もうずいぶんと以前のことだが、会社を経営する友人が、経営コンサルを名乗る人物に仕事を依頼したと聞かされることがあった。
何の会合で話したのか記憶が定かではないが、名刺交換するとそのオッサンはこんなことを話す。
「今、彼の会社を手伝っているんですが、経営も現場管理も全くできてないんです。本当に立て直しが大変です」
友人はオヤジの急逝に伴い急遽、大手金融機関を辞めて跡を継いだ2代目だった。
ビジネスパーソンとしてはできるヤツだったが、親ほどに歳の離れた役員や番頭さんもいる畑違いの会社で孤立し、“経営の専門家”を頼ったのだろう。
しかしクライアントの目の前で、その友人に、
「彼はぜんぜん経営ができておらず、立て直しが大変」
などと、あらゆる意味でバカ丸出しのセリフを吐くようなオッサンが、まともであるはずがない。
そんなこともあり、こんな質問を投げかけてみる。
「そうなんですね先生。ところで彼の会社の、一番の問題点はなんですか?」
「いろいろあるけど、幹部から社員まで、仕事の重要性と緊急性を仕分ける習慣が身についていないことでしょうか。プライオリティをマトリックスで考えないんですよ」
(あー…このレベルか )
昭和の終わりか平成初期にかけて流行った、寝言のような“ビジネスの基礎”だ。
どこかの有名コンサルが『7つの習慣』(スティーブン・R・コヴィー)の内容を流用・改悪して広めたと記憶している。
平成初期にビジネスパーソンデビューした人なら、クソ下らないセミナーで一度は耳にしたことがあるだろう。
仕事は「重要」と「緊急」の2軸で分析し、計画的に取り組むこと。
「重要で緊急」だけを大事にしてはならない、「重要だが緊急ではない」仕事にこそ、個人と会社の成長のために時間を投資しなさい、というイカれた概念である。
そんな思いもあり、 “エライ先生”に質問を重ねる。
「とても大事な考え方ですね。ところで先生、『プライオリティ・マトリックス』の考え方で、本当に彼の会社は良くなるものでしょうか」
「もちろんそれだけじゃありませんよ、ただその基本すらできてないということです」
「よくわかりました。あなたは本当に経営の現場を知らないのですね。経営者にとって一番優先すべきは、『重要でも緊急でもない仕事』です。失礼ですが、部下を持ち会社を経営したことはあるのですか?」
(h2)“忙しいフリに忙しい”
話は変わるが、もうずいぶんと昔、地方の中堅メーカーで役員をしていた時のことだ。
従業員数は800名近く、見かけの売上と従業員数は多いものの、経営は全くうまくいっていない会社での職責である。
縁あって若くして役員に就くが、やがて金融機関や大株主からの圧力で一人、また一人と年配の役員が、給与に見合う成果を出せずにクビになっていく。
そしていつしか、CFOと経営企画を兼任するNo.2 のポジションになっていた。
特別仕事ができたから、というわけでは全くない。
結果を出せない役員が次々にクビになっていき、焼け野原のような悲惨な会社で、気がつけばそうなっていたというだけのことだ。
しかし経緯はどうあれ、そうなると私のところには各部門から、意思決定の要求が多く上がってくる。
「製造ラインの加熱機器が不調なのですが、入れ替えの見積もりをいつもの事業者に出してもいいでしょうか?」
「単価はどれくらいですか?」
「部分的な入れ替えなので、500万円くらいのはずです」
「ちょっと待ってください。その価額であれば、熱源の入れ替えも検討材料です。比較検討する材料はあるのですか?」
「…お辞めになった役員が管轄してたので、私にはわかりません」
その直後には、管理部の担当者からこんな相談が来る。
「明日の部門ミーティングですが、14時からに変更してもいいですか?仕入部から、その時間の来客予定がキャンセルになったと聞きました」
経営判断からそんな“些細な”事務レベルの相談まで、次々に飛んでくる状態だ。
思わずイラッとし、電話を握る手に力が入る。
「予定が空いているのであれば、入れても構いません。間違いなく予定がキャンセルになったのかどうかは、仕入部に確認してfixして下さい」
そう言うと作業着を掴み席を立って、工場に急ぐ。
どう考えても、不調の製造ラインをどのように再構成するかの方が急ぎ判断する必要がある重要な経営課題であり、当然だろう。
アポイントの調整のような、担当者から連絡を取れば5分で終わるような仕事まで判断してるような暇があるものかと、内心悪態をついて工場に向かう。
しかし翌朝、出社し予定を見ると、14時からの部門ミーティングが入っていない。
担当者に聞くと、仕入部長が終日不在で確認が取れなかったため、保留状態なのだという。
「構いません、14時から予定通りミーティングにしましょう」
しかしそこで、別の問題が発生する。管理部の何名かがすでに、今日のミーティングは流れたと判断して取引先へ訪問予定などを入れてしまい、とてもリスケ(延期)できないという。
そうなると、ミーティングで共有し、判断したかった情報が入らないので、ますます仕事が複雑にスタックしていく。
(…あの程度の些細な交通整理を怠っただけで、ここまでややこしくなるのか)
そう、昨日の段階でもし私がこう答えていれば、こんなことにはならなかっただろう。
「では14時に変更しましょう、皆に手配して下さい。念の為に仕入部長には、私からメールします」
そしてこんなメールを一通、仕入部長に出せばよかっただけの話だ。
「明日14時からの予定が空いたと聞いたので、別の予定を入れました。万が一間違いがあるようであれば急ぎご連絡下さい」
それだけの、たった30秒の仕事の優先順位を下げただけで関係者全員の時間を浪費し、仕事をややこしくし、担当者を精神的にも疲弊させてしまったのである。
上司として最悪のふるまいであり、きっと当時の担当者も、私のことを嫌いになっただろう。
ある意味で私の価値観の原点の一つであり、大いに反省することになった苦い思い出の一つだ。
断言しても良いが、こんな形で部下の心身を疲弊させ、無意識に仕事をこじらせている経営者やリーダーは、本当に多い。
ぜひ一度、“忙しいフリに忙しい”ようなことをしていないか。自身を見つめ直してほしいと思っている。
(h2)「プライオリティがイカれてる」
話は冒頭の、経営コンサルとの話についてだ。
なぜ経営者にとっては、「重要でも緊急でもない仕事」こそが大事だと返したのか。
考えてみて欲しいのだが、組織のリーダー、まして経営者という立場は、多くの仕事でハブのポジションにいる。
そしてハブにいるということは、自分の判断を待ち、あるいは指示を起点に動く、多くの部下や関係者がいるということだ。
にもかかわらず、そのことに無自覚なリーダーは“自分にとって”重要で緊急な仕事ばかりを優先し、仕事全体の進捗を最適化しようとしない。
そう、予定の調整くらい担当者でやれと放置した、私のように。
結果、自分自身がボトルネックとなり、多くの仕事をスタックさせることになる。
ただそれも無理のない話で、役割やポジションが違えば全ての仕事について、「重要性」と「緊急性」のモノサシが異なる。
だからこそ、『プライオリティ・マトリックス』などという寝言でリーダーが自分の仕事を仕分けしようものなら、組織が機能しなくなるに決まっているだろう。
ではリーダーは、自分の仕事をどう仕分けし、消化していくべきなのか。
3分以内に完結するような仕事は、入ってきた瞬間に片付けることだ。
言い換えれば、「重要でも緊急でもない仕事」から片付ける、ということである。
そして10分以上考える必要があるようなタスクはメモ書きして一旦忘れ、今日中に返事をすると相手に伝える。
そうすれば、ほとんどの仕事で「相手の重要で緊急な仕事」をスタックさせること無く、仕事の進捗が最適化する。
「もしかしてコイツ暇なのか?」
たまにそう思うほどにレスポンスの早い経営者がいるが、だいたいそんな思考で仕事をしていると断言できる。
そしてそれこそが仕事のできるリーダーであり、経営者のあるべき姿だ。
そんなことを経営コンサルの“先生”と友人に話し、最後にこう付け加えた。
「お前、このコンサルの先生とのミーティングをプライオリティ・マトリックスで、『重要で緊急』に仕分けてるんやろ?」
「…」
「経営者なら、部下のために使う時間こそが重要で緊急なはずやろ。経営コンサルさんに仕事をお願いするとしても、俺なら夜11時にきてもらうわ。お前も先生も、プライオリティがイカれてる」
経営者、部門リーダー、それぞれの立場で、そんなヨタ話を解釈してもらえたら、嬉しく思う。
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システム開発やITコンサルティングを経て、
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現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。
岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
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(2026/01/19更新)
【プロフィール】
桃野泰徳
大学卒業後、大和證券に勤務。
中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。
主な著書
『なぜこんな人が上司なのか』(新潮新書)
『自衛隊の最高幹部はどのように選ばれるのか』(週刊東洋経済)
など
防犯カメラを地面にベタ置きしてるのですが、たまに野良猫がクンカクンカしていきます。
スズメも周囲で飛び跳ねています。
田舎の防犯カメラに映るものなんて、動物だけです。
X(旧Twitter) :@ momod1997
facebook :桃野泰徳
Photo:Murray Campbell










