つい最近、会社の若手の人から、「勉強会やセミナーの時、いい質問かどうかを気にしてしまって、質問自体なかなか出来ない」というような相談を受けました。
その時にしたやりとりがなかなか有益だったかも知れないと思いまして、内容をまとめてみたくなりました。
この記事で書きたいことは、大体以下のようなことです。
・勉強会やセミナーなどで「質問」をするのは、質問の内容によらず、とても大事だし重要なことです
・もちろん質問は「疑問点を解決する」為のものなんですが、周囲の人の理解を明確化する役にも立つし、話を掘り下げるトリガーにもなり得るし、リスナーの反応を確認する為の重要なポイントにもなります
・その為、場面にもよりますが、本来「いい質問をしよう」なんて考える必要はなく、「よくわかんなかった」「聞いてなかった」だけの内容でも、質問してもらえるだけで十分ありがたいです
・みんなもっと軽率に「質問」をしていくべきです
ただその上で、視点を広げるという意味での「いい質問」をしたいなら、「何が書いてあるか」ではなく「何を書いていないか」に注目した方がいいです
・その為のコツとして、「内容の前」と「内容の後」に着目して考えるという小技があるのでご紹介します
以上です。よろしくお願いします。
さて、書きたいことは最初に全部書いてしまったので、後はざっくばらんにいきましょう。
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しんざきはかなり軽率に勉強会を開く方で、社内でもちょくちょく技術的なセミナーや勉強会をやります。自分で主催して自分で喋ることもあれば、人を呼んできて喋ってもらうことも、人に呼ばれて喋りに行くこともあります。もちろん、単なる参加者として参加することも頻繁にあります。
「勉強会」とか「セミナー」っていうと大げさにとられてしまいがちなんですが、社内でやる勉強会なんて要は知ってることの共有会に過ぎないので、資料なんて使い回し、説明なんてアドリブでかまわないので、可能な限りコストを低くして気軽に開催していくべきだ、というスタンスです。
自分だと「こんなこと皆知ってるやろ」と思ってる知識、案外知られていないものですし、それを広めることによって有益なことが起きる場合もしばしばあるんですよね。
時間と手間が許す限り、じゃんじゃん勉強会をやっていくべきだと思います。
で、とある勉強会で話した後、最近よく参加してくれている若手の人に、こんなこと言われたんですよ。
「いい質問ってどうすれば出来るようになるでしょうか」
って。
いい質問かどうかなんて意識しなくていいんじゃないの、と最初は思ったんですが、細かく聞いてみると彼の悩みってもうちょっと色々あって、
・そもそも、話の内容を聞いているだけだと「質問」というものが思い浮かばない
・出てきた単語の意味を知らない、ということはちょくちょくあるけれど、さすがにそれは自分でも「それくらいぐぐれよ」となってしまって質問出来ない
・なんとなく理解がもやっとしている、という程度の疑問は浮かぶのだが、それを言葉にまとめるのは難易度が高く、ふわふわした状態で質問をするのは申し訳なくってハードルが高い
・本来質問というのは、話者の話を広げたり聴いている側の理解を深くする為にするものだと思う
・そういう「話が広がるような質問」が思い浮かぶようになりたいのだが、どうすればいいだろうか
なるほどなー、質問の意義をすごくちゃんと理解してる人だなあ、と感心したんですよ。
まず前提として、勉強会やセミナーのスピーカーの立場としては、「どんな些細な内容だろうと、質問タイムに何も出てこないよりは誰かが何かしゃべってくれた方が遥かにありがたい」です。多分これはどんなスピーカーでも同じことだと思います。
多くの勉強会において、私に限らず大抵の話者はエスパーではないので、聴いている側がどれくらい話に興味をもってくれているか、話を理解してくれているかなんてわかりゃしないんですよね。
どんなに精通している分野だろうと、本当に必要十分な話が出来ているのか、という見極めは非常に難しい。
もちろん参加している人の知識レベルやニーズだって人それぞれでしょうし、皆が「んなこた知ってるよ」と考えているのか、あるいは「難易度高すぎてさっぱり意味分からん」と思っているのか、大体の場合疑問だらけなんですよ。
本当、勉強会のスピーカーって「得物の素材が分からない状態でスイカ割りをしてる人」みたいなもんだと思うんです。
何も見えない中、自分の知識を少しでも伝える為に、必死にその辺の地面を叩き続けなくてはいけない。もしかすると、自分が持っている棒はトイレットペーパーの芯か何かで、スイカに当たったとしても割れるどころかヒビすら入らず、みんなが自分を見て笑っているのかも知れない。
それに対して、どんなしょーもない質問だろうが誰かが声を出してくれると、多少は「スイカの方向」や「叩いた時の手ごたえ」が伝わってくる。更に、誰かが出した声がトリガーになって、周囲が声を出し始めてくれることもあるし、自分にとっても「あ、これ話してなかった」という掘り下げのきっかけにもなる。
そういう意味で、「いくらふわふわしていようが、どんな些細な内容だろうが、質問はしてくれるだけでありがたい」んです。
とはいえ、もちろん「質問をすること」のハードルが高いということも理解出来ます。
「質問をする」って、要は「自分の理解度を周囲にさらけ出す」ってことでもあって、「こいつ何もわかってねえな」「そんなこと聞いてなかったのかよ」と周囲に思われるんじゃないか、という恐怖感って常に非常に高いんですよ。
これ、勉強会の形式が基本リモート開催になって以降、よりいっそう顕著になったと思うんです。参加のハードルは下がったものの、一方「質問のやり取り」をするハードルは非常に上がってしまった。
顔が見える対面でのことならまだしも、誰が聞いているのかも良くわからない中、うっかりしたことを言うと自分の評価が下がるんじゃないかって、若手の人ほど心配だと思います。
なので、自分の勉強会では可能な限り、「私はとても粗忽なので、色んなことを話し忘れます」「その為、ちょっと聞いてなかった、くらいの内容でもじゃんじゃん突っ込んでくれて構いません」「同じことを何度でも聞いてください」と言ってはいまして、及ばずながら質問のハードルを下げるよう努力してはおり、件の若手の人もそれが分かっていたからこそ冒頭のような相談をしてくれたと思うんですよね。
とはいえもちろんそう口にするだけでは十分じゃなくて、今後も「なんかようわからんかった」という程度の質問でも気軽に出来る会を開けるよう、一層精進しようと思う次第なわけです。
ここまでは前提です。
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で。
上記のような話をおいた上で、上記の「本来質問というのは、話者の話を広げたり聴いている側の理解を深くする為にするもの」ということは非常に慧眼であって、ただ「良くわからん」というよりは、もうちょっと話を掘り下げるような質問をしたい、と考えるのはもっともだと思います。
その希望に対して及ばずながら何か助言を、ということで私が言ったのは、
「資料に書かれている内容の「前」と「後」という方向性で考えてみたらどうでしょうか」
ということです。
例えば勉強会の資料に「Aという事象」について書いてあるとしたら、
・何故Aが発生したのか
・Aが発生する以前はどんな状況だったのか
・Aが発生するに至った経緯はどんなものだったのか
・Aが発生していなければ状況はどう推移していたか
等、つまり時間軸でいうbeforeに近いのが「前」で、
・Aが発生した後はどうなったのか
・Aが発生したことによる影響はどんなものか
・Aという事象にはどんな利用価値があるのか、Aを利用しようとしている人はいるか、その人たちはどう利用しようとしているのか
・Aは他の分野の人からはどう受け取られているか
等の、つまり時間軸でいうafterに近いのが「後」ですね。
もちろん話者が既に話している内容もあるかも知れませんが、「内容をもうちょっと掘り下げて質問を考えたい」というなら、まずは「前後」について注意してみて、話の内容、あるいは自分の理解から抜けている部分はないかなって思考をサーチしてみるのはどうでしょう、という話なんです。
当たり前のことですが、資料に書いてある内容って、大体は話者が良く分かっている内容だし、話者が「これは伝えないと」と既に考えていること、話者の注意が行き届いている分野なんですよ。
呪術廻戦的に言うと、勉強会の資料というのはスピーカーが展開した領域であって、その中で勝負してもスピーカーの知識を上回ることは出来ない。
「もし話を広げたいのであれば、話の中身だけに注目していても埒が明かない」、言い換えると「ただ聞いているだけでは聞いた内容までしか思考に浮かばない」のです。当然っちゃ当然ですよね。
冒頭の相談をしてくれた若手さんも、理解力や思考力は既に十分以上にあると思うんですが、ただ「聞いて、内容を理解する」ということに頑張って集中しようとしているが為に、その内容から踏み出したことはなかなか頭に浮かんでこない、という状態のように思えたのですね。
じゃあ、「話者の領域」から飛び出す為にはどうすればいいのか?
もちろん色んな方法があると思うんですが、私自身は、「幾つかテーマを決めておいて、そのテーマに沿って聞いた内容を検討する」ということをやっています。
これ、テーマ自体は正直なんでも良くって、ただ「資料の内容についてもう一歩深く踏み込んで考える時、具体的な方向性があった方がやりやすい」というだけの話なんですよ。
そんな中で使い勝手がいいというか、聞いた内容を検討して自分の中で深堀をする為の、ひとつの定番の方法が「前後の検討」だ、と。
重要なのは、「資料で説明する内容の外に出る」ということ、「その為に具体的な方向性を幾つか用意して、掘り下げの練習を行う」ということ。
決まった方向性で資料を検討する練習を詰めば、他にも色んな方向性で考えられるようになって、いわゆる「いい質問」も浮かびやすくなると思いますよと、まあそんな話をしまして、それ以降積極的に質問をしてくれるようにもなったので、まあそこそこマッチしたアドバイスが出来たかも知れないと考えているわけなんです。
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繰り返しになりますが、質問はしてもらえばしてもらえる程ありがたいのであって、その意味では「いい質問」かどうかなんて気にする必要はないし、些細な疑問でハードルを下げてもらえればそれだけでもありがたい。
ただ、「いい質問」をしたいという意志は貴重だし、いい質問をする為の思考訓練をすることで理解力を高めることも出来る。その為になにかしら定番のプロトコルを持っておくのは有用だ、と。
そういう話だったわけです。
今日書きたいことはそれくらいです。
「記憶に残る企業」になるには?“第一想起”を勝ち取るBtoBマーケ戦略を徹底解説!
BtoBにおいて、真に強いリストとは何か?情報資産の本質とは?
Books&Appsの立ち上げ・運用を通じて“記憶されるコンテンツ戦略”を築いてきたティネクトが、
自社のリアルな事例と戦略を3人のキーマン登壇で語ります。

こんな方におすすめ
・“記憶に残る”リスト運用や情報発信を実現したいマーケティング担当者
・リスト施策の限界を感じている事業責任者・営業マネージャー
・コンテンツ設計やナーチャリングに課題感を持っている方
<2025年5月21日実施予定>
DXも定着、生成AIも使える現在でもなぜBtoBリードの獲得は依然として難しいのか?
第一想起”される企業になるためのBtoBリスト戦略【内容】
第1部:「なぜ“良質なリスト”が必要なのか?」
登壇:倉増京平(ティネクト取締役 マーケティングディレクター)
・「第一想起」の重要性と記憶メカニズム
・リストの“量”と“質”がもたらす3つの誤解
・感情の記憶を蓄積するリスト設計
・情報資産としてのリストの定義と価値
第2部:「“第一想起”を実現するコンテンツと接点設計」
登壇:安達裕哉(Books&Apps編集長)
・Books&Apps立ち上げと読者獲得ストーリー
・SNS・ダイレクト重視のリスト形成手法
・記憶に残る記事の3条件(実体験/共感/独自視点)
・ナーチャリングと問い合わせの“見えない線”の可視化
第3部:「リストを“資産”として運用する日常業務」
登壇:楢原 一雅(リスト運用責任者)
・ティネクトにおけるリストの定義と分類
・配信頻度・中身の決め方と反応重視の運用スタイル
・「記憶に残る情報」を継続提供する工夫
【このセミナーだからこそ学べる5つのポイント】
・“第一想起”の仕組みと戦略が明確になる
・リスト運用の「本質」が言語化される
・リアルな成功事例に基づいた講義
・“思い出されない理由”に気づけるコンテンツ設計法
・施策を“仕組み”として回す具体的なヒントが得られる
日時:
2025/5/21(水) 16:00-17:30
参加費:無料 定員:200名
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
こちらウェビナーお申込みページをご覧ください
(2025/5/12更新)
【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
Photo:Felicia Buitenwerf