先日、NHKのサイトで小さなニュースを見かけました。
「お遍路」こと「四国八十八か所巡礼」は、四国四県を一周する世界でも珍しい「回遊型巡礼」で、江戸時代には弘法大師ゆかりの地を巡るレジャーとしても発展しました。
そのお遍路の値上げとは、八十八か所のお寺で納経帳 (注:お遍路専用の朱印帳だと思ってください) に記帳してもらう料金が300円から500円に値上がりするという意味です。八十八か所の合計では17600円なので、それなりの出費になります。
この値上げが2024年の4月以降なので、その前に、春のお遍路はいかがですか? という話を書きます。
春はお遍路に最適な季節
春はお遍路の美しい季節です。
寺院は桜の花びらでいっぱいになり、
梅、牡丹、木蓮なども咲き乱れ、
旅路は菜の花でいっぱいになります。
標高の高い寺院では、水墨画みたいな景色に出くわすこともあります。
もちろん夏~冬のお遍路にも良さがありますが、気候がやさしく、草花が美しく、雪や台風を避けやすいのは春なので、はじめてお遍路にトライするなら春が狙い目でしょう。
お遍路という非-日常へようこそ!
お遍路に何を求めるのかは人それぞれですが、私が求めるもののひとつに「リセット」があります。
四国八十八か所の道中にはお地蔵さま・お堂・石仏、お遍路さん向けの標識などが点在しています。
白衣(びゃくえ)を身にまとい、杖をついている歩きのお遍路さんにも数多く出会うでしょう。そうした非-日常の景色に溶け込み、八十八の寺院を訪れては般若心経を読み上げていると、だんだん浮世離れした気持ちになってきます。
ところどころ、こうしたお遍路さんの団体さんに出くわし、般若心経を唱和する声を聴いたりもします。
団体バス遍路や車遍路は、歩き遍路に比べてスタンプラリー的だ・観光客っぽいと揶揄されることもありますが、なかなかどうして、車で巡礼しても没入感は相当のものです。
そうした没入を助けてくれるのがお遍路用のアイテムです。金剛杖、納経帳、納札(おさめふだ)、ローソク、お線香。
これらはお参りの作法のためのアイテムですが、巡礼を実感する触媒として優れています。
白衣もおすすめです。最近は白衣を着ないお遍路さんも見かけますし、これもコスプレだと揶揄する人もいるでしょう。
でも私は、白衣にそでを通すと身が引き締まる思いがするので、仏教的な体験をしたい人だけでなく、体験型レジャーとしてお遍路を楽しみたい人にもおすすめしたいです。
そうして八十八の寺院を巡っているうちに、俗世の憂いをしばし忘れて、「リセット」が成就するのです。
この場合、四国が海に囲まれているのも好都合ですね。本州から車でお遍路に向かう時、私は瀬戸大橋や大鳴門橋が「俗世とお遍路の境界」のように感じます。四国に住んでいる人には馬鹿馬鹿しく思えるかもしれませんが、本州からお遍路に参る者にとって、本州四国連絡橋は絶妙な境目になっていて、まるでゲートみたいに感じられるんですよね。
それから、八十八の寺院には宿坊が併設されているところもあります。上の写真のように、早朝の勤行を経験できる宿坊もあるので、早起きに抵抗感のない人にはおすすめです。
せっかく四国に来て観光しないなんてとんでもない
お遍路は四国をぐるりと巡る1200㎞以上の旅になります。時間に余裕があるなら、徳島県の大歩危小歩危、高知県の四万十川上流、愛媛県の佐田岬などに寄り道もできるでしょう。せっかくですから四国四県を観光し、思いっきりグルメを楽しんで、四国でお金を使っていきませんか。
徳島県なら、大塚国際美術館に寄り道するのもアリですね。ここの展示品はすべてレプリカですが、展示の規模が桁違いで、圧巻は「実物大システィナ礼拝堂」です。
コロナ禍以後、ローマのシスティナ礼拝堂は金銭的にも時間的にも治安的にも行きづらくなりましたが、ここなら近いし安全だし、写真も撮れます。展示されているさまざまな時代の美術品のレプリカをとおして美術史を一望するのも楽しいです。
高知県は全県にわたって観光スポットが多すぎですが、まずは、アルコールの文化がただよう高知市を。
高知市の観光スポット、ひろめ市場。早い時間から飲み客で賑わっていて、なんやかんや言っても雰囲気あります。
何を食べても美味いですが、せっかくなら郷土料理を食べたいところ。マイゴ・チャンバラ・ウツボあたりは本州ではなかなか食べられないので、お遍路で高知市に入るたび、ひろめ市場でいただいています。
それから海。高知県のお遍路は海沿いのエリアが多く、太平洋が一望できます。とりわけ、徳島県から高知県に至る数十キロの海岸線は、遠くに霞んで見えた室戸岬がだんだん近づいてきて、車のお遍路でもインパクトがあります。
愛媛県は城下町のそれぞれの海の幸が楽しく、柑橘類にもよく出会います。
宇和島市、松山市、今治市などが、お遍路さんの投宿を待っています。愛媛県は東西に大きく、名物の鯛飯にもバリエーションがあり、あれこれ食べ比べるのも楽しい感じです。そのうえ、車遍路なら
少し欲張ってしまなみ海道でサイクリングを楽しむこともできます。松山市でお遍路を中断して本州に戻る前か、四国を再訪する時に寄り道するとルート的に効率が良いかもしれません。
そして香川県。
香川県といえば、平坦な讃岐平野、それから讃岐うどん。ところが讃岐うどんの写真が手許にありませんでした。ファーストフードとして訪れ、ファーストフードとして食べてしまっているからだと思います。
お遍路さんが白衣を着たままうどん店に入ると、みかんや漬物をつけてくれることがあります。巡礼者に親切に振舞う習慣を、四国では「お接待」と呼ぶそうですが、この習慣はまだ残っているようにみえます。
楽しい旅を、どうかご安全に。
日常のしがらみを「リセット」でき、グルメや観光も欲張れるお遍路の旅。春に四国を訪れて、お遍路さんとして巡礼すれば忘れられない思い出になると思います。
一度に八十八か所を回りきるのが難しい人は、徳島県の1番からスタートする場合は高知市か松山市で止め、香川県の88番からスタートする場合は宇和島市の手前で止めるか高知市で止めるのが良いと思われます。
その際、旅の日程にはゆとりや「あそび」を持っておきたいものです。
急ぎ過ぎると寺院のタンプラリーになってしまい、道中の景色を楽しむ心の余裕がなくなってしまいます。せっかく俗世を離れてお遍路をしているのに、俗世と同じようにセカセカしていてはお参りの雰囲気が台無しです。
そのうえで、道中にはくれぐれも気をつけてください。
四国四県の交通マナーは良い部類だと思いますし、スピード違反する車も少ないです。
その一方で、道中には細い道・険しい道が多く、落石・動物などに出くわすこともあります。江戸時代のお遍路より安全になったとはいえ、油断は禁物です。
四国八十八か所の寺院は午前7時~午後5時までがお参りして構わない時間となっていますが、歩きのお遍路はもちろん、車のお遍路でも午後3時には宿にチェックインするぐらいのスケジュール的余裕と用心深さがあったほうがいいと思います。
こうした点に気を付ければ、四国四県をテーマパーク的に楽しめるでしょう。テーマパーク、というとろくな褒め方ではないと思うかもしれませんが、気持ちを切り替え、非-日常の世界を体験するという点では、お遍路は最高の体験型レジャーになり得ますし、ハマるとクセになります。ストレスフルな日常をリセットして、海と山の美しさとグルメを楽しんでみませんか。
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【プロフィール】
著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)など。
twitter:@twit_shirokuma
ブログ:『シロクマの屑籠』