学生時代にやってみてよかった事の1つにリゾートバイトがあった。

リゾートバイトというのは、夏季・冬季などの長期休暇中に、海やスキー場にあるホテルの従業員として働くものだ。

 

どういう経緯だったかは忘れたが、学生時代に「最も印象に残ったアルバイト」の話をいろんな大人に聞きまくっていたところ、誰かが

「リゾートバイトがいろんな意味で凄かった」

と言ってたので、興味を持った僕は冬休みにとあるゲレンデにて年末年始を過ごす事にしてみた。

 

申込み自体は非常に簡単だった。インターネットのバイト検索サイトで、テキトーに興味を惹かれたモノを選んで申込みを行うだけで登録完了である。

なお、交通費と寝食費は当然向こう持ちだ。

僕は「ひょっとして、恋のロマンスとかあったらどうしよう」だなんて寝ぼけた事を考えつつ、夜中に新宿で夜行バスに乗って、新潟のとあるゲレンデへとドナドナされていく事となった。

 

ちなみに当然だけど、恋のロマンスは無かった。ハゲのバイオレンスはあったけど。

 

飲食のサービススタッフは凄い

早朝に現場についてホテルの支配人の人に挨拶した後、僕はレストラン部門に配属される事になった。

そこはまさしく地獄だった。僕は4テーブル分のサービス役を仰せつかったのだけど、これが本当に大変だった。

そのホテルではランチ・ディナー共にコース料理を提供していたのだけど、この進行具合を調整するサービス役というのは本当にシンドイ仕事だった。

 

コースは前菜・スープ・メインのように、一品・一品進行する。

当然、厨房にいるスタッフは客席の様子などわからないから、サービススタッフが客と厨房の間を取り持ち、適宜連絡して、全テーブルのコースが滞りなく進行するように務めるのだけど、これが本当に物凄く難しい。

 

料理が最適なタイミングで出るよう、僕らサービススタッフは逐次自分が任されたテーブルをみて客の進行具合を把握し、そろそろ食べ終わりそうだと判断したら、厨房に次の皿を依頼するのだけど、これが本当に人によってバラバラなのだ。

ある客はパクパク食べるし、またある客は話に夢中になって、全然皿の上の料理が減らなかったりする。

このように4組それぞれのコースの進行具合が毎日毎日全然違うので、いつまでたっても仕事に慣れず、凄くシンドかったのを今でも覚えている。

 

今でもよく覚えているのだけど、とある客があまりにずっと喋ってるから、もう食べないのかと思い、厨房に「次の皿の準備、お願いします」と依頼した後に、皿を下げようとすると

「まだ食べるからもうちょっと待って」

と言われ、その皿が食べ終わる前に厨房から

「次の料理ができたから、熱々のうちに客に持ってってくれ」

と言われ、目の前が真っ暗になった事がある。

こういうミスをする度に、僕は圧倒的な絶望感に打ちひしがれたものだった。

 

こうしてコース料理の進行具合を把握するだけでも大変なのに、その合間合間で水をくれやらワインの注文が入ったりするやらで、もう僕の頭はてんてこ舞いである。

「この料理にあうオススメのワインは?」と聞かれても、その当時の僕はワインなんて全然詳しくなかったから「・・・」状態だったし、「この料理はなんて料理?」なんて聞かれても、ほぼ毎日メニューが変わるから、覚えきれるはずもなく

「・・・お、お肉料理ですね、ちょっと待ってください。確認してきます!」

ぐらいしか答えられなかった。

 

これが週に何日かならまだしも、延々と契約した一ヶ月もの間ずっと続くのである。

飲食業の労働環境は過酷だ。夜中の23時に仕事が終わり、食事を食べて風呂に入って就寝したら、もうランチタイムが始まる。

 

初めは「医学生なのか。じゃあ頭がいいからパフォーマンスもいいだろう。期待してるぞ!」と激唱を飛ばしていたハゲの支配人も、だんだんと僕が使えないとわかると、見えない所で足を蹴っ飛ばしたり、「なんで何回も教えたのに、いつまでたっても仕事を覚えないんだ!」と恫喝したりと、次第にパワハラちっくな制裁がしょっちゅう下るようになった。

「サービス業って、なんて辛いんだろう。レストランで飲み物が遅かったり、頼んだ料理が出てくるのが遅くても、絶対にサービススタッフの人に二度と文句なんて言えないわ・・・」

 

こうして、3食付・住み込みで数週間ホテルに缶詰された僕は、終わりの日がくるのを刻一刻と待ちわびていた。

その間もいろいろなドラマチックなバイオレンス経験はあったのだけど、全部書いてると永遠に終わらないので、僕のリゾートバイトの経験についてはこんな所で割愛しよう。

 

こうして僕は10万程度のお金と、ホテルや飲食に関わるサービススタッフへの敬意を学び、幸せな日常生活へと帰る事となった。

正直な事をいうと、終わったばかりの頃は、リゾートバイトをオススメされた理由がサッパリわからなかった。

確かに学生にとっては10万円は大金だったし、タコ部屋に詰め込まれ様々な社会階層の従業員と関わり合うのは楽しかったけど、それ以上にクッソシンドかったとしか思えなかったからだ。

正直、内情をしってたら、たぶん絶対に応募しなかっただろうと思う。

 

ただ最近になって、Google mapでその街をみた時、なんともいえない懐かしい感情がブワッとせり上がってきた。

そうして思い出を愛でている中で

「ああ、この感情はリゾートバイトをあの時にやらなかったら、絶対に味わえないものだったんだなぁ」

と思い、感慨深くなってしまった。

まさに喉元過ぎれば熱さを忘れるである。

 

お金はモノよりも体験に突っ込んだ方が幸せになれる

これと関連した話を1つしよう。コーネル大学の心理学教授、トーマス・ギロヴィッチ博士らは、20年にわたり、お金を何に使えば人は幸せになれるのかを研究した。

その結果、経験にお金を支払う方が、目に見えるモノを買うよりも幸せを感じやすい傾向がある事を突き止めたという。

<参考 お金を「経験」に使うことで、人は幸せに…!?

 

つまり、ブランド物のバッグや高級な時計を買うよりも、旅行に行ったり好きな歌手のコンサートに行ったりするほうが、相対的には幸福の増大に寄与するのだという。

その理由を博士はこう分析している。

「物を所有することに比べると、経験は一瞬で消え、後にはほとんど何も残らないと考えられている。しかし実際は経験したことはずっと覚えているが、所有物については忘れてしまうものだ」

 

例えば、家族旅行は何年たっても忘れられないものだが、数年前に買った高い買い物についてキチンとおぼえている人はとても少ない事を考えてもらえば、これの整合性は簡単にわかるだろう。

「幸せの敵の1つは、慣れである。幸せを感じるために物を買い、それに成功するとしよう。しかし、それではほんのわずかの間しか幸せになれない。なぜなら最初のうちは新しいものは刺激的だが、そのうちに慣れてしまうからにほかならない」

 

素敵な恋人との恋愛も、いつか日常生活となるし、欲しくて欲しくてたまらなかったオモチャも、手に入れてしまえば色あせるものだ。

けど、思い出はいつでも色あせない。そういうものである。

 

思い出は何よりも価値がある

思うに、豊かな人生というのは、結局のところ積み上げてきたこれまでの人生の集大成にほかならない。

ある日、ポーンと天から1億円が降ってきたら、その時は確かに幸せになれるかもしれない。

けど、冷静に考えてみればわかるけど、お金≒幸せではない。お金が無いのは不幸だけど、お金を上手に使えないのも、それはそれで不幸だろう。

 

どんなにお金があろうが、嫌な奴らと付き合い続ける事を強要されたら全然楽しくない。

お金は、結局のところ便利なツールでしかないのだから、それに振り回されるのは本末転倒である。

 

故に自分が幸せになれる生活水準を絶対値として把握できたら、それ以上は過度に追い求める必要なんてない。

あとは旅行とかのレジャー体験に突っ込んだほうが絶対にいい。

 

そして旅行に行くようなお金がないからといって、思い出が作れないと諦める必要もない。

例えば、僕のリゾートバイト経験なんかがそうだけど、非日常を体験するには必ずしもお金が必要というわけでもない。

 

振り返ってみれば、僕のリゾートバイト体験はお金を稼ぎつつ、サービス提供者の裏側を覗き見れるよい機会であったな、と思う。

家でゲームをやっていたんじゃ、こんな密度の濃い思い出に浸る事は絶対にできなかっただろう。

 

僕にパワハラを食らわせたハゲの事は一生許さないけど、まあ総じて見ればリゾートバイトは良い経験だったなとは思う。

お金をもらって、シベリア収容所の囚人の気持ちを疑似体験できたと思えば、まあ悪い経験でもない。

 

思い出は、何にも増して価値があるし、振り返った時にこそ、その真価が発揮されるものなのだ。

良い思い出も、大変な思い出も、たくさん作れば作るほど、人生の肥やしになる。

 

さあ、あなたも非日常のバカンスへ出かけよう。10年後、それは素敵な思い出になっているはずだから。

 

 

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(2019/2/24更新)

 

 

【プロフィール】

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高須賀

都内で勤務医としてまったり生活中。

趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。

twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように

noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます→ https://note.mu/takasuka_toki

(Photo:Jonas Bengtsson