『THINK AGAIN 発想を変える、思い込みを手放す』(アダム・グラント著/楠木 建 監修, 翻訳:三笠書房」という本を読みました。

 

こうしてインターネットで文章を書いたり、自分なりの考えを述べたりすると、さまざまな反応をいただくのです。

もちろん、好意的なものばかりではありません。

そんなに多くの人に読まれているわけではない僕でさえそうなのだから、何十倍、何百倍もの人に読まれている人気ブロガーやYouTuberは、鋼鉄のメンタルか揺るがぬ信念、あるいは「PV(ページビュー)=カネだ!」という割り切りがないと、続けていけないだろうな、とも思うのです。

 

批判の言葉のなかに、「あなたは前と違うことを言っている」「昔はこんなことを書く人ではなかった」などというのもあって、僕は内心、自分の「ブレ」や「変節」を恥じてもいたのです。

ああ、これが年を取って「老害化」することなのかなあ、とも感じていました。

 

ところが、この『THINK AGAIN』の著者、アダム・グラントさんは言うのです。

信念を貫くことにこだわって、自分の固定観念に、とらわれすぎてはいけない、と。

人はすべての状況において固定観念を捨てる必要はない、と実は私も考えている。場合によっては、牧師のように信念を説いたり、検察官のように正当性を主張したり、政治家のように多くの人の賛同を得たりすることが理に適うこともある。とはいえ、たいていの場合、多くの人は偏見を捨てて、さまざまな観点からものごとを見つめることによって恩恵を受けるはずだ。なぜならば、私たちのメンタル・アジリティ(思考の敏捷性)が向上するのは、科学者の思考モードにいる時だからだ。

心理学者のミハイ・チクセントミハイは、ライナス・ポーリングやジョナス・ソークなどの著名な学者について研究した時、次のような結論に至った。それらの学者が卓抜しているのは、彼らの「認知的柔軟性」、つまり一つの極端からもう一方の極端へと臨機応変に移行する積極的意欲によるところが大きい、というのだ。同様のパターンは、歴史に名を残すアーティストや、極めて創造的な建築家にも当てはまる。

認知的柔軟性はホワイトハウスの大統領執務室でも見られる。専門家は歴代大統領の人格特性が記載された長いリストを考察し、組織に所属しない歴史研究家や政治学者の評価による番付と比較した。任期、戦争、スキャンダルなどの要因をも吟味した後、大統領の偉大さを一貫して予測していたのは一つの人格特性だった。大統領が野心的であったか説得力があったか、友好的であったか策略に長けていたかということではない。魅力やユーモア、落ち着きや知性があるか、といったことでもない。

偉大な大統領を際立たせているのは、「知的好奇心」と「寛容さ」だ。偉大な大統領は、あらゆる分野に関する書物を読み、国内外の政策の他にも、生物学、哲学、建築学、音楽などの知識を深めることに熱心だった。新しいアイディアに喜んで耳を傾け、古い見解を改めた。職業上の肩書きは政治家だったかもしれないが、多くの状況において、科学者のように問題を考察し、解決した。

「知的好奇心」を持ち続けること、自分の考えが古い、間違っていると感じたときにはためらわずにアップデートできること、自分の能力を過信せずに謙虚であること。

 

言うのは簡単ではありますが、実行するのは難しいですよね。

Twitterでのいざこざでさえ、「それを観ている(であろう)人々」に与えるイメージを慮って、延々とレスバトルを繰り返してしまいがちです。

僕自身にも、そういう経験は少なからずあるのです。

自分のこととなると、「相手が黙るまで、こちらの発言で終われば勝ち」みたいな気分になってしまうのです。

傍観者の立場になってみれば、そんなことはどうでもいいし、こんな不毛なやりとりをしていることそのものが愚かしくみえるのに。

 

実際には、自分が悪かった、あるいは過ちをおかしたときには、正直かつ迅速に謝罪できる人のほうが、好感度が高い。

 

ひろゆきさんみたいに、相手を「論破」できたら気持ちよさそうではありますが、実際にああいう形で「論破」されたとしても、相手がその「正論」に従うとは、僕には思えないのです。

むしろ「あんなヤツの言うことなんか知るか!」と頑なになる人のほうが多いのではなかろうか。

 

この『THINK AGAIN』という本の素晴らしさは、さまざまな試行錯誤によってアップデートされた(そしてたぶん、現在もアップデートされ続けている)、「他者に自分の話を聞いてもらうためのアプローチのしかた」がたくさんの実例とともに考察されていることだと思います。

大切なのは、理由や論拠の数だけではない。それらの整合性も重要だ。私は以前、アルムナイ(卒業生・同窓生)から寄付金を募ってくれないかという依頼をある大学から受けたことがある(アルムナイはそれまで全く寄付したことがなかった)。そこで私と同僚は実験的に、数千人のケチなアルムナイメンバーを説得するために、二種類の異なるメールを送ることにした。一通は、寄付金は学生、教員、そして職員のために善を為す機会であることを強調した。もう一通では、善を施すことは自分の心に豊かさをもたらす機会であると説いた。

結果から言うと、二通は同様に効果があった。普段は出し惜しみをするアルムナイの6.5%が寄付したのだ。それならば、理由が二つあればいっそう説得力が増すかもしれないと、二つのメッセージを一通にまとめて送付してみた。
それは意外にも逆効果だった。理由が二つに増えたことで、寄付率は3%以下まで落ちた。理由が一つだったほうが、二つを合わせた時よりも、二倍近く効果的だった。

受信者はすでに疑い深かった。二種類の異なる理由を提示されたことで、「誰かが私を丸め込もうとしている」というアラームが作動し、自分の身を守ろうとしたのだろう。一行の理由であれば、会話の一部のようにさらりと受け止められるのだが、それが二行、三行と増えていくと、猛攻を受けているように感じる。受信者は、発信者側の牧師トーンを拒絶し、検察官的アプローチを封じるために、弁護士の思考モードになったのだ。

「理由」や「論拠」は必要だけれど、正しさをズラッと並べて、グイグイ押してこられると、かえって「自分は騙されているのではないか」と不安になり、拒絶してしまう人が増えるのです。

 

麻疹ワクチンの危険性を信じ、自分の子どもへのワクチン接種を忌避してきた「反ワクチン」の母親に対して、「ワクチン・ウィスパラー(ささやく人)」と呼ばれていた地元の医師が、その母親と対話をしたときのエピソードも紹介されています。

動機づけ面接は、三つの技術から成る。

・開かれた質問を投げかける
・聞き返しを行なう
・変わろうとする意志や能力を是認する

マリー=エレンがトビーを家に連れて帰る支度をしている時、看護師に呼ばれたワクチン・ウィスパラーが病院にやってきた。アルノー・ガニュールという新生児生理学者だが、動機づけ面接の技法を用いてワクチンについての対話を行うスペシャリストでもある。アルノーはマリー=エレンとともに座って話を聞く際、彼女が子どもたちの予防接種を拒否していることを非難したり、彼女を説得したりもしなかった。ただ、科学者のように耳を傾けた。アルノーはどちらかというと「やや愛想のいいソクラテス」のようだ、と二人の対話を取材したジャーナリストのエリック・ブードマンは描写している。

トビーが麻疹に感染した場合の影響の大きさをとても心配しているが、母親であるあなたの判断を尊重するつもりだし、あなたの考えをもっとよく理解したいと思っている、とアルノーはマリー=エレンに言った。それから1時間以上にわたり、彼女が予防接種を受けさせないという決断に至った経緯を知るために、開かれた質問を投げかけた。アルノーは一つひとつの回答に注意深く耳を傾け、ワクチンの安全性に関しては紛らわしい情報があまりにも多く出回っていることを認めた。そして、話し合いの終わりにマリー=エレンにこう告げた──お子さんに予防接種を受けさせるかどうか、それを決めるのはあなたです。あなたは正しい答えを見つける能力も強い意志もお持ちですから。

病院を断ち去る前、マリ―=エレンはトビーにワクチンを接種させた。何が、彼女を突き動かしたのだろうか。「アルノー医師は、予防接種を受けさせるか否かの判断は私に委ねると言って、私が子どもの最善を考えている母親であると認め、私の判断を尊重してくれました。その言葉は、私への勲章のようなものです」

マリー=エレンはトビーのワクチン接種に同意しただけではない。保健所の看護師に自宅に来てもらい、他の子どもたちにもワクチンを接種させた。さらには、子どもへの予防接種を拒否する義理の姉とも話をしてくれないかと、アルノーに頼んだ。マリー=エレンによれば、彼女の判断はワクチン忌避コミュニティでは異例で、「爆弾を仕掛ける」に等しい行為だったという。

自分自身は「知的好奇心を持ち続け、考えを変えるのを厭わないこと」が可能だとしても、他者を説得するのは本当に難しい、と思うのです。

 

この本を読んでみると、他者を理屈で「説得」することはほとんどの場合は無理で、正しさで追い込むよりも、相手の言葉をそのまま傾聴し、「自分で考え直す」機会をつくったほうがうまくいくことが多いのです。

「お前は無知だから教えてやる」という態度の人の言葉は、いくら理屈が正しくても、他者を動かせない。

そして、人間というのは、その思い込みや偏見を取り除くきっかけさえあれば、ほとんどの人が妥当、あるいは賢明な判断ができるものなのかもしれません。

 

ちなみに、「動機づけ面接」を行う人には、「くれぐれもこの手法を『悪用』しないように」という警告もされているそうです。

上級者が悪意を持ってやれば、自分が望む方向に人の心を操ることもできるから。

人が信じるのは、「正しさ」とか「理論」の内容ではなくて、「それを言っている人や、その人柄」になりやすい。

私の同僚の心理学者フィル・テトロックによると、予測に必要なことは、何を知っているかよりも、どのように考えるかであるという。彼と同僚研究者が正確な予測をするために何が必要かを調べたところ、根気や熱意はさほど重要ではないことがわかった。知性は第二の要素である。しかし第一の要素を持つ人は、そうでない人と比べると三倍近く高い予想能力を有する、というのだ。

そして、その最も重要な要素とは「見解を頻繁に改めること」である。それがフォーキャスター(予測家)の成功のカギなのだ。スーパー・フォーキャスターと呼ばれる人たちは、再考サイクルを幾度も回す。自信と謙虚さのバランスを保ち、自分の判断を客観的に見直す。好奇心を忘れず、新しい有力な情報を探し出しては、それに基づいて予測を改める。

すぐに考えを変えるなんて、信念がない、信用できない、というのは、今の時代では、「思い込み」でしかないのです。

 

つねにアップデートが必要なのは、スマートフォンのアプリだけではありません。

「すぐに考え直せる人」「考え続けられる人」が、これからの世界をつくっていく。

 

子どもに「将来どんな職業に就きたい?」と聞くべきではない、という話も印象的でした。

 

 

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【著者プロフィール】

著者:fujipon

読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。

ブログ:琥珀色の戯言 / いつか電池がきれるまで

Twitter:@fujipon2

Photo by Jon Tyson