学校の掛け算の採点で計算の順番が違うと減点される事例が話題になっている。

参考:掛算順序問題について親戚の現役教員に本音を聞いてみた。

 

インターネット上で定期的に話題にあがるこの問題だけど、事の本質は日本の雇用問題と大きく関連しており、実は根深い問題を内包している。この問題を理解する事は日本人の本質をつかむ上でも極めて大切だ。今日はその事について書こうと思う。

 

義務教育の本質は規則正しい生活とルールを守る事を叩き込むことにある

学校は毎日同じ時間に始まり同じ時間に終わる。教室には教師という絶対的権力者がおり、教師の決めたルールに従って全てが決定される。

こうしてみればわかるけど、学校は極めて管理された社会だ。ちょっとダルイから授業開始時間を30分遅らせてくれといったような融通は基本的にはきかない。毎日毎日、同じような生活リズムが絶対的統制者の元で繰り返し繰り返される。

 

子供はここで社会のルールを身に着ける。規則正しい生活リズムと、目上の者への隷従、ならびに仲間との適切な関係を築く事。これらはサラリーマン社会の基本的なルールとなっている。働いている皆さんなら十分承知の事だろう。

突然だけど、あなたは刑務所で受刑者がどのような生活をおくっているかご存じだろうか?実は刑務所生活は義務教育生活と非常に酷似している。

規則正しい生活リズムはいわずもがな、刑務所では様々なルールがあり、受刑者はそこで徹底的に”決まり”を守る事を叩き込まれる。当然、非合理だったり理不尽な事があるのだけど、”決まり”は”決まり”であり、それを守れない人間は処罰が与えられるようになっている。

 

昔読んだ刑務所本の中に受刑者100人へのアンケートという項目があった。そこに「刑務所に入って何が変わりましたか?」という質問があったのだけど、そこで最も多かったのが、”忍耐強くなった”という回答であった。

義務教育と刑務所での生活の類似点を考えると,おそらくだけど僕たちは義務教育を通過する過程で自分でも気が付かないぐらい”忍耐強く”なっているのだろう(そして日本の治安がいいのは,義務教育がうまい具合に国民を”忍耐強く”しているからなのじゃないかというのが僕の考察だ)

 

ルールはなんの為にあるのか?

刑務所は基本的には犯罪を行った人が入る場所である。普通に考えると社会のルールを守れない人達が多く集まるのだから、治安が悪くなりそうだけど基本的にはどこもそれなりに平穏に稼働している.

これは一見、当たり前の事にみえるけど実は凄い事だ。規律をしっかりと整備すれば,どんな人間を集めようが治安は整うのである。しっかりとした上下関係(看守と囚人)を元に、お上が決めたルールを囚人に順守させればその社会は整うのだ(人権は多少は損なわれるかもしれないけど)

 

学校もこれも全く同じである。義務教育期間の子供達は、どちらかというと自分を自分で律する事が苦手だ。自分を自分で律する事が苦手な人間が何十人も集まっている集団に、規律正しい生活をおくらせる為には、しっかりとした上下関係(教師と生徒)を元に、お上が決めたルールを遵守させる事が何よりも大切だ(多少の不合理がでるのは仕方がない)

この原則がキチンと適用されているからこそ,義務教育は成立しているのである.かけ算の順序問題は、この原理原則から漏れ出たものだ。学問的視点から考えれば、たしかに順序がどうであろうが何も問題はない。けど”教師の決めたルールを守っていない”という点から考えれば、あれは減点を食らったとしても何も文句はいえないのである。

 

だから学問的正しさを元にあの問題を議論するのは論点がそもそも違うのだ。”決まりですから”に”学問的正しさ”で議論をふっかけても、永遠に話は平行線のままなのだ。

 

教師よりも頭がいい子供の問題

とはいえ学問的正しさは真理であり、それをあまりにも蔑ろにするのも問題だというのは事実だ。

人は生まれながらにして平等ではない.あたりまえだけど,世の中には頭がいい人もいれば悪い人もいる.生まれながらにしてIQが80の人もいれば,IQが120の人もいる事ぐらい普通に生きている人ならだれでもわかるだろう。

 

ときどきだけど、教師よりも遥かに知恵がまわるタイプの子供がいる。僕の知人にIQが150以上とかいうとんでもない天才がいるのだけど、彼は「数学の問題文を読むと、解法より先に答えが大体わかる」と言っていた。

そんな人間なので、数学の難問を解かせると別解を3~4個は平気で思いつくのがザラだった(その多くが誰からも全く習ったこともないような方法ばかりだった)

諸外国ではそういう人間は、飛び級させて上の学年にサッサとあがらせている。学問的正しさが、規律と同じかそれ以上に評価されているからこそだろう。

 

けど日本では飛び級は原則的に禁止されている。何故か?それは日本社会が年功序列を元にした終身雇用により運用されているからに他ならない(飛び級や教師よりも頭がいい生徒の存在は、年功序列を根本的に揺るがしかねない存在である。クラスのリーダーである教師より、生徒がごく一部でも正しいだなんて事は学校という特殊空間ではあってはいけない)

こう書くと終身雇用制度と年功序列制度が悪者のようにみえてくるかもしれない。けど冒頭に書いたようにこの制度がしっかり稼働しているからこそ、日本の治安は驚くほど良いのである。

 

かけ算の順序問題は日本の治安の良さの裏返しだ。徹底した年功序列と、”決まりは決まりですから”という融通のきかない生活は一見よくないものにみえる。けど、そこから生み出された”私達の忍耐強さ”が日本の社会を住みやすくしてくれているのだ。

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


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(2025/6/2更新)

 

プロフィール

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

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