NHK連続テレビ小説「ブギウギ」が3月29日の放送で最終回を迎えた。

モデルとなった昭和の歌手・笠置シズ子を俳優の趣里が演じ、全体的に音楽をベースにした構成で、最後まで飽きることなく楽しめる作品になっていたと言っていいだろう。

 

少なくとも近年の朝ドラとしてはトップクラスにおもしろかった。個人的には、2011年の「カーネーション」に並ぶほどといってもいいくらいだった。1983年のおしんに次ぐ傑作とは言い過ぎかもしれないが、名作のひとつであることは間違いない。

 

「ブギウギ」が成功した要因はなんだろうか、と中盤くらいから考えていた。もちろん欠点もあったが、それも含めまとめてみようと思う。

 

私自身はテレビやドラマの関係者や専門家ではなく、単なる朝ドラファンのひとりに過ぎない。

しかし徹底的にイチ視聴者目線で、個人的な見解のみで取り組んでみたい。

 

朝ドラを構成する主な要因は4つ。

  • 主人公
  • とりまくキャスト
  • ストーリー・テーマ
  • その他

 

細かく分けると色々あるが、大きく分けるとこの4つだ。

まず「ブギウギ」について、この4つの視点から見ていく。

 

主人公

朝ドラにおいてもっとも重要な要素が主人公であることはいうまでもない。

 

結論から言うと、「ブギウギ」の主人公を演じた趣里に点数を付ければ、10点満点中8点。

幼少時代を演じた子役は9点でもいい。

 

「おしん」の田中裕子が10点という基準で付けると、趣里は8点、「カーネーション」の尾野真千子は9点。

尾野真千子に次ぐ点数は他に1988年「純ちゃんの応援歌」の山口智子くらいだろうから、かなりの高得点といっていい。

 

朝ドラの主人公は基本的な演技力などのほかに、キャラが重要であることが分かる。美人であるといったビジュアル的な要素よりも、愛嬌があって少し助けたくなるような雰囲気や笑顔が魅力的といったポイントがある。

完璧美人な女優ではかえって浮いてしまうのが朝ドラ。たとえば北川景子では現実離れしてリアリティーが半減してしまう。

 

そういう意味ではモデルの笠置シズ子に趣里を配役したのはハマり役だったといえる。マイナス2点の理由を言うと、ごく稀にだが関西弁に不自然さがあったこと、関西弁での演技に学芸会のようなわざとらしさが入ってしまった点。

 

とはいえ全体的にいえば視聴者を引っ張っていく力は充分にあった。特に歌唱シーンは素晴らしく、中盤での「大空の弟」「ラッパと娘」、後半にかけての「買い物ブギ」などはなんともいえない神がかった魅力があった。

 

朝ドラの主人公は時折この「神がかり」、言い換えると「神々しく」見える瞬間がある。

「おしん」の田中裕子は全編にわたって「神々しく」見えていたといってもいいほどで、「カーネーション」の尾野真千子も終盤へ向かうほど神々しくなっていった。

 

趣里の場合は地の演技ではなく歌唱シーンで神がかっていた。しかも華やかなステージより練習シーンのほうが神がかっているのがポイントだ。

子役に関しては、「ブギウギ」だけでなく近年は極めてレベルが高い。子役時代は期待感が上がるのに、大人に切り替わってテンションが落ちてしまうことが多いほどだ。

 

とりまくキャスト

主人公と同じくらい重要なのがとりまくキャストで、特に家族や主要キャストがドラマを大きく左右することはいうまでもない。

 

実は近年の朝ドラでもっとも問題なのが主要キャストのキャスティングで、これによって失敗したケースも目立つ。

具体的に言うと、主人公の恋人や夫婦役に、安易なイケメン俳優などをキャスティングすることで雰囲気が壊されるのだ。

 

イケメンをキャスティングすれば一定の女性層が視聴するのは分からなくもないが、ドラマとして期待して視ているほうにすればがっかりしかなく、場合によっては見るのをやめてしまう。

 

「ブギウギ」の主要キャストは大きな欠点がなかった。10点中7点を付けられる。

家族では母親役の水川あさみや弟・六郎を演じた新人俳優・黒崎煌代も素晴らしかった。村山興業の黒田有も悪くないし、後輩役の伊原六花も良かった。

気になったのは新人マネージャーや梅丸歌劇団のメンバーの一部に不満があるが、ドラマ全体としては影響は少ない。ただし作曲家・羽鳥善一の草彅剛と村山愛助の水上恒司については言うほど高い評価とはいえないだろう。

 

とにかく近年の朝ドラとしては珍しいほど決定的な欠点がなかった。

たとえば2022年「舞いあがれ」では、主人公の福原遥は悪くなかったが同世代のキャストが全体的に悪く、さらに主要キャストの一部の関西弁がひどすぎてドラマ全体を破壊するほどの影響があった。

 

ストーリー・テーマ

「ブギウギ」のストーリーは基本的にモデルの笠置シズ子の歌手人生と重なっていて、脚色も含め不自然さや退屈さは少なかった。

テーマはドラマ的に「義理と人情」となっているが言うほどその要素はなく、とにかく歌がテーマといっていい。

 

ストーリー・テーマには特段高評価なポイントがあるわけではないが、シンプルさが良い方に転がったという点では10点中7点を付けていい。

特に良かったのは前半。宝塚に落ちて梅丸歌劇団にも入れなくなりかけてからの盛り返しや香川での出生の秘密、弟・六郎の戦死あたりまでの展開は「ながら視聴」できなかった。

 

正直に言うと後半から愛助との恋愛、作曲家羽鳥との関係がメインになってからは少しも冗長さがなかったといえばウソになる。

ではどうすれば良かったのかというと、作曲家羽鳥との絆より、新人歌手水城アユミとの関係を展開した方が良かっただろう。笠置シズ子の史実には反するとしても、ドラマとしてはその方が可能性がある。

 

最終週も期待したほどの盛り上がりには欠け、もう少し「泣き」が欲しかったというのも正直なところだった。むしろまだ終わった雰囲気がなく、続くのではないかと思えるエンディングだった。

 

改めて「ブギウギ」のストーリー展開やテーマ性からいえることは、朝ドラは「エンターテインメント」であるということだ。

つまり中途半端に社会性をくっつけたテーマやストーリー、時代の流れに合わせてメッセージ性を・・・といったことをすると普遍性を失う恐れがある。

 

「おしん」でも、脚本家の意図である「反戦」のテーマがギリギリまで抑えられ、貧困と困難に立ち向かう芯の強い女性を田中裕子が演じきったことが傑作のポイントだった。

次回の「虎に翼」は日本初の女性弁護士が男性社会に立ち向かう・・・といったテーマと聞いているが、それだけ聞くと少々心配になってしまう。

 

その他

毎日15分放送の朝ドラにとってテーマ音楽は意外と重要になる。

たとえば前作の「らんまん」ではむしろ歌を聴くために毎日テレビを付けていたと言っていい。

逆にドラマの内容は悪くないのに歌で台無しというパターンもある。

 

「ブギウギ」のテーマ音楽は10点中9点を付けていい。

個人的な好き嫌いも大きいだろうが、シンプルに、歌を聴くだけでテンションが上がる、といった基準でいいだろう。

 

テーマ音楽のほか、時代背景やセット、セリフ・言葉使いなどがあるが、「ブギウギ」ではどれも及第点だったといえる。

大阪制作で特に違和感が出やすい要素に言葉使い(方言)があるが、「方言指導」が機能していないのかと思える(前述の「舞いあがれ」など)こともあり、場合によっては俳優の出身によってキャストを考えるくらいにしたほうがいいケースもある。

 

これからの朝ドラ

「ブギウギ」の成功要素を分析してきたが、これも今後の朝ドラに期待してのことだ。

ネット上の記事では、今後の朝ドラについて「新しい挑戦をして、これまでに見たことのない朝ドラを自由に作って」といったトーンの意見が目立つ。

 

「新しい挑戦」「自由な朝ドラ」と言われて反対する人はいないだろう。

一見親切そうで好意的に見えるが、残念ながら一番無難で抽象的、底が浅く言いやすくて考え抜かれていない。現実的に深く考えていくと、むしろ逆になるからだ。誤解を恐れずに言えば、

 

  • 過去の朝ドラの成功・失敗要素を法則化し
  • マニュアル運用でき
  • 場合によってはAIも導入せよ

 

これだけ聞いて賛成できる人が少ないことは百も承知している。

むしろ「つまらなくなるのでは」「制作陣が試行錯誤しながら挑戦してこそ」「楽して良いドラマができるか」といった声が聞こえそうだ。

 

しかし挑戦や自由は単なる励ましに近く、具体的な提案とはいえない。現実には挑戦も自由も限られている。

たいていの場合、現実に効果があるのは地味で機械的なものだ。

 

サッカーを見てやみくもに「もっと前へ攻めろ」「シュートを決めろ」と叫ぶだけでは勝てないのと同じだ。

まず効果的に攻める(と同時に守る)ための勝ちパターンを作り上げてこそアレンジとして挑戦と自由がある。

 

また、ひとつのポイントは「モデルなしの名もなき一般人」を主人公にできるかどうか。

過去のスターや偉人をモデルにするメリットは多いが、「おしん」超えは「名もなき一般人」での成功にかかっている。

 

 

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【著者プロフィール】

かのまお

ライター・作家。ライターとしては3年、歴史系や宗教、旅行系や建築などの記事を手がける。作家は別名義、新人賞受賞してから16年。芥川賞ノミネート歴あり。

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