日本の人口減少は、イノベーションには不利です。
だからといって、日本経済がイノベーションを手放すことはできません。
なぜなら、アメリカ、中国は次々にイノベーションを興して経済成長を続けていて、いまやイノベーションは経済のエンジンになっているからです。
そこで、人口減少がどのようにイノベーションの足を引っ張るのか概観してみます。
改善に着手するには、まずは現状把握しなければなりません。
その次に、人口減少社会のなかで、どのようにイノベーションを興していったらいいのか考えてみます。
日本経済が人口減少というハンデを乗り越えて発展していく道を模索してみたいと思います。
人口が多いほどイノベーションは起きやすい。だから人口減少は不利
イノベーションは確率の問題でもあります。
多くのイノベーションを生み出すには、さらに多くの失敗や見当違いな行為を積み重ねなければならないからです。
明治大学の阪井和男専任教授(法学)は、「新規事業の成功率は5%程度」と述べています。
そしてイノベーションを生み出すには「突出した人材の失敗を許容する」ことが必要であると指摘しています[1]。
つまり、突出した人材をどんどん生み出し、彼ら彼女らにどんどん失敗してもらわなければ、世界が驚くようなイノベーションは出現しないのです。
人口減少は単純かつ確実に、イノベーションの発生確率を落としてしまうといえそうです。
人口減少は問題が多い。だからイノベーションの足を引っ張る
経済力世界1位と2位のアメリカと中国で多くのイノベーションが出現しているのに、開発途上国ではあまりイノベーションが生まれていません。
国の経済力を背景にして、快適な研究室のなかで豊富な予算を使って開発すればよいものが生まれる、というのは理にかなっています。
国の経済力が落ちると、イノベーションを興しにくくなるのです。
人口減少は、日本の経済力を落としかねません。
学者たちは、日本の人口は今後100年間かけて5,000万人にまで減るとみています[2]。
人口5,000万人とは、日本の100年前の姿です。
政府や地方自治体の税収は激減し、経済は縮小するので、大学の研究予算は削られ、企業は開発に投資できなくなります。
また現代の充実した社会保障制度を維持できなくなるので、将来への不安からリスクを取って研究・開発に没頭する人が減るかもしれません。
いずれもイノベーションにとってネガティブ要因です。
内閣府は「現状のままでは」2040年代にマイナス成長になるとみている
日本政府も「現状のままでは」2040年代以降に日本経済はマイナス成長に陥るとみています[3]
内閣府は、人口と経済成長について次の4つのシナリオを描いています。
A:人口が安定化して生産性が向上する
B:人口が安定化して生産性が停滞する
C:人口が減少して生産性が向上する
D:人口が減少して生産性が停滞する
最悪のシナリオはDで、人口減少対策に失敗し、なおかつ企業などの生産性が停滞する内容です。
このシナリオDでは、2020年代初頭までは年1.0%程度の成長で推移して、それ以降は人口減少により押し下げ効果が拡大し、0.5%成長にとどまります。
そして2040年代にとうとうマイナス成長に陥るのです。
しかし内閣府は、力強く次のように述べています。
「イノベーションによって生産性を大きく改善することは決して無理ではない」[3]
ただし、そのためには次の課題を解決する必要があります。
・価格、品質、特徴的な価値で競争力を持つ
・高齢化で難航している事業継承をスムーズに進める
・AI(人工知能)、ビッグデータ、ロボットの各分野に乗り遅れない
・創意工夫による新たな価値の想像
こうした取り組みによって現状を打破し「人口減少社会でも経済成長していこう」と、内閣府は考えているわけです。
そもそもイノベーションとは
イノベーションの概念の生みの親、シュンペーター氏は、イノベーションを次の5項目で定義しています[4]。
・新しい商品をつくる
・新しい生産方法でつくる
・新しい市場をつくる
・新しい原材料をつくる
・新しい組織をつくる
立正大学教授で元東京大学教授の吉川洋氏は、この5項目のなかでも新しい商品をつくること、すなわち「プロダクト・イノベーション」こそが先進国である日本には重要であると考えています。
なぜ新しい商品が重要かというと、既存のモノやサービスは必ず市場を満たしてしまうからです。
つまり陳腐化してしまうのです。
陳腐化したモノやサービスは消費者に無視されるか、安く買いたたかれるかのどちらかです。
企業の収益も利益も落ち込み、従業員の給料が減り、国や自治体に納める税金も減り、社会保障の内容が貧弱になり、公共事業を打ち出すこともできなくなります。
この負のスパイラルを破るのが、新商品なのです。
イノベーションとは未来のニーズを先取りすること
それでは企業は、どのようにイノベーションと呼ばれるような新商品を生み出していったらいいのでしょうか。
産業ガラス製品の世界シェア1位で、連結従業員数が50,000人を超え、連結売上高が年1.5兆円(2017年)に及ぶAGC株式会社(旧旭硝子)ですら、イノベーションで生き残りを図ろうとしています。
同社の島村琢哉社長は、従来の延長線上に会社があってはならない、と述べています[5][6]。
イノベーションを生み出すために、会社の環境や体制を変える覚悟です。
AGCはイノベーションを、次の2段階で生み出そうとしています。
第1段階:30年後の社会のニーズを予測する
第2段階:バックキャストして未来に進む道を決める
AGCはこれまで、顧客企業から「こういうガラスがほしい」といわれ、その要望を満たすガラス製品をつくってきました。
しかし島村氏は「それではもう通用しない。顧客を飛び越え、未来の社会のニーズを予測して製品をつくらなければならない」と考えています。
それが「30年後の社会のニーズを予測する」ということです。
2018年からみた30年後は2048年で遠い未来に感じますが、まさに日本政府が「現状のままではマイナス成長に陥る」と想定しているが2040年代です。
AGCの危機感は「心配しすぎ」ではないのです。
バックキャストとは、目標を設定してから現在すべきことを考える手法です。
AGCは30年後の未来を先取りしようとしています。
AGCのこの思考は、イノベーションの神様的存在であるスティーブ・ジョブズ氏(アップル創業者、1955~2011年)にも通じるところがあります。
ジョブズ氏は「顧客が望むものを明らかにするのは、顧客の仕事ではない」と述べています(*7)。
企業は、顧客が「ほしい」と言う前に、顧客が求めるものをつくり出さなければならないのです。
それがイノベーションなのです。
1人のGPDの拡大によって、先進国のGDPは拡大する
AGCやジョブズ氏の思考を応用すれば、「人口が減ってもイノベーションは興せそうだ」と感じます。
その印象が間違っていないことを示すエビデンスがあります。
先進国のGDPの拡大は、1人当たりのGDPの拡大によるところが大きい、というデータがあるのです。
人口が増えればGDPが自動的に増えるわけではないのです。
日本の高度成長期(1955~1970年)の経済成長率は年10%もありましたが、当時の労働人口の増加率は1%強にすぎませんでした。
日本は、人口の拡大率以上に経済を拡大させた実績があるのです。
そして先述の吉川洋教授は「10%-1%=9%」は、イノベーションがもたらしたとみています[4]。
吉川氏のこの論は、説得的といえるのではないでしょうか。
イノベーションは、大人数が集まる会議で起きることはあまりありません。
1人または小集団が大きなイノベーションを起こすことが多いのです。
世界一企業価値が高いアップル社もジョブズ氏が孤軍奮闘したことが実を結んでいますし、世界の買い物を変えたアマゾンも、ジェフ・ベゾス氏が1人で始めました。
こうした傑出した人物を輩出できる国であれば、人口が減ってもイノベーションによってGDPを拡大させることは不可能ではないのです。
女性を活用すれば人口減を乗り切ることができる
さらに日本は、有効活用できていない人材を多く抱えています。
無駄にしている人材を生産人口にしていけば、人口減少による労働力の低下を補うことができます。
日本の経済界が有効活用できていない人材とは、女性です[8]。
経済協力開発機構(OECD)東京センターの村上由美子所長は、日本の男女間の労働参加率の差が50%解消すれば、2030年までに日本のGDP成長率が1.5%に増えると試算しているのです。
さらに女性が男性並みに働けば1.9%にまで増える、としています。
そして、もし女性の活用が現状のままだと、GDP成長率は1.0%にまで低下します[8]。
2017年の男性の就業率は68.4%で、女性は49.8%でした[9]。
もちろん、女性の就業を促すには女性が働きやすい環境をつくる必要があり、それは人口減少とは別の大きな社会問題になっています。
また、社会や企業で活躍する女性が増えれば、出生率が低下するかもしれないので、子育て支援を拡充する必要があります。
それでも村上氏は、女性を活用しきれていない日本の社会は「宝の持ち腐れ」と指摘しています。
宝を活かすことが、人口減少社会でイノベーションを引き起こすひとつの手段なのです。
まとめ~まさにピンチをチャンスに変えるとき
ビジネスシーンにおいて「ピンチをチャンスに変える」という常套句があります。
しかし実際のビジネスシーンでは、ピンチで苦しんでいるときにチャンスに変えるエネルギーが出てこなくてあえいでいるのではないでしょうか。
それは日本社会、日本経済も同じです。人口減少という厳然たるピンチの前に、政府も自治体も企業も有効策を打ち出せないでいます。
イノベーションこそが、ピンチをチャンスに変えるきっかけになるでしょう。
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【著者プロフィール】
株式会社識学
人間の意識構造に着目した独自の組織マネジメント理論「識学」を活用した組織コンサルティング会社。同社が運営するメディアでは、マネジメント、リーダーシップをはじめ、組織運営に関する様々なコラムをお届けしています。
webサイト:識学総研
Photo by Nicolas HIPPERT
参照
[1]新規事業の成功確率は5%程度 突出した人材の失敗を許容できるか(阪井和男、明治大学法学部専任教授)http://www.dhbr.net/articles/-/5023?page=3 [2]人口減は日本にとってイノベーションを準備するいい機会だ(立正大学教授、吉川洋)
https://diamond.jp/articles/-/154081 [3]経済成長とイノベーション(内閣府)
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/future/sentaku/s2_5.html [4]人口減少、イノベーションと経済成長(吉川洋、経済産業研究所)
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/pdp/15p017.pdf [5]企業情報(AGC)
http://www.agc.com/company/index.html [6]旭硝子社長:30年後のニーズを予測して逆算する(AGC社長、島村琢哉)
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400128/090700016/ [7]イノベーションの成功確率を高める「8つの問い」(スコット D. アンソニー、ハーバードビジネスレビュー)
http://www.dhbr.net/articles/-/2842?page=2 [8]「人口減」をイノベーションで好機に変えよ(Yahoo!ニュース編集部)
https://news.yahoo.co.jp/feature/410 [9]労働力調査(基本集計)平成29年(2017年)平均(速報)結果の要約(総務省)
http://www.stat.go.jp/data/roudou/rireki/nen/ft/pdf/2017.pdf