かつて国金と呼ばれた、国民金融公庫。

銀行の一種ですが、恐らく経営者以外には全く知られていない存在でしょう。

 

今は日本政策金融公庫と名前を変え、経営者や自営業者の間では、国策として創業者融資などを実行する銀行として知られています。

 

創業者本人の保証も不要であり、無担保でも概ね700万円程度までであれば、比較的低いハードルでスタートアップ資金を借りることができるとあって、起業したばかりの経営者や自営業者にとっては、一度はその利用を考えたことがあるでしょう銀行です。

 

かくいう筆者も、スタートアップの時にこの政策融資の利用を、申し入れたことがあります。

不足する創業資金の借り入れを目的に、文字通り「社運をかけて」創業者融資を申し込んだのですが、しかし結果は残酷な0回答でした。

 

既に事業は走り始めており、この融資が降りなければ事業が頓挫する可能性のある危険な状態のとき、

B5の小さなザラ版紙1枚に、

「お力になれません」

という趣旨だけが書かれた文章は、今も忘れようがありません。

会社を起こして1ヶ月で、いきなり途方に暮れる事態に見舞われることになったのです。

 

ところがその後、です。

細々と事業を継続していた私は、同じ政策金融公庫からの借り入れを、希望額の満額を、2年にも満たない間に受けることができました。

 

そして、私は気付きました。

「起業と経営は、小さな与信を太らせていくことに、他ならない」ということに。

 

与信が皆無であるということ

政策金融公庫で創業者融資を申し入れたことがある人なら、ご存知かもしれません。

公庫では、スタートアップ融資の審査に際して、当然のことですが

・前職(職歴)
・創業資金の準備状況

を重視し、必ず厳重な確認をします。

 

融資を申し入れようとする経営者本人にその事業を始める能力があり、さらに計画的に起業の準備をしてきたかどうかを、確認するためです。

 

政策金融公庫は、公的な資金が投入されているため利率が低く設定されています。

また、無担保無保証でも借りられるために、中には創業を装い、はじめから融資をだまし取ろうとする目的の輩もいるとされているので、当然に審査はシビアになるのです。

 

その前提で考えると、

その時の私の前職は製造業の財務責任者のポジション。

新たに始めようとする会社は、雑多に言えばIT系に分類される仕事です

 

向こうから見れば、おそらく強みのない仕事を、思いつきで始めようとする典型的なダメ経営者だったでしょう。

その結果、いかに創業者融資であっても融資が通らなかったのは当然といえます。

 

私は、アテにしていた創業融資を断られ、大幅な初期投資の見直しを迫られることになり、早くも起業したことを後悔する事態に。

 

これが「与信が皆無である」ということです。

 

本人に、本当はどんな能力があるか、どれだけ優れた経営計画を立てているかどうか、ということは関係ない。

第三者に信じてもらえる、客観的な強みの要素を持ち合わせないままに起業を計画すれば、当然の結果です。

 

与信を積み上げる「最初の一歩」

とはいえ、いまさら後戻りもできない状態でした。

 

一部の設備投資は既に発注済みなので、予算を圧縮して食い延ばしながら、どのタイミングでどうやって、追加融資を獲得する算段を立てるのか。

生き残るためには前に進むしか無いので、いろいろと知恵を絞りました。

 

その結果、最初に行き着いたのは地方自治体が主催する、信用保証協会への融資の斡旋がうけられるセミナーへの参加でした。

安くない参加費と、数ヶ月間に渡って受ける必要がある講習会でしたが、お役所から保証協会への斡旋がうけられるということは、「99%融資が獲得できるに等しい」と私は考えました。

 

実は、そこまで甘いものではなかったのですが、ともあれ当時はそう信じて参加費を払い、数ヶ月に渡る講習会を受けて、無事にお役所から信用保証会への、融資の斡旋を受けることができました。

 

そして保証協会に足を運び、自分の事業計画と足元の進捗状況を話したときのこと。

お役所からの斡旋は非常に効果が大きいと感じました。保証協会からの質問がきわめて具体的なのです。

 

「このキャッシュフロー計画書、ここでかなり細くなりますが計画のズレが生じた時の手当はどう考えていますか?」

「セキュリティ面での投資が薄く、事業が根本からひっくり返るリスクがあります。どのタイミングで設備増強を考えているのでしょうか」

 

つまり、融資を実行することを前提に、顕在しているリスクを聞いてきてくれる状態です。

結果として私は、300万円の融資を申し入れ、満額の回答を得ることができました。

 

当時はまだほとんど売上も利益もありませんでしたが、そんな状態で「話だけは聞いてもらえる」与信を得ることができたのは、お役所の主催する講習会を修了し、最低限の信頼をまずは確保できたからに他なりません。

(ちなみに、この地方公共団体等が起業を支援し、保証協会融資などを斡旋する制度。名称は自治体によって異なりますが、全国の多くの市町村で実施されている制度でした。興味がある人は是非、地元の市役所などに電話をかけて、同様の制度が存在しないか、確認していただくと良いと思います)

 

一度得た与信は確実に活かす

最低限、事業をスタートさせ売上を立てる仕組みを作ることができれば、後は経営者の努力とセンス次第です。

 

幸い事業の立ち上がりは予想よりも早く進み、1期目こそ、僅かな赤字でしたが、2期目には黒字も出せそうな手応えがあったので、そのタイミングで、政策金融公庫に改めて、融資の申し入れをしました。

 

そしてこの時には、

・保証協会付融資で300万円を借り入れ、なおかつ返済も始めている実績
・1年余り前に建てた計画とニアリーで売上・利益を残している実績

の、2つの大きな与信がありました。

これも全て、地元の地方自治体が主催する起業セミナーを受講したところから始まった、小さな与信を太らせることができたからです。

 

政策金融公庫には、創業当時と同じ、700万円の融資を改めて申し入れました。

そして結果は、僅か数日で満額回答が得られました。

 

計画からは1年余り遅れてしまいましたが、それでも当初予定した理想通りの設備投資を整えることができたのです。

 

大きな与信を得ることそのものは、売上と利益を挙げて自分の計画の正しさを証明しさえすれば、後はなんとかなるものです。

しかしこれは、1を10にする作業であり、並の経営者でも、それほど難しいことではありません。

 

一方で、売上や与信が0の状態から売上を立て、銀行借り入れを起こすことができるのは、「正しい努力」をすることができた経営者だけです。

そして正しい努力とは、小さな与信を太らせ、大きな与信に換えることができる能力です。

「わらしべ長者的努力」とも言ったほうが良いでしょうか。

 

考えてみれば、これは営業でもものづくりでも結局同じことです。

まずは小さな仕事で実績を作ることで、初めて大きな仕事を受注できるようになる。

 

まずは簡単な部品やデバイスで、それでも非常なクオリティの製品を納品し続けることで、初めて大きなプロジェクトの受注に参加できることになる。

 

そう考えれば、経営者の仕事とはまさにこの「信用の積み上げ」であり、小さな与信をどのようにして雪だるま式に大きくしていくのか、それが経営者の仕事の90%以上を占めるのではないかとおもうのです。

 

 

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【著者プロフィール】

株式会社識学

人間の意識構造に着目した独自の組織マネジメント理論「識学」を活用した組織コンサルティング会社。同社が運営するメディアでは、マネジメント、リーダーシップをはじめ、組織運営に関する様々なコラムをお届けしています。

webサイト:識学総研

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