2021年を象徴する2つの“空(くう)”「スペース」と「メタバース」

コロナ禍が色濃く残った2021年、実社会の閉塞感を打ち破る号砲の如く表舞台に躍り出た2つの“空(くう)”があります。

宇宙空間(Space)と仮想空間(Metaverse)です。

 

宇宙空間については、イーロン・マスク率いるスペースXが民間人だけでは世界初となる地球の軌道周回を成功させたのを皮切りに、ヴァージン・グループ創業者リチャード・ブランソンやアマゾン創業者のジェフ・ベゾスらが、自らの宇宙開発会社のロケットで宇宙へと飛び立ちました。

彼らによる宇宙からのライブ配信に釘付けとなった方もいらっしゃるでしょう。

 

そのような最中、彼らとは異なるヴィジョンを示したもう一人のビリオネアがいました。

フェイスブックの創業者、マーク・ザッカーバーグです。

 

彼が初めて公の場で「メタバース」構想に言及したのは、2021年7月下旬のことです。

8月には、傘下のオキュラス(ヘッドマウントディスプレイなどのハードおよびソフトウェアブランド)から新VRプラットフォーム「Horizon Workrooms」を20か国で一斉リリース。

そして迎えた10月下旬に発表されたのが、新社名「メタ・テクノロジーズ(以下、メタ)」でした。

「メタバース」という言葉は瞬く間に地球を駆け巡り、にわかに関連株が買われる騒動となりました。

 

今回の社名変更には、昨今のフェイクニュースの拡散やユーザの心の健康を軽視する内部告発などの影響を受けた、同社の評判を刷新したい思惑が見え隠れします。

ただし、「メタバース」をそれだけだと決めつけるのは時期尚早です。

現に、マイクロソフトはメタよりも先行して、3月にTeamsと連動したメタバースプラットフォーム「Mesh」を発表しているほか、多くのテック企業がメタバースに注目し、新たな取り組みを始めつつあります。

 

では、なぜ「メタバース」がこれほど注目されるのでしょうか。そもそも「メタバース」とは何でしょうか。

 

そもそも「メタバース」とは何か?

メタバースとは、“meta(超越した)”と“universe(世界)”を合成したSF小説由来の造語で、改めて定義するならば、人が疑似的に中へ入って“活動する”ことを前提として、サイバー上に作り出した三次元の仮想空間を指します

“一時停止する”あるいは“電源をオフにする”、という感覚はなく、いつでもそこに存在し、ユーザがアバターと呼ばれる分身になり替わって仮想空間へ入り込み、現実世界と同じく、身体活動を伴うコミュニケーションから経済活動まで幅広く行うことを志向しています。

その没入感と、同時多数が空間を共有する一体感が特徴です。

 

メタバースの産業構造

(出典)筆者作成

 

では上記の図を参照しながら、産業構造を整理して理解を深めてみましょう。

メタバースは比較的新しい概念とは言え、インターネットビジネスで馴染みのあるレイヤー構造の最上位レイヤー、つまり、コンシューマー/エンタープライズのユーザが直接触れるアプリケーションなどが「超現実」になったものです。

 

具体的なイメージを挙げるとすれば、2018年のスピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー1』で描かれたヴァーチャルの世界で人生を生きる仮想空間「OASIS」です。

「OASIS」は、日常的に人々が過ごすメタ空間です。つまり、メタバースの進化した姿だといえます。

 

我々の現実の世界に目を向ければ、世界的アーティストのライブ配信に1000万人超が同時接続したオンラインゲーム『フォートナイト』や、コロナ禍で人々が熱中した『あつまれ どうぶつの森』の中に、メタバースの萌芽が見られます。

 

一方、下位のレイヤーをみてみましょう。

ネットワークインフラ、デバイス、XRプラットフォーム、決済/広告/IP、マーケットプレイスなど、レイヤー自体にそれほど大きな驚きはないものの、これらにメタ、マイクロソフトの既存ビジネスをマッピングすると、垂直統合を志向するテックジャイアント2社の優位性が浮かび上がってきます。

 

では、新興企業をはじめ、これからメタバースへ参入する企業にチャンスは無いのでしょうか。

下位から上位まですべてのレイヤーを網羅できなければ勝ち目はないのでしょうか。

 

メタバースの市場形成期におこる正のフィードバックループ

インターネット黎明期に先行者利益を得たプラットフォーマーを思い出してください。

彼らはECや動画メディア、ソーシャルネットワークなど直接ユーザ接点を持つ上位レイヤーでユーザをグリップすることで、下位レイヤーへの影響力を高めていきました。

その後のネットフリックスの台頭などをみても、ボトムアップの垂直統合が必ずしも独占的な勝者になるとは限りません。

(出典)筆者作成

 

メタバース市場においても同様に、新たな参入者の登場で市場が活性化すると、下位レイヤーへの投資が加速し、新たな技術・ビジネスモデルが生まれ、さらに市場が拡大する、という正のフィードバックループが回り始めると考えられます。

そして、市場の拡大は、各レイヤーでXaaS(X as a Service;クラウド環境でソフトウェアなどを提供するサービスの総称)として水平方向のビジネスを志向するプレイヤーをさらに活性化することになるでしょう。

 

参考.メタバースの応用例:フィットネス領域のメタバースを標榜するZWIF

 

では、実際にメタバースを利用する企業にはどのようなメリットがあるのでしょうか。

(次回に続く)

 

(執筆:八尾 麻理)

 

 

【安達が東京都主催のイベントに登壇します】

ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。


ウェビナーバナー

▶ お申し込みはこちら(東京都サイト)


こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい

<2025年7月14日実施予定>

投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは

借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。

【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである

2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる

3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう

【登壇者紹介】

安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00

参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。


お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください

(2025/6/2更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

グロービス経営大学院

日本で最も選ばれているビジネススクール、グロービス経営大学院(MBA)。

ヒト・モノ・カネをはじめ、テクノベートや経営・マネジメントなど、グロービスの現役・実務家教員がグロービス知見録に執筆したコンテンツを中心にお届けします。

グロービス知見録

Photo by Dima Solomin