「やる時間がなかったです」も、
「ちょっと忙しかったので(何もしてません)」という言い訳も、
仕事においては、考えうる限り最悪のいいわけだ。
なぜなら、本当に時間がなかったのなら、
「なぜもっと早く言わなかった」ということになるし、時間はあったけど「つい忘れてしまっていた」というのであれば、これは論外である。
「頑張って時間を作ろうとしたけど、つくれなかった」
というのであれば、これは時間管理に関して無能である、という告白に等しい。
何れにせよ「時間がありませんでした」という言葉は、言い訳として使っていけないし、使えば無能と思われても仕方がない。
だが、それにも関わらず、現実には「時間がありませんでした」との言い訳は一向に減らない。
減らないばかりか、多くの職場で「時間がありませんでした」という言い訳をする人の数は増えているようにも感じる。
なぜこんなことになっているのだろう。
業務改善コンサルタントの知人に聞くと、
「本当に仕事が多すぎるからでしょう。あと効率が悪いのでは。」
という。
だが、それは事実なのだろうか。
そこでわたしは、ある方の協力の下に、「時間がなかったです」という人が多い職場において、複数の社員の行動を観察し、話を聞いた。
・中堅社員の場合
「時間がない、と先ほど言いましたが、先週は「来週までにやれます」と言っていました。なぜ途中から変わったのですか?」
「別件が入ってしまったので」
「別件が入った時点で、調整しなかったのですか?」
「忘れてたんですよ」
「……なるほど。」
「今週中にはやります。」
・若手の場合
「時間がなかった、と言っていましたが、その仕事をかなり後回しにしていましたね。」
「……優先度を間違えてしまいました。」
「優先度は誰が指示しているのですか?」
「自分で決めています」
「では、優先度の基準を教えていただけないですか。」
「……なんとなく決めています。」
こうして何名かに話を聴いたが、大体同じような話が出た。
曰く、「途中から仕事が入った」「優先度がわからなかった」「忘れていた」「不明な点があって、滞っていた」
などだ。
だが私は、猛烈に何かしらの違和感を感じた。皆の回答が「テンプレ通り」という印象だったからだ。
「とりあえず、そう言っておく」という程度だろう。
そこで、中堅社員の一人を捕まえ、飲みに誘って話を聴いた。
彼は気さくで良い人物であり、率直さも持っている。
「やっぱり、かなり忙しいですか。」
「そうですね。でも年中こんな感じですよ。」
「時間がないのが慢性化していると。」
「ああ、聴いて回ってましたね。」
彼はグラスをカラカラ回している。
「そんなの、どこも同じじゃないですか。」
彼の言う通りだ。忙しくない職場などない。
だが、その時ふと思いついたことがあった。
「ひょっとして、意図的に仕事を遅らせてませんか。」
「そんなことないですよ。」
「そうですか……」
わたしが暫く黙っていると、彼は言った。
「……正直にいうと、そういう時もあります。」
「なぜですか?」
「上が、思いつきであれこれ言ってくるからですよ。」
「……と言うと?」
「正直、とても全部対応できないので、上司の依頼は二回言われたらやろう、と思っています。」
「突っ込まれるまでやらない、ということですか。」
「はっきり言えばそうです。でも以前は全部やってたんですよ。ただ、一生懸命やってるのに、依頼した側はその結果を活用しないし、チェックもしないんですよ。ああ、これ全部対応する必要ないんだな、と思いまして。先輩も「半分だけ聞いとけ」と。」
*****
そういえば、コンサルタント時代に面白い先輩がいた。
「サラリーマンは細く長く」
という主義の方だったが、非常に印象に残っている言葉がある。
彼は、新人時代の私にこんなことを言った。
「放置しておいたら、自然と消えるような仕事は、最初からやる必要がない仕事だ。」
つまり、「時間がない」という言葉が多用される職場は、2つのケースがある。
一つは、本当に時間がない場合。
そしてもう一つは、上司のマネジメントが稚拙なため、「やるべき仕事」が曖昧になっており、社員の側で勝手に仕事をフィルタリングしてしまっている場合だ。
部下は、依頼された仕事を間違いなく遂行する責任がある。
しかし一方では、上司は正しい施策を打ち出し、部下に無駄な仕事をさせない、という責任がある。
結局のところ、「時間がなかったです」といういいわけをされてしまう上司は、胸に手を当てて振り返らなければならない。
・無駄な指示をして、社員の時間を無駄遣いしていないか?
・部下の仕事の成果を見て、フィードバックしているか?
さもなくば、部下は「あの人の言うことは聞く必要はないな。どうせすぐ忘れるだろう」と、サボタージュに走る。
しかし、それは結局、上司の責任といえよう。
ピーター・ドラッカーは、「人の時間を奪う行為」について、次のように述べている。
人は、他人の時間まで浪費していることがある。そのような時間の浪費が簡単にわかる徴候はなくとも、発見のための簡単な方法はある。
聞くことである。「あなたの仕事に貢献せず、ただ時間を浪費させるようなことを私は何かしているか」と定期的に聞けばよい。答えを恐れることなくこのように質問できることが、成果をあげる者の条件である。
「やる時間がなかったです」といういいわけが多い職場は、実は「時間の使い方」や「効率」を問題にする以前に、もっと根本的な問題、「上司の指示の精度」や「上司への信頼感」について、よく調べるべきなのだ。
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