参考リンク:セルフレジになって「放り出された」「味気ない」「店側の誠意や感謝を感じることがない」とぼやく高齢者 – Togetter

高齢者の嘆きが、こんなふうにまとめられ、(たぶん)若い人たちから叩かれているのをみると、なんだかいたたまれない気分になるのです。

世の中のいろんなシステムが変わっていくなかで、いままで自分たちが「普通」だと思っていたものが、どんどん「時代遅れ」や「非効率」になっていく。

 

人間、若いころのほうがシステムや社会の変化に柔軟に対応しやすいので、「なんでセルフレジごときでこんなに大ごとにしてしまうんだ?」と高齢者に反発する気持ちもわかるんですけどね。

 

僕も個人的には、「吉野家やすき家も、松屋みたいに食券制になればいいのに」と思うくらい、知らない人とのコミュニケーションや濃厚な接客は苦手なので、セルフレジのほうが好きなのです。

ネットやスマートフォンの普及のおかげで、いろんなことを「人に説明せずにこなせる」ようになりました。

 

博多から東京に出張して、1泊して帰ってくる、という場合、ネット以前では、窓口に行って交通機関のチケットを買い、ホテルを調べて予約の電話を入れて、宿泊可能かどうか、そして、こちらの要望を伝える、ということを普通にやっていたんですよね。

何時に電話するのが相手にとって都合が良いのか、とか考え始めると、キリがなくて。

「普通に」って言うけれど、僕はこういうのがめんどくさくてたまらなかったので、ネット社会に生まれてきて、本当に助かったと思っています。道や乗り換えに迷うことも劇的に少なくなりましたし。

 

その一方で、僕も40代半ばになってくると、最近のテレビゲームのシステムは、息子が嬉々としてやっている『ポケモン』でさえ、「ちょっとめんどくさいなあ……いちいちポケモン入れ替えなきゃいけないのか……」と、ついていけなくなっているのです。

LINEでのリアルタイムのメッセージとかも、「鬱陶しい……」と感じてしまうのです。

 

もともと、コミュニケ―ションが苦手、というのが大きくて、同世代でも、マメに使いこなしている人も大勢いるんですけどね。

社会の変革は、「コミュ障」にとって、いろんなことをやりやすくしてくれたけれど、新しい課題も与えてくれました。

 

さて、冒頭の話なのですが、僕はこれを読んで、『でんかのヤマグチ』のことを思い出したのです。

『応援される会社~熱いファンがつく仕組みづくり~』(新井範子,山川悟著/光文社新書)より。

高齢者世帯に注力した家電製品の販売・アフターサービスを展開するのが、東京都町田市にある「でんかのヤマグチ」だ。

 

他社で買った商品もアフターケア、電球1個でも配達して交換、ビデオ録画のためだけに出張、冷蔵庫が壊れればクーラーボックスに氷を入れ、エアコンが壊れれば代用の扇風機を持って訪問、という徹底的なサービスで顧客から絶大の信頼を獲得している。

 

それだけではない。およそ家電店とはかけ離れた仕事、例えば水回りの修理、部屋の模様替えの手伝い、駐車場は地域に開放、買い物しない客にもトイレを開放、雨の日の傘の貸し出し、毎月開催される激安野菜販売など、「街の電気屋さん」を遥かに超えたサービスを展開している。

いうなれば、地域のファシリティセンター(便利屋さん)のような役割を果たしているのだ。

 

筆者が訪問した土曜日の午前中には、「8km離れた自宅から店員のYさんにお礼を言いにだけ来た」という80代の男性や、「町田に在住して50年間ずっとヤマグチ」という70代の女性ほか、高齢者の顧客がひっきりなしに店頭を行き来していた。

 

同社はパナソニック系列店であり、大手家電量販店のような低価格販売を目玉としているわけでない。しかし顧客が求めているのは、安売りとはまるで違った価値である。

例えばある男性客が、一人暮らしの母親向けに30万円台のテレビを購入した際、値引きを要求するのではなく「母のことをよろしくお願いします」と伝えたというエピソードがある。

彼がヤマグチに求めたのは、購入を契機とした長期的なつながりなのだ。

 

それは「遠くの息子よりも近くのヤマグチ」という顧客の言葉に見事に集約されている。ここでは購入時点の価格の高低ではなく、生涯価値を想定に入れた買い物が行われているのである。

以前、リアル書店の書店員さんたちの対談で、出席者は口を揃えて、「Amazonに対するリアル書店の強みは、『接客』しかない」と仰っていたんですよね。

 

高齢になると、人は孤独になりやすいし、新しいシステムに順応するのも難しくなる。

店員さんとの些細なやりとりで、生きている実感を得ている人もいるのです。

わざわざ他人と話さなくても生きていける世の中だからこそ、昔の人が当たり前のようにやっていた「接客」にもコミュニケーションとしての価値が生まれてきているんですね。

 

効率や人手不足を考えると、セルフレジには大きなメリットがあります。

でも、みんなが一斉にそちらの方向へ動いていくほど、「昔ながらの接客」をすることで、「差別化」できる可能性もあるのです。

 

日本はこれからもどんどん高齢化が進んでいくし、少子化、非婚化などで、身近なところに血縁者や友人がいない人も増えていくでしょう。

AI(人工知能)の発達によって、「普通の人ができる仕事」も、どんどん失われていく。

商売をやる側からすれば、「Amazonから取り残された人々」こそ、ターゲットにするべきではなかろうか。安売り勝負をしても、Amazonに勝つのは、きわめて難しい。

いまの日本の高齢者は、「商品の価格以外の付加価値」にお金をちゃんと払ってくれるお客さんなんですよ。

 

システムは、どんどん効率化され、現場から人間の姿は減っていくことになるのでしょう。

しかしながら、人間の生物としての進化は、人間がつくったシステムの進歩には追い付けない。

サービスを受けるのが生身の人間である以上、その「感情」は重要なのです。

 

「親切」とか「おせっかい」というのが、これからの時代のビジネスチャンスを生み出す鍵なのではないか、と、これを読んで僕は感じました。

「寂しい」とか思うのがおかしい、と責めるよりも、それを解決する方法で、お互いに幸せになることを考えてみるべきではなかろうか。

 

人って、「そう思うものはおかしい、とか他者に言われても、思うものはしょうがない」生き物なのだから。

 

 

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(2019/4/15更新)

 

 

【著者プロフィール】

著者:fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

ブログ:琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで

Twitter:@fujipon2

(Photo:Gartzi Deustu