ChatGPTの発表から、1年が経過しようとしています。
熱狂は徐々に醒め、現在の利用状況はLINEの調査によると、全体の5%程度。*1
その中でも、仕事で積極的に利用している人は、1%程度ではないかと推測します。
では、この1%の人たちはどのような方々で、どのように生成AIを仕事で使っているのか?
9月の中旬から、10月の末にかけて、私は約40名の方に取材を行いました。
そして、私は一つの確信を得ました。
それは、「私は間違いなく10年後、失業する」です。
私は間違いなく10年後、失業する
なぜなら、現場での生成AI利用は、仕事によっては
「ホワイトカラーの代替」
をかなり高いレベルでできることがわかったからです。
例えば、コンサルティング。
コンサルティングには、初期の段階で、仮説構築という仕事があります。
平たく言うと、調査・提案にあたって「課題はここにあるのではないか?」というアタリをつける行為です。
生成AI登場前は、調査を行って過去の事例を掘り返し、たたき台を作って有識者とディスカッションを繰り返し、仮説を出していました。
これには通常、2週間程度を費やします。
しかし現在、ChatGPTを使えば、仮説構築の工数は1/10程度で済みます。
「調査」や「過去事例」の手間が激減したからです。
あるいはSEO対策やwebマーケティング。
ChatGPTを使えば、ペルソナ抽出、検索キーワードの選定、検索意図の推測は、標準的なwebコンサルタントと同等のパフォーマンスを出せます。
取材の中では、Amazon等のECサイトの商品情報や価格推移をChatGPTに分析させている事例もありました。
このように現在ですら、限定された用途では、生成AIのパフォーマンスが、人を凌駕するケースも多く見られます。
(なお詳細についてはここに書ききれないため、各セクションの「利用事例の詳細」というリンク先を見てください。)
◆コンサルティング・マーケティング用途の事例は以下の方々のご協力で取材をさせていただきました(以下の利用事例の詳細)
・マーケティングリサーチ会社で10年の経験を持ち、現在はリサーチ会社を立ち上げたyasuさん。
・映像制作・web制作を手掛ける浦島大介さん。
・元大手UXコンサルティング会社「ビービット」のUXコンサルタント三宅さん。
・生成AIの活用支援を行っているごまおさん。
・事業開発コンサルティングを行っている石井さん。
・webデザイン・制作会社を経営している、エスケイワード代表沢田さん。
・webマーケティング、EC運営に携わるあゆみさん。
・BtoBマーケティングを手掛ける、澤山モッツァレラさん。
サービス開始から1年もたたないAIが、これほどの水準に達しているとすれば、10年後には私のような職業の業務の多くが、生成AIに代替されていても全く不思議ではありません。
もちろん『人間の方が優れていること』は残るでしょう。
しかし、その業務量は少なく、携わる人はごく一握りになる可能性はあります。
メディア運営、編集や秘書も生成AIに代替される可能性
もちろん、代替可能性がある分野は、コンサルティングやマーケティング分野だけではありません。
本来のChatGPTの用途である、ビジネスシーンでの文書生成能力の活用です。
メディアの記事を書きたいと言えば、記事を生成し、パンフレットを作りたいと言えばパンフレットを生成してくれます。
雑誌の取材、書籍の構成、プロジェクトの募集文書も、十分アシスト可能。
中には専門的に、士業の方が「補助金の申請」や、勉強会を主宰するための「資料作り」に活用されている方もいます。
簡単な翻訳には、ほぼそのまま生成AIの出力を使うことができます。
「メール返信はほぼChatGPTで、秘書代わりに使っている」とコメントする方もいます。
現在の生成AIのクオリティでも十分すぎるくらいの仕事はたくさんありますから、これからバックオフィスの仕事も代替が進むでしょう。
◆文書生成能力の活用事例は以下の方々のご協力で取材をさせていただきました(以下の利用事例の詳細)
・書籍の構成、オーダーメイド資料の作成事業を手掛ける田中さん。
・SNSプラットフォーム事業に携わる高安さん。
・ブラッシュメーカー会計事務所経営の河野さん。
・酒販ECサイト(Sake street)を運営する、藤田さん。
・PMO業務に携わり、副業でOfficeソフトインストラクターとして活動する、森田さん。
・地場産業の資金調達を支援する、公益財団法人京都地域創造基金の可児さん。
・船場経済新聞編集長、Web販売代理店制度を支援するwebサービス「Dairin」運営の大崎さん。
・アメリカ合衆国のニューヘイブンで大家を営む、Kaoruさん。
私はwebマーケティングの分野で、記事制作やライティング業務を行っています。
しかし、生成AIの現在の状況を見るに、「また私の仕事が減りました。」と言わざるを得ません。
プログラムコード生成もAIに
さらに、ChatGPTが生成できるのは「文書」だけではありません。
技術者の方はよくご存じだと思いますが、生成AIはそれなりの水準で、プログラムコードを出力することが可能です。
◆コード生成の活用事例は以下の方々のご協力で取材をさせていただきました(利用事例の詳細)
・大手外資系製薬会社で研究者として勤務する、QM_ODE_LAさん。
・お金のアドバイスを提供するメディア「シェアーズカフェ」運営、FPの中嶋さん。
・プロンプトエンジニアのユウスケさん。
・美容クリニック「ファイアークリニック」でマーケティングと業務システム開発を手掛ける及川さん。
彼らの共通の認識は「指示を工夫すれば、そのまま使えることはないが、それなりの精度でコードを生成してくれる」です。
そういう意味では、ハイエンドエンジニアは生成AIによって能力がブーストされますが、ローエンドのエンジニアは仕事がなくなる、と言っても良いかもしれません。
また、今まではGoogleやサポート掲示板などで、疑問点を検索しなければならなかったけれども、ChatGPTを使う事により、調査工数を大きく削減できる、という意見も非常に多いものでした。
また、変わった使い方としては、従来は旧システムからのデータ移行に際し、データコンバータの開発が必要でしたが、ChatGPTを用いると、自然言語によってデータのコンバートを可能にしている事例もありました。
さらに、非エンジニアであっても、簡単なスクリプト言語であれば、ChatGPTの出力コードを動かす → エラーメッセージが出たらそれをChatGPTに聞く → 再度ChatGPTの出力コードを動かす というサイクルで、十分システムを作れてしまう、という事実があります。
「生成AIの用途」にはさらに可能性がある
もちろん、オーソドックスな使い方だけではありません。
工夫次第では、汎用人工知能のような使い方をすることもできます。(利用事例の詳細)
例えば、生成AIプロダクトを手掛ける「Algomatic(アルゴマティック)」では、採用の分野や、営業分野で幅広くAIを活用しており、オリジナルのAI利用プラットフォーム「シゴラクAI」のほか、社内のslackには、業務のアドバイスをしてくれる生成AIボットが稼働しています。
トヨタ向けの自動車部品(エンジン、トランスミッション、ブレーキなど)を手掛ける旭鉄工、およびその子会社のi Smart Technologiesは、工場で数千件以上に上るカイゼン活動を行っています。
しかし、その内容は複雑多岐にわたるうえに、取り出しにくい情報でした。
そこで、カイゼンの内容をChatGPTに読み込ませ、その内容を自然言語で取り出せるようなシステムを作り上げています。(5月には、この試みがNHKで特集されました。利用事例の詳細先に動画あり)
また、同じく自動車部品のメーカーで数十年以上の勤務経歴を持ち、知財管理を行うでーすけさんは、ChatGPTに特許情報の複雑かつ専門的な明細を読ませ、有象無象の知財の中から「捨ててよい特許」を特定しています。
愛知県、中部地区のケーブルテレビの統括会社「コミュニティネットワークセンター」では、経営トップが全社に生成AI導入を指示し、2023年8月から利用の方法や利用率をモニタリングしています。
利用率は5%程度ですが、コールセンターからの課題要約、議事録の作成、さらには変わった用途として、来客対応としての「観光案内のスクリプト作成」など、多岐にわたる利用事例が確認されています。
業務用ソフトウェア(SaaS)のweb診断サービス「FitGap」を運営するPIGNUSでは、数千ものSaaSを比較する際に、ChatGPTを用いて製品の特徴や製品間の差分を出力させています。
数千もの製品を比較することは人力ではとても不可能なため、人を代替する試みとして面白いものです。
東証プライム市場に上場する、3000名規模のクリエイティブデザイン会社は、現在30名程度のスペシャルチームを作り、チームに対してChatGPTの有料ライセンスを開放しました。
生成AIのユースケースを調査させる狙いです。
この企業での取り組みのポイントは、新規事業立ち上げ部門と、法務部門を巻き込んでいること。用途に応じたリスクも同時にチェックすることで、利用のハードルを下げる狙いです。
大阪府立 佐野工科高等学校の校長の松野さんは、大阪府の学校での初の試みとして、2023年4月より、授業にChatGPTを導入しました。
現在では、グループワークのファシリテーターや、教材の作成、プログラミング授業でのコードチェック、タイプ練習用の練習問題作成、地理の授業での調べものなど、多彩な用途でChatGPTが使われています。
今後の企業における生成AI利用の展望
すでに、150社の企業に対して、生成AIプロダクトの営業をした、という流禅の藤原さんは、現状のAIの仕事への適用は、大きく2点の課題があると言います。
一つは、どのセグメントを見ても、(領域、企業規模とわず)、リテラシーのの不足が課題となっていること。
要は「使いこなせるか?」が不安であること。
思っているよりも一般の人にとって、まだ生成AIは難解でハードルが高く、使うためには、講師や顧問を招致したり、全社員が目的を共有する
(成果イメージを持てている。)などの施策が必要です。
二つ目は、セキュリティ面。
マイクロソフトのAzureを使えば大丈夫、などという話もあるが、それは情シスがあったり、詳しい人がいる場合のみであり、ほとんどの企業にとっては、直接ChatGPTに情報を入力するため、セキュリティ面に不安があることです。
また、生成AIに強く興味を持っている業界は、製造業、IT業、不動産業、医療であり、比較的導入が速そうだと言います。
なお、製造業は、旭鉄工のように、自社で蓄えている情報を生成AIと合わせて活用したい、というニーズが多いとのこと。
IT業はコード生成、そして不動産業は、情報収集の自動化と、役所への書類提出業務の効率化を目指す会社が多いのです。
失業しないためにも、生成AIに取り組むしかない
ということで、10年後の安達はすでに要済みとなりました。
チーン。
……とはいえ、生成AIに大きな可能性を見出すことができたのも事実です。
それでは、ということで、新しく生成AIを事業とする会社「ワークワンダース株式会社」を作りました。
11月にはインクルージョンジャパン社、ブレインパッド社と共催イベントを開き、上の取材内容を含め、さらに大手企業などの事例も含めて詳しくお話しするつもりです。
「リアル開催」オンリーでの情報ですので、ぜひ、イベントへのご参加お待ちしております。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
元Deloitteコンサルタント/現ビジネスメディアBooks&Apps管理人/オウンドメディア支援のティネクト創業者/ 能力、企業、組織、マーケティング、マネジメント、生産性、知識労働、格差について。
◯Twitter:安達裕哉
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◯有料noteでメディア運営・ライティングノウハウ発信中(webライターとメディア運営者の実践的教科書)
*1 「ChatGPT」の認知度は全体で約3割、20代・30代の男性では4割超に。利用意向は女性よりも男性の方が高い