いきなり全然関係ない話から始まって申し訳ないんですが、皆さんドラえもん好きですか?
しんざき家では、子どもたちが全員くまなくドラえもん好きでして、長男は今でも原作ドラえもんをちょくちょく読み返していますし、毎年大長編ドラえもんを家族5人で観に行っては、長女次女辺りはルナとルカごっこをやったりセーラごっこをしたりしている訳です。
ドラえもんで一つ、私が凄いと思っているところが
「40年近く前に出てきたひみつ道具が、最新の映画でも何の違和感もなく使われている」ということです。
例えば月面探査記ではお馴染み「桃太郎印のきびだんご」が出てくるんですけど、これ初出1975年なんですよ。44年前。
44年前の漫画で出てきたアイテムが、最新の映画で何の違和感も古臭さもなく使われている。
40年以上くさらないアイディアと発想っていうのも凄いですけれど、そこを中核にして、大人も子どもも何の違和感もなく同じ土台で感想語りが出来る。
40年以上にわたってシームレスで楽しまれ続けているコンテンツって本当に物凄いですよね。
ところで、ドラえもんの作者である藤子F先生が、かつて好んで使われた言葉として、「SF(すこし・ふしぎ)」という言葉があります。皆さんご存知ですよね。
F先生は、勿論様々なSF短編を描かれているんですが、F先生ご自身は、それらを「サイエンス・フィクション」ではなく、「ありふれた日常の中に紛れ込む非日常的な事象」というテーマで描かれていた。
それを端的に表した言葉が、F先生の言う「すこしふしぎ」であると、そういう話なんですね。
登戸にあるドラえもんミュージアムに行かれると、この辺の話詳しく読めるんでお勧めです。
楽しいですあそこ。
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それはそうと私の考えでは、F先生の少し前に、この「すこしふしぎ」を実践していたSF作家がいます。
その人の名前は、レイ・ブラッドベリ。
2012年に逝去されたSF小説の大家であって、しんざきが「好きな作家を3人挙げてみて」と言われれば必ず入る一人でもあります。
しんざきは海外SF小説というジャンルが好きなのですが、中でもR・A・ラファティ、オースン・スコット・カード、そしてブラッドベリの3人は、作者名をみると無条件で手にとってしまう程度には偏愛しています。
ブラッドベリの特徴は、作風というか、その世界設定の幅がとにかく「広い」ということです。
世界観が縦横無尽。遥か未来であることもあれば、異世界であることも、中世ヨーロッパであることも、まるっきし現代のその辺の街であることもある。
その枠は、いわゆる「SF」の枠には到底収まり切りません。
SF小説として手に取ってみれば、「これはSFなのか…?」と首を傾げてしまうようなものもあります。
ブラッドベリの世界の中には、SFもあれば、ファンタジーもあり、ホラーもあり、歴史もあるのです。
そして、その世界観の中には、必ずその世界観の中での「日常」があります。
たとえ現代のわれわれからすると奇想天外な世界観であっても、ブラッドベリはそれを「作中の中でのありふれた日常」として再定義してしまう訳で、そこもまたブラッドベリの凄いところなんですが、登場キャラクターがそれぞれ過ごしている「日常」の中、どこかに「不思議」への入り口があり、気が付くと読者はその入口を踏み越えている。
そこで味わうことの出来る浮遊感が、ブラッドベリ作品の真骨頂だと、私はそんな風に思っているのです。
ブラッドベリは「何かが道をやってくる」や「華氏451度」のような長編も勿論書いている訳で、これも勿論超面白いわけなんですが、やはり「短編集の名手」という印象をお持ちの人はおそらく多いと思われ、そんなブラッドベリの短編集の中でも私が大好きな二作が、「十月はたそがれの国」と「ウは宇宙船のウ」の二冊です。
有名作なのでご存じの方も多いとは思うんですが、勿論そんな中でも未読の方もいらっしゃる筈で、本記事では、「ウは宇宙船のウ」の中から私が大好きな一作、「霜と炎」という短編についてご紹介したいと思います。
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「霜と炎」は、地球ではないどこか別の星の物語。
地球より遥かに太陽に近いその惑星では、人間の寿命がたった8日間しかありません。生まれてから、成長して、恋愛をして、時には戦争をして、老衰で死ぬまで、たった8日間。
まずこの設定の時点で、物凄い舞台立てだと思いませんか?
遠い昔、宇宙船でその惑星に不時着した人々の生き残りが、その8日間の世代を繋いでいます。
日中は数秒で人が死ぬ酷暑、夜間は僅かな時間で凍死する極寒。
人々は、昼と夜の境目のほんのわずかな時間だけ、外で行動をすることが出来ます。
棲む洞窟によっては、ほんの数日寿命が延びることもあり、人々はその洞窟の居住権、つまりはほんの数日の寿命を巡って死ぬか生きるかの戦いをすることもあります。
主人公は、そんな惑星に生まれ落ちた少年「シム」。
種族的な記憶を受け継いだ彼は、生まれてすぐにこの状況の理不尽さを直感し、どうすればこの状況から脱することが出来るのかということを考え始めます。
ただ一つの希望は、まさにこの惑星に不時着した宇宙船。
宇宙船までたどり着くことさえ出来れば、致命的な太陽から身を護ることも、惑星から脱出することも出来るかも知れない。
しかし、外で行動出来る猶予のほんの十数分という時間は、宇宙船にたどり着くにはあまりにも短過ぎる。
こんな状況での、シムの成長、戦い、恋愛、挑戦を、ほんの80ページほどの短さで描き出しているのが、この「霜と炎」という作品です。
ブラッドベリのまず凄いところは、この「たった8日間の人生」という凄まじい状況でも、そこに「その中での日常」というものを表現してみせている点です。
例えば、夜が明けて朝になると、絶壁から岩石が落ちてくるのを避けながら、外に出て食べ物を探すことの出来る時間が訪れる。
僅かな間に素早く育った果実を収穫し、時には緑草を奪い合い、日光が致命的な角度になるまでに素早く洞窟に逃げ帰る。
時には落石に潰されて死に、時には太陽が昇るまでに洞窟にたどり着けずに焼死する。
それが、作品世界内では何度も何度も繰り返されている「日常」な訳であって、人々がなんら違和感なくそれを「日常」としてとらえていることが、まずこの「霜と炎」では描かれているわけなんです。
文字通りあっという間に人が生まれて、あっという間に人が死ぬ。そういう日常。
で、その「日常」から足を踏み出そうとするシムが、その世界の中では異質な存在なんですね。
この「霜と炎」という物語は、短編SFでありながら、シムというキャラクターの成長物語、あるいは英雄譚、冒険譚でもあります。
シムが生まれてたった1日後の描写、これが私物凄く好きなんですが、ちょっとだけ引用させてください。
シムは思わず大きな声をあげて、ともかくこの世に生まれてから初めてのことばを口にした。
「なぜだ…?」
みるみる母親の顔がはっとこわばった。
「あの子は口をきいた!」
「たしかにな」と父親はいった。
「あの子がなんといったか聞いたかね?」
「聞いたわ」と母親はひっそりといった。
生まれて初めて口にする言葉が「なぜ」。
このシーン、他にも色んな意味で印象的かつ象徴的なシーンなので、是非読んでみて頂きたいんですが、シムというキャラクターの基盤が、この本当にただの一言で表されているんですよね。
生まれて僅か1日で、シムというキャラクターは探究者になった。
このシムの探求、「宇宙船にたどり着く」というただ一つの目的を追いかけるのが、この「霜と炎」という作品のまさに中核です。
ここから描写されるシムというキャラクターの魅力が、「霜と炎」の魅力の大きな部分を占めています。
意志が強く、ひたすら目的にまっすぐで、一方目的の為なら犠牲や切り捨てに思い悩んだりもしない。
シムって、実は物語中で結構な人や思いを切り捨ててるんですよね。
普通の作品ならもうちょっとその辺に思い悩みそうなところ、全く気にした様子を見せないのも、この世界の「日常」というシビアさの、ブラッドベリ流の表現の一つでもあるように思います。
そんなシムと争うことになる勢力やキャラクターもあれば、シムに寄りそうことになるキャラクターもいます。
この物語のヒロイン的な立ち位置にあるのが、シムと同じ洞窟に生まれた少女であるライトなんですが、彼女も実に味のあるキャラクターでして。
一途にシムについてくるヒロインでありながらも、物凄く意思は強いし根性もあるし、けれどちゃんと人間くさいところもある、まさにこの作品ならではのヒロインなんです。ライトさん可愛い。
シムとライトの二人がたどり着いた場所には何があるのか。
未読の方には、是非読んでみて頂きたいと考える次第なわけです。
とてつもない世界観設定でありながら、きちんと冒険譚として成立していて、物語上の問題とその解決の為のギミックもあって、かつ読後感も爽やか。
そんな物語がこの「霜と炎」だ、という話でした。
この「霜と炎」以外でも、この「ウは宇宙船のウ」には色んな名品が含まれています。
中には、他の色んな作品に本歌取りされることによって、今ではむしろ新鮮に感じられなくなった作品もあるかも知れないですが、それでもブラッドベリの作品が輝きを失わないのは、彼の世界観の圧倒的な広さ、奥深さ、そして根本で描かれる「日常」の普遍性に依るとしか言いようがないでしょう。
作品全体の雰囲気がどこか寂漠としている「霧笛」、宇宙人との抗争というモチーフを取りながらも宇宙人自身は一切姿を現さない「長雨」のような有名作もさることながら、宇宙時代にも裕福ではなく、けれど生き生きとした庶民の生活を描く「宇宙船」や「いちご色の窓」なんかも、現代でも十分に通用する名作だと言っていいのではないかと思っています。
まあ私が言いたいことを二行でまとめますと、
・ブラッドベリ面白いですよ!!特に「ウは宇宙船のウ」、その中でも「霜と炎」がブラッドベリ初心者にもお勧めです!!
・ライトがかわいい
ということになりまして、他に言いたいことは特にない、ということを最後に申し添えておきます。
今日書きたいことはそれくらいです。
【安達が東京都主催のイベントに登壇します】 ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。
(2025/6/2更新)
こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ——
「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。
【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
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