宮迫博之さんの動画が、ふたたび物議をかもしている。

 

流れとしては、

・「高級路線の焼肉店をはじめる」と言うも、試食会で料理の質が悪いことが発覚。共同経営者のYouTuberヒカル氏が撤退

・宮迫氏は2人のアドバイザーを迎えるも、「事業舐めてる」とボロクソに言われる

・アドバイザーのひとりである本田氏と戦略会議し、本田氏が「高級感×リーズナブルを狙う」「食材の原価をあげるために人件費を下げる」「接客をみんなでバチバチに教育する」と発言

・「ブラック企業宣言」と批判される

……とまぁこんな感じだ。

 

宮迫氏は次の動画『牛宮城再生ドキュメント#6【集え!牛宮城へ!新メンバー加入!?】』で、「思いっきり勘違いされた」と言い、本田氏が真意を説明。

「iPadで注文していただくなどの仕組みを取り入れデジタル化」することで、「働いている人の負担を減らしてサービスの質をあげる」という意味だったそうだ。

 

宮迫氏も、「本来5人いるところを3人にするなど人数を減らしてサービスの質を上げる、給料を削るわけじゃない」とフォロー。したのだが。

……これって、釈明になってるんだろうか?

人数を減らしてサービスの質をあげる??

「高級感」と「サービスの効率化」は、相性最悪だと思うのだけど。

 

「高級感」の決め手は「尽くしてもらう」体験ができる接客

高級感は、センスのいい調度品や落ち着く音楽、清潔感溢れる店内など、さまざまな要素の相乗効果によって演出される。

そのなかでなによりも大事なのは、接客だ。

 

ボーナスをパーッと使う気で意を決してヴィトンに入ったのに、「へいいらっしゃい!」と店員がバタバタ走ってきたら雰囲気は台無し。

記念日に有名な料亭に行ったのに、寒空のなか入り口で10分も待たされたら、その時点でもうがっかり。

 

いくら内装や音楽がおしゃれでも、接客が悪ければ、「高級感」はむしろ「見掛け倒しだった」という失望につながる。

だって客は高級店に、「他人に尽くしてもらう経験」を期待しているから。

なにか聞けば答えてくれるし、希望を言えば適したものを用意してくれるし、困ったことがあれば相談に乗ってくれる。

そういうサービス料込みで「高級」だと思っているわけだ。

 

だから「高級」な店は、その期待に応えられる仕組みを用意している。

高級フレンチレストランでは、テーブルごとに担当がつき、各料理の説明をする。

いっしょにワインを選び、苦手なものがあれば好みのものに変更、サプライズにも全力で協力。

 

高級時計店であれば、「こういうのないかな」と言われればすぐに候補をいくつか持っていき、試着してもらう。

ときにはコーヒーを飲みながら、一組に対し1時間以上接客することもある。

 

「他人に尽くしてもらう」という経験ができるからこその、「高級店」なのだ。

 

人を減らしてサービスの質を上げることは可能なのか

そしてその献身は、人的余裕があってはじめて成り立つ。

要は、「人数がいっぱいいるから余裕をもってひとりひとりのお客様に対応できる」のだ。

ひとりで10組の客を担当するのと2組の客を担当するのでは、後者のほうが当然、丁寧な接客ができるからね。

 

というわけで、ここで冒頭の話に戻ろう。

宮迫氏の焼肉店は当初から「高級路線」を掲げており、この図にあるように「雰囲気」を重視しているようだ。

だからこそ、接客を「バチバチに教育」という発言をしたのだろう。

出典:牛宮城再生ドキュメント#5【重大発表!ついに決まったオープン日!】

 

でもそれなら、「デジタル化を進めて人数を減らす」のは、もっともやってはいけない悪手だと思う。

「注文」とは、お客様とコミュニケーションをとる大切な時間だ。

「歯が悪いから食べやすい肉がいい」と言うお客様に、「小さく切りましょうか」と提案したり、「これってどれくらい辛い?」と聞かれたら、「辛さ控えめもできますよ」と説明したり。

 

注文とは個別対応するための入り口で、高級路線ならとくに大切にすべきポイントだ。

というわけで、iPad注文をはじめとしたサービスのデジタル化は、お客様の要望を汲み取るチャンスをドブに捨てるようなものじゃないだろうか。

 

「働いている人の負担を減らしてサービスの質を上げる」のであれば、一番手っ取り早い方法は「頭数をそろえる」ことだ。

人数がいっぱいいれば必然的にひとりひとりの負担は減るわけで、「人数を少なくしたうえでひとりあたりの負担を軽くする」のは、接客業ではかなり無理ゲーだと思う。

 

「デジタル化で接客する機会・時間自体を減らす」のであれば可能だろうけど、それって「サービスの質を上げる」ことになるんだろうか……。

 

タッチパネル注文で「割高」な印象になった寿司屋

注目度が高い宮迫氏の焼肉店を例にあげたが、実はこれ、実際に経験して思ったことなのだ。

 

家の近所に、小さいころからよく行っていたお寿司屋さんがある。

回転寿司ながらもネタの質がよく、平日の夜ですら待ちが出るほどの人気店。

カウンター内の板前さんに直接注文する昔ながらのお店で、「ちょっと贅沢」ができるところ。

 

が、数年前、帰省中に久しぶりに行ってみたら、まるで別の店かと思うほど様変わりしていた。

ずらりと並んでいたカウンター席が、ついたてで仕切られたテーブル席になっており、各テーブルにはタッチパネルが置かれている。

板前さんは無言で寿司を握っていて、時折客が店員を呼ぶ「ピンポーン」という音が響くだけ。

 

昔だったら、お父さんが板前さんに新鮮なネタを聞いて「じゃあそれで」と注文したり、どっちにしようか迷っているわたしに「同じ値段なんで1貫ずつ握ってひと皿にしますよ」と言ってくれたりしたのになぁ。

そういうやり取りを含めて好きだったお店だから、かなりがっかりしてしまった。

 

いやまぁ、席は広々してるし、清潔感はあるし、ネタの質はいいから、そこらへんの回転寿司店より「高級感」はあるけどさ。

でもサービスが効率化されたぶん、「割高」って印象になっちゃったんだよね。

それならもう、もっと安いくら寿司とかスシローでいいんじゃない?って感じ。十分おいしいし。

 

とまぁこういう経験があったから、「高級感」と「サービスの効率化」は、相性が最悪だと思った次第だ。

 

サービス効率化が効くのは高級路線じゃないから

もちろん、サービスの効率化が悪いというわけではない。

むしろ、ユニクロのように「よくなった」と思うこともある。

 

前回の一時帰国でユニクロに行ったら、レジがめちゃくちゃハイテクな自動会計になっていた。

商品を入れたカゴを台に置くだけでコンピュータが読み取り、パッと商品名が出てくる。

タッチパネルで支払い方法を選び、ポイントカードをかざし、3分もあれば会計が終わる。

 

会計後、自分でハンガーを外して服を畳む手間はあるけど、どうせだいたいの服は着る前に洗うから適当に突っ込めばいいし、待たなくていいのはやっぱり楽。

ユニクロって、いつもレジがすごく混んでるからね……。

 

混雑時、ユニクロのレジは会計する人と袋に入れる人の2人組で動いていたから、この会計システムでかなり仕事量が減ったのではないかと思う。

それによって商品の値段を抑えられるのであれば、客のわたしとしては大歓迎。

なにか聞きたくとも店員さん全然見当たらないけど、まぁ別に気にしない。

 

でもそれはあくまで、ユニクロが高級路線じゃないからこその感想だ。

これが銀座のセレクトショップであれば、またちがう印象だっただろう。

だって高級店なら、会計まで丁寧にサービスしてもらいたいもの。店員さん探して歩き回るなんてしたくないもの。

 

「サービスの効率化」と「高級感」の相性は最悪

宮迫氏の高級路線の焼肉店が、どれほどの「高級」を指すかはわからない。

少なくともわたしは、高級路線の焼肉店といわれたら、「テーブル会計」「お願いすれば店員さんが焼いてくれる」「お肉の産地や部位の説明をしてくれる」くらいは当たり前だと思って行く。

 

で、そういう「高級路線の店に期待されるサービス」って、手間暇がかかるんだよ。確実に。

だって、他人が時間と労力を自分のために使ってくれるからこそ、気持ちよくなれるんだから。

それを期待できないなら、わざわざ高いお店に行かずに牛角に行くよね。

 

日々進化するAIのおかげで、接客の大部分でデジタル化が可能になった。

その結果、今後は「いいモノを売る」お店が、サービスを効率化してできるだけ安く売るコスパ路線と、徹底的にサービスして高く売る高級路線とで、より顕著に分かれていくのだと思う。

 

とくに人口減少で労働力不足が加速するであろう今後、「丁寧なサービス」の価値はさらに上がっていくだろう。

尽くしてもらう体験はより貴重になり、よそとはちがう「高級感」につながるのだ。

 

そしてそれには当然、サービスを提供する人の頭数が必要になる。

だからこそ、宮迫氏の焼肉店の戦略である「デジタル化で人数を減らし」「サービスの質を上げ」たことによってつくられる「高級感」というのが、どうにもうまく想像できない。

 

「サービスの効率化」と「高級感」の相性は最悪だというのがわたしの持論だが、それをひっくり返してくれるのだろうか。

そうであれば、コスパ路線と高級路線のあいだに、「コスパのいい高級路線」というみんなハッピーな戦略が可能だということだ。それはぜひ見てみたい。

3月末にオープンということなので、気長に続報を待つとしよう。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

ブログ:『雨宮の迷走ニュース』

Twitter:amamiya9901

Photo by Thomas Marban