できない人が質問をしに来ない、という傾向は、それなりにどこの会社でも見られるようである。

例えば新人が聞きに来ない、若手が聞きに来ない、あるいは「不出来なベテラン」だと、誰にも相談できなくて行き詰まる、なんて話もある。

 

つい先日も、あるテクノロジー系の企業で「聞きに来ないメンバー」をなんとかしたいが、どうすればよいか、という話があった。

聞くと、力量の低いメンバーの一人が、報告が苦手で、かつ聞きに来ないので、こちらがかなり監視をしているが、手間がかかってしょうがない、という。

 

仕事の進捗を入れたり、週報を書いたりするような社内システムもあるのだが

力量の低い人ほど入力率も低く、入力した報告の内容も拙いという。

 

結局、上司が直接、成果品を逐一覗いてチェックをしているそうだが、それも限界がある。

こまったこまった、という話だ。

 

 

こういった事象について

「できない人」は、「何がわからないのかわからない」、したがって、質問ができないのは当然ではないのか、という話がある。

新人はなぜ聞きに来ないのか

何がわからないのかがまずわからない

ので、

具体的にどう質問していいかわからない

だから

何を聞けばいいかすらわからない=聞きに行けない

というパターンかとおもいます。

単純に言えば「質問が出来る=ある程度わかっている」だから、「質問に来ない人たちのせいにするのではなく、わかっている側が確認せよ」という話だ。

 

あるいは「聞きに来ない」は「聞きづらい」の裏返しだから、それを解消せよという話もある。

新人を育てる時に「自主性」を考慮するのは、百害あって一利なし。

皆さん、新人の時に、「同じことを何度も聞くな」って言われたことありませんか?

私、逆に、「同じことを何度も聞け」って言うようにしてるんです。

「忙しくて答えられない時もあるけど、あやふやで進めるくらいなら同じこと何度も聞いて」って。

大体において、新入社員って「何が分からないのかが分からない」状態な訳じゃないですか。

一通り説明して、「分からないことあったら聞いて」って言っても、「あ」「えーと」とか言って何も有効な質問が出来ない状態な訳です。

質問をする為には、それ自体ある程度理解を必要とするものなんです。

ただでさえ質問をすること自体が大変なのに、更に質問のハードルを上げてしまったら、聞けるものも聞けなくなりますよね。

ただでさえ「わかっていない」メンバーが、勇気を出してやっとのことで、上司に拙い質問をしたら、

「何度も同じことを言わすな」とか

「は?なんでこんなことしてんの?」とか言われたら、「聞けない」のは当たり前だろう。

 

しかし、冒頭のテクノロジー系の職場では、いずれの事象も見られなかった。

 

メンバーたちも「質問できないほど、何もわかっていない」状態ではない。

一方で、上司たちも一定の「チェック」はしている。

 

上司が「聞きづらい雰囲気」を出しているわけでもなく、メンバーを「攻撃」する人はゼロ。

基本経営陣はオープンで、率直な質問をしても、嫌な顔をされるわけではない。

 

要するに、観察しても「なぜ質問をしないのかわからない」という状態だったため、

彼らは途方に暮れてしまっていたのだ。

 

 

結論から言うと、「できない人」は人に聞いていないわけではない。

実は、新人同士、できない人同士で聞き合っていて、上司や「できる人」には聞かないのである。

 

これは、ノーベル経済学賞を受賞したことで知られる経済学者、ジョージ・アカロフの著書の中で

「ややこしい訴訟に巻き込まれた、政府の役人についての観察」で紹介されている。

公式の規則では 、役人が助けを求めていい相手は上司だけということになっていた 。

もちろん役人たちは 、しょっちゅう上司に助けを求めたりはしたがらなかった 。うっとうしがられるし 、それに自分の無知や独立性のなさを認めることになってしまうからだ 。

そこでかれらは系統的に規則を破った 。お互いに相談しあったのだ 。

 

ブラウはこの相談のパタ ーンを観察し 、これを衡平理論に照らして説明した 。かれは役人同士の技能水準にちがいがあることも記述した 。

 

そして予想とは異なり 、技能の低い役人が技能の高い役人に相談することはほとんどなかった 。

低技能の役人は同じく低技能の仲間と相談して助言をやりとりした 。そして高技能の役人は 、他の高技能の役人とお互いに助言しあった 。

 

なぜそうなったのだろうか ?それは 、低技能の役人たちが取引に使える材料が限られていたからだ 。

ありがとうと感謝の念を述べることはできる 。そしてまれに高技能の役人に助言を求めた場合には 、確かにみんなそうした 。そうした謝意は 、最初はうれしいかもしれないが 、やがて空疎になる 。お礼を言うほうだって気疲れする 。

 

だから低技能の役人は 、最初は知識豊かな役人に助言を求めたとしても 、それが何度も繰り返されることはなかった 。一方 、同程度の仲間となら 、同程度の価値のやりとりとともに交換は繰り返し続いたのだった 。」

—『アニマルスピリット―人間の心理がマクロ経済を動かす』ジョージ・アカロフ, ロバート・シラー著

単純に言えば、「自分が低技能だと知っている人は、常に質問のときに引け目を感じる」ので、徐々に質問しなくなる。

 

 

かつて、私にも「気さくに答えてくれる先輩」がいた。

彼は人間的にも優れていたので、結構甘えてしまっていたこともある。

 

ただ、一方で私が気にしていたこともある。

先輩が質問に一生懸命答えても、彼にとって、ほとんどいいことはないのだ。

(いいことはない、と私は思っていた、という方が正解かもしれないが。)

 

むしろ、私のように頻繁に「先輩を利用する」人が増えれば増えるほど、

彼は自分の仕事ができなくなる。

 

もちろん、会社には

「新人からの質問は最優先に答えなさい」

というルールがあった。

先輩はそれを忠実に、しかも嫌な顔一つせずに遂行していたのだから、全く頭が下がる。

 

ただ「嫌な顔をしていない」からと言って、彼がどう思っているかはわからない。

私は徐々に、かんたんなことであれば、できるだけ自分で調べよう、と思うようになった。

いや、「自分で調べるべきじゃないか」と思い込むようになった。

なにせ、自分の身になってみれば、仕事が忙しい時に、新人にわざわざ教えるインセンティブは働かない。

 

これが本音だった。

 

 

こういった事象はどのように解決すべきだろう。

なかなかスパッと解決する方法は無いが、

 

要は、「質問に答えると、回答者が得をする仕組み」は一つの解決策になり得る。

「知恵袋」や「質問箱」のように。

 

そうしたサービスにおける回答者たちは一見何の得もない質問に、延々と回答している。

なぜなら、「良い回答」に称賛が集まるからだ。

 

企業内でも例えばGoogleはこれを実践している。

さすがGoogle 、と思う。

 

Googleの人事トップであった、ラズロ・ボックは

Google社内での「感謝を形にするツール」の成功について述べている。

シンプルなデザインも、gThanks!の魅力のひとつだ。たとえば、感謝を伝えたいときは、相手の名前を入力して「Kudos(称賛)」ボタンをクリックし、メッセージを入力する。

メールより優れている点は、ネットワークにつながっているほかの人も投稿を見られることで、グーグルプラスで共有もできる。称賛が社内に広がると、称賛を送った人も送られた人も満足する。

個人的にメールを送るより簡単な操作で投稿できるのも、気軽でいい。

Kudosの専用サイトは以前からあったが、gThanks!の導入から1年でKudosの利用者は460%も増え、毎日1000人の社員がアクセスしている。

この仕組みのポイントは、称賛を送った人も、送られた人も満足するという点だ。

つまり「これは称賛される側だけではなく、質問する側にも引け目を感じなくてよいというメリットがある」のだ。

 

 

冒頭の会社は、Googleと同様に、質問者に「質問の内容と回答」を社内掲示板にアップするよう、要請した。

よくある「ノウハウ共有のため」ではない。

「回答者へのお礼」として。

 

これが、礼儀を重んじる彼らのカルチャーにフィットしたようで、結果的に質問も増えた。

そして、一定以上のお礼を集めた先輩は、皆、表彰され手当も出たという。

 

上司に特に問題がないのに、「できない人」が聞きに来ないという事象が発生しているのなら、彼らが「引け目」を感じている可能性がある。

そうしたことを仕組みを使って解決するのも、経営幹部の一つの役割なのだろう。

 

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