ものすごいスピードで消費され、そのぶん新たなモノが生まれるこの時代。

わたしたち忙しい現代人は、時間も労力もかけずになにかを享受したいと思う。

 

だからみんな、「わかりやすい」が大好きだ。

 

「わかりやすく説明する技術」「わかりやすい文章のコツ」「わかりやすい資料作り」なんてノウハウは大人気。

そしてそこに需要があるから、多くの人が「わかりやすい」を供給しようとする。

 

ライター仕事なんてその最たるもので、より多くの人から「わかりやすい」と言ってもらえる記事を書くことに心血を注ぐ。

だってみんな、「わかりやすい」をほしがるからね。

 

でも、「わかりやすい」の定義やその実現方法は人それぞれ。

というわけで、わたしなりの「わかりやすい」の定義と、「わかりやすい」のつくりかたについて、今日は書いていきたいと思う。

 

「水溶き片栗粉を入れてとろみが出たら」はわかりづらい!

「わかりやすい」のわたし基準は、「手も頭も使わなくていいこと」だ。

もともとわたしはクックパッドの狂信者で、レシピを検索するとき、わざわざ「チーズケーキ クックパッド」と入力するぐらいだった。

 

でも最近、DELISH KITCHENや料理研究家など、動画のレシピチャンネルを参考にしている。

それは、動画のほうが、手も頭も使わなくて済むからだ。

 

たとえば、調理方法には「ざく切り」「焼き色がついたら」「とろみが出たら」といった感覚的な言葉がよく出てくる。

わたしは臨機応変が苦手なマニュアル人間なので、「ざく切り」をググって画像を開いてその形状を確認しなきゃ気が済まないし、片栗粉を使ったソースの「とろみ」加減がわからず、結局ゼラチン状態になってしまうこともあった。

 

いまではそういう表現もある程度わかるようになったけど、それでもはじめて作る料理やはじめて使う材料だと、「しんなりしたら」「一通り火が通ったら」「大匙2~4」という表現に緊張してしまう。

「これ、しんなりしてる? もうちょっと煮たほうがいい? あれ、なんか煮すぎたかも。崩れる……」なんて経験、たぶんだれもがしたことがあると思う。

 

いくら丁寧に書かれたレシピでも、こっちが「しんなり」を理解してないと、結局自分の手で試して、自分の頭で考えなきゃいけなくなる。

でも動画なら、「しんなりってこれくらいね!」と目で見てすぐに理解できる。

 

自分で試したり、調べたりしなくていい。

だから、動画系レシピ動画は「わかりやすい」のだ。

 

「わかりやすい」というのは、手も頭も使わなくていいこと。

ここではそう定義したい。

 

わかりやすい=相手の変わりに手と頭を使うこと

このような定義でいくと、相手に手も頭も使わせない状況を整えるのが、「わかりやすい」をつくることだと言える。

相手の代わりに手と頭を使ってあげること、かゆいところをかいてあげること、とでもいおうか。

 

「ちょっと考えればわかる」ことを代わりに考えてあげる。

「ちょっとやってみればわかる」ことを代わりにやってあげる。

これが、「わかりやすい」の素だ。

 

たとえば、日曜日に届いたメールに「来週の水曜日」と書かれていたら、ちょっと考えてしまわないだろうか。

日曜日を週初めにする人もいれば、月曜日にする人もいる。3日後なのか10日後なのか考えて、確認する必要が出てきてしまう。

 

だから、「1日(水)」と日付を書くほうが、「わかりやすい」。

それを書くだけで、相手は「いつだろう」と考えなくていいし、「一応確認を」と返信しなくてすむから。

 

もうひとつ例を出すなら、たとえば飲み会前、幹事から「遅刻する場合は店に直接連絡してね」とLINEがきたとしよう。

そのとき、「店の電話番号はこれだよ!」と書き添えておいてくれたら、とてもわかりやすくて親切じゃないか?

自分で店名を入れてググらなくてすむのだから。

 

これが、「相手に手も頭も使わせない」ということだ。

 

「その場で・すぐに・明確に」の3本柱

では、「わかりやすい」はどうやってつくるのか。

 

それは、相手が「その場」で「すぐに」「明確に」理解できるようにお膳立てすればいい。

 

「その場」とは、自分で調べる必要がないこと。つまり、情報に不足がない。

「すぐに」とは、内容を丁寧に吟味しなくてもすんなり頭に入ってくること。つまり、情報が整理されている。

「明確に」とは、どこにも疑問を抱かずに納得できること。つまり、知りたいことに対するはっきりとした答えが提示されている。

 

その3つが揃えば、一般的いう「わかりやすい」がつくれるんじゃないだろうか。

逆に、このどれかが欠けているものが、「わかりづらい」のだと思う。

 

ふたたび、レシピの話に例えよう。

あなたがいま手にしているのは、煮込みハンバーグのレシピだ。

 

そこに、「玉ねぎは事前にレンジでチンする」と書いているとしよう。

でも何ワットで何分チンするか書いていない。

自分でググらなきゃいけない。むむむ、不親切だ。

 

「オールスパイス 適量」と書かれていても、オールスパイスなんて普段使わないから「適量」がわからず途方に暮れる。下味だから後から付け足すこともできないし、どうしよう。

これは、情報の不足だ。

わかりやすくない。

 

しかもこのレシピは、ハンバーグ作りとソース作りが別工程になっている。

ハンバーグが完成したあとに、ソースの作り方が別途書かれているのだ。

 

同時進行でつくるためには、「焼いているあいだにソースをつくればいいのかな? どのタイミングでソースを火にかけたら同じタイミングでつくり終わるんだろう?」と、自分で段取りを考えなきゃいけない。

 

わかりやすいレシピだと、「これを待っているあいだにソースを作って、この行程に入ったらソースの鍋に火をかけて……」って書いてくれてるんだけどなぁ。

情報が整理されていないレシピだと、何度も見返して考えなきゃいけないから大変だ。

 

そのうえ、各行程に「柔らかいハンバーグが好きならこう、そうじゃなければこう」「中をレアにしたければこうやって、きっちり火を通したければこう」「ソースは甘くするならこっちで、さっぱりするならこっち」と、いろんなパターンが書かれていたらどうだろう。

ささっとハンバーグを作りたい人からすれば不要な情報が多くて混乱するし、情報の取捨選択という労力が必要になる。

 

場合によっては多少答えが分岐してもいいとは思うけど、「つまりどういうこと?」と迷わせた時点で、「わかりやすい」とはいえなくなる。

わかりやすくするためには、「その場」で「すぐに」「明確に」理解できるようにすべきなのだ。

 

相手にラクさせてあげるのが「わかりやすい」ということ

「わかりやすさ」とは、相手にどれだけラクをさせられるか。

だから、突き詰めれば突き詰めるほど、相手はラクができる。

だからみんな、「わかりやすい」が大好き。だって、自分でなにもしなくていいのだから。

 

そういえば以前わたしは『「わかりやすい表現でわたしを納得させてみろ」という尊大なクレーム精神は、現代人の病。』という記事で、「わかりやすさの過剰摂取でわたしたちは考えるちからを失った」と書いた。

 

わかりやすいものばかり与えられているから、いざ自分の理解が追いつかないと、「なんで自分を納得させてくれないんだ、もっとわかりやすく説明しろ!」と偉そうに求めるようになってしまう……という主旨だ。

 

よく考えれば、当たり前の話かもしれない。

だって、「わかりやすい」とは、考えなくて済むようにしてもらうことだもの。

それに慣れてしまったら、「わからないのは自分のせい」ではなく、「わかりづらいお前のせい」になるよね、そりゃあね。

 

「わかりやすい」は、中毒性がある。

手も頭も使わなくていい、とてもラクで魅力的なもの。

一度その味を知ってしまえば、もう自分で考えて行動するなんて面倒くさくてやってらなくなっちゃう。

 

手っ取り早く答えをほしがる面倒くさがりがたくさんいるかぎり、「わかりやすい」は今後もおおいに求められるだろう。

そのときは、相手が手も頭も使わなくて済むように、「その場」で「すぐに」「明確に」理解できるようにお膳立てしてあげればいいのだ。

 

 

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安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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Twitter:amamiya9901

 

 

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