昔、ある電子部品系の中堅企業で中途採用面接を受けたことがある。

年商は200億円程度で、従業員は確か1000人を超えていただろうか、そこそこの会社だ。仮にK社とする。

IPO(株式の新規上場)を控えているということで、管理系の課長レベルを求めていると言う話だった。

 

その時、私は30代半ばの妻子持ち。

大手証券会社から転じて、年商50億円、従業員はパート・アルバイトを含めて700人を超える会社でNo2のポジションにいた取締役だったが、実は、3ヶ月ほど後には素浪人になることが決定していた

7年に渡りなんとか立て直しに取り組み、最後は会社を売却するまで、ステークホルダーと利害の調整に折り合いをつけることができ、会社を去ることを決めたばかりのことだった。

 

珍しい経歴、ということに加え、再就職先を決めるにあたっては、ターンアラウンド(事業再生)の現場での実績を評価され、正直多くの会社から声を掛けてもらった。

例えば、経営不振に陥っていた、全国的にリゾート事業を展開する会社の副社長相当ポスト。

あるいはスタートアップではあるが、全国的に注目を集めていた最先端技術でIPOを狙う会社のCFOポストなど、いずれも会社のNo2としての要職ばかりだ。

 

とはいえ、ターンアラウンドの現場というものは本当に過酷だ。

痛みを伴わない業績の回復というものは幻想的で、力のない役員には退職勧奨を言い渡さなくてはならないし、従業員には、給与の一律カットという最悪の施策を頭を下げてお願いしたこともある。

深夜の3時に一人、広いフロアにポツンと座りながら、

「なんでこんなことやっているのだろう・・・」

と、ふとバカバカしくなることもあった。

 

おそらく、7年近く休み無く業績立て直しや資金繰りに追われ心身ともに疲労困憊していたので

「中間管理職で、ぼちぼち、急がずに生きる選択肢を考えるのもいいか」と、そんな思いもあって面接を受けに行ったのがK社であった。

 

凡庸な人事部長

この時に面接をしてくれたのはK社の人事部長。

年齢は見たところ40代から50代。丁寧な話しぶりの紳士であった。

 

しかし、面接が始まると、私は閉口した。

いい人なのだが、投げかけてくる質問が恐ろしく凡庸なのだ。

志望動機はまだ良いとして、趣味、休みの日の過ごし方など、一体この人は何を聞き、何を知りたいんだと思わせる、時間の無駄としか思えないようなやり取りばかりが延々と続いた。

 

こちらの人となりを見極めようとしているかもしれない、とも思ったが、書類ばかりに目を落とし、人物をその目で見定めようとする様子がない。

そして、つまらないやり取りのあと

「今回、優秀な人物であると紹介を受けていますので、ぜひ後日、社長に会って欲しいと思っています」と面接を切り上げようとしてきた。

 

要するに、彼は一通り経歴をサラリとチェックしたあと、自分で応募者を評価せず、面接を社長に丸投げしようと思っているのだ。

私は「仮にも、幹部を採用しようとしている状況で、こんな質問しかできない人の下で働いて良いのだろうか」と、さすがに怪しく思い、以下のような質問をした。

「私が貴社に入社するのであれば、期待される役割はなにか」

「想定される私のポジションと年収はいくらか」

「部長が考える、会社がIPOをする目的は何か」

これに対する彼の答えは、以下のようなものだった。

 

「社内管理は今後、管理部として一本化されます。その部門長である私の補佐役としての活躍を期待しています。年収は1000万円程度を考えています。」

「なるほど。では喫緊の、管理部の課題は何ですか?」

「全社的なコストコントロールです。特にコストカットが課題です。同業他社に比べてコスト高な製造現場の改善を管理部で主導していきたいと考えています。」

まあ、妥当な回答だ。

しかし、この人を信用してよいかどうかは、もう少し切り込まなくてはならない。

 

「わかりました。確かにそのポジションは私の経歴からは評価されると思います。では質問を変えますね。部長様が私の上司である意味はありますか?」

「は?」

「おそらく私は、労務費の管理とコントロールに加え、この業種であれば、原材料費と水道光熱費の大幅な圧縮にも多くのオプションを持ち合わせています。」

「でしょうね、だから評価しているのです。」

「さらに申し上げますと、貴社のように業歴の長い会社は勤続年数が長いだけで役職についている人が多いのも改善課題です。私は現職で、古株というだけで幹部にあり、給料に見合っていなかった取締役を全員解任しました。」

「……」

「はっきり申し上げますと、私を採用し部下にするということはそれだけの覚悟を持っていただきたい、というリクエストです。その上で私を評価して、社長面接に通されますか?」

 

ちょっと失礼な言い方だったかもしれない。

が、彼の本質を見るには、本音でぶっちゃけて語ることが必要だ。

人生の一部を賭けて、成果に邁進するならば、絶対に率直でなければならない。

 

ここで部長が笑って「生意気、言うねえ」くらいで切り替えしてくれればよかったのだが、みるみるうちに、部長さんの顔が真っ赤になっていく。

もちろん私も、挑発や遊び目的でこんな事を言っているわけではない。

本気で会社を良くしようと考える社員、あるいは高額の給与をもらいプロ意識で働く社員にとってその上にいる人間は、少なくともその社員以上に、成果に対して真摯でなければならないからだ。

社員は無能でも許されるが、幹部が無能であるのは許されない。

 

上に立つ人間が無能であることによって引き起こされる不具合は、ターンアラウンドの現場でも、数多く目にしてきた。

ただ古株と言うだけで役職にあり、多額の給与を受け取っている管理職に対する社員からの批判。

会社を良くしたいという情熱があるのに、その上司が無能であるがゆえに会社に愛想を尽かし、辞めていく若手社員。

 

結局、部長なり課長なり、セクションの責任者という肩書を持つものは、実務能力そのものよりも

「自分以上に優れた能力を持つ、生意気な部下を使いこなす覚悟があるか」

という素養を持ち合わせているかに尽きる。

 

その程度の素養すら持ち合わせていない古株や古参社員が幹部として幅を利かせている会社であれば、いずれ行き詰まることになるのは確実だ。

そして私も、仮に課長というポストに一歩下がるとしても、今さらその程度のレベルから社内営業をする必要に迫られる組織で働くことはできない。
その事を理解してもらうため、あえて面接で挑戦的な立ち居振る舞いをしたが、社長面接に進むことはなかった。

 

年功序列によって「能力がないのに幹部になってしまった人物」の害悪

その後も、面接に凡庸な幹部が出てきたケースでは、同様の結果に終わった。

正直私は「まあ、これが年功序列の弊害だよな」と達観していた。

・直属の上司にとって脅威になるほどに優秀であってはならない。

・会社の利益よりも上司の利益をアピールしなければならない。

 

こんな会社では、成果が出るはずもない。また、意欲のある社員ほど離職していくことになるだろう。

 

考えてみればこれは、本当に恐ろしいことだ。

上司の判断が間違っている場合、あるいは上司が無能であり会社や組織の利益を毀損している場合でも、部下はそれを指摘したら、たちまち立場を失う可能性があるということでもあるだろう。

 

この辺りにもあるいは、意欲のある人材ほど組織に馴染めず、あるいは若手社員が早々に最初に就職した会社を辞めてしまう原因の一つにもなっているのではないだろうか。

そう、面接の帰りにしみじみと思った。

 

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(2019/2/20更新)

 

【著者】

氏名:桃野泰徳

大学卒業後、大和證券に勤務。中堅メーカーなどでCFOを歴任し、その後独立。会社経営時々フリーライター。

複数のペンネームでメディアに寄稿し、経営者層を中心に10数万人の読者を持つ。

運営する個人ブログでは月間90万PVの読者を持つが、リア友になるのは40代以上のオッサンばかりで嬉しいやら悲しいやら。

(Photo:Anne)