ニュースメディアを観ていると、オリンピックや大ヒット映画などいろいろなイベントの経済波及効果が○○億円、といったニュースを見かけることがよくある。
“阪神Vなら経済効果は620億! 関大・宮本教授が算出”(スポニチ、2021年6月)
“アニメ聖地巡礼、経済潤す 岐阜県の波及効果253億円”(日本経済新聞、2021年6月))
“東京2020大会開催に伴う経済波及効果は東京都で約20兆円、全国で約32兆円”(東京都オリンピック・パラリンピック準備局、2017年4月)
これらは本当なのだろうか。今回は以下の4点について考えてみたい 。
・経済波及効果とは、そもそも何?
・手軽に見積もれないの?
・どうやって計算するの?
・結局、信じていいの?
経済波及効果とは
ネットでは例えばバナーのデザインによる効果などを測る際、A/Bテストという形で、デザインをAパターン、Bパターンとランダムに出し分けて、実際にどのくらいクリックされるか、といったことを比較してその効果を見積もることが日常的に行われている。
経済波及効果は、あたかも阪神優勝といったイベントの効果を仮想的にA/Bテストするようなもの、と考えればいい。
すなわち、思いっきり単純化すると下記のようになる。
阪神優勝の経済波及効果=阪神が優勝した場合の関連企業の売上※ -阪神が優勝しなかった場合の関連企業の売上
※ここで関連企業とは球団はもちろんのこと、阪神優勝で直接間接に恩恵を被るホテル、百貨店などの流通企業、グッズメーカーなどを指す。売上としたが、厳密には生産額であり、売上とは必ずしも一致しない。特に、小売りの場合、売上そのものではなく、マージン(売上額―仕入額)だが、細かいことはここでは捨象する。
阪神優勝の経済波及効果を式ではなくストーリー展開(?)すると、例えばこんな感じになる。
阪神が優勝する⇒阪神グッズも売れるし、百貨店等が優勝セール⇒商品売り上げ↑⇒売れた商品の生産↑⇒生産に必要な原材料需要↑⇒原材料生産↑⇒さらにその原材料生産↑…
阪神優勝による消費増が商品売上増、必要な原材料調達増といった流れで生産に波及していく。と同時に、例えばこれによって売上増となった百貨店やグッズメーカーでは社員にボーナスが支給され、そのボーナスを原資として外食といった形で消費が増えることでさらに影響が波及していく。風が吹けば桶屋が儲かる、的な波及効果の連鎖だ。
手軽に見積もるなら…
精緻な計算は後述のツールを使うとして、いわゆるフェルミ推定的なお手軽な概算は例えば以下のようなモデル化(因数分解)で可能だ。
経済波及効果=関連する消費の波及効果=(例えばファンの)人数×一人あたりの消費額増×1.5倍※
※波及効果(直接効果含む)を織り込むための係数:総務省のツールから各産業部門の波及効果をシミュレーションして鈴木が平均的な値を試算したもの
阪神優勝の例で言うと、wikipediaなどの情報から仮に阪神ファンを全国約1,000万人として、一人あたりグッズやセールなどに仮に平均5千円近く多く使うとすると、
波及効果(直接効果含む):5千円/人×1,000万人×1.5倍=750億円
今回のニュースにあるような精緻な計算に基づくものではないが、オーダー(桁数)はだいたい同じ数字を見積もることができる。
経済波及効果の算出方法~どうやって計算するの?
では、どうやって計算すればいいか。
実は、いろいろな産業で生産額が増えたとき、どのくらいいろいろな原材料を金額ベースで調達しなければならないかがしっかりマトリックス的に統計データとして把握されており、『産業連関表』と呼ばれている。
この産業連関表を使うと、実際に波及効果がどのくらいあるかが試算できる。理論的な内容に関心がある方は以下を参照されたい。
また、精緻な経済波及効果計算のためのExcelシートを総務省や各都道府県が実は用意しており、必要な基礎データを入力すると経済波及効果が計算できるようになっている。例えば、以下。
実際の計算にあたっては、例えば下記の埼玉県作成のツールにあるように、阪神優勝で増える消費がそれぞれ、宿泊、交通費、飲食代、お土産でどのくらいになるのか、をまず見積もる必要がある。
結局、信じていいの?-不確実性と誤差の要因
産業連関表を使った経済波及効果の計算方法自体は理論的な背景もある。
それでも、経済波及効果の数字をみる際には注意が必要だ。というのも、推計に誤差、不確実性が入りこむ要因がいくつもあるからだ。いくつか列挙したい。
①入力となる消費の盛り上がりの見積もり自体が各種仮定に依存
例えば阪神が優勝してどのくらい優勝セールが盛り上がるか、阪神グッズが売れるか、といった見積もりが必要になるが、こちらもいろいろな仮定や前提のかたまりである。
また、細かく分解して推計すれば精度が上がると考えがちだが、その分仮定も増え、誤差が積み上がる余地が大きくなるため必ずしも精度が上がるとは限らない。
②推計者のバイアスの影響
特に主催者の見積もりのように、経済波及効果の利害関係者自身が見積もる場合、波及効果を大きく見積もりたいという誘惑が大きいだろうということは想像に難くない。
③産業連関表自体が各種統計からの推計の努力の結晶
各種統計から生産額などを推計し、全体が整合するように作成されている。このあたりは総務省作成の報告書
(https://www.soumu.go.jp/main_content/000680594.pdf)を見ると、推計の苦労が浮かび上がってくる。各種統計自体も、各種前提に依存している可能性はあり、その集大成であればなおさらともいえる。
④結果の検証が困難
推計の精度をあげるためには結果と突き合わせる検証が不可欠。しかしながら経済波及効果の推計はできるものの、実際にどうだったかという結果の検証はデータが簡単に手に入るわけではなく、容易ではない。
グロービス経営大学院では、ビジネス・アナリティクスの授業でこうしたデータの見方や分析の仕方を紹介している。授業自体は、体験クラスで垣間見ることができる。
(執筆:鈴木 健一)

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