一昔前、「希望は戦争」という、興味深い記事を読んだ。

「戦時」は、弱者にとってはむしろ望ましい状態だとの、ラディカルな主張だ。

 

記事の中で著者は、底辺にとどまらざるを得ない屈辱的な社会では、多少死の危険が増しても「富者も平等に死ぬ」可能性がある、戦時のほうが望ましいとしている。

「丸山眞男」をひっぱたきたい 31歳フリーター。希望は、戦争。

戦争という手段を用いなければならないのは、非常に残念なことではあるが、そうした手段を望まなければならないほどに、社会の格差は大きく、かつ揺るぎないものになっているのだ。

戦争は悲惨だ。

しかし、その悲惨さは「持つ者が何かを失う」から悲惨なのであって、「何も持っていない」私からすれば、戦争は悲惨でも何でもなく、むしろチャンスとなる。

 

もちろん、戦時においては前線や銃後を問わず、死と隣り合わせではあるものの、それは国民のほぼすべてが同様である。国民全体に降り注ぐ生と死のギャンブルである戦争状態と、一部の弱者だけが屈辱を味わう平和。そのどちらが弱者にとって望ましいかなど、考えるまでもない。

持つ者は戦争によってそれを失うことにおびえを抱くが、持たざる者は戦争によって何かを得ることを望む。持つ者と持たざる者がハッキリと分かれ、そこに流動性が存在しない格差社会においては、もはや戦争はタブーではない。それどころか、反戦平和というスローガンこそが、我々を一生貧困の中に押しとどめる「持つ者」の傲慢であると受け止められるのである。

 

「戦争?バカな」と思う方もいるかも知れないが、実際、ピケティの「21世紀の資本」では

「20世紀に格差を縮小させたのは、戦争だった」としている。

また、昔から「プライド」や「名誉」のために、命を落とす人は数限りなくいた。

ローマの小カトーの自死。

数学者ガロアの決闘死。

日本の武士の切腹。

 

だから、こうした考え方に賛同こそしないものの、

「まあ、そういう考え方もあるかな」

くらいに思っていた。

 

ただ実際に「戦時」を経験すると、少し考え方が変わった。

 

 

前にも書いたが、「コロナウイルス禍」は間違いなく、現代の世界戦争だ。

トランプ米大統領「戦時下」の態勢と 新型コロナウイルス対策で(BBC)

アメリカのドナルド・トランプ大統領は18日、自分は「戦時下の大統領」だと述べ、アメリカは感染が拡大する新型コロナウイルスに「完全な勝利」を収めるだろうと誓った。

トランプ氏はこの日、重要な医療用品の増産を民間企業に求めることができる、朝鮮戦争下の1950年に成立した「国防生産法」を復活させた。

 

大げさではない。

万人に死の危険が迫り、人権の制限が行われること。

民間の生産力を、戦争に転用すること。

「国民が一丸となった協力」により「勝利」を収めるといったプロパガンダ。

大本営発表と「空気を読まない人間」へのパッシング。

 

これが戦時と言わずしてなんなのだろう。

 

インフラの破壊こそないが、多くの人命が失われていることを考えれば、今は間違いなく「戦時」だ。

ただ、今回の戦場は、南太平洋ではなく病院、闘う相手は人間でなくウイルスだが。

 

そして、実際にこうして「戦時」を体験してみると、冒頭の「希望は戦争」は、平和なときの意見だと言うことがよく分かる。

 

実は「戦時」は、変化に対して脆弱な「弱者」にほどキツく、

逆に、適応力の高い強者にはむしろ「大儲けできる」かもしれない機会だからだ。

 

適応力が問われる「戦時」

ニトリが増収増益の宣言をする、というニュースを見た。

ニトリ、コロナ禍でも「増収増益宣言」の衝撃 似鳥会長は「不況こそチャンス」と強調する(MSNニュース)

「不況こそチャンス。うちは無借金で預金もあるから、攻めていくことができる」。

4月6日、都内で開かれた決算会見の場で国内家具最大手・ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長はそう豪語した。

新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛が長期化し、暗雲が垂れ込める小売業界。新年度の業績予想を非開示とする企業が相次ぐ中、“デフレの勝ち組”がぶち上げたのは、まさかの増収増益計画だった。

 

こうした話は、適応力の高い人々の間では、当たり前の話になっており、

「ああ、この機会をつかんで、飛躍する起業家/会社がかなり出るんだろうな」

と、私は感じた。

 

実際「コロナで業績良くなった」とする会社は、あまり表には出てこないが、そこそこある。

「新型コロナ感染拡大」にもかかわらず、自転車業界が好調な理由(M&Aオンライン)

ビデオ会議のズームは増収増益、新型コロナ対策特需は来期の追い風に(日経クロステック)

ビール、エンタメ、日用品……新型コロナウイルスの影響で、意外なビジネスが追い風を受けている(ワイアード)

 

これは、100年以上前から全く変わっていない。

小学生の時に「戦争で大儲けした成金」の話を読んだが、大戦で、一夜にして1000億を稼いだ内田汽船の話は、今でも覚えている。

ちなみに内田汽船で大成功した内田信也は、その後政界にも進出し、大臣を歴任、成功者の名をほしいままにする。

 

こうしたエピソードは、子供の頃には、全くピンとこなかったし、「戦争は儲かる」と教える大人もいなかった(当たり前だが)。

だが当時、戦争は確かに「儲かった」のがよく分かる。

戦争は誰の目にも見えるわかりやすい変化であり、変化を捉えれば莫大な成功を生む。

 

そして同時に「適応した強者」と「苦しむ庶民」を生み出す。

 

ただ、勘違いしないでいただきたいのは、

ここでいう「強者」は「適応力の高い存在」を指しており、決して単なる富裕層を指しているわけではない点だ。

 

変化の激しい時代にはたいてい、世界の構造が変化し、富の配分が変わる。

それを読み、かつ運を味方に付ける人が、成功を掴むのである。

 

「リスクを取れる」のは強者の特権

そういう意味で、冒頭の「希望は戦争」は、気持ちとしては理解できるが、実際にはそうならない。

 

戦争で真っ先に犠牲になるのは「弱者」であり「まっとうに生きてきた庶民」である。

むしろリスクを積極的に取れる人々にとっては、戦争はチャンスでもあり、だからこそ、「戦争」は悲惨なのだ。

 

冒頭の記事を書いた赤木智弘氏は、「金を持った老人がコロナでお亡くなりになろうと、僕は痛くもかゆくもない。」し、「外出は自粛しない」と言った記事を、つい最近に書いていた。

僕はみんなで新型コロナの不安を共有する社会を選ぶ(朝日新聞 論座)

しかし新型コロナによって、初めて富裕層に命の危険が及んでいる。新型コロナが潜む世界になってようやく、我々と富裕層はある程度同じ当事者意識の元に生きることができるようになったのである。

そうかも知れない。

たしかに「弱者」と「(庶民の)富裕層」は同じ当事者意識なのかもしれない。

 

だが、「強者」は全く違うことを考えている。

実際、私の知人は言っていた。

「いままで、なかなかできなかったことが、今は次々に実現している。追い詰められればできるじゃない、って思う。これはチャンスだ」と。

 

 

コロナウイルスは「リーマンショック」と同様の、現代における「ブラック・スワン」だという言説をよく見かけるようになった。

そこで、最近ナシーム・ニコラス・タレブの「ブラック・スワン」を改めて読み直した。

 

タレブが著書の中で繰り返しているのは

予測不可能な、大きなランダム性こそ、真に大きな影響を及ぼす」との主張だ。

 

そして、予測不可能な事態に適応するためには

「見せかけの安定を追わず、損をすることを覚悟の上で、ものすごくたくさん試すしかない」と彼は言っている。

つまり「良い方のブラック・スワン=思いがけない大成功」を常に追いかけないといけない。

 

適応力の高い人々はそれをわかっており、それを実践するからこそ、強者なのだ。

ところが普通の人々は「目の前の小さな安定」を求めた結果、ブラック・スワンが起きると吹き飛んでしまう。

 

タレブは日本人を名指しでこう言っている。

人は損をすると恥ずかしく思うことが多い。だから、ボラティリティがとても小さく、でも大きな損失が出るリスクのある戦略をとる。

機関車の前で小銭を集めるようなやり方だ。

 

日本の文化はランダム性に間違った適応をしていて、運が悪かっただけでひどい成績がでることもあるのがなかなかわからない。

だから損をすると評判にひどい傷がついたりする。

あそこの人たちはボラティリティを嫌い、代わりに吹き飛ぶリスクをとっている。だからこそ大きな損を出した人が自殺したりする。

 

ただ、私はそれも仕方のないことだ、と思う。

タレブの言うことを理解し、実践できるのはカネと能力と運を兼ね備えた人だけだからだ。

 

 

戦時さながらのコロナウイルス禍で、「未曾有のチャンス」を掴む一部のツワモノと、不安と貧困にさいなまれる多くの庶民。

それが顕になっている現在は、確かに、悲惨なのかもしれない。

 

 

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