「どんなに気分がムシャクシャした時でも、車のキーを回してアクセルを踏むとスッキリとした気持ちで朝を迎えられる。自動車会社のCEOになろうと決意した理由だ」

以前、カルロス・ゴーンさんの自伝で日産自動車のCEOを引き受けた理由として、このような事が述べられていた。

 

その当時、僕は車の免許すら持っていなかったので彼が何を言わんとしているかがよくわからなかった。

けど、働きだしてから年に数回旅行にでかけ、田舎道をレンタカーで運転していると自分がなんともいえない気持ちのよさを感じる事に気がついた。

 

人間、いつ何時も自分の思う通りに人生が進むわけではない。

子供の頃は「誰にメシを食わせてもらってるんだ」と親にいわれ、大人になったら下げたくもない頭を「すみません」と様式美にそって下げなくては行けない場面もある。

 

そういう時でも、車の運転は物凄く自由だ。

アクセルを踏めば前に進むし、ブレーキを踏めば車は止まる。

行きたい場所にハンドルをきればそちらに車は進むし、疲れたら車の運転を休んでもいい。

 

車の運転は、人生でも数少ない本当の意味での自分のワガママが素直に通用する世界だ。

時速120kmはゆうに超えるキャパを持つ有能なモンスターの手綱を握れる事の優越感は、なかなか他には代えがたい。

 

周りに合わせる都会の運転は、自由なはずなのに不自由を感じさせられる

とはいえ、このワガママの自由は都会では手にすることができない。

都会での運転は、とても息苦しいものに僕は感じる。

僕は東京生まれ東京育ちで、車の免許も実家の近くの自動車教習所でとったのだが、うまれて初めて公道にて運転したときの堅苦しさは今でもよく覚えている。

 

都心部でのドライブは、周りの空気にピタッと合わせてスムーズにとり行わくてはいけない。

他の車のスピードにあわせ、周囲の和を乱さぬよう、空気を読んでやらねばならぬ。

同調圧力というか、そういうものの意識を強く感じされられてしまう。

 

和を乱さす運転をしようものなら

 

「なんだあのヘタクソな運転をしているやつは」

 

と、自分が”そこにふさわしくない人間”である事を否応なしに思い知らされる。

スムーズに進んでいた都会のピシッとした空気の流れに乗れない事は、それだけで自分が咎人であるかのような気持ちにさせられてしまう。

 

「車の運転とは、なんて息苦しいものなのだろう」

 

自分の自由を拡張するはずの車というツールを使っているにもかかわらず、逆に他の人の迷惑にならないよう、いつも以上に空気を読まなくてはいけない。

こんな感じで自分の不自由さをより深く感じされられてしまうのが、僕にとって生まれて初めての車体験だった。

 

田舎の運転は楽しい。そこにはフロンティア・スピリットがある

こんな感じで車に対する僕のイメージはあまりよくないものだったのだが、旅行にて田舎でレンタカーを借りて運転するようになってから、この印象は一新された。

 

田舎道の運転は楽しい。

そこには開拓精神と自由がある。

道は広いし、周りの運転手の動きにあわせる必要など一つもない。

自分の好きなようにレンタカーを操っていると、まるで人生が自分の意のままにコントロールできているかのような開放感が満たされる。

 

僕は年に数回、レンタカーを借りて辺境の地に旅行にいくのだけど、終わった後のすがすがしさはちょっと他には得がたいものがある。

まるで開拓時代のアメリカ人になったかのような、フロンティア精神が満たされたあの心地よさは他にはない。

 

あなたも仕事や私生活に疲れて、よくわかんないけど色々限界に思う事があるだろう。

そういう時はぜひともレンタカーを借りて、どこか田舎道でもドライブしてみて欲しい。

随分と心が晴れやかになるはずだ。

 

仕事というのは都会でのドライブに似ている

思うに、仕事というのは都会でのドライブに似ている。

そこで生きるためには、仕事という他人から求められた成果物を他人が望む形で献上しなくてはいけない。

そのために、規則正しい生活を心がけ、自分の体調も整える必要がある。

 

街で暮らすものの1人として、社会的責務はキッチリと果たす必要がある。

蛇口をひねれば水がいつ何時も出て、電車が定刻通りやってくる生活は快適だ。

そういう”みんなが”気持ちの良い世界を作るために、私達は労働という行為を通じて責務をある程度は果たす必要がある。

 

仕事というのは、大なり小なりそういう”みんなが”気持ちの良い世界を送るための社会的インフラのネットワークを維持するものだと僕は思っている。

時にやりがいが満たされたり、集中してゾーンに没入する感覚が得られたりと、副次的に”よいもの”が手に入る事もあるけれど、基本的には”己のため”というよりも”みんなが”気持ちの良い世界を手にする為のものだろう。

 

そういう世界はシステマティックで効率がいいし、エンタメになりうる文化的な産物も芳醇に生み出される。

街はキレイでそこを歩く人の姿もファッショナブルで美しく、なによりメシも旨い。

 

お金という万能の通行手形を用いて、義理人情感覚をあまり気にすることなく効率よくストレスも少なく快適な生活を営める今の生活が僕は好きだ。

この生活を営み続ける為にも、労働を通じてある程度は社会貢献してゆかねばならないとは思うし、仕事を通じて自分が誰かから必要とされている感覚を感じるのは尊いものだとも思う。

 

上手に社会の顔色をうかがいつつ、己の魂を満たしてゆかねばならぬ

だけど…そういう生活を半年ぐらいやってると…ぶっちゃけ、もの凄く疲れる。

次の日の事を考えての早寝早起きは、最初は自分の為にやっていた事だけど、そのうち誰かの為に自分の人生を切り売りしているかのような気持ちになってきてしまう。

 

仕事が全く無い生活はそれはそれで苦しいのだろう。

仕事を通じて誰かに求められると、承認欲求のようなものがある程度満たされるのは事実だから。

”誰からも必要とされない人生”は最初は自由かもしれないが、そのうちメンがヘラって「ねぇ……私のこと、本当にいらないの?」とかいい始めそうなものである。

 

誰かから必要とされたくもあり、誰の意も気にすることなく好き勝手行動したくもある。

こういうアンビバレンツなマインドを上手に飼いならすのが”良い”人生なんだろうけど、これをバランス良く自分の人生に配分するのは思いのほか難しい。

 

好きにやりすぎると「お前など要らぬ」となるし、逆に他人の為に社会貢献しすぎると自分の心が悲鳴をあげる。

社会というのは誠に気分屋なもので、ひとたび激高に触れようものなら大変な目にあってしまう。

 

一応社会も私達に歩み寄ってくれている部分もあって、例えば祝祭日や夏休み・年末年始といった「お前の好きにしてもいいぞ」時間をわかりやすく可視化はしてくれているのだが、そこに満身創痍にならずに五体満足でたどり着き、本当の意味で自分を謳歌するのは、あまり簡単な事ではない。

 

ああ…人の世はなんと生きにくいものなのだろうか。

もうちょっと、簡単に心地よくなれるゲームバランスであって欲しいのだけど。

 

考えてみると、ゴーンさんも報酬をアレしすぎて社会から怒られが発生して社会からパージされてしまったが、車のいいところが見抜けてた人ですらそれなのだから、社会というシロモノは上手に乗りこなすには人の手に余るモノなのかもしれない。

 

欲しい物が多ければ多いほど、人生の難易度はあがってしまう

仕事やパートナー、子供というのは、誰かから必要とされているという感覚を得るための一つの手段だろう。

しかし言うまでもなく、それらの獲得は不自由もセットでもれなく付いてくる。

 

人の心の穴の大きさは、それこそ人それぞれだ。

どれだけ社会から認められたいか・どれぐらい素晴らしいパートナーに恵まれたいかというお気持ちの大きさは、本来ならばそれを得たことによる不自由に対する耐久度と同値であるべきだろう。

 

しかし面白い事に、多くの場合においてこれらは同値ではない。

仕事でいっぱいいっぱいの人は、不自由に対する耐久度という意味においては、実はもうパートナーという”不自由”を獲得する余裕が人生にはない。

 

パートナーを獲得した事で、心の穴が塞がってもっと仕事が頑張りやすくなる側面も一部にはあるかもしれないが、それはそのパートナーを獲得した事により付随された不自由の量が偶然あまり多くなかったに過ぎない。

 

多くの場合において、パートナーというのは”何もしなくてもいい”ものではない。

男性なら性処理をしてもらいたかったり、女性なら愚痴を聞いてもらいたかったりといった多種多様のメンテナンスが必要不可欠であり、そういったコストを支払う事を見て見ぬ振りをし続けていると、いつかツケ溜まって何らかの形でパンクする。

 

子供なんてもっとそうで、得たことでしか満たされない部分は確かにあるのだけど、それに対して要求される”不自由”の量は結構なものだ。

子供を産まない人が増えるというもの、そりゃわかろうものである。

 

欲しいものが多ければ多いほど、人生の難易度はあがるし、上手に息抜き、いや息継ぎができないと人生は破綻する。

いまの世の中で全てを手に入れるのは誠に難しいが、全てを手に入れないと人の心の穴は埋まらない。

なかなか難しいものである。

 

とりあえず、今年の夏は人気のない所をドライブでもしてみてはいかがでしょうか?

ちょっとだけ、心のシンドサが緩和されるかもしれませんよ。

 

 

 

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高須賀

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