kindle unlimitedの対象になっていたので、前々から気になっていた『プロセスエコノミー』という本を手に取ってみた。

プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる (幻冬舎単行本)

プロセスエコノミー あなたの物語が価値になる (幻冬舎単行本)

  • 尾原和啓
  • 幻冬舎
  • 価格¥1,485(2025/06/05 19:35時点)
  • 発売日2021/07/28
  • 商品ランキング10,244位

表紙にデカデカと「Amazonの総合ランキング第1位」と書いてあるだけあって、かなり話題になっている本書。

「読み放題対象になってる、ラッキー!」とダウンロードし、期待しながらページをめくったわけだが……。

 

正直なところ、わたしはあまり賛同できなかった。

「プロセスエコノミー」って結局のところ、「インフルエンサービジネス」の言い換えだよね?

 

プロセスを公開するのは典型的なファンサービス

そもそも、「プロセスエコノミー」とはなにか。

本書ではこのように定義されている。

もはや完成形で差をつけるのってしんどい。そんなことを感じたことはありませんか?
このような人もモノも埋もれる時代の新しい稼ぎ方が、プロセス自体を売る「プロセスエコノミー」です。
なぜならプロセスはコピーできないからです。(……)

商売というのは人知れず努力し納得できる状態になってから人前に出すものだ、という価値観の人も多いと思います。
しかしながら今後多くの業態において、プロセス自体に課金をしてもらうことや、プロセスを共有することによって、初期のファンを作ったり、熱のあるコミュニティを拡大したりすることが求められてきます。

モノがあふれる現在、「コピーできないプロセスを売ることで差別化する」ことが求められており、それを「プロセスエコノミー」と呼ぶのだという。

 

ふむふむ、なるほど。

たしかに、「まわりを巻き込む系ビジネス」はよく話題になるものね。SNSを使えばプロセスの共有も楽チンだし。

 

そして『プロセスエコノミー』の筆者は、こうも書いている。

「プロセスエコノミー」という本書のコンセプトも、語り下ろしや打ち合わせの様子も、私のオンラインサロンでフルオープンにしました。

本を執筆・編集するプロセスは密室で進めるのが常識ですが、目次をどうするかといった初期段階の打ち合わせまで含めて、包み隠さずオープンにしています。

あれ? でもこれって、ただのファンサービスじゃない……?

 

もともと「私のオンラインサロン」に入ってくれるような人なんだもの、サロンオーナーが「出版する」といえば、当然そのプロセスにも注目するよね。

ファンを集めた場でプロセスに価値が生まれるのは当然で、それをもって「プロセスを売る」と表現するのは、ちょっと順番がちがうんじゃないかと思う。

 

だってプロセスを公開しなくとも、そのファンたちは本を買ったはずだから。

 

また、プロセスエコノミーの提唱者であるけんすうさんは、例としてキングコングの西野さんを紹介している。

西野さんのサロンは7万人以上がおり、1000円を払っています。となると、年間で8億円、西野さんはクリエーターとしての活動に使えるわけになります。8億円というと、西野さんが所属している吉本興業の当期純利益以上です。

そうすると、土地を買って美術館を建てよう、とか、5000万円を使って、MVを作ろう、などの、今まで個人ではできなかった規模のチャレンジができるようになるということです。

プロセスが応援されるには、チャレンジングなことをしたり、大きな目標に向かうほうがいいわけなので、生活のために無難なことをするよりも、見たことがないクリエイティブなことをしよう、みたいなモチベーションになるので、おもしろい作品が生まれる可能性があるかなと思っています。
出典:『「プロセス・エコノミー」が来そうな予感です|けんすう (kensuu.com)

すでに7万人ものファンを囲いこんでいるインフルエンサーは、果たして「プロセスで差別化している」のだろうか。

プロセスがどうであろうと、その人が「人気者」であることは変わりないんじゃないか?

 

結果を出したから「こんまりメソッド」が注目された

本書内では、片付けで一躍時の人となったこんまりさんを、「生き方はまさにプロセスエコノミーそのもの」と評している。

理由は、「ベストセラーを出版したいと思っていたわけでも、アメリカを拠点に活動したいと願っていたわけでも」ないのに「ただ片付けという行為自体に夢中になり、誰よりも楽しんでいただけ」で成功したからだと。

 

うーん? そうかなぁ?

「プロセスエコノミー」というのは、「コピーできないプロセスを売ることで差別化する」という定義だったはずじゃないか。

 

こんまりさんは片付けが好きで友人の家を片づけ、その手腕が口コミで広がり、片付けコンサルタントとして有名になっていった。

彼女の片付けメソッドに共感した人たちが彼女を応援して押し上げた……というより、片付けで結果を出したから彼女のバックグラウンドや理念に注目が集まった、というほうが正確だろう。

 

プロセスを公開する前から彼女はすでに唯一無二の存在で、多くのファンを獲得していたのだ。

こんまりさんは「こんまりメソッド」なるものでプロセスをアピールせずとも、十分に成功していたはずである。

 

だからわたしは、こんまりさんの現在の活動は「プロセスを売った結果」ではなく、「結果を出した人が、さらなる飛躍のためにプロセスを開示してファンを増やした」と思っている。

 

それって、「プロセスで差別化」と呼んでいいの?

 

プロセスが注目されるのは結果を出したあと

ファンを増やして応援してもらうのは、ビジネスにおいてとても大事なことだ。

「プロセスで差別化」という主張自体を否定するつもりは一切ない。

ただ、プロセスに注目されるのは結果を出したからであって、結果を出すためにプロセスに価値を付与するのって順番がちがうんじゃないかなぁ、と思う。

 

ほら、スティーブ・ジョブズだって、めちゃくちゃ偏屈で関わりづらい人だったって言われてたじゃない?

でも結果を出したから、そのこだわりが「ストーリー」として受け入れられたわけで。

彼がたとえ毎日ちがうおしゃれな服を着た、物腰の柔らかい人だったとしても、成功していたはずだよね。

 

結局、プロセスが注目されるのは成功したあとなんだよ。

で、成功してしまえば、プロセス自体がどうであっても持ち上げられるわけ。

 

そもそも、それぞれストーリーがあるのなんて当たり前なのだ。

脱サラしてラーメン屋とか、高校中退してアイドルの道へ、とかよく聞くでしょう?

本人は人生をかけた大勝負でも、他人からしたら「ふーん」くらいなもの。

「じゃあ応援してやるぜ!」なんてならないよね。別にさ。

 

それらが美談として語られるのは、おいしいラーメン店として雑誌で取り上げられたり、デビュー曲がレコ大とったりしたあとのこと。

で、その段階までくれば、たとえば脱サラ店主じゃなくて元フランス料理店のシェフだったとしても、高校中退じゃなくて偏差値70の高校に行きながらアイドル業をやり遂げたとしても、ファンはファンのまま。

プロセスがどうであれ、結果は変わらない。

 

もう一度いうけど、プロセスに注目されるのは結果を出したあとであって、結果を出してしまえばどんなプロセスであろうとある程度許容されるものなんだよ。

だから、「プロセスで差別化」は後付けなんじゃないかな、と思う。

テレビ局のアイドルオーディションみたいに、プロセスを本格的にエンタメ化できるならまた別だけどね。

 

一般人のクラウドファンディングにいくら集まるのか?

けんすうさんはnoteで、こうも書いている。

まだ売れていない新人作家さんとかが、「作品を販売しても食べていけないけど、プロセスも一緒に売ることで、支援されて、なんとかバイトをせずに暮らせる」みたいなのは可能かもしれないな、と。
出典:『「プロセス・エコノミー」が来そうな予感です|けんすう (kensuu.com)

わたし自身もこつこつブログを更新した結果いまがあるから、こういう側面はたしかにあると思う。夢のある話だ。

 

でも実際、クラウドファンディングを見てみてほしい。

夢を語るそこらへんの一般ピーポーが、いったいいくら集められているのかを。

 

そりゃね、目立つのは成功した人たちだよ。

「ぼくの夢に共鳴してくれたファンのおかげで達成できました」ってストーリーは、確実に「映える」から。

 

そうやって成功する人がいるのも事実。

でもたいていの人間は、達成できない。身内の投げ銭くらいで、身銭を切って支えてくれるファンなんてなかなか現れない。

 

もともとある程度活動していたとか、一定の注目度があるとか、インフルエンサーに拡散してもらうとか、なにかのきっかけでバズるとか、そういう前提条件がないとだいぶきつい。

それが、現実なんだ。

 

要は、「見ず知らずの無名の人を取り上げた情熱大陸を見たいか?」という話である。

情熱大陸が成り立つのは、フォーカスされる人が一流で、注目するのに値する人だとみんな知ってるからだ。

そうじゃなきゃだれも見ないよ。興味ないもん。

 

プロセスに価値があれば結果がついてくるわけじゃない

結果を出したから、もしくは結果を出す算段がついているから、「次はなにをするんだろう」「どうやって達成するんだろう」とプロセスに注目してもらえる。

 

「プロセス」に価値があれば「結果」がついてくるってわけじゃないのだ。

それは、「努力は必ず報われる」っていう主張と同じだよね。でもそんなことないし。

 

そもそも、「プロセスエコノミー」はいかにもトレンドチックな言葉だけど、よく考えればパトロンを見つけて支援してもらうこと自体、ずーっと昔から行われてきたことなわけで。

 

それを「プロセスエコノミー」という言葉で飾ってしまうと、「結果を出す前にファンを獲得してカネを出してもらおう」と甘い見通しを持ってしまう人がいる。

実力も経験もないのに崇高な理想だけを掲げ、「ファンが集まればペイできる」という皮算用をしてしまうのだ。

 

でもそれは、ちょっと順番がちがうよね。

結果を出してファンを獲得してから、プロセスでいかにファンたちを熱狂させられるか、いかに新たなパトロンを見つけられるかって話をすべきであって。

 

まず「結果を出します」っていうのが大事なのだ。

経営者が資金集めするときだって、「成功します」とビジョンをきっちり提示して投資をお願いするものだし。

 

プロセスはあくまで「結果を出したあとの付加価値」であって、やっぱり大事なのは作品自体のクオリティだよね、というのが、『プロセスエコノミー』を読んだわたしの感想である。

 

 

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・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
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日時:
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(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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Photo by Jon Tyson