またひとつ、女性をテーマにした広告が炎上した。
今回は、小学館が発行する女性誌『Domani』のキャッチコピーだ。
「働く女は、結局中身、オスである。」
「”ママに見えない”が最高のほめ言葉」
「忙しくても、ママ感出してかない!」
などなど、まぁ炎上するのもさもありなん、という感じだ。
女子ハンドボール世界選手権大会が開催される熊本では
『手クニシャン、そろってます。』
『ハードプレイがお好きなあなたに。』
なんて街灯バナーを出して批判が殺到、謝罪と撤去にいたった。
仲良く見える女性たちがウラで髪や服を引っ張っている、ロフトのバレンタイン広告。
パイを投げつけられた女性に、誤解をまねくようなポエムコピーをつけたそごう。
女性のワンオペ育児賛美のように見えるユニ・チャームのCM。
職場で男性のセクハラ発言に対し「(あなたが)変わるべき」としたルミネのウェブムービー。
男性上司に「がんばりが顔に出ているうちはプロじゃない」と言われる女性を描いた資生堂……。
いくらでも例はでてくる。
なんで、これらは炎上したのだろう。
女性蔑視、ジェンダーロールの押し付け、男性目線、広告の狙いがわからない。
そういうのももちろんあるけれど、こういった広告への抗議や批判の理由のひとつは、「なんだよわたしの味方じゃないのかよ」という、がっかりする気持ちがあるような気がする。
女性にウケるキャッチコピーはどういうもの?
女性に関する広告の炎上は、ここ数年でかなり増えた。
なにをもって「炎上」と言っていいのかはわからないが、多くの対応が謝罪&撤去であることを考えると、企業的にも「よけいな地雷を踏んじまった」という自覚はあるのだろう。
一方で、「騒ぎすぎ」「言葉狩り」「なんでも文句を言うな」と言う人もいる。
このあたりは個人の価値観によるけれど、たしかに文句ばっかり言うのもアレなので、「いいキャッチコピーとは」と考えてみた。
最近では、ゼクシィの
「結婚しなくても幸せになれるこの時代に、私は、あなたと結婚したいのです」
というコピーが話題になった。
『ブレーン読者が選ぶ広告グランプリ2017』のグランプリに輝いたCMで、わたし自身、とてもいい広告だと思う。
パンテーンの
「自由な髪型で内定式に出席したら、内定取り消しになりますか?」
「ひっつめ髪をほどいた就職活動が、この国の当たり前になりますように」
もまた好評だった。
「#就活をもっと自由に」というハッシュタグは話題になり、多くの人がSNS上でリアクションしている。
同じく就活をテーマにした、伊勢半の広告もいい。
「顔採用、はじめます。」
という思い切った一文から、就活用メイクではなく、ばっちりメイクでもノーメイクでもいい、本当のあなたに会いたい、と続く。
どれも、とても素敵なメッセージだ。そうそう、こういうのがほしかった。
求められるのは強い言葉より優しいメッセージ
この3つの広告は、だれのことも否定せず、自由を認め、願い、ターゲットとなる人たちにそっと寄り添っている。
強いメッセージで「こうしろ」「こうあるべき」と押し付けることもなく、ただ「こうなったらいいよね」「こういうの素敵だよね」と言っているだけ。
素朴で率直、わかりやすく優しいメッセージだから、ウケたのだと思う。
これがたとえば、「結婚しないと幸せになれない」と生き方の選択肢を減らしたり、「自由な髪型で内定をとるためにがんばろう」とこっち側に努力を押し付けたり、「就活メイクにばっちりの化粧品です」と化粧の強制ととられうる表現をしたら、たぶんウケなかった。
いま多くの人を惹きつけるのは、強いメッセージじゃなくて、優しいメッセージなのだ。
じゃあ、なぜ優しいメッセージがウケるのか?
それはたぶん、強いメッセージに思わず反抗したくなってしまうほど、多くの人のこころに余裕がないからだと思う。
女だから子どもを産んで家庭的なお母さんになれ、かと思いきや、働いてかっこいい女性になれ。しかもそういうプレッシャーと戦うことも期待されるんだから、いや本当、勘弁してください。
これはたぶん男性も同じで、いま「24時間働けますか」なんて言われたら、「無理だろ殺す気か!? 働いても給料は上がんないじゃん!」と不満が溢れてくるだろう。
権力のある人や異性から笑われて「悔しかったら変わりましょう!」なんて言われたら、だれだってイラっとすると思う。
多くの人は日々、社会のなかで、「プレッシャー」という無言の強いメッセージを感じている。でも社会全体が、「こうあるべき」に対する嫌悪感を強めていっているのも事実。
プレッシャーを感じつつ、そのプレッシャーをおかしいとも思う。そのあいだに立たされているから、多くの人が疲れるのだ。
違和感をもちながらもプレッシャーを受け入れてそのとおりにするか、おかしな風潮と戦うかの、2択だから。
そこでさらに「こうしろ!」「こうだ!」という強いメッセージを受信してしまうと、もういっぱいいっぱいになるんじゃないだろうか。
少なくともわたしは胃もたれする。「うるさい放っておけ」と思う。
企業に理想の消費者像を押し付けられるのはごめんだ。ただ「あなたの味方です」と言ってもらえば、それで十分なのに。
女をターゲットにしておきながら女を敵に回す悪手
結婚しない人の自由を認めつつ結婚する人へ向けたゼクシィや、髪型の自由を求めるパンテーン、性別や就活メイクなんかにとらわれず自分らしくおいでという伊勢半。
どれもターゲットに対し、「あなたの味方ですよ」と言っているのだ。
だから、それを見たほうは安心する。このブランドはわたしを傷つけないんだ、と。わたしはこのままでいいんだ、と。
お互いの背中を引っ張りあっている女性を描いたロフトは、バレンタインチョコのメイン購買層である女性の味方とはいえない。
働きながら母親業もこなす女性にたいし「”ママに見えない”が最高のほめ言葉」というのは、その努力をバカにしていると理解されてもおかしくない。
女をターゲットにしているくせに、女である「わたし」の味方じゃないというのは、やっぱりモヤっとする。
だから批判したくなるし、もうこれ以上「女」であることでわずらわされたくない!と言いたくもなる。
逆にいえば、たいしたことを言ってなくとも、「わたしはあなたの味方です」と優しくターゲットに寄り添いさえすれば、多くの消費者、広告のターゲットはすんなり受け入れると思う。
心に残るコピーは、素朴で優しい
というわけで、味方感あふれている、わたしが好きなコピーをいくつか挙げておきたい。
たとえば、『ココロも満タンに、コスモ石油』。どこへ行け、と指示するわけではなく、ただ「ドライブ楽しんでね!」というコピー。
『すぐそこサンクス』『あなたとコンビにファミリーマート』『セブンイレブンいい気分』など、コンビニ系もなかなか強い。ふらっと遊びに行ける感じがする。
「そうだ、京都行こう。」なんて、ただの提案というか、思いつきだ。それでも「そうやってふらっと来ても楽しめるところだよ」「いつでも来てね、待ってるから」という優しさがにじみでている。
どれもこれも、「あなたの味方ですよ」と伝えているのだ。「だからどうぞいらっしゃい」と、笑顔で優しく手招きする。押し付けがましさはない。
愛されるキャッチコピーというのは、ものすごい強いメッセージを発しているわけではなく、むしろ素朴。大それたことを言っているわけではなくて、ただ「わたしはあなたの味方だよ」と言っているだけ。
だから消費者は安心して利用できるし、心に残るし、ましてや炎上なんてしない。そう思う。
キャッチコピーは「あなたの味方」宣言
アクセス数を稼ぐために過激なタイトルをつけるネット記事やフェイクニュース、あえてだれかを貶めて注目をあびる炎上商法、「こうするべき」というプレッシャー。
そういったものを日々受け取っている人たちが求めるのはきっと、優しくて素朴で無理のない、「あなたの味方です」というキャッチコピー。
言葉が強ければ強いほど、押し付けがましくなる。そういう重荷は、もうこれ以上いらない。お腹いっぱい。派手で強い言葉を使って押し付けなくても、丁寧に伝えてくれればそれでじゅうぶん。
少なくともわたしは、「働く女はオス」と銘打つ雑誌をより、「結婚してもしなくてもいいけどあなたとだからしたい!」という気持ちでつくられた雑誌を読みたい。
これからのキャッチコピーや広告は、強い言葉でターゲットの心に突き刺すよりも、忙しくて疲れたひとびとの心に浸み込み、癒し、いっしょに肩を並べる味方だと思ってもらえるようなもののほうが、いいんじゃないか。
広告=「あなたの味方」宣言だと考えれば、炎上なんてしないだろう。たぶん。
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【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
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