ネタさがしがてらネットサーフィンをしていたところ、こんなツイートを見かけた。
草津温泉に行く国道292号、雪で大パニックとなっております。事故発生、ノーマルタイヤ組みの立ち往生…
皆さま気を付けてお越し下さい。#雪道#渋滞 #立ち往生#草津温泉 pic.twitter.com/DNjw2ydvqv— ノンチャエ💎 (@nonchae888) 2021年11月27日
これを見ると、「雪道対策をしないなんて何を考えているんだ」「天気予報をチェックしないとかありえない」という感想を持つだろう。
「常識的に考えればわかるじゃん」と。
でも、本当にそうだろうか。本当に「常識的に考えればわかる」んだろうか。
常識は、知る機会に依存する。
知る機会がなければ、常識なんて身につけようがないのだ。
冬用タイヤを知らないのは「非常識」?
日常的に運転する人や雪国で育った人からすれば、いつごろどれくらいの雪が降るのか、それに対してどうすればいいか、経験則でわかっていると思う。
しかしふだん運転をしない人、スキー場以外で雪なんてほとんど見たことがない人には、その経験則がない。
だから、わからない。
この記事を書いているわたしがまさに、ふだん運転しない、スキー場以外で雪なんてほとんど見たことのない人間である。
冒頭のツイートのリプライやリツイートには、「夏タイヤはだめでしょ」という意見が多く寄せられていた。それを見て、「タイヤって夏用と冬用があるの!?」と驚いたレベルだ。
横須賀はほとんど雪が降らないし、運転はドライブ好きのお父さんの担当だからガチペーパードライバーだもん、知らないよ。
そもそもタイヤの種類なんて教習所で習ったっけ?
わたしのような認識の人たちが集まって「よっしゃ草津温泉行こうぜ! レンタカーだ!」と国道292号を走ったとしたら……。
まぁ、立ち往生しちゃうよね。
どうしようもないよ、「知らない」んだから。
わたしがまだ子どもだった20年くらい前、家族でスキーにいく途中、両親は毎回「どこでチェーンを巻くか」という相談をしていた。
雪が降ったり山に入ったりすると、「ラジオにするから犬夜叉のCD止めるね」と言われるので、よく覚えている。
しかし、いつの間にかそんなやり取りはなくなった。
タイヤの性能が上がり、チェーンなしでもたいていの道を走れるようになったからだと思う(すたっとれす、というらしい)。
小さい頃からそういう車に慣れている人であれば、「タイヤ交換」や「チェーンを巻く」なんて発想、そもそも頭のなかにないだろう。
チェーンを見たことがない人だっているかもしれない。
「車に乗るならそれくらい知っておけ」というのはまったくもってその通りなのだが、「知らないことを知らない」なら、どうしようもない。
常識は、知る機会に依存する。
知る機会がなければ、まわりから見たら「ありえない非常識」も、平気でやってしまうのだ。
常識は知る機会に依存するから、経験しなければ学べない
「常識は知る機会に依存する」と思うと、いろいろと腑に落ちることがある。
たとえば忘年会で、上司にお酌をしない新入社員。
先輩は「ビジネスマナーがなってない」と眉を顰めるかもしれないが、そもそもそんな文化に触れたことがない人だって、いまは多いと思う。わたしもそうだ。
大学のサークルでは、飲みたがりは飲みたがりでかたまるから、自分はマイペースに飲んでるだけ。
イベントでは事前に先輩が飲みたいかを確認して、飲めない人がいたら飲みたがりの先輩が代わりに飲む。強要は厳禁。
体育会系じゃないから先輩後輩って感じもないし、ゼミ飲みですら教授が「自分で注ぐのでみんな気楽にしてくれ」って言ってくれていた。
わたしはどこかのタイミングで「目上の人にお酌をする」という常識(?)を学んだけど、それを学ぶ機会がない人がいたって、ふしぎじゃない。
「常識がない」のではなく、「それが常識だと言われる環境じゃなかった」のだ。
まぁいまのご時勢、お酌が「善」ともかぎらないしね。
以前、カップラーメンの値段を「400円くらい」と答えた政治家が批判されたが、そういうものをみずから買って食べる生活をしていなければ、値段を知らなくとも変じゃない。
わたしも、大学生に入って一人暮らしの友だちの家に遊びに行くまで、カップラーメンの作り方を知らなかったし。
そう、「経験」する機会がなければ、それによって得られる「知識」もない。
経験がある人なら当然わかることも、経験がない人にはわからない。だから、非常識になってしまう。悪気なく。
常識の守備範囲は案外狭くて通用しない
数日前30歳になったわたしは、黒電話の使い方を知らないし、レコードの聞き方もわからないし、そろばんで計算することもできない。
しかし、それを「非常識」だと言う人はいないだろう。
身の回りに存在しない物の使い方を知らないのは、当たり前だから。
でもこれはきっと、物質以外のことでも、同じことがいえるのだ。
雪道運転する機会がなければ、なにに注意すればいいのかを知らなくとも当然なように。
でもなぜかわたしたちは、「知る機会」はみんなに与えられ、「たいていの人はわかっている」と思ってしまいがちだ。
「類は友を呼ぶ」と言うように、自分のまわりの人は似たような経験をし、同じような知識を持っているから、「当たり前」だと思ってしまうのだろうか。
年齢はもちろん、生活環境や交友関係、偏差値や居住地域によって、「当たり前」なんていくらでも変化するのに。
たとえば、山を駆け回って育ち地元の公立高校から地元の大学に進学した人と、都内の共働き家庭で育ち中・高・大とエスカレーターで進学した人。
このふたりが同じ企業の同僚になったとして、「共通して経験し同じ知識をもっている」部分ってどれくらいあるんだろう。
ふたりが「常識だ」と思ってる部分って、だいぶちがうんじゃないか?
そう考えると、わたしたちが「知っていて当然」だと思う「常識」の守備範囲は、案外狭いのかもしれない。
非常識な人が増えたのではなく、知る機会が変化した
よく、「時代の変化によってこういう常識が通じなくなった」という嘆きや憤りを耳にする。
でももしかしたら、変わったのは「常識」そのものではなく、「みんなが経験すること」や「それによって得られる知識」なのかもしれない。
昔は、雪道運転の注意事項を知らなければ、まともに運転するのがむずかしかっただろう。
道はいまほど整備されてないだろうし、車の性能だってそこまでよくないだろうし、街灯だって少なかったかもしれない。
だから、雪道を運転するなら、ある程度運転の経験と知識がある人にかぎられてたんじゃないかなぁと思う。
そうなれば、雪対策は「常識」だ。
でもいまは、道はどこもキレイだし車の性能も高い。
「一家に一台」という考えもなくなり、必要なときだけ車をレンタルする人も多い。
そういう人には、「天候が与える運転への悪影響」という経験も、「山に入る前に車に用意しておくべきもの」なんて知識もない。
だから、「雪道運転における常識」そのものが存在しない。
その人が特別無知なのではなく、「知る機会」が変化した結果なのだ。
「想像してみたらわかる」という気持ちも理解できるけど、想像するにも取っ掛かりとなる知識や経験が必要だからね……。
多様化する世界で、常識は崩壊していくのかもしれない
いままでであれば、他人に「共通した経験と知識」をある程度期待しても問題はなかったんだと思う。
みんなだいたい同じレールの上を歩いていたし、親戚づきあいや先輩後輩関係のなかで、先人の知恵を学び経験を共有してもらうことも多かっただろう。
でもいまは、そうじゃない。
嗜好が多様化し、家族のあり方やキャリアの築き方などもどんどん変わっている。
常識は知る機会に依存するから、経験しなければ学べない。
そして「経験」自体が多種多様になっているいま、自分と相手とのあいだに、共通の「知る機会」があったともかぎらない。
もちろん、「人を殴らない」「電車で足を広げて座らない」「コンビニのおでんはツンツンしない」といったことは、普遍の常識と言ってもいいだろう。「法律を守る」とかね。
でも「当たり前に経験すること」や「それによって得られる知識」が個別化され、みんなが共通してもっている常識の範囲がどんどん狭くなっているのは、事実だと思う。
極端な言い方をすれば、多様化は「常識崩壊の危機」なのだ。
それが悪い、というわけではない。
ただ、それに気づかないと、まわりみんなが「非常識」に見えてしまうかもしれないなぁ、とぼんやり思っただけ。
これからは、「自分にとって」の「知ってて当然」が通用しないことを念頭においてコミュニケーションをとるのが、無難なのだろう。
というわけで、雪道運転に不慣れなみなさん。
経験がないのであれば、宿に問い合わせるなり車屋さんに相談するなりして知識を補填し、安全運転で草津に向かいましょう。
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(2024/12/6更新)
【著者プロフィール】
名前:雨宮紫苑
91年生まれ、ドイツ在住のフリーライター。小説執筆&
ハロプロとアニメが好きだけど、
著書:『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)
ブログ:『雨宮の迷走ニュース』
Twitter:amamiya9901
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