日本の消費者物価指数(CPI、2022年5月、生鮮食品除くコア)は前年同月比で+2.1%と、ここ数年ではかなり高い水準となっています。

前月も+2.1%と上昇率は消費増税の影響が出た2015年3月以来の大きさとなり、話題になりました。

米国でもCPI(総合、同年5月)が+8.6%と、約40年半ぶりの大きな伸び率となっています。

 

+2%台という伸び率を前に、実際はもっと上がっているのではないか、と違和感を覚える人も多いかもしれません。

過去に知見録では「経済指標の備忘録」シリーズで、日本のCPIが米国と比べ低水準にある構造的な理由や、金融政策との関連性について触れましたが、今回はCPIの算出に向けた調査方法にスポットを当てて紹介します。

(関連記事:「消費者物価指数、日米間で格差 その理由は?」「消費者物価指数、日銀との関わりは?」)

 

カップ麺は「カップヌードル」、人形は「シルバニア」

ある物事の長期的な変化を捉えるには、物事の範囲(ユニバース)を決める必要があります。

CPI(総合)のユニバース、すなわち調査対象となるのは582品目です。

原則として同一の品目の価格の変化を継続して調査する仕組みとなっています。

 

とはいえ、カメラ用のフィルムや写真を収めるアルバムなど、今や目にすることが少なくなった品目を調査しつづけても、実体経済を正確に表すことはできません。

調査品目は5年に1度あるCPIの基準改定にあわせて、見直しを行う形をとっています(最新は2020年基準。5年の間の消費トレンドの変化を考慮し、改定の年を待たずに追加・除外されることもあります)。

総務省の「家計調査」の結果などから判明した、消費支出に一定の割合を占めるものを調査品目としています。

品目ごとに調査方法が決まっており、なかには特定の商品名を指定しているものもあります。

 

例えばカップ麺の場合、調査対象銘柄となるのは日清食品の「カップヌードル」です。

輸入ワインはスーパーやコンビニエンスストアでよく見かける「サンタ・ヘレナ・アルパカ」または「フロンテラ」、ケチャップは「カゴメ」または「デルモンテ」となっており、原則としてこれら以外の競合商品の価格変動は直接的にCPIには反映されることはありません。

 

食品に限った話ではありません。「人形」はシルバニア・ファミリーの「ファミリーセット(お父さん、お母さん、男の子、女の子)」が調査対象銘柄となっています。

 

商品名が指定された基本銘柄の例

※総務省統計局・小売物価統計調査「毎月の調査品目及び基本銘柄」(2022年6月)より抜粋

 

CPIの作成方法自体は、国際労働機関(ILO)が定める国際基準に則ったものとなっています。

品目ごとの代表的な商品を基本銘柄にして継続的に調査をするのがグローバルスタンダードとなっていますが、米国の場合、銘柄を予め規定せず、調査員が店舗ごとの商品の「出回り状況」に合わせて価格を調査する独自の手法を取っているようです。

 

電気代などに「モデル使用例」

電気・ガス代や交通・通信料金などは「モデル品目」と位置付けられています。

典型的な利用例を予め定めたうえで調査し、個別に計算方法を決めてCPIに反映させる形となっています。

計算例として比較的分かりやすいレンタカーの場合、対象となる会社を選定し、排気量1000㏄クラスの乗用車で24時間以内に出発店舗に返却する場合の、免責補償料を除いた時間当たりの料金を調べ、それぞれの会社の車両保有台数で加重平均した価格を反映させます。

 

2020年基準で加わった「葬儀料」もモデル品目です。

利用例をみると「仏教式で親族20人、参列者25人、民営斎場2日間、ドライアイス20-40kg…」などと記載されています。

 

実質値上げが相次いでいるが…

価格は据え置きながら内容量を減らす「実質値上げ」をCPIは反映していない、ともよく言われていますが、本当でしょうか?

結論からいうと、実質値上げはCPIを上昇させる効果があります。

ソーセージ製品やチーズなど食料品に限らず、洗剤や漂白剤などの日用品に至っても、重量当たりの価格を計算する形をとっています。

 

一方、インターネット通販の価格の変化については、全て反映されているという訳ではありません。

2020年基準への改定により、旅行サービス(外国パック旅行費、航空運賃、宿泊料)など一部でネット上の販売価格をCPIに反映することが決まりましたが、ネットスーパーで販売される食料品や日用品などはまだ対象となっておらず、今後の検討課題にとどまっています(POSデータをCPIの算出に活用する取り組みは一部品目で行われています)。

 

調査される場所はどこ?

CPIの調査対象となる自治体は167の市町村です。

1700を超える市町村数からみて10%未満となっているほか、公表されている調査対象の市町村を確認すると、例えば東京都町田市や千葉県船橋市、三重県四日市市、山口県下関市など、一定の人口を抱える主要都市でありながらも、対象に含まれていない自治体があります。

 

調査対象の自治体に立地する店舗の顧客層が、日本全体の消費動向を示しているのかという点については、議論が残っている部分と言えます。

 

調査対象の市町村(都道府県を抜粋)

※総務省統計局、小売物価統計調査「価格調査及び家賃調査の調査市町村(2020年~)」。都道府県庁所在市、政令指定都市、人口15万人以上の都市は毎月公表。

 

(執筆:長田 善行)

 

 

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再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
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【今回のトーク概要】
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    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

 

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グロービス経営大学院

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