突然ですが、皆さんは今現在英語を学ばれていますか?

日本でTOEICを運営・実施している国際ビジネスコミュニケーション協会の2019年度の調査では※1、企業・団体に所属する約4割のビジネスパーソンが英語を普段学習しており、グローバル化が進む中で英語の運用能力はビジネスの現場においてますます重要となっています。

ただ今の世の中には英語の学習法は数多くあり、結局何をどのように学んだら良いのか思い悩んでしまう方は少なくないのではないでしょうか?

 

「正しい」学習法とは

そうした中で、日本国内では、気合と根性で学習量をただひたすらこなせば良いとの「精神論」、または特定の誰かの学習法をそっくりそのまま真似れば良いとの「経験則」の2つが「正しい」学習法としてなぜかよくありがちです。

しかし、よくよく考えてみると、これらの学習法はそもそも「正しい」と言えるのでしょうか?

 

例えば、勉強ではなく、仕事での場面・状況を試しに思い浮かべて下さい。早朝から深夜まで残業が多い、あるいはごく一部の人間からそれも経験的にしか働き方を身に着けない場合、その仕事は結果的に効率が良かったり成果が上がったりしそうでしょうか?

 

もし本当の意味での効率と成果を期待するのであれば、仕事と同様に学習にも、量ではなく質を、主観性ではなく客観性を求めるべきです。

では質が高く客観性があるという意味で「正しい」学習法とはどんなものでしょうか。

 

「応用言語学」「第二言語習得理論」という科学的なアプローチ

そこで、皆さんにはこの機会に英語を「科学的に」学ぶことをぜひオススメします。英語の理論・学説には諸説ありますが、英語学習を最も「科学的に」研究している学問分野は応用言語学の中にある「第二言語習得理論(Second Language Acquisition)」だと言えます。

 

まず応用言語学とは、言語学の中でも、人間がどのように言語を学んだり使ったりするかを研究する学問分野です。

その応用言語学の一分野である第二言語習得理論では、言語学・心理学・認知科学等の学際的な研究成果を基に、効率的で成果が期待される外国語学習の方法を解明しようとしています。

 

かく言う私も大学院で第二言語習得理論を専攻しましたが、この学問分野にはもう既に半世紀以上の伝統・歴史がある中で、あらゆる外国語学習に共通するメカニズムやプロセスなどに関する多くの科学的なファクトが判明し始めています。

 

その意味では、「第二言語習得理論」に基づく学習法こそ、エビデンスベースド(客観的な事実・データに基づく)によって質や客観性が担保された「科学的」な学習法であり、日本の英語学習者にとっても重要な意味があるのではないでしょうか。

 

地道な努力を実らせるために

残念ながら、英語学習には楽な近道はありません。毎日のコツコツと地道な努力がどうしても必要です。

しかし、どうせ英語を真剣に学ぶなら、正しくない学習法で無駄な時間とお金を浪費するよりは、「正しい」学習法であなたの希少な資源を有効に投資しながら英語の習得を目指すのはいかがでしょうか?

 

英語学習に影響を与える3つの要因

またいきなりの質問ですが、皆さんは英語学習には何が重要だと思うでしょうか。

第二言語習得理論の研究者であるケース・ウェスタン・リザーブ大学の白井恭弘教授はこの問題に対し、「学習開始年齢」、「動機付け」及び「適性」の3つが主に影響すると自著の中で説いています※2。

 

まず「学習開始年齢」は、低ければ低い方が英語学習において高い成果が出やすいとされています。

この記事を読まれている方に多いであろう社会人の方からすると、今更いかんともし難いと思われるかもしれません。

いつ学びを始めても無駄ではありませんが、どうせ学ぶのであればまさに「いつやるか?今でしょ!」です。

 

次に、強い「動機付け」の下で英語学習を長く継続的に行うことです

必ずしも英語を好きになる必要はありません。実利的な動機でも十分です。

動機の内容を問わず、自分なりの目的・目標をきちんと設定した上で、それに向けて習慣的に絶えず学び続けることが重要です。英語学習におけるモチベーションの自己管理は仕事のそれと全く同じ原理原則です。

 

最後に、実は語学には「適性」があり、「適性」を測るテストも複数存在しています。

例えば代表格としてアメリカの国務省が開発・運用するMLAT(Modern Language Aptitude Test)では、「音に対する敏感さ」、「文法に対する敏感さ」、「意味と言語形式との関連パターンを見つけ出す能力」及び「丸暗記する能力」の4つの能力がそれぞれ測定されています※3。

言い換えれば、「適性」とはこれらの能力値の合計値を意味しており、いわゆる語学の向き・不向きは幸か不幸か先天的な要素が多いと言えます。

 

とは言え、不向きだからと決して諦める必要はありません。だからこそ、その分の後天的な要素を補える方法をしっかりと身に付ければ良いに過ぎません。

 

効率的な英語学習のための3つのポイント

これまた前置きが長くなりましたが、そろそろ今回の本題である、質が高く客観性があり、科学的という意味で「正しい」英語学習方法のキーポイントをお伝えします。

 

1.基本から順番を守り学ぶ

第一に、学習の順番です。

英語を話せるようになりたい・書けるようになりたいと思うあなた、スピーキング・ライティングばかりひたすら毎日練習していませんか?その気持ちはよくわかりますが、英語学習においてはホップ・ステップ・ジャンプの3つの学習ステップを順に踏むことが重要です。

すなわち、ホップとは単語・文法等の基礎知識、ステップとはリーディング・リスニング等の受容スキル(インプット)、そしてスピーキング・ライティング等の産出スキル(アウトプット)です。

 

日本国内では受験英語の弊害からか、単語・文法はとかく軽視されがちです。

しかし実際には、インプットにしてもアウトプットにしても単語と文法はいわゆる英語4技能(書く、読む、聞く、話す)全ての基本中の基本となります。

単語・文法→リーディング・リスニング→スピーキング・ライティングの順番通り、一歩ずつ着実に学びましょう!

 

2.適切なインプットとアウトプットのバランスを保つ

加えて、第二に、学習のバランスです。具体的には、先述の白井教授が同著にて提唱していますが、「大量のインプットと少量のアウトプット」が必要です。

まずはひたすら単語・文法・読む・聞くを学習のメインメニューとして学び、その合間に時折話す・書くをサブメニューにする、これがシンプルな鉄則です。

 

もしかすると一見直感に反するように感じるかもしれませんが、これまでの研究成果が端的に物語っているのは、アウトプット自体は知識を新しく習得するにはあまり役立たず、また残念ながらそもそもの言語能力の改善・向上にも繋がりにくいという驚くべき事実です。

 

ただし、アウトプットに決して意味がないのではなく、できることとできないこととの違いに気付く、あるいは自分の仮説(自分が正しいと考える言い方・書き方)を実践的に試す場としてはその価値があります。

アウトプットがうまくいかなかったことをそのまま放置せず、次に同様の場面・状況に出会った際にうまくいくにはどうすれば良いのかを常にイメージしながら、その都度学び直しインプットしましょう!

 

3.繰り返し学び、無意識に使える知識を目指す

その上で、第三に、学習の繰り返しです。

英語の知識には、「宣言的知識」「手続き的知識」の2つがあります。

 

「宣言的知識」とは、知識としては持っているものの、いざという時にすぐ使えない知識であり、「手続き的知識」とは、無意識の状態でも瞬発的に使える知識です。

子供の頃に自転車の乗り方を覚えた時を思い出してみて下さい。自転車の乗り方を理解しただけではなかなか乗れず、何度も何度も転倒しても繰り返し練習する中で、ようやく頭で考えずとも身体が自然に反応するようになった体験があるのではないでしょうか。

 

英語学習でも何度も反復を行うことにより初めて、「宣言的知識」が「手続き的知識」に転化する「自動化」と呼ばれる現象が生じます

反復学習の効用を念頭に、同じ教材・マテリアルを基に、何度も繰り返し学び続けましょう!

 

キーポイントを押さえ、英語を改めて学んでみよう

いかがでしたか?学んでもなかなか上達しないと感じている方は、これら3つのキーポイントをいずれも押さえた上で、英語をもう一度学習してみてください。

なお、第二言語習得理論についてもっと知りたい方は、この記事でも参照している『外国語学習の科学―第二言語習得論とは何か』をぜひ一読することをオススメします。皆さんの今後の英語学習が真に実のあるものとなることを心から応援しています!

 

<参考>

※1 国際ビジネスコミュニケーション協会「英語活用実態調査―企業・団体ビジネスパーソン2019

※2 白井恭弘著『外国語学習の科学: 第二言語習得論とは何か』岩波新書(2008年)p. 182

※3 同上 p. 54

 

(執筆:谷原 英利)

 

 

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