中小企業の人手不足は深刻だ。
日本商工会議所が中小企業を対象に行った調査によると、人手不足と回答した企業は約7割で、そのうちの6割以上の企業が「非常に深刻」または「深刻」と答えている。*1
深刻な人手不足によって、経営の「次の一歩」を踏み出せないでいる経営者も多いのではないだろうか。
しかし、慢性的な人手不足にあって、優秀な社員を新たに雇うのは難しい。
そうした経営者に提案したいことがある。
それは、「優秀な社員を雇うことに腐心するより、ChatGPTを使いこなせる人を起用せよ」だ。
そのカギは「HumanGPT」(筆者の造語)。
「HumanGPT」の実践によって「次の一歩」を踏み出した企業がある。
その取り組みを通じて、ChatGPTの活用が中小企業の経営に有用であることをご紹介したい。
京都のハム・ソーセージ屋さんの店長に
私は地方との関わりと実践をライフワークとしている。
とはいえ、ティネクトでの仕事が本業である。そんな私がまさかハム・ソーセージ屋さんの店長になろうとは思ってもいなかった。
発端は「中小企業デジタル応援隊事業」― 2020年9月から2022年2月末まで実施された、中小企業庁によるプロジェクトだ。
私はその「IT支援員」として、「農業法人京都特産ぽーく(以下、京都ぽーく)」というハム・ソーセージ屋さんとマッチングしていただき、同社の水森社長に出会った。
そして、同プロジェクトの取り組みとして、社長とECサイトの立ち上げ および 売上アップのためのディスカッションを何度か行った。
それで、このプロジェクトでの関わりは終了し、「京都ぽーく」とのお付き合いも終わった……はずだった。
ところが、その後、水森社長から個別にご連絡をいただいた。「今後もぜひサポートしてほしい」という、思いがけないご依頼だ。
そこで、当時、同社に在籍していた若手スタッフにマーケティング活動の基礎をレクチャーすることになった。
「京都ぽーく」はもともとBtoBが主力の会社だ。腕のいい職人集団で、思ったとおりの美味しい製品がつくれる、優れた加工技術が売りである。
しかし、コロナによってBtoBチャネル(飲食店など)が壊滅的な打撃を受け、このまま売上低迷が続けば会社の存続も危うい、という状況のなか起死回生の策としてBtoC つまり消費者への直接販売を伸ばす方針に舵を切ったのだった。
そんな背景から、若手スタッフにマーケティングの考え方と手法を覚えてもらい、WEB上でキャンペーンを企画するなどの実践をしているうちに、BtoCの売上が徐々に伸び始めた。
……と思いきや、その若手スタッフが事情によって退社。それ以降、WEBマーケティングの活動が完全にストップしてしまった。
だがそれは、チャンスでもあった。この契機に一度立ち止まって、それ以降のBtoC戦略を描き直すことにしたのだ。
そうして立てたのが、以下のような仮説である。
マスブランドを目指さない地方食品メーカーの生き残り戦略としては、不特定多数の方に知っていただき買っていただくより、特定のコアファンがブランドを一緒に育ててくれるような取り組みの方が、相応しいのではないか。
そこで、何度もリピートしてくださっている顧客を招き、ファン・ミーティングを開催してみた。すると、コアファンとの繋がりを深めていくという方針に手応えを感じることができた。
問題は「担当者の不在」である。ECサイトを運営しファンを増やす人材がいないのだ。
そういう状況で、水森社長の次の言葉が降ってきた。
「倉増さん、ネットショップの店長、やってくれませんか?」
思いがけないオファーだった。
だが、社長は「この人のためなら!」と思えるような魅力的な人物で、その魅力に抗うことは難しい。この人の会社をなんとかして盛り立てたい! そんな思いにかられた。
それから、もうひとつ。
今の社会はみんな心の余裕がなく、自分のことに汲々としているような印象を持っている。
他者への思いやりや感謝の気持ち、他者を労わる気持ちがあったとしても、それらを効果的に伝える手段が見出せず、人々はだんだんと孤立に追いやられているのではないか。そんなことを常々感じていた。
そんな時代に、「京都ぽーく」の美味しいハム・ソーセージを通じて、人と人との繋がりを取り戻してほしい。そして、人々に笑顔を提供し、その笑顔の輪を広げていきたい。
そんな思いもあった。
そこで覚悟を決め、副業として店長をお引き受けすることにしたのである。
母の日キャンペーン
現在、「京都ぽーく」のネットショップでは、母の日キャンペーンを実施している。
このキャンペーンは企画の段階からChatGPTをフル活用した。
コンセプト
まず、そもそもの活動目的、目標を定めるところからChatGPTを壁打ち相手に問答を繰り広げた。具体的にはこんな感じである。
ChatGPTは尤もらしいことを答えてくれる。が、一般論が欲しいわけではない。
自分なりのしっくりくる理由が欲しい。そこで、しばらくやりとりが続いた。
「人々とのつながり」これは私自身の問題意識とも符合する。
さらに問答は続く。
このようなやりとりを経て、自分の中に母の日のキャンペーン・コンセプトが浮かんできた。
「母の日」に感謝の気持ちを伝えるのは、実母だけでなくてもいいのではないか。
たとえば、「“母親業”を頑張っている友人」や「母親のような身近な存在」に感謝の気持ちを伝え、あるいは励ますことにも意味があるだろう。
それに、人を励ますことは、自分自身の励みにもなるはずだ。
ならば、母の日をターゲットDAYにして、身近な人が贈り物を通じて気持ちを伝え合い、讃え合うような文化を創造できないだろうか!
ある調査によると、「母の日にもらって嬉しかったものや欲しいもの」第1位は「手紙・感謝の言葉」であるという。(ちなみに、2位は「手書きの絵」3位「花」と続く)
やはり、本当に欲しいのは物よりも心なのだ。
だから、ただ物を贈るのではなく、心を乗せることが必要だと確信した。
メッセージクリエイターの設置
ただ、感謝の心を言語化し、メッセージとして伝えるのは案外ハードルが高い。
特に男性は、自分の気持ちを伝えることに照れがあり、面倒くさがって、後回しにしがちだ。
こうした苦手意識の解消に貢献できる手段はないものかと考え、辿り着いたのが、「ありがとうを伝えよう」メッセージクリエイターの設置である。
ChatGPTをカスタマイズして自作した簡易アプリである。(ノーコードアプリなので、30分もかからず作成することができた)
ユーザーは以下を入力するだけ。
贈りたい人との関係性:お母さん、妻、お世話になった恩人など
感謝の気持ちを表すキーワード:日頃の感謝、子育てへのエール、励ます言葉など(選択するだけでOK)
これだけで、ユーザー毎にカスタマイズされた感謝のメッセージが自動生成される。しかもそのメッセージは、メールやSNSで簡単に共有することもできる。
もちろん、京都ぽーくの母の日ギフトをご購入いただき、贈る相手にメッセージを同梱していただくのが真の狙いだ。
しかし、メッセージクリエイターを利用するには有料のChatGPT Plus契約者に限定されるため、人力でのメッセージ作成サポートも対応することにした。
共有の促進・プロモーション
こうして生成されたメッセージはSNSで簡単に共有できる形式で提供されるため、ハッシュタグ「#ありがとう京都ぽーく」を使ってキャンペーンの波及効果を高めることができる。
また、メッセージを生成・共有したユーザーの中から抽選で、母の日仕様のハム・ソーセージ・ギフトセットをプレゼントするという、特別プロモーションも企画した。
ギフトを購入しなくても、メッセージクリエイターを試すだけで、プロモーションの対象になるというものだ。こうして、「京都ぽーく」にとって経営の「次の一歩」となる、母の日キャンペーンを展開することができた。
(以下がそのキャンペーンページです。ぜひご応募ください。)
HumanGPTの仕事術
「京都ぽーく」の事例が示すように、人手不足に悩む中小企業であっても、ChatGPTを活用すれば、経営の「次の一歩」を踏み出すことができる。
そのための秘訣が、HumanGPT。
それは、以下のようなものだ。
ChatGPT × 人(経営者への共感 + 業務設計スキル)→ HumanGPT
単にChatGPTが使えるだけでは経営を前進させることはできない。
土台となるのは、経営者への深い共感であり、その上で、たとえ特定の業務に精通していなくても構わないが(私だってネットショップ店長は未経験である)、ChatGPTと対話しながら経営者の想いをタスクに落とし込むための業務設計スキル、これが問われる。
AIと「人」とのコラボレーションは、そうした基盤があってこそ、相乗効果を産み出すのである。
では、HumanGPTの具体的な仕事術とは、どのようなものか。ご関心をお持ちの方は、5月13日のセミナーに是非、ご参加ください。そこでじっくりお話しし、ご質問にもお答えします。
みなさまのご参加をお待ちしています。
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<セミナー情報>
資料
*1
日本商工会議所「「人手不足の状況および多様な人材の活躍等に関する調査」 の集計結果について ~中小企業の7割近くが人手不足、8割強が仕事と育児の両立推進が必要と感じていると回答~」(2023年9月28日14:00)
<プロフィール>
倉増京平
2002年、電通グループ企業(現社名 電通デジタル)に入社。顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。2019年よりティネクト株式会社に取締役として参画。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年は生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。