わたしのなかで、印象に残っているやり取りがある。
とある人に、働き方について聞かれたときのことだ。
「いくら稼いでいますか?」
「仕事は生活の手段なので、そんなでもないですよ」
「もっと稼ぎたいとかは?」
「うーん、とりあえずいただいたお仕事を一生懸命って感じで」
「じゃあ、どんな目標をもっていますか」
「目標……。そういうのもないです。毎日淡々と丁寧に、を心がけているだけなので」
「雨宮さんは、有名になりたいとかお金を稼ぎたいとか、そういう野心がないんですね……」
あ、この人はわたしにがっかりしてる。直感的にわかってしまった。
この人が知っているフリーランスというのは、高い目標を掲げ、「もっともっと」と野心に燃えている人々なのだと思う。
エネルギッシュに将来のビジョンを語られることを期待していたのなら、わたしはさぞかし、意識が低くつまらないフリーランスに見えただろう。
でも、「それが許されるのもフリーランスのよさだぞ!」と言いたい自分もいる。
「収入=フリーランスの格」という風潮
フリーランスという働き方への注目度は、どんどん高まっている。
フリーランス協会によると、国内労働力人口の約6分の1、100万人あまりがフリーランスらしい。
でも、『フリーランス』というと、どうも「会社員としてスキルを磨いて独立、会社員よりも成功しているプロフェッショナル」という姿を連想されがちだ。
たしかにそういう人はいるし、フリーランスとして働くうえで、会社員としての経験は大きな武器になるだろう。
うまくやれば会社員時代の数倍は稼げるし、実際のところ、「収入=フリーランスの格」と考えている人は少なくない。
だから、一部のフリーランスセミナーやオンラインサロンのような、価格が高いだけで再現性のないノウハウをえるためにお金を使ったり、自分を格上に見せようと変なキャラ作りをしていらぬ反感を買ったりする人がいるのだろう。
少しでも「稼いでいる」「成功している」人に見られるように、そういう人たちの仲間入りができるように。
それがまちがっているとは思わないけど、「フリーランスならより多く稼ぎ成功しなきゃいけない」かのような『べき論』には、ちょっとした違和感がある。
そりゃまぁ、どうせ働くなら稼げたほうがいいし、成功したほうがいいけども。
でも、「どれくらいで満足するか」を自分の裁量で決められるのが、フリーランスの良さじゃないんだろうか?
自由が魅力のフリーランスが窮屈になる
どの統計だったか覚えていないけど、クラウドソーシング系の統計で収入が公開されたとき、「トップでもこれだけしか稼げてないなんて!」と話題になったことがある。
実際、「フリーランスです! 収入は月5万円!」と自己紹介する人がいたら、「その程度でフリーランスって」と嘲笑が返ってくるだろう。
「ある程度稼げていないと認めないぞ!」という、謎の審判目線で語る人も少なくない。
でもわたしは、収入の多寡にかかわらず、フリーランスとして仕事を受注していれば堂々とフリーランスを名乗っていいと思うのだ。
フリーランスという働き方は、「会社員より稼ぐこと」「社会的に成功すること」を指すのではない。
自分に合った場所や時間、仕事を選び、自分のペースで働くこと。
「自由」な働き方がフリーランス最大の魅力なのに
「こうでなければフリーランスとして認めん!」「フリーランスはかくあるべし!」
といったプレッシャーは、本当にしょうもない。
なんのための自由だ、なんのためのフリーランスだ。うるせぇ放っておけ、と思う。
いろんな「フリーランス」があっていいじゃないか
わたし自身、フリーランスになったのは事故のようなものだった。
ドイツの大学中退を決め、とりあえずバイトをしながら、趣味でブログを書く毎日。
書くことの楽しさに目覚めて「ライター」を名乗ったはいいものの、直後にバセドウ病が発覚し、体調的にバイトを続けるのが困難に。
だからバイトを辞め、気がついたらフリーランスライター一本で生きていくことに……。
そんな経緯だったものだから、5万稼げただけでもうれしかったし、体調と気分に合わせて働けるフリーランスはなんて最高なんだ!といまでも毎日感じている。
以前取材させていただいたフリーライターの女性も、
「育児を機に仕事を辞め、社会から孤立しているような気になった。少しでも自分でお金を稼げることがうれしい」
と言っていた。
わたしだってその女性だって、収入的には「成功したフリーランス」ではないのだろうけど、満足して働いているわけだ。
そんななかで
「フリーになるなら毎月30万円は稼がないと」
「いや50万は必要だろ」
「現状維持は思考停止。上を目指さない人間は成長しない」
なんて強い言葉を見ると、「あれ? フリーランスってそういうものだっけ??」と首をひねってしまう。
「育児をしつつウェブライティングで毎月3万円稼ぐ」
「闘病中だから単発で名刺デザインをしている」
「アイドルのおっかけをしながら最低限だけ働いている」
「時短ワークをしつつ、キャリアアップのためにいろんな仕事をフリーで受けている」
「フリーで朝から晩まで働き、仕事を選ばず月収100万円を目指してる」
「起業準備としてフリーランスとして働いている」
どの働き方も、フリーランスとして「正解」。
自分に合わせて働き方を最適化する自由。それがフリーランスだ。
「フリーランス」という働き方を誤解しないでほしい
毎日暇さえあれば本を読んでいる人、土日にまとめて読書する人、寝る前にたまに本を読む人。
どういう濃度であっても、本が好きなら「本好き」を名乗っていいと思う。
それと同じで、仕事の濃度や目標とするものがちがっても、フリーランスとして仕事を受注していれば「フリーランス」。
それでいいじゃないか。
もちろん、生計を立てるのであれば、ある程度稼ぐ必要はある。
そのためには最低限のスキルは必要だし、仕事を得るための努力は必須だ。
一家の大黒柱であれば、甘いことは言ってられないだろう。
ただ、なんども書くけど、フリーランスは「どれだけやるか」を自分で決められる働き方。
全員が超一流を目標とする必要はないし、月収3万円のフリーランサーだって、本人が満足して仕事を楽しんでいればそれでOK。
フリーランス人口が増え、さまざまな働き方が浸透し始めている現在。
パワー系フリーランスの大きな声で、「フリーランス」という働き方が誤解されないことを祈る。
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(文責-ティネクト株式会社 取締役 倉増京平)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
(Photo:Dushan Hanuska)