仕事は、多数の人間の協力関係によって成り立つ。
そこには、「任せる」「任せられる」のやり取りが相互に存在し、それを確実に遂行することによって、お互いの信頼関係が成り立ち、さらに成果が出ることにつながる。
ところが中には「任せたことを確実に遂行しない」、すなわち約束を反故にする人々が存在する。
彼らが約束を反故にする理由は様々だが、これを放置するわけにはいかない。したがって、「約束を遂行しない者」へ対する処置は、「正直者が馬鹿を見ない」ためには非常に重要である。
だが、コンサルタント時代に様々な企業に訪れた時、残念ながら「約束を守らない人」は実は非常に多かった。
「なぜ約束を守らないのか?」と聞くと、彼らは大抵の場合、以下の4種類の釈明を行う。
1.やらなければならないことに不明な点があり、進まなかった
2.そもそもやる意味があるのか?を疑問に思っていた
3.忙しかった。他の仕事が入ってしまった。
4.忘れていた
私は当初、途方に暮れることも多かったのだが、上司から対処する手順を教わった。すると、仕事の進め方が大きく変化し、驚くほど成果があがるようになった。
その手順は以下のようなものである。
前提:怒らず、まずは相手の現状を把握する
約束を守らなかった人物を怒鳴りつけることは、あまり賢い選択とはいえない。なぜなら怒ってしまうと余計に約束の遂行率が下がるからだ。
大抵の場合、怒鳴ったり叱ったりすることは感情的なしこりを残し、「怒られないように仕事しよう」という間違った動機付けにつながる。
約束を守らない人物についてはまず、相手の状況を把握すべきであり、上記の1〜4のいずれの理由で約束を遂行しなかったのかを聞き出す。
1.やらなければならないことに不明な点があり、進まなかった、という人物への対処
「スイマセン、途中でわからなくなって、止まってました」という人に「なぜもっと早く質問しなかった」「なぜ自分で調べなかった」ということはあまり意味が無い。仕組みや手続き、ツールでカバーする必要がある。
したがって、私が上司から教わったやり方は以下となる。
◯締め切りを短く区切る
任せた相手が能力の低い人物であればあるほど、長い期限を設定してはいけない。1週間単位など、もってのほかである。せいぜい1日、2日の単位を締め切りとして設定し、最悪でも遅れを1日程度に留める。
◯質問されたらすぐに対処する
こちらが質問に対してレスポンスが遅いと、彼は怠ける。したがって、質問には最優先で対処する。緊急に対処できず、自分が不在にしているときは、別の人物に質問をするように予め設定しておく。
◯メールではなく「電話せよ」と言う
言葉で不明な点を伝えることは結構難しい。「止まってました」というような人物に、メールでの質問をさせることは非常に困難であるため、基本的に質問は電話でせよ、と言うのがセオリーだ。
2.そもそもやる意味があるのか?を疑問に思っていた、という人物への対処
彼は反抗的である。こちらの指示や内容はわかっているのだが「納得をしていないのでできない」という人物はどんな組織やプロジェクトにも存在する。
また、このような人物は「自分の思うやり方」へのこだわりも非常に強く、あまりアドバイスを聞き入れない。
このような厄介なタイプの人物の取り扱いは以下のとおりだ。
◯「やる意味」を議論するのは、皆の前でやるようにお願いする。
やる意味について議論をするのは、皆の前でのみ受け付ける、と厳正に注意する。
「上司」や「リーダー」から直接説得を試みるよりも、その場の他のメンバーから説得を試みたほうがうまくいくケースが多いため、「皆の前でやる」ことのメリットは大きい。
だが、相手の態度が頑なな場合、これを続けるようであれば仕事の放棄とみなし、ペナルティを適用する、と言う時もある。映画や小説では、「ついに彼らは分かり合った」というハッピーエンドもあるが、現実には、大抵の場合は分かり合えない。
◯その人物が重要人物である場合は、上に頼んで、プロジェクトや仕事の存続を問い直す
その人物が重要人物である場合は、仕事が頓挫する可能性が非常に高い。また、途上で足を引っ張られ、こちらが責任を取らされるケースもある。
したがってまず最初に上に掛け合うのが正解である。この状態で仕事を進めてはならない。
◯その人とのやり取りをメールにし、上司をCCに入れるなどして、証拠を残す
「そもそも論」を持ち出す方への対処は、上司を利用することの他にもう一つ大事なことがある。それは「やり取りの証拠を残すこと」だ。
こちらがきちんと依頼の手順を踏んでいることを相手だけではなく、第三者に知らせるようにし、いざというときに調停できるように確保しておくことが非常に重要である。
また、この手の人物は「聞いていなかった」と言い逃れをするケースも多いので、注意深く証拠が残るようにする。
3.忙しかった。他の仕事が入ってしまった、という人物への対処
この発言は「リソース管理」ができない人物の発言だ。つまり、物事の優先度をつける技術が未熟であり、セルフマネジメント能力に欠けるとみなすことが基本である。
したがって、こちらがリソース管理の手伝いをする必要がある。
◯先に作業時間を確保させる
「この仕事をやる時間を確保せよ」と、先に依頼し、彼の予定表に入れてもらう。よほどのことがない限り、時間を確保させれば仕事はある程度遂行される。
仕事を頼んだ時、「これの作業予定はいつ?」と予め聞いてしまうことも有効だ。
◯他の仕事を入れた人と直接交渉する
「他の仕事が入ってしまった」と言われたら、彼に「誰から依頼された?」と聞く。
その人物を特定し、彼に直接優先度の交渉を行うためだ。これをしないかぎり、再発する可能性が高いので、できるだけ上の人物に動いてもらいリソースを保証してもらう。
◯一緒に依頼した作業を分割し、タスク管理を手伝う
この人物は「タスク管理」が未熟である可能性が高い。したがって、タスク管理をこちらで手助けする必要がある。依頼した作業をおおまかに分割し、それぞれに締め切りを設定する。
また、締め切りを守れなかった場合にはすぐに報告を上げさせる。
4.忘れていた、という人物への対処
よほどのことがない限り「忘れていた」という返答は失礼に当たるので、いう人は少ないのだが、親しくなってくると正直にいう人もいる。
悪気はないが、仕事を忘れる、ということは簡単に言うと「その人の中の優先度が低い」もしくは「自己管理が甘い」ことの証左なので、この2つについて確認を行う必要がある。
◯仕事の重要性を再認識させる
「いいですか、この仕事はとても重要なのです。きちんとお願いします」と、依頼をするだけでもそれなりの効果はある。真剣に言えば、ある程度は向こうもその真剣さを汲みとってくれるものなのだ。
また、これは1度ではなく、2度、3度と繰り返し伝えることで、約束の遂行率は飛躍的に向上する。
◯「あなたが今後、忘れないようにするには、どうしたら良いですか?」と聞く
自己管理が甘い人には、自己管理を手伝ってあげる必要がある。そして、自己管理の技術は、その人が自分で編み出さなければ、確実におこなわれることはない。
したがって、一番有効なのは「忘れないようにするには、どうしたら良いですか?」と聞くことだ。
「リマインドします」
「アラートを設定します」
「予定表に書きます」
などの返答があるだろう。それを遂行してもらうだけである。なお、これも2度、3度繰り返すことが多いので、その都度、自己管理のヘルプに入る必要がある。
◯「次に忘れたら、他の人に依頼します」と、信用を失ったことを伝える
仕事上、一番致命的なのは「信頼を失うこと」だと、多くの人は認識しているため、「信用を失いましたよ」という警告は効果が高いケースが多い。
事実、「忘れていました」は信用を失っている。そのとおり「二度目はないです」という言葉は伝える必要がある。「忘れていました」に対しては静かに、厳しく接することで怒るよりも相手に凄みが伝わるものなのだ。
実は「人に仕事をやってもらうこと」は仕事の中でも最も難しく、経験を要求する仕事だ。
したがって怒鳴りつけるだけではなく、テクニカルに何とかする、ということも選択肢として持っておくと良いかと思う。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
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