「だれにでもできる」「初めてでも簡単」のように、「初心者に優しい」を謳ったノウハウはどの分野にもたくさんある。

ヘアアレンジもそうだし、料理、フォトショ、プログラミング、キャンプ設営、ゲームの隠しダンジョン攻略、犬のしつけ……なんにでも、初心者向け解説は存在する。

 

いままでわたしは、そういった「初心者に優しい」というフレーズは、「やったことのない素人でも簡単にできる」という意味で理解していた。

でも本当に初心者に優しいのって、「まちがえずにできること」ではなく、「まちがえてもリカバリーできること」なのだと思う。

 

どんどん細くなっていく呪いのマフラー?

わたしは先日、初めて編み物に挑戦することにした。

さて、どの編み方でやろう。

 

「編み物 初心者 マフラー」で調べると、さまざまな動画が出てくる。

よくわからないので、再生数が多い動画をいくつか見てみて、一番丁寧に解説しているっぽいものを選んだ。かぎ針編みで、「初心者でもできる」そうだ。

 

よし、編んでいくぞ!

 

1段編んで折り返し、もう1段編んで折り返し……なんだ、結構かんたんにできるものだな。

そう思ったのもつかの間、とんでもないことに気が付く。

 

「あれ? なんかマフラー、細くなってない……?」

 

もともとマフラーは20センチくらいの幅になる予定だったのだが、折り返すたびに少しずつ編み目が減っていき、気付いたら12センチくらいの細いマフラーになっていた。長方形どころか、二等辺三角形に近いかたちだ。

 

おかしい。どこでどうまちがえたんだ……。

ド素人のわたしは、編み目を眺めても、どこでなにが起こってこうなったのかがさっぱりわからない。とりあえずまちがえたことだけはわかるけど……。

 

参考にしていた編み物の動画を見返してみると、「2つ目の裏山を拾う」らしいのだが、きっとその「2つ目」の数え方がまちがっていてちがう糸をひっかけた結果、編み目が減って細くなってしまったのだと思う。たぶん。

 

まぁ最初はこんなものだろう、もう一度やってみよう。

編み物の良いところは、糸をひっぱれば、すぐに最初からやり直せることだ。

 

「2つ目の裏山」なるものに気をつけつつ、もう一度始めから、さっきより少し手際よく編んでいく。今度こそは大丈夫!

「いや、やっぱり細くなってるやん……」

 

2度目のチャレンジでも、なぜかマフラーが細くなってしまう。もう一度ほどいて最初から、を何度か繰り返したが、それでもやっぱり細くなる。なに? この毛糸呪われてんの?

わたしは、毛糸でできた三角旗らしきものを完全に持て余してしまった。

 

初心者でもうまくいく編み方とそうでない編み方のちがい

さすがに限界を感じ、参考動画を変えて、まったくちがう編み方を試してみた。かぎ針編みで、これまた「初心者に優しい」編み方だそうだ。

 

ふむふむ、これをこうして……。

編める! 編めるぞォ!!

 

今回のやり方は、一番上の目?の上側の糸をすくって4本かかっている糸の一番端をひっかけて4本引き抜くという方法で、糸が4本かかっていなかったり、引き抜く本数が4本じゃなければ、その時点でおかしいと気付ける。

 

まちがっていたらちょっと糸を引っ張ってひとつ前に戻って、かぎ針を通して、もう一度糸を引っかけて、とやり直せる(素人なので表現がまちがっていたらすみません)。

 

すべてほどいて最初からやり直さなくとも、まちがいにすぐに気付いてリカバリーできるので、致命的なミスを見逃すことなく編み直せる。

おかげで、イチからやり直しをせずに、そのまま完成することができた。

 

改めて考えると、最初のやり方と今回のやり方は、難易度的にはそこまで変わらないと思う。やることはどっちも、決められた糸をひっかけて、糸を針にまいて、針を抜いて……だし。

 

ただわたしとしては、「まちがいに気付ける」「まちがったらリカバリーできる」という点で、2つ目のやり方のほうがとても快適だった。

 

「初心者に優しい」と言われると、「まちがえずにだれでもできる」だと思いがちだが、「まちがえてもどうにかなる」ほうがよっぽど大事なのだ。

どんなにかんたんな作業でも、どんなに丁寧に説明されても、初心者はどうせまちがえるから……。

 

「うまくいかなかったらこうしましょう」というガイドが必須

そういえば少し前に作ったパンでも、同じようなことが起こったなぁと思い出した。

「初心者でも簡単なハイジパン」を作ったのだが、期待していたようなふっくら白パンにならず、がっかりしたことがあったのだ。

 

分量通りに小麦粉やらイーストやらを入れ、動画と同じように生地を30分こねたのだが、「伸ばして薄い膜が張ればOKです」の状態にならない。

生地を伸ばすと破れてしまうので、こね足りないのだろう。いわゆる、生地がつながっていない状態だ。

 

初心者は下手だからこねるのに時間がかかるんだろうなぁ~とこね続けるが、小一時間経っても膜が張らない。

ずっとこねてたら、手の温度で生地が悪くなったりしない? これだけやってるんだもの、膜は張ってないけどもう十分だったりする? 逆にこねすぎてるとか?

 

いろいろと思案したが、「疲れたしもういっか!」と妥協してオーブンにイン。結果、味はおいしいけどあんまりふっくらしていないハイジパンが完成。

 

その反省を活かし、「こねるのが苦手な人は、叩きつけて伸ばして、を10回やるだけで大丈夫」というレシピ動画を見つけてリベンジ。

 

しかもそのレシピ、「べたついたらたくさん打ち粉して大丈夫ですからね~」「8等分するときもね、とりあえずざっくり分けて、あとからちぎって大きさ均等にするくらいでいいですよ~」と、リカバリー方法も適宜教えてくれる。

 

実際に作ってみると、たしかに最初は生地がかなりべたべたしていて、手にくっつきまくっていた。

打ち粉を使いすぎると粉っぽくなっちゃう気がして使っていなかったのだが、動画どおりたっぷり打ち粉をしたら、びっくりするくらい作業がしやすくなった。

 

8等分するといっても、初心者はなかなか均等に分けられない。かといって、あまりいじくり回すときれいなパンにならない気がしてためらってしまう。

でも動画どおり大きそうな塊をちょっとちぎって小さいほうにくっつけたら、キレイに均等になった。

 

「こうやってこねてください」とか「8等分にします」とか、そんなかんたんな作業ですら初心者はうまくできない。

だから必要なのは、「失敗しないこと」じゃなくて、「うまくいかなかったらこうしましょうね」というガイドなのだ。

 

「この程度もわからない」のが初心者

これはきっと、どの分野でもわりと共通しているんじゃないかと思う。

 

たとえば「不器用でもできるかんたん編み込みヘア」とかね。全然できませんけど? 妙に髪の毛が余ったり、三つ編みが不格好になるんですけど?

 

それなのに動画では、解説したとおりにできていることを前提として、「はい、これで不器用さんでもかわいい編み込みヘアーができましたね!」と進んでいく。いや、できてないが?

 

初心者向けっていうなら、「髪の毛がうまくとれない人はこうしましょう」「三つ編みの太さが均等にならなければこうしましょう」といったリカバリー方法を教えてくれたほうがありがたいんだけどなぁ。

 

とはいえ、「丁寧に説明したから大丈夫だろう」と思ってしまう、教える側の気持ちもよくわかる。

「いやだって、見ればわかるじゃん。ちょっと考えればできるじゃん。ちゃんと教えたでしょ? そのとおりやるだけなのに、なんでできないの?」と。

 

うん、でも初心者は、見てもわからないし、考えてもできないし、教えられたとおりやったつもりだけどなんか失敗するからこそ「初心者」なんだよね……。

 

本当に初心者に優しいのは、リカバリーができること

「初心者向け」と聞くと、難易度が低い=まちがえない、と思いがちだ。

でも初心者なんて、どうせ失敗するのだ。

 

どんなに簡単な作業でもまちがえるし、しかもそれに気付かなかったりする。

先のことを考えてこうしておくとか、この程度でいいだろうと判断するとか、そういうことができない。

 

だから、最初からキレイにやり通すことを前提とするのではなく、後から手を加えてどうにかなるやり方のほうが、圧倒的に初心者に優しい。

 

だから「このとおりやればできる簡単な作業」だけでなく、「失敗してもリカバリーしやすい作業」という視点の初心者向けのコンテンツが増えてほしいなーと思う。

 

 

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【著者プロフィール】

名前:雨宮紫苑

91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&写真撮影もやってます。

ハロプロとアニメが好きだけど、オタクっぽい呟きをするとフォロワーが減るのが最近の悩みです。

著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)

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