誰だってパワハラ、モラハラ、やる気搾取が横行するブラック企業では働きたくない。

かといって、おろしたてのシーツのように真っ白なホワイト企業を追い求めてばかりでは、理想と100%合致する職場などそう簡単には見つからない。

 

また、そもそもブラック企業と一口に言っても、救いようのない会社もあれば、同じ会社内でも部署によって黒さの濃淡が見られるところもある。

その逆に、ホワイト企業でもやはり白さのグラデーションが往々にして存在するものだし、元はホワイト企業だったものが、業績不振で突如黒く染まる場合もあるからややこしい。

 

では、われわれはブラック企業に入ってしまった場合、どう立ち回ればよいのか。

また、年齢やスキルなどで選択肢が限られる場合、どの程度まで妥協して比較的ブラックでない会社で手を打つべきなのか?

 

ここではブラック企業勤務歴十数年を経て脱出し、異国のホワイト過ぎる環境に戸惑いを覚えている筆者の経験をもとに、一人でも多くの方がより理想的な職場にたどり着けるためのアドバイスを試みる。

 

単純に白黒では割り切れない

筆者がかつて勤めていた出版社は、社員200人未満の中堅企業。

中にいる編集職の人間は、ほぼ全員が「自分はブラック企業で働いている」という自覚があったはずと断言できる、いろいろと香ばしい職場だった。

 

特に自分が所属していた編集局は、人呼んで「北朝鮮」。

局長はかつて親の葬式で田舎に帰っている部員に、「会議があるから今すぐ帰ってこい」と電話で言い放ったことで知られ、その一言で十分にブラック殿堂入りと言える。

 

ところが、そのような真っ黒待遇にあえいでいたのは雑誌や書籍の制作に携わる者だけで、管理部門にとっては毎日定時退社が当たり前。

なぜそうなるかというと、ありがちな話だがオーナー社長が経理出身で、管理部門にとにかく甘かったからだ。

 

背広組とは心が通うので大事にするが、私服出社の編集職は人間扱いする必要なし、といった趣きすらあり、当時は「アパルトヘイトかな?」と思ったものである。

 

つまり、この会社はブラック企業には違いないが、半分はそれなりに白い。

総じて見ればグレー企業となるわけで、実際に同業他社からは「いやいやおたくなんてまだマシですよ」としばしば言われていた。

 

そんなことでマウントを取り合っても無意味なのだが、出入り業者の若者に

「僕、入社して3カ月なんですけど、最初の給料日に社長から『お前、給料いるの?』と真顔で言われまして」

という話をされた時には、わが社などまだまだと感じたものである。

 

このことから言えるのは、企業体質が基本的に黒くても、その中に割と気楽な部署が存在することもあれば、その逆もまた十分ありえるということだ。

自身の経験から語ると、社風やトップの人間性に明らかに問題があっても、直属の上司がマトモならば、大変ながらもそれなりにやりがいを持てることもある。

 

また、全体的には黒いけれど、役職を持ってしまえば途端に楽になったり、与えられる権限で自己実現が可能となる会社もまた存在する。

 

とりあえず入社してこれは黒いと感じた時、即脱出もアリだが、冷静になって周囲を見渡してからでも遅くはない。

もし、自分のポストがどうしようもなくても、他に充実感を持って働けている部署があるなら、そこを狙って動くのも一つの手だ。

 

ただしそれは、部署異動の申し立てが通る、もしくは一時的に凌げば今いるところから移れる組織だったら、という大前提がつく(たいがいは通らないが)。

 

日本ではまだまだ転職が多いと履歴書が汚れるといった考え方があり、実際不利になるケースも多い。

かといってブラック企業で耐え忍んだ挙げ句、自分が壊れてしまっては元も子もない。

 

勤め先が隅から隅まで真っ黒なのか、それとも部分的なものなのかを判断し、前者はともかく後者の場合は、あらゆる可能性を想定して、自分にとってベストの判断を下すとよい。

 

辞めたはいいが転職先がさらに上をゆくブラック企業、などという悲惨な話もこれまた決して珍しくない。

比較的ホワイトな職場を探す努力は、もちろん大事。

だが、それ以上に求められるのは、そういった企業に必要とされる人材となることだ。

 

不満と戦いながら経験を積むべき時もある

より条件のいい新天地に移ろうと思うなら、経験や実績、スキルなどが選択肢を広げる。

 

むろん、いくら就職先をよりどりみどりで選べるほどの人材だったとしても、ピンポイントで選んだ会社が一見まともで中身は真っ黒といった可能性もゼロではない。

 

だが、選べる分だけハズレを回避しやすくなるのは確かだ。

そうすると、たとえ今いる職場に不満を感じていたとしても、それだけで「はい、ブラック確定」と言って去ればいいとは限らない。

 

例えば、大手企業だからと安心して入ってみたら、「会長に対する接し方」なる意味の分からないマニュアルを教え込まれ、

「この人、金正恩かなにかかしら」と思ったとしても、そこで緊急脱出を考えるのは早計だ。

おかしいのはその一点のみ、ということはないだろうが、働きやすさや待遇等、総合的に見た上でブラック判定を下す方がよい。

 

ちなみに筆者が敬愛する同業の先輩は、オーナー社長がかなり偏った思想の持ち主で、表向き同じ考えに染まらないとハブられる会社につい最近転職した。

先輩いわく、「同調するフリだけでいいのだから、ヤバい会社だけどブラックとまでは思わない」とのこと。

 

この辺は個人の捉え方次第だろうが、不満が我慢の効く範囲ならば、次のステップのために実績を積む場と割り切るのは十分アリだと筆者は考える。

完璧なホワイト企業を求めるあまり、延々と求人市場をさまよっていても、あなたの価値はいつまで経っても高まらないのだから。

 

ホワイトな環境に油断するなかれ

さて、ブラックかグレーか、それとも濁った白かはともかく、何かしら問題のある職場でも頑張って働き続け、転職でステップアップしたとしよう。

今まで日々不条理と戦っていたのが一転して、右を見ても左を見ても、マトモ、マトモ、マトモ。

 

あまりにも白すぎるホワイト企業、いやこれはもはや楽園か……!

と、思うほどに素晴らしい環境だったとしても、決して油断してはいけない。

 

プレッシャーのない環境は、人の成長を阻害する。

最初はホワイトな職場に感動していても、人間とは贅沢な生き物であり、やがては慣れる。

 

そうしてぬるま湯状態に長年ひたったのち、ある日突然勤め先が潰れてしまったら?

むろん、再び転職活動をすることになるわけだが、もはや厳しい職場に耐えられない、などという可能性は余裕である。

 

恵まれた職場環境を生涯の安楽椅子と勘違いせず、そこにいる間にこそ仕事で研鑽を積むべき。そうしてスキルを落とすことなく、万が一の時によい転職先を選べるようにするーーこれがホワイト企業に潜り込めた時の正しい振る舞いと言える。

 

筆者はかつて勤めたブラック企業で、ここに書けないくらい無茶な要求を連日上司に突きつけられ、心が折れかけたことが何度もある。

それに比べれば自分の今の職場は、控え目に言っても楽勝、というかなぜ給料がもらえるのか正直分からないほどだ。

 

だが、そんな甘い日々は、いつか必ず終わりがくる。

ある日突然冷たい世間に放り出されてもいいように、勉強にいそしんでいるとまでは言わないが、最悪の展開を頭に入れて動いている。

 

まとめると、転職先、もしくは新卒で入る会社がどこまで黒いかということは、ネットの口コミである程度は把握できる。

だが、配属先がブラックであったり、はたまた「事故上司」に当たる可能性などを含めれば、完璧な見分け方は存在しないと言っていい。

 

重要なのは、その黒さが自分にとって許容できる範囲内なのか、社内での立ち回りでなんとかなるレベルなのかを冷静に判断すること。

そして、不満や不条理があったとしても、それを乗り越えることで将来的にメリットが見込めるなら、踏みとどまる選択肢を排除しないことだ。

 

残念なことだが、黒い要素が皆無な職場など、そう多くあるものではない。

いつでも誰でも、ブラック企業にうっかり迷い込む可能性があると肝に銘じ、その時に冷静な判断ができるよう、心の準備をしておこう。

 

最後に、ブラック企業でこの瞬間も苦闘している人々に代わり、僭越ながら一言。

ブラック企業の経営者が皆、来世で虫けらに生まれ変わりますように。

 

 

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(2024/12/6更新)

 

 

 

【プロフィール】

御堂筋あかり

スポーツ新聞記者、出版社勤務を経て現在は中国にて編集・ライターおよび翻訳業を営む。趣味は中国の戦跡巡り。

Twitter :@kanom1949

Photo by Mitchell Luo