「お前はコピーライターの仕事を、自分の手で、なくすつもりなのか」

 

僕のなかには、いまもこの葛藤が渦巻いている。

コピーライティングは人間だけが成し得る仕事だった。クライアントのニーズを汲み取り、時代の空気を吸い込み、言葉を紡ぐ。心に響くメッセージを生み出す。それが僕たちの使命であり、誇りだった。

 

しかし、生成AIの登場によって、存在意義は完全に揺らいでいる。生成AIとは人工知能が文章などを生成するシステムの総称であり、もはや、人間が書いたような文章を生成できるレベルにまで達している。

 

生成AIに仕事を奪われる恐怖と、可能性への期待。相反する感情が交錯するなかで、僕はある決断をした。生成AIの力を活用して、コピーライティングの自動化を推し進めることを。この文章では、僕がたどってきた思考について語っていきたい。

 

解決すべき課題は無限にある。しかし、人間のリソースは有限である。

マーケターの元には、日々新しい依頼が舞い込んでくる。

様々な企業や団体が、自分たちの事業やサービスに関する悩みを持っており、解決に向けた協働パートナーを求めている。企業や団体の数だけ異なる課題が存在し、その数はまさに無限である。

 

その一方で、正しく課題を紐解き、解決策を検討し、実施できる人材の数はどうだろうか。その数は、圧倒的に不足しているのが現実である。

例えば、優秀なマーケターが1年間で12件の課題に取り組んだとしよう。仮に30年間、同じペースで働き続けたとしても、解決できる課題は360件に過ぎない。マーケターがどんなに頑張ったとしても、微力の域を超えることはないといえる。

 

この限界を突破するために、注目しているのが生成AIである。その理由はいたってシンプルである。生成AIは「人間のボトルネックを開放する力」を持っているからである。

 

・膨大なデータを瞬時に処理できる

・人間の何倍もの速度で仕事をこなす

・24時間365日休む必要がない

・不満を言うこともなければ、離職のリスクもない

 

人間の時間や体力や気力といった、有限なリソースの壁を突破することができる。世のなかに存在する無限の課題に向き合うために、生成AIを味方にすることは必然である。

生成AIの力を借りることで、人間の限界を超え、これまで手が届かなかった課題にも応えることができる可能性が生まれるのだ。

 

「コピー書いて」では、コピーは書けない。コピーを構造的に理解している人は少ない。

ただし、生成AIの登場ですべてが解決するわけではない。生成AIに「キャッチコピーを書いて」と指示したところで、求めている結果は得られないだろう。

正しくコピーライティングを行うためのプロセスを、生成AIへの指示である「プロンプト」を通じて伝えなければ、言葉の精度は上がらないのだ。

 

もうひとつ、大きな課題がある。それは、コピーライターでさえ、キャッチコピーを書く方法を説明できるわけではないことである。自転車に乗れるからといって、自転車の乗り方を説明できるわけではないのと同じ構造だ。

コピーライティングの書籍を読んでも、書き方めいたものは提示されているものの、書かれている通りに実践してもキャッチコピーを書ける方法論にまでは昇華されていないのが現実である。

 

こうしたコピーライター界において、僕は異質な存在である。まず、純粋培養なコピーライターではない。マーケティングの実務経験から、マーケティングの限界を感じ、クリエイティブに鞍替えをした背景がある。

さらに、理工系出身で仕組化が得意である。そのため、戦略づくりから戦術への接続、クリエイティブへの落とし込みまでを「ひとり広告会社」のように行ってきた。

 

言葉を生み出していく過程を言語化し、プロンプトとして言葉にしていく。そして、マーケティングを民主化する。僕は、そんな誰もやってこなかった、気の遠くなるような作業をできる数少ない存在であると自負している。そして、今では、その作業を行うのが、僕の使命であるとさえ感じるようにまでなっている。

 

マーケティングの民主化で、企業の稼ぐ力は底上げできる

日本企業の99.7%は中小企業である。この国の経済を支えているのは中小企業である。そして、僕も学生時代には中小企業を立ち上げ、ビジネスを行っていた。現在も、細々と中小企業を営んでいる。

 

しかし、多くの中小企業は、マーケティングやクリエイティブの専門家と仕事をする機会はめぐってこない。

「誰に頼んでいいのかわからない」という理由もあろうが、マーケティングやクリエイティブ費用を捻出できない、という理由が多いだろう。その結果、社内で販売活動を行っている企業がほとんどである。その結果、いい商品なのに、いいサービスなのに、いい事業なのに、ユーザーに伝わらず停滞していく現実がある。

 

マーケティングは、企業の成長に欠かせない要素である。素晴らしい製品をつくっても、利点を適切に訴求できなければ、売上には結びつきにくい。だからこそ、誰でも、気軽に、マーケターやクリエイターに相談できる環境が重要である。だからといって、マーケターやクリエイターが安価で稼働するのも、違うと思っている。

 

そこで重要になるのが、プラットフォームである。生成AIによって、疑似的なマーケターやクリエイターを生み出し、相談しながら日々の悩みを解消していく世界線である。

 

例えば、商品のキャッチコピーを考えたい場合、生成AIに商品の特徴を伝えるだけで、複数のアイデアを出してもらえる。候補から選ぶだけで、誰でも効果的な訴求ができるようになるのだ。

その先には、事業が進展し、より複雑な課題を腕利きのマーケターやクリエイターと解決していく未来が待っている。こんな新しい潮流をつくりたいと考えている。

 

マーケティングの民主化は、必ず、中小企業の成長を後押しする。日本経済の活性化に直結する。

マーケティング自動化支援ツール「AUTOMAGIC」のリリースに関するオンラインイベントにも、多くの中小企業の人に参加していただきたいと考えている。

 

最後に人間に残る仕事を、憶測ではなく、この目で見たい。

生成AIの発展は止まらない。多くの仕事が自動化され、人間が代替される未来は避けられない。この流れは不可避であり、コピーライターは、既にその現実に直面している。

 

このような状況下で、議論されているのは「人間にしかできない仕事とは何か?」である。よく挙げられるのは、「創造性」「共感力」「身体性」などだ。確かに、これらは人間の強みであり、生成AIにはない特性といえるだろう。

しかし、それらは、人間の儚い希望に過ぎないともいえる。「生成AIに身体性はないから、実感を伴う感情は残る」と思いたいだけなのである。

 

生成AIの進化のスピードは目覚ましく、こんな推論などいとも簡単に超えてしまうだろう。

だからこそ、僕は、この手でマーケティングの自動化や効率化を推し進めることで、人間にしかできないことを、この目で見てみたいと考えている。憶測でも希望でもない、現実としての人間の役割を直視し、残された時間をフルベットしたい。

 

「コピーライターにしかできない仕事とは何か?」

 

その答えに到達すために、僕は今日もチームで「AUTOMAGIC」の開発に打ち込んでいる。

おそらく、僕たちの予想はことごとく外れるだろう。それでも、生成AIがもたらす未来と真剣に向き合い、人間にしかできない価値を生み出し続けること。それが、コピーライターとしての僕の、あるべき生き方なのだと信じている。

 

 

 

 

 

【著者プロフィール】

梅田 悟司(うめだ さとし)Satoshi Umeda

コピーライター

1979年生まれ。上智大学大学院理工学研究科修了。

2016年から2017年にかけて、4カ月半におよぶ育児休暇を取得。当時を振り返ってTwitterに投稿した「育休を4ヶ月取得して感じたこと」が大反響を呼び、累計1200万PVに。

直近の仕事に、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、リクルート「バイトするなら、タウンワーク。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション・ディレクターなどがある。

著書にシリーズ累計30万部を超える書籍『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版社)ほか。

横浜市立大学客員研究員、多摩美術大学非常勤講師。

Photo:Mohamed Nohassi