会社をやっていると、どのくらいの社員がいるのですか?と聞かれることがある。

 

弊社はマネジメントを行う役員が4名。

その下にいる100名以上のエンジニア、デザイナー、ライター、脚本家、イラストレーター、マーケター、リサーチャーなどはすべて、極めて高い技能を持つ「副業者」や「フリーランス」で構成されている。

 

例えば、このサイト(Books&Apps)の構築、運営。

設計、開発に携わったのは三名のエンジニアで、そのうちの二名は、フリーランスだった。

 

彼らは私が言うのも何だが、実に優秀だった。

弊社からの面倒な注文を嫌な顔ひとつせずに、しかも大手に発注する金額の数分の一でこなしてくれたうえ、対応も柔軟で早く、立ち上げから6年以上たった現在でも、頼りにしている。

 

 

このように言うと、副業者やフリーランスと付き合いのない会社の方の中には、

「そんなにうまい話ある?」

訝しく思う方もいるだろう。

 

もちろん、いい話だけではない。

たとえば上述したエンジニアの一人には、「普通ではない」点があった。

彼は極めて時間にルーズなのだ

 

そのエピソードは下の記事に詳しい。

「9時までに遅刻せず会社に来る」ということは、本当に重要な事なのだろうか。

ミーティングが15時からであっても、13時からであっても、彼は「必ず遅刻する」のだ。本当に「時間どおり」ということが無いのだ。(中略)

彼は「どうしても、毎日9時までに会社に来ることができない」という理由で、勤めていた大手の開発会社をあっさり辞めていた。

 

しかし正直に言うと、私は「9時に会社に来ること」や「ミーティングに遅刻しないこと」を重視しない。

「時間を守れない人は信用できない」という人もいるかも知れないが、彼の生み出すソフトウェアの品質は信用できる。

私は、それで良い、と今でも思っている。

 

 

ただ最近では、風潮も変わってきている。

個人は信用できないとか、大事な仕事は社内で、といったフリーランスへの先入観は徐々に影を潜め

「社会全体で、有能な人を共有しよう」

という考え方に基づいて、「雇⽤関係によらない働き⽅」が推進されつつある。

 

例えば、内閣府の資料によれば、フリーランス(=「雇用的自営業」)は近年、増加しており、労働市場の変化の一つだと言う。

日本のフリーランスについて

 

クラウドソーシングを運営する「ランサーズ」の調査でも、フリーランスの経済規模は増加の傾向にある。

すでに日本では、1000万人以上がフリーランスとして活動しており、「お金」「やりがい」あるいは「スキルの獲得」のために働いている。*1

 

経済産業省のレポートでは更に一歩踏み込み「副業者・フリーランスの活用」が明言されている。

「雇⽤関係によらない働き⽅」に関する研究会

◯これまでの“常識”であった1社就業に対する「兼業・副業」、オフィス勤務に対する「 テレワーク」、雇⽤関係による働き⽅に対する「雇⽤関係によらない働き⽅」の3つが 互いに折り重なり、「⽇本型雇⽤システム」の⾒直しにつながっていく。

◯インターネット上で企業と働き⼿のマッチングが容易になり、雇⽤契約によらない(企 業の指揮命令を受けない)働き⽅が普及。

レポートは、雇⽤関係によらない働き⽅は働き⼿と企業の双⽅にとって有益と述べている。

 

「正社員によらない働き方」は、静かに実現しつつある

さらに、こうした「正社員によらない働き方」を基盤とした経営を行う会社も増えている。

 

例えば八子知礼氏が代表をつとめる「INDUSTRIAL-X」だ。

INDUSTRIAL-Xは、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進に必要な、あらゆるリソースを、様々な企業へ提供するサービスを展開する。

 

ここで特長的なのは、INDUSTRIAL-Xは、現在「正社員」は2名であり、その他の人員はすべて、「副業プロフェッショナル」を中心に構成されているという事実だ。

 

代表の八子氏に、「なぜ副業者を中心とした組織にしたのでしょう」と尋ねると

人口減少社会では、優秀な人材を、一社が囲い込む状況はナンセンスであり、人材の流動化が必須

と回答した。

「そのために、我々が率先してやろうと思った。有能な方は、社会の中でさらに大きな貢献がしたいと望んでいる。最近ではそれが加速し、我々と提携している副業プラットフォームの登録者は、ここ2ヶ月ほどで1.5倍に増えた。

 

「会社の幹部ですら、社員ではないのでしょうか?」と尋ねると、

「たしかに最初、戸惑いはあった。しかし「雇用形態」は全くパフォーマンスと関係がなかった。」

と八子氏は言う。

「ただし、優秀な人を引きつけるには、自分たちが常に魅力的でなければならない。代表の私自身が常に競争させられているイメージだ。とても気を遣っている。」

 

そこで、「正社員でなくとも、企業文化の形成はできるのでしょうか?」と尋ねると、

カルチャーフィットは極めて重要で「優秀」というだけでは、雇えない。そのために、社内に積極的なコミュニケーションのプラットフォームを持たねばならない。最近では外部のSNSではなく、社内へのSNSへの投稿がかなり増えた。」

という回答があった。

 

今は「正社員」を用いるメリットが小さくなっている

「それでも正社員のほうが……」という企業もあるかもしれない。

では一体、企業側が「正社員」を登用するメリットは何なのだろうか。

 

従来、その大きなメリットの一つは「柔軟性」にあった。

単純に言えば、「様々な仕事をやらせることができる(配置転換)。どこに行かせても良い(転勤)、残業を命じても良い(時間外労働)」の3つだ。

あるいはこれらを実現する「会社への忠誠心」と言っても良い。

新卒採用を行う理由を「自社のカルチャーに染めやすい」と言う方もいる。

 

しかし、その代償として企業は「雇用保障」をしなければならない。

実質的には、正社員は「成果」が出なくても許され、能力不足での解雇も非常にハードルが高い。

 

しかし。

現在では転職が一般化し、転勤や時間外労働への批判が強まった。

経営者が「会社への忠誠心を持とう」などと言おうものなら、「昭和かよ」と嘲笑されるだろう。

これらはもちろん、労働者にとって喜ばしい変化だ。

 

しかし企業から見て「正社員」を用いる大きなメリットは失われた。

だから社員を「会社の言う通り動くか」ではなく、「どれだけ成果を出すかで評価しようじゃないか」という話になった。

 

すると「正社員でなければならない」という話はかなり怪しくなる。

正社員「逆ギレ」も、非正規の待遇格差が招く荒れる職場(日経ビジネス)

契約社員が事務書類の提出が遅れると、『意識が低い』だの『モチベーションが低い』だのマイナスの評価を受けます。

 

ところが正社員だと『ちょっと忙しくて』という言い訳が通る。上司もそれを容認するんです。

それにね。正社員ってある程度までは横並びで昇進し、仕事も任されるようになるけど、契約社員は採用される時点で会社が求めるレベルに達しているので、その意味では契約社員の方が仕事ができます。

要するに「正社員」でも「フリーランス」でも、パフォーマンスと言う観点からは、そんなに変わらないのでは、という話になった。

いわゆる「同一労働同一賃金」の流れだ。

 

むしろ、副業者・フリーランス・契約社員は「成果」という意味でははるかにシビアにとらえてくれる。

そして企業側も、一旦フリーランスの活用をしてしまえば、90%以上の会社が「フリーランスの活用は効果的だ」とみなしている。*2

 

経産省のレポート*3でも、外部⼈材を積極的に活⽤して成果を上げている企業(GEヘルスケア・古河電気工業・NTTドコモなど)の事例が報告されているところを見ると、最初の心理的なハードルさえ超えれば、一気に活用が進むのかも知れない。

 

ただし現状、「副業者・フリーランスの活用」には、まだ煩雑さもある。

 

一つは「成果の管理・契約の手間」だ。

個別に成果の定義と評価を行い、報酬と契約を管理する。これらは正社員に比べて、数が増えれば極めて煩雑である。

 

二つ目は「コンプライアンスリスク」。

フリーランスは守られていない、というが、実は彼らを保護する動きは年々活発化しており、実際には彼らは「独占禁止法」や「下請法」の保護下にある。

「社員じゃないのだから、何でもあり」ではない。

 

また、逆にフリーランス側からの情報漏えいリスクも無視できない。

日本の法律はまだ旧態依然とした「正社員」という雇用形態をスタンダードとして作られており、まさにこれから、政府の言うところの「⽇本型雇⽤システムの⾒直し」が徐々に進んでいくのだろう。

 

副業者・フリーランスの活用における課題を解決する

だが、こうした状況に対して、それへの対処を可能にする様々なサービスも登場している。

その一つが、エン・ジャパンのクラウド型フリーランスマネジメントツール、pasture(パスチャー)だ。

契約管理やコンプライアンスを遵守した発注・請求業務の管理など、「雇用形態によらない働き方」を支援する。

 

上述したINDUSTRIAL-X社でも、副業プロフェッショナルの方々に利用されており、八子氏は

「業務が急激にスケールすることを見越し、管理を標準化しておきたい」という。

 

多くの企業で、「新しい働き方」には、従来とは異なるマネジメントと、新しい管理ツールが求められているのだろう。

 

以下からフリーランスマネジメントの資料を取得可能です。

【無料ダウンロード】

「フリーランスと働く企業が知っておきたい、バックオフィスのガバナンス体制構築のポイント」

【目次】

◯ガバナンス体制構築のポイント

―下請法とは

・罰則

・おさえておきたい下請法4つのポイント

―インボイス制度とは

・仕入税額控除がもたらす影響

・インボイス制度へ対応するための4つのポイント

◯デジタルな受発注業務フローをいかに構築していくか

―SaaSで効率化できそうな業務イメージ

―デジタル化プロセスとポイント

―pastureでできること

 

 

 

 

【著者プロフィール】

◯Twitterアカウント▶安達裕哉

元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者(tinect.jp)/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。

◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(note.mu/yuyadachi

◯安達裕哉Facebookアカウント (他社への寄稿も含めて、安達の記事をフォローできます)

Books&Appsフェイスブックページ(Books&Appsの記事をすべてフォローしたい方に)

◯ブログが本になりました。

 

*1 出典:【ランサーズ】フリーランス実態調査2020年版 https://speakerdeck.com/lancerspr/huriransushi-tai-diao-cha-2020

*2 出典:https://www.lancers.co.jp/news/pr/17978/

*3 出典:https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/freelancejirei.pdf