職場の生産性が上がらない、部下がなかなか思うように動いてくれない、仕事に無駄が多いーー管理職なら、誰もが持つ悩みかも知れません。

もしあなたがマネジャーで、今の職場の生産性をあげたいのならば、まずオフィス環境の「断捨離」もしくは整理整頓から始めてみるのはいかがでしょうか。

「今さら断捨離?」と思われるかも知れません。

しかし、実は環境がもたらす力は大きいのです。

米国アップルでの実例をみてみましょう。

 

なぜ米国企業が「環境」を重視するのか

アップルやグーグルなどのグローバルな米国企業は、「職場環境」を非常に重視することで知られています。

皆さんも、カラフルでワクワクするような明るいオフィスを一度はテレビなどで見たことがあるのではないでしょうか。

 

例えばグーグルの本社は「Googleplex」と呼ばれ、無料の社員食堂や休憩所など、遊び心のあるオフィスが有名です。

フェイスブックも、オフィスデザインを非常に重視することで知られます。

アップルもオフィス環境の構築に多大な資金をかけています。

 

なぜか。

それだけ「環境」が社員に与える影響を重視しているわけです。

 

そうはいっても、「グーグルやアップルのような潤沢な資金もない。

グーグルのような理想的な環境は我が社には無理」と思われた方もいるかも知れません。

 

ところが、実はもっとも安上がりで簡単にできることがあります。

それが「整理整頓」であり「断捨離」なのです。

 

あなたの職場では、オフィスの床に機材が放置されていないでしょうか。

長いこと使っていないマニュアルやケーブル類、壊れた椅子などが置かれていないでしょうか。

倉庫がモノだらけで、探し物が出来ない状況になっていないでしょうか。

 

もしそうだとしたら、以下の方法を、試してみる価値は十分にあります。

 

「割れ窓理論」または「破れ窓理論」と呼ばれる理論があります。

デジタル大辞泉によれば、「窓ガラスを破れたままにしていると、環境が悪化し、凶悪な犯罪が多発するようになる」という意味です。全文を引用します。

窓ガラスを割れたままにしておくと、その建物は十分に管理されていないと思われ、ごみが捨てられ、やがて地域の環境が悪化し、凶悪な犯罪が多発するようになる、という犯罪理論。軽犯罪を取り締まることで、犯罪全般を抑止できるとする。米国の心理学者ジョージ=ケリングが提唱した。ブロークンウインドーズ理論。

米国ニューヨーク市ではジュリアーニ市長(在任1994~2001年)がこの理論を応用し、地下鉄の落書きなどを徹底的に取り締まった結果、殺人・強盗などの犯罪が大幅に減少し、治安回復に劇的な成果をあげたとされる。[1]

実はこれと同じことがオフィスにも言えるのです。

そう断言するのは、アップルに16年も在籍し、米国の本社で元シニアマネジャーとして働いていた松井博さんです。

 

松井さんは、実際にこの「割れ窓理論」を職場に応用することで、パフォーマンスを劇的にあげたのです。

 

オフィスの生産性が3倍にアップ

まず松井さんは東京のオフィス時代「整理整頓委員会」を作りました。

そして、月に1度、各自の机や作業場をチェックします。

とは言え、「整理整頓」と書いて壁に貼っておくだけでは、誰も動きません。

そこで、毎月、ランキングを壁に張り出して競争することにしたそうです。

 

次に、機材の床置きを禁止します。棚を設置し、簡単に貸し借りできるようなシステムとしました。

こうして整理してみると、テスト機材などのハードウエアは3000点以上もあることが分かりましたし、ソフトウエアもやはり数千点に及ぶ数です。その他消耗品やケーブルなどの備品もありましたから、本当にモノで溢れていました。[2]

こうして機材やソフトウエアの使用履歴が把握できるようになります。

そして、このデータをもとにして、次に取り組んだのが機材の大量処分、つまり、断捨離でした。

この断捨離が、オフィスの業務効率改善に、実際に大きな効果をあげることになります。

ここまで来る頃には、作業効率も劇的に上がっていました。まず職場での探し物が皆無になりました。(中略)ビジネスパーソンが1年のうちにオフィスで書類や文房具などの「探し物」をしている時間はなんと150時間と言われています。150時間といえば、フルタイムの会社員のまる1ヶ月分の労働時間です。[3]

探し物の時間は非常に分かりやすい例えです。

探し物を排除することで、いかに大きな時間が捻出できるかが分かります。

 

また、断捨離によって、狭いオフィスでも空間に余裕が出来てきます。

人間は目に入るものの影響を受けます。

ですから、こうした片付けにより、各人のマインドがだんだんと変わっていくのはある意味当然です。

 

なお私は米国本社に移った後も、部署が変わるたびに必ず整理整頓から手を付けました。いちばん極端な変化があったところでは、部署の生産性がわずか1年ほどで約3倍アップしました。[4]

 

このオフィス改善は、その後、パーテーションの高さや、オフィスのレイアウトなどにも及びます。

詳細は書籍を読んで欲しいのですが、この改善が評判を呼び、他の部署から人が見学に来ることもあったそうです。

 

無駄な会議や工程も減らす

整理整頓はモノだけではありません。

無駄な会議や無駄な飲み会、プロジェクト、工程も見直すことでスリム化することが出来ます。

 

スティーブ・ジョブズが戻ってくる前の1990年代はじめ、アップルはほとんど潰れかけた会社でした。

OSとしては後発だったはずのマイクロソフトのウィンドウズ95に大きく水を空けられ、シェアも落としていました。

 

当時のアップル製品といえば、悪名高い「爆弾マーク」が頻繁に出ることで知られ、バグも多かったのです。

製品のラインナップも今のように整理されておらず、似たような製品がたくさんあり、ユーザーも混乱していました。

あるのかないのか、よくわからないプロジェクトがたくさん同時進行していたのです。

 

アップルの社内も同様だったようです。

松井さんによれば、「まるで不良が跋扈して荒れている底辺高校のようなひどい状態」だったと言います。

これが、スティーブ・ジョブズの前任者「再建屋」として知られたギルバート・アメリオによって少しずつ整理され、ジョブズによってさらに大きく改革されたわけです。

 

そして、この整理整頓、アップルにスティーブ・ジョブズが戻ってきたときにも行われています。

松井さんは「スティーブがやったことは、会社の環境を変えたこと」と断言します。

スティーブが暫定CEOに就任してまず手を付けたのは、アメリオが始めた整理整頓をさらに徹底することと、会社の方針を社員に浸透させることでした。

まず整理整頓の方ですが、アメリオが50までに減らしたプロジェクトをスティーブはさらに10にまで減らしました。また、いますぐ役に立つテクノロジー以外はことごとく抹消されました。[5]

スティーブ・ジョブズがどのようにアップルの環境を変えたのか、知りたい方はぜひこの「僕がアップルで学んだことー環境を整えれば人が変わる、組織が変わる」(アスキー新書)を読んでみてください。

 

まとめ

管理職がやることは、「環境を作ること」だと松井さんは主張します。

そんなことで良いのかと、ちょっと意外に思う方もいるかも知れません。

しかし、実際に職場の整理整頓は侮れません。

ほとんど予算もかかりませんから、試してみる価値はあるでしょう。

 

 

 

 

 

【著者プロフィール】

株式会社識学

人間の意識構造に着目した独自の組織マネジメント理論「識学」を活用した組織コンサルティング会社。同社が運営するメディアでは、マネジメント、リーダーシップをはじめ、組織運営に関する様々なコラムをお届けしています。

webサイト:識学総研

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参照

[1]「デジタル大辞林

[2]「世界の中央銀行」田尻嗣夫著 P253

[3]「僕がアップルで学んだこと 環境を整えれば人が変わる、組織が変わる」松井博 P113

[4]「僕がアップルで学んだこと 環境を整えれば人が変わる、組織が変わる」松井博 P114

[5]「僕がアップルで学んだこと 環境を整えれば人が変わる、組織が変わる」松井博 P115

[6]「僕がアップルで学んだこと 環境を整えれば人が変わる、組織が変わる」松井博 P31