Z世代を中心に、企業に対する価値判断の基準も大きく変わってきた。
若い世代を中心にSDGsが浸透する中、優秀な人材を惹きつけるためには、企業ブランドや事業戦略、良い労働条件だけでは必ずしも十分といえなくなっている。
企業が社会に対してどのような善を生み出すのかが重要視される中で、従業員は経営の意思決定に注視し、それが倫理にもとると判断すれば、具体的な行動を起こすようになっている。
気候変動対策で従業員が立ち上がったAmazon
注文した商品が翌日には届くというAmazonの利便性を享受している人は多いだろう。
一方、Amazonのビジネスモデルでは、配達頻度が高くなるほど、配送時に発生するCO2排出量は増えていくことは容易に想像できる。
事業の成長に伴い2019年には、購入電力や間接的な排出も含め事業部門全体で5,100万トンのCO2を排出したと同社は報告している。(参考:Amazonウェブサイト)
Amazonの従業員団体であるAmazon Employees for Climate Justice(AECJ)は、こうした環境問題への企業責任を問い、Amazonは地球温暖化対策においてリーダーになるべきだとの考えから、2019年にジェフ・ベゾスCEO(当時)と役員に向けた書簡(Open letter to Jeff Bezos and the Amazon Board of Directors|Amazon Employees for Climate Justice)を公開した。
AECJはAmazonのビジネスモデルが気候変動対策に貢献していないと主張し、CO2排出量の具体的な削減目標の設定や石炭火力の探査および採掘に加担するサービスの停止などを要請した。
この書簡には、経営幹部を含めて約8,700名が署名を連ねたという。
同年9月にAmazonは、2040年までにカーボンニュートラルを実現することを誓う「クライメート・プレッジ」を発表しているが、こうした意思決定には、少なからず従業員の起こしたアクションも影響しているだろう。
AECJは、その後も気候変動問題に関する自社の対策強化を訴えているが、一部の従業員は同社の社内規則に違反したなどの理由から、解雇を通達されるような事態になっており、同社の経営陣と従業員との対立が深まっている側面もある。
(参考:実録・アマゾン解雇の現場テック大手に広がる「内なる反乱」|日経ビジネス)
Googleでは自社技術の軍事利用に抗議デモが起きている
Googleは、自社の経営理念を、使命(mission statement)とGoogle が掲げる 10 の事実という行動規範にまとめている。
使命として掲げられている「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」は有名であるが、10の事実の方はあまり知られていないかもしれない。
その中の一つ、”You can make money without doing evil.” (悪事を働かなくてもお金は稼げる)という一文は、Googleの代表的な行動規範を表している。
2015年にGoogleの持株会社Alphabetが新たに行動規範を発表しているが、Googleの行動規範には従来からの「Don’t be evil(邪悪になるな)」という一文がそのまま残されており、Googleが重視する価値観の一つであるといえるだろう。
しかし、近年ではこの「Don’t be evil」の方針に合致しない経営方針に社員が反発するケースも起きている。
その一例がドローン技術の軍事利用である。
2018年には、Googleが軍事利用を前提とする画像認識テクノロジーの開発プロジェクトに関与していることが明らかとなり、約3,000人の従業員が国防総省との提携解消を求める請願書に署名した。なかには辞表を出して会社を去る者まで出たという。
こうした懸念に対応して、同社は自社の技術をドローンの作動や武器の発射には使用しないと約束し、契約継続を断念した。(参考:グーグル社員3千名、CEOに抗議「ドローンの軍事利用やめろ」|Forbes Japan)
こうした従業員のアクションは海外だけの事例と思われるかもしれないが、日本においても、Z世代を中心に社会課題に対して声を上げる若者は増えている。
経営者にとっては、レピュテーションリスクに加え、自らの信念に基づいて声を上げることのできる人材を流出させてしまうという点で損失も大きい。
人材の流動性が高まり、ジョブホップすることが当たり前となった現在では、自らの価値観と会社の方向性が合致しないと感じれば、その職場を去るということも選択肢の一つである。
従業員を惹きつけ、そして留めておくためにも、企業の持つミッションやビジョンに真摯に向き合い、矛盾しないビジネスの遂行が必要だ。
「邪悪な」企業は社会や顧客はもちろん、従業員からも選ばれない時代へと移行していくだろう。
SDGsを経営に実装し、社会善を創出するビジネスを行うことが、人材確保の観点からも求められている。
(執筆:本田 龍輔)
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