むかーしむかし、とある出版社でライターのような仕事をさせて頂いていたことがありました。

パソコン通信時代のツテで誘って頂いた仕事でして、当時私はまだ学生だったのですが、随分色んなものを書かせてもらいました。

 

殆どの仕事は単なる「雑誌記事の穴埋め」であって、載るかどうかも分からない時事ネタの記事を書いたこともあれば、何の根拠もない性格診断記事を書いたことも、yes/noで選択肢を辿っていくと「あなたにお勧めの〇〇」にたどり着く記事を書いたこともありました。

当時読んでくださっていた方、ごめんなさい。アレ適当です。

 

なにせ時間に融通が効く立場だったので、相当無茶なスケジュールを突っ込まれることもありまして、その結果随分色んな面白体験をさせてもらいました。

 

午前2時頃に電話でたたき起こされて、午前6時までに3ページ何か書けと言われたこともありました。

記事の連載途中に作者が失踪して、どうせもうちょっとで終わりだから残りお前書け、と無茶振りされたこともありました。

いい思い出かというとそうでもなく、どちらかというと思い出したくない記憶の部類に入ります。

 

割と無茶苦茶な職場だったと思うのですが、もしかすると当時はどこもあんな感じだったのかも知れません。

一例しか知らないのでよくわかりませんが。

 

ただ、一点ありがたいなーと思っているのは、当時私がその職場で最若手だったこともあり、色んな人に色んな仕事の仕方を教えてもらったことです。

当時その職場は、殆どが30代後半〜40代くらいのベテランの方々で占められていまして、私のようなペーペーの若造は相当珍しかったのだと思います。

殆ど付きっ切りで文章を見てもらったこともありましたし、話し方について一から十までおかしなところを指摘してもらったこともありました。この点については、掛け値なく「いい経験」をさせてもらったと思っています。

 

 

その中の一つ、今でも私の中に強く残っている記憶として、「インタビュアーとしてのスタンス」というものがあります。

 

その人の名前を、仮にTさんとします。

Tさんは、インタビューをする前にとにかく徹底的に下調べをしていく人で、関連書籍があれば読み通し、英語論文があれば辞書と取っ組み合って通読し、ノートにびっしりと予備知識を書き込んでからインタビューに臨んでいました。

そのノート、本当に密度が物凄くって、最初は「インタビューをし終わった後の原稿起こし用の記録」なのかと勘違いしたくらいです。

 

私のような若造からすれば、「そんなに調べてそれ以上聞くことあるのか?」というレべルのように思えたのですが、それに対するTさんの言葉が

「ただネタになりそうなことを質問して、それに答えてもらうことがインタビューだと思ってる馬鹿が案外多い」

「「一方的に、分からないことを教えてもらう」なんてのはインタビューでもなんでもない、「分かっている上で、更にそれ以上の内容を相手から引き出す」というのがインタビューなんだ」

というもので、これ凄く印象に残っているんです。

 

つまり、Tさんにとっては、徹底的に下調べをして、手に入るだけの知識を身に着けた上でインタビューに臨むのが「当然」ということだったんですね。

 

ただ「分からないから教えて」と聞くだけなら誰にでも出来ます。

「自分は既に知っている」

「けれどその上で、相手の専門知識を上乗せしてより重要な情報、より面白い話を引っ張り出す」

それがインタビューだ、ということだったのだと思います。

 

私は今でも、インタビューというものをTさんを基準に考えていますし、単に「分からないから教えて」的なインタビュー記事にはあまりいい印象を受けません。

 

ところで、Tさんから教わったことの中で、一番印象に残っている言葉は、上記とは別にあります。

それは、

「最初の一言で「これは本気で答えないといけない」と思わせるような聞き方をしろ」

という言葉です。

 

例えばの話、Tさんは、可能な限り

「相手もまだ勉強している途中のこと」

「相手が興味をもって調べている途中のもの」

を最初に話題に出すことを心掛けていたそうなんです。

 

企画の内容にもよりますが、インタビューの対象は、勿論その道のプロです。彼らはその分野の知識に精通していて、その分野で飯を食っています。

 

その人たちに、最初の時点で「あ、こいつ何も知らねえな」と思わせてしまっては、到底いいインタビューは出来ない。

初等の講義を繰り返すようなものです。聴ける内容も通り一遍のものになってしまいますし、そもそも話す側のモチベーションも上がらないでしょう。「こいつと話しても何も得るものはない」と思われた時点で負けな訳です。

 

だから、最初に、聞く側は「自分の知識レベルの明示」と「その上で、聴きたい話の方向性の明示」をしなくてはいけない。

自分はこれだけのことは既に知っています、勉強しています。その上で、あなたのこういう知識を必要としています。それを最初に伝えることが出来れば、少なくとも「こいつ何も知らねえな」と思われることはない道理です。

 

更にそれに加えて、相手自身にもまだ曖昧な部分がある点、勉強途中の話題を入りに使うことによって、

・自分は、相手の専門分野だけではなく、相手の現在の動向、現在の興味の方向まで把握しているんだということを伝えられる

・それによって、「この質問に答えることで、自分も何か得るものがあるかも知れない」と思ってもらえるかも知れない

・質問次第では、かなり真剣に考えないと誤ったことを答えてしまうかも知れない、という危機感をもってもらえる

という三つの効果がある、と。

ここまでがTさんの話です。

 

これが実際に有用だったのかどうか、ということまでは正直わかりません。勿論インタビューをする相手の専門分野にもよりますし、話のもって行き方によっては、相手に悪い印象を与えてしまうような気もします。

当然、Tさんもケースバイケースで色んな「入り方」を使い分けていて、その一つの分かりやすい例として私に開示してくれたのが上の話なのでしょう。

 

とはいえ、Tさんのインタビュー記事がどれも読みごたえ満載であって、当時の読者からの評判も良かったことは間違いのない事実です。

 

で。

これらは勿論インタビューの話なので、今私がやっている仕事とは直接関連しないのですが、「聞き方」という広い意味では、Tさんのスタンスは様々に応用できるなーと私は考えています。

 

私がTさんのやり方から学んだのは、次のようなことです。

・質問に答える側にもモチベーションというものがあり、質問をするからにはなるべく「答える気」になれる質問をした方がいい

・質問する時は、最初の時点で、自分からも可能な限りの情報を明示するべきである

・例えば、「現在、自分はどこまで知っているのか」「その上で、何を解決したいのか」「その為に、どんな知識が必要と考えているのか」

・また、「自分がその質問をする前にこういう努力をした」ということも伝えた方がいい場合が多い

勿論これらにしたってケースバイケースなんですけどね。

 

質問というのは、一種のプレゼンであって、双方向のコミュニケーションです。

質問する際は、教わると同時に、自分の知っている範囲、知らなくてはいけない範囲、知る必要性、そういったものを相手に伝えないといけません。

その上で初めて、相手は「その質問に対して、どう答えるのが最適なのか」ということを考えることが出来ます。

 

また、「いい聞き方」をすることは、相手を尊重していること、その質問に答えることで相手にも何かメリットがあることを伝える、自分のアピールにもなります。

 

「聞き方」一つとっても、色んな戦術があるし、その戦術の活かし方があると。

一言でまとめてしまうと、私がTさんに教わったのはそういうことだったのかも知れません。

 

その職場がなくなって以来、Tさんともしばらくご無沙汰をしておりまして、今どの会社にいて、どんな仕事をされているのか、残念ながら私にも分かりません。

ただ、相変わらず取材ノートを真っ黒にしながら、読者を唸らせる記事を書かれているのではないかと。

 

出版不況にも負けずにご活躍されているといいなあ、と、そう考えるばかりなのです。

 

今日書きたいことはそれくらいです。

 

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システム開発やITコンサルティングを経て、
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現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
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岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
2025年4月よりワークワンダース株式会社CTOに就任。AI活用を中心とした開発支援をリードする。


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(2026/01/19更新)

 

【プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

(Photo:Ikhlasul Amal)