コミュニケーション力とは、「知性」のことである。
そのように主張すると、
「たかがコミュニケーション力で?」
と思う方もいるかもしれない。
しかしこれは事実だ。
クイーンズランド大の心理学教授、ウィリアム・フォン・ヒッペル氏は著書の中で、「コミュニケーション能力」を「社会的知性」と呼び、要は、
「他者の考えていることを類推する能力」であるとしている。
この「他者の思考を読む」という能力こそ、人類を地上の覇者にした能力、すなわち知性の本質だ。
なぜなら、これによって「協力」が可能になるからだ。
「協力」が苦手だと、組織を作ることができない。
例えば、人間と近縁種であるチンパンジーは、集団で狩りをするときでさえも、全員が参加するわけではない。
のんきに座り込んでいる者、騒ぎをただ見物するだけの者。
チンパンジーは、怠けものと協力者を、ほとんど区別しない。
しかし、人間は違う。
4歳の子供ですら、チーム内で「協力」をしたものには報いようとするが、「非協力的なもの」には、褒美を分けようとしない。
これは、進化という観点から見ると、必要不可欠な行動で、協力者と傍観者を区別しない動物は、効果的なチームを作って維持する能力を持つことができないのである。
技能も伝えられない
また、チンパンジーはコミュニケーション能力が低いので、技能を伝達するのも苦手だ。
野生のチンパンジーが木の実を石で割って食べる技術を身につけるのに、10年もかかるのはそのためだ。
実際、母親のチンパンジーは、子供チンパンジーが何を知らないのかを類推することができないため、教えることが苦手だ。
ハンマーとなる石の持ち方や、木の実のおき方を効果的に伝えることができない。
一方で人間のトレーナーは、子供のチンパンジーが何を考えているかを類推できるため、1年で技能を伝えることができる。
「企業」「科学」「宗教」「軍隊」など、人間の文明の産物で「多くの人の協力」が不要だったものはほとんどない。
それゆえ、「コミュニケーション能力の不足」は、文明社会で生きていくことにとって、致命的になる。
企業が採用時に、「コミュニケーション能力を重視する」のには、こうした背景がある。
コミュニケーション能力の低い人の特徴
もちろん、人間の中にも、相対的にコミュニケーション能力の高い個体もいれば、低い個体もいる。
高い個体は多くの人を束ね、組織を運営して大きなことを成し遂げる可能性が高い。
逆に、コミュニケーション能力の低い個体は、他者や集団に必要とされず、孤立しがちで、社会的な成功を得にくいことは周知の事実である。
ではなぜ、「コミュニケーション能力の低い」個体は、「他者の思考を読む」ことが苦手なのだろうか。
*
私がまだ、大きな組織でコンサルタントをやっていたころ、経営者たちの中にも「コミュニケーション能力の低い人」が、数多く存在していたのを見た。
彼らは、一生懸命、
「やってほしいこと」
「期待すること」
「ビジョン・ミッション・パーパス」
「自分の哲学」
「自社の仕事の意義」
などを語るのだが、社員にはほとんど興味を持たれない。
いったい、社員たちはなぜ、経営者の言うことをほぼ無視してしまうのか。
社員たちの声は、こうだ。
「社長、何言ってんのかわかんないんですよね」
「現状は社長の認識と違います、といってるのに、聞かないんです」
「あー、また言ってんな、っていう感じです」
実は、これは、経営者の「単なる言葉の能力」の問題ではない。
「社長が、社員の考えていることを類推する能力が低い」
ことに原因がある。
つまり、コミュニケーション能力が足りないこと、言い換えれば
「経営者が、周りの人たちの話をちゃんと聞かないこと」
に起因することが多かった。
賢い個体は、コミュニケーションをするにあたり、周囲の手がかりを集めることに余念がない。
だから、「自分が話す」のは、出来るだけ、周囲の状況を正確に把握してからにする。
例えば、良い営業が「沈黙」を活用するのは、そのためで、相手に喋らせたほうが優位に立てるからだ。
高い知性を持つ「コミュニケーション強者」は、実際には「聞く」「見る」ことに長けており、状況から、他者の思考を類推することが得意なのだ。
地頭が良い人は、コミュニケーション能力が高い
昔、地頭について書いたことがある。
「地頭の良い人」と、そうでない人の本質的な違いはどこにあるか。
この「地頭」の正体について、私はずっと気になっていた。地頭の良さとは一体何なのか。
「地頭の良い人」というのは、同じ情報に接していても、そうでない人に比べて、そこから読み取ることができる情報が桁違いに多いのだ。
同じ情報に接していながら、「そこに気づくのはすごい!」という驚きを周囲に抱かせる人は、「地頭が良い」と言える。
コミュニケーション能力は、それと似た性質がある。
例えば、こんなことがあった。
ある会社の、品質管理プロジェクトに参加していた時のことだ。
私は当時、先輩のコンサルティングを見て学ぶ、OJTを受けていた。
その中で、一点だけ私に任されたのが、「内部監査テキストの説明」だった。
人前で話すのが苦手だった私は、よどみなくテキストの説明ができるように繰り返し練習を行い、その日に備えた。
そして本番。
私は時間ぴったりに説明を終え、間違いもなく、詰まることもなく、完璧にリハーサル通りに、説明を終えた。
心配していた質問もなく、私は「良くできた」と満足していた。
ところが先輩は、沈黙するお客さんに向かって
「あ、〇〇さん、監査チェックリストの使い方、不安でしょうか?」
と、声をかける。
また、「△△さん、計画作るの大変そうだと思ったら、手伝いますんで!」
とフォローをする。
すると、お客さんから一斉に、質問が噴出した。
それに丁寧に、先輩はこたえていく。
結果的に、その日は「成功」だったのだが、私は引っかかっていた。
私は「完璧な説明」をしたつもりだったが、先輩のフォローがなければダメだったのでは、と思ったのだ。
私は帰途についたとき、先輩に聞いた。
「私の説明、マズかったでしょうか」
先輩は言った。
「いや、マズくないよ。説明は完璧だった。でも……」
「でも?」
「チェックリストのところは、説明が難しいから、お客さん顔をしかめてたよね、あとみんなメモ書きが止まってた。説明をわかってなかったと思うよ。」
私は失敗したのだ。あれほどリハーサルをしたのに……
「何が悪かったんですか?」と、私は聞いた。
「安達さんは、相手を見てないよね」と先輩は言った。
確かにそうだった。
私は「自分がうまくやること」ばかりに意識が向かい、「相手が何を考えているか」に想像力が及ばなかった。
先輩は説明がうまいことは当然のこととし、さらに「相手の反応を見て、出し方を変える」ことまでやっていた。
これを「コミュニケーション能力の高い人」は自然にできてしまうのだ。
わずかな表情、口調のちがいに気付く能力。
言語化できていない要望をくみ取る能力。
相手が用いている表現に合わせて、こちらの言葉を制御する能力。
コミュニケーション能力が「高い知性」の表れであることの所以である。
コミュ力が高い人が話しながら意識していること
ここからは余談だ。
こうした話を、今から約10年前の2017年に、書籍として出したことがある。
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奥田 真輔 氏
システム開発やITコンサルティングを経て、
外資系製薬企業で15年以上のITビジネスパートナーとして人事からコマーシャル、 メディカルなど製薬企業の様々な分野のプロジェクトに携わる。
現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
日本発グローバルバイオ製薬企業にむけて、同社の成長基盤の構築に尽力している。
岡田 雄太(ワークワンダース株式会社 CTO)
野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
BOOSTRYでは信託銀行向けSaaSの立ち上げと成長を牽引。
WiseVineではCTOとして開発組織を30名規模に拡大し、プロダクト開発を推進。
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(2026/01/19更新)
【著者プロフィール】
安達裕哉
生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」92万部(https://amzn.to/49Tivyi)|
◯Twitter:安達裕哉
◯Facebook:安達裕哉
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Photo:Kylie Lugo




