を目指すスタートアップのサポートメニューを増やしていきたい。例えば、2023年4月にはGCPのサンフランシスコ拠点を設立しました。この拠点はグロービスUSAと共同で運営しており、GCP投資先でもあるスマートニュース社と同じビル内にあります。アメリカ展開に挑戦する投資先がこの拠点を利用することで、先駆者であるスマートニュースのアドバイスも受けられますし、投資先間の情報交換も促進できると期待しています。

また、直近では海外VCとの連携も強化しています。それぞれの市場に根ざした現地VCと共同投資することで様々な知見や支援が受けられることを期待しています。我々も今後は海外に出向くことが増えるでしょう。

 

リスクよりもチャンスの大きい起業家に投資を

――起業家を見るときのポイントには、変化はありますか。

福島:10年前と違うのは、成功する確率よりも成功したときに実現するインパクトの大きさを見るようになったことです。安定的なリターンよりも、世の中に大きな価値を出せるか否か。そうなると、リスクよりもチャンスに注目したい。そのためには、非連続的な成長が求められるタイミングでどうサポートできるかがカギを握ります。それを投資する前から想像します。

 

湯浅:投資家の数が増加したのが大きな変化です。ポテンシャルの高いスタートアップへの投資は、競争が激しくなっています。なので、我々としても常に選ばれ続けるVCでなければいけないし、起業家に「このVCは挑戦し続けている」と感じてもらいたい。そういうマインドとアクションがないと、世界を変えたいと考えている起業家をアトラクトしきれません。

我々が有望な投資先を探すのと同じように、起業家側も事業パートナーは誰がベストなのかをシビアに見ています。そういう関係性がエコシステムをよりコンペティティブにするし、高い次元に引き上げるのだと思います。

 

――ファンドに出資されているLP(Limited Partners)には、国内外様々な機関投資家が参加されています。その方たちからは、どんな声が上がっていますか。

福島:LPの方々も直接・間接を問わず市場環境の変化を感じとっています。以前のファンドから継続的に出資をしてくださっている投資家さんは、7号ファンドのコンセプトにも賛成し、これまでよりも大きな金額を出資してくれています。

 

――LPについて、6号との違いはどこにあるのでしょうか。

湯浅:大半が既存の方々で、ありがたいことに前回よりも多く出資していただいている方も多いです。我々の過去の実績や培ってきた信頼関係、また、新しいファンドへの期待が反映されているのだと思います。

 

福島:この10年間くらいで「メルカリ」「スマートニュース」に代表されるような大きな成功事例、もしくは社会的な価値貢献によって機関投資家の皆さんにしっかりと認知されました。おかげで、以前はスタートアップに投資するファンドには投資をしなかったLP層からの関心が徐々に強くなってきた感覚があります。数十年前にベンチャー投資で大きなショックを受けた金融機関や、これまであまり投資をされてこなかった投資家も、他のLPから口コミで良い評判を聞いて、新たに参加してくださっています。

 

3世代にわたってファンドを継続するVC「育成」の仕組み

湯浅:7号に関する大きな変化としては、創業パートナーの仮屋薗さんが次のロールに移り、福島さんと私が新しくパートナーになりました。つまりGCPは、堀・仮屋薗、高宮・今野、福島・湯浅という3世代のパートナーシップがそれぞれにバトンタッチされ継続している。多くの場合、創設者が引退する時にファンドを解散、もしくは次世代にバトンタッチしても続かないことが多いなかで、パートナーが入れ替わりながらも同じファンドという箱を維持し続けられている例は多くないと思います。

 

――どうして継続できているのでしょう。

福島:我々は常に旗艦ファンドのリターンの最大化に注力していますが、最大瞬間風速を出すのではなくアップデートし続けることが大切だと考えています。継続的に支援してくださるLPさんがいるからこそ、可能なことです。

世代をアップデートしたのは、そういった意思の表れでもあります。いずれにせよ持続性を大事にしているケースは、とても珍しいと思います。

 

湯浅持続性を大切にするがゆえに、採用育成方針も一貫しています。我々はアソシエイトレイヤーから、時間をかけてしっかり育てていくという方針をとっています。堀さん、仮屋薗さんは創業者ですが、高宮さん、今野さんはアソシエイトから入って徐々にランクアップしていますし、我々も早いタイミングから挑戦する機会をもらい、組織に育ててもらいました。

いざ自分がパートナーになった時も、これからは後進を育成し、その人たちがいつかパートナーになった時に、しっかりスペースをつくってあげたい。採用からそういうマインドが一貫していることが、世代交代ができる一つの要因だと思います。
――採用も継続されていくのですね。

湯浅:毎年2~3人は採用し続ける予定です。GCPとしての共通の価値観や投資スタイルは大切にしながらも、一人ひとりのバックグラウンドや個性を生かして、それぞれのキャピタリスト像を追い求めてほしいと思います。

 

福島:投資領域も拡張する中で今後は更に多様なバックグラウンドを持った方、例えばエンジニア出身者や元起業家、そういった方々にも興味をもってもらいたいですね。

 

湯浅:入り口で絞り込もうとしても、ある程度成功事例が過去にあるタイプや採用側が見て評価しやすいタイプばかりになってしまいます。それだと組織としてのダイバーシティや拡張性が保てないのです。

 

VCという仕事の醍醐味

――VCの面白さは何でしょうか。あるいは、どういう人がVCに向くのでしょうか。

湯浅:楽しめる要素はたくさんあります。ハマる人はこれ以上楽しい仕事はないのではないでしょうか。日々さまざまな起業家に会って、挑戦や課題についてディスカッションしていく仕事は刺激的です。既存の投資先ならハンズオン支援の一環として平均5年から7年間は一緒に歩みますが、この過程で最初は10人ぐらいだった会社が300人、500人と増えていくことがあります。プロダクトもどんどん強化されていく。そういう成長を見ると嬉しいですね。

 

福島:毎日いろいろなことが起こるので、知的好奇心が刺激されない日はありません。新たな投資テーマもそうだし、新しいビジネスモデルに触れることができるし、真剣にチャレンジしている人たちと一緒に仕事ができる。そんな仕事はなかなかありませんよ。

 

湯浅:VCは自分でコミュニティをつくってネットワーキングし、いい案件をソーシングしてそこに投資するのが仕事ですが、それをどういう方法で進めるかは、その時代やその人の強み、興味によって変わってきます。自分の道をつくれるか、糸口をつかめるかどうかですね。

 

福島:アントレプレナーシップがある人とは、答えのないことに対していろいろな仮説を持ってチャレンジできる人だと思いますが、そこに加えて、プロフェッショナルとしてのいい意味でのプライドがある人がいいですね。起業家と同じく「こんな世界を実現したい」という理想を持った人が向いていると思います。
――最後に、今後の抱負や意気込みをお聞かせください。

湯浅:ファンドレイヤーとしては、グローバルへの挑戦や業界のプラットフォームをつくり変えることと、そこに対して今までにないようなメニューをつくって支援し、挑戦していきたいと思っています。

個人という意味では、27年間の歴史があるGCPというプラットフォームを丁寧に守って次代に引き継ぐというよりも、アントレプレナーシップを持って新しいことに挑戦したいですね。いくつかは失敗するかもしれないけれども、守りばかりでなく攻めのほうもやっていきたいです。

 

福島:私も後者に近いかな。世代がアップデートされても変わらないのは起業家やLPの信頼を損ねないことです。ただし、そこで提供する価値は、時代やテーマによって変容し得ると思います。GCPはステージの進んだ会社への投資や、検証されたビジネスへの投資というイメージが強いと思いますが、そういうイメージを刷新するような取り組みを、個人としてもファンドとしても続けていくべきだと思います。

 

(執筆:福島 智史、湯浅 エムレ 秀和)

 

 

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