生成AIの登場

2022年11月にOpenAIがリリースしたChatGPTは、それまでの対話AIとは異なり、実際の人間が話すような流暢な文章を生成することで一躍注目を浴びた。 公開からわずか2ヶ月でユーザ数は1億人に達し、さらに、検索エンジンにおける絶対的な地位を脅かされると考えたGoogleが社内で緊急事態宣言を出すなど、その衝撃の大きさは計り知れないものがある。

<参考記事>

生成AIで何が変わり、何が変わっていく?――自然言語処理研究者×グロービスAI経営教育研究所が語る2023年と2024年

 

ChatGPTは文章生成AI(以下、「生成AI」と呼ぶ)の一つであり、ChatGPTの登場とともに生成AIという言葉も世の中に広く浸透した。 図1に示すように2022年12月には検索回数が大きく増え、その後新語・流行語大賞2023にノミネートされるほど生成AIという言葉が一般的なものとなった。

図1 googleトレンドより
(ChatGPTが登場する2022年11月以前に検索されているのは画像生成AIの影響によるもの)

 

ビジネス現場での生成AIの活用

ChatGPTのリリースから1年強しか経っていないが、ビジネスの現場では既に生成AIが幅広く活用されている。 全てを挙げることができないが、例えば次のようなものがある。

 

  • 広告のキャッチコピー作成
  • 記事作成
  • 文章校正
  • プレゼンの構成案提示
  • アイデアの壁打ち相手
  • 問い合わせチャットボット

 

ソフトバンクグループ代表取締役会長兼社長の孫正義氏が2023年10月に自社のイベントで、「ChatGPTを使ってない人は『人生を悔い改めた方がいい』」という趣旨の発言をするなど[i]生成AIはビジネスパーソンにとって必須のツールとなりつつある。

 

生成AIにすべての仕事は奪われるのか?

ビジネスの現場で生成AIが浸透する中で、「生成AIに仕事が奪われる」という言説や生成AIに奪われる仕事一覧などの記事を多く目にするようになった。 実際、生成AIに仕事を奪われたという人も現れ始めている[ⅱ]

 

それでは、人間はこのまま生成AIにあらゆる仕事を奪われ続けるのだろうか 筆者の答えは「No」だ。正確には、一部の仕事は奪われるかもしれないが、大部分の仕事は奪われることはないと考える。 理由を以下に述べる。

 

1. 生成AIのアウトプットには間違いが含まれることがある

これはAI全般に言えることだが、AIは100%正確なアウトプットを出すことはできない。必ず間違えることがある。ハルシネーション(幻覚)と呼ばれる、生成AIに尋ねたところ知らないことをまるで知っているかのようにデタラメに答える現象もそのひとつである。 また、生成AIの学習データに誤った情報が含まれると、その誤った情報に基づいて正しくない回答を返す場合もある。

 

例えば、生成AIを文章校正に使った場合、校正結果が全て正しいとは限らない。 生成AIの結果を人間の目で必ずチェックする必要がある。 生成AIが事前にチェックしてくれているので、人間がゼロからチェックする場合と比較すると時間は短縮できるかもしれないが、人間が直接確認する必要がある点はこれまでと変わらない。 このように、仕事の進め方や時間の使い方に変化はあるものの、生成AIのアウトプットをそのまま受け入れることは危険であり、生成AIに仕事が完全に奪われることは決してないことが分かる。

 

2. 生成AIのアウトプットの品質はプロンプトに大きく影響される

生成AIのアウトプットは、指示文とも呼ばれるプロンプトに大きく影響される。 同じことを訊く場合でも、要領を得ないプロンプトと、具体的で簡潔にまとまっているプロンプトではアウトプットが大きく異なる。 もちろん、後者の方が望ましいアウトプットが得られる。
これは人間にも当てはまることで、例えば仕事で部下に指示を出す場合、指示が曖昧で分かりづらいと部下は意図通りに動かない可能性が高い。 一方、指示が具体的で分かりやすいと部下は意図通りに動く可能性が高い。

 

要するに、生成AIをうまく使いこなすためにはプロンプトを具体的に分かりやすく書く必要があり、これは人間にしかできない作業である。 なぜなら、アウトプットの目的を文脈まで考慮して分かっているのは人間だけであり、それ故に文脈を言語化できるのも人間だけであるからだ。 例えば、広告のキャッチコピー作成の場合、「広告のキャッチコピーを作成して下さい。」というプロンプトだけを生成AIに投げても望ましいアウトプットを得られる可能性は低い。 望ましいアウトプットを得たければ、

 

  • 何に使う広告のキャッチコピーなのか?
  • どのような人たちをターゲットにしているのか?
  • 文字数や文体などの制約はないのか?

 

などの文脈を言語化してプロンプトに入力する必要がある。 文脈は必ずしも言語化されているとは限らないので、生成AIが自動的に補完することはできない。 つまり、生成AIの能力を最大限引き出すためのプロンプトは、人間が作成するしかないのである。 これより、文章校正の例と同じように、仕事の進め方や時間の使い方に変化はあるかもしれないが、生成AIが人間の仕事を完全に奪うということは決してないことが分かる。

 

生成AI時代に必要な能力・スキルとは?

生成AIに仕事が完全に奪われることはないものの、仕事の進め方や時間の使い方はこれまでとは異なる。 それでは、このような生成AI時代に身につけるべき能力・スキルとは一体何であるのか? 答えは「クリティカル・シンキング」である。

 

前述の通り、生成AIの能力を最大限引き出すためには、指示内容を論理的に整理した上で生成AIが十分に理解できるプロンプトを作成する必要がある。 まさしくクリティカル・シンキングにおける「客観的な視点で考えた内容を周囲の人に納得感のあるかたちで伝える力」が求められているのである。 これまでは伝える相手が「周囲の人」だったのが、「生成AI」も対象に加わったと考えると理解しやすいかもしれない。

 

また、生成AIは間違えることがあるので、必ず正しい専門知識を持った人間が結果を確認するステップを挟む、もしくは一定の誤りが許容される状況で生成AIを利用するといった工夫が必要となる。 特に、医療など誤りが許容されない領域ではそのような工夫は不可欠である。
生成AIの弱点をどう補うのかという問題解決だと考えれば、ここにおいてもクリティカル・シンキングにおける「問題解決力」が求められる。

 

生成AIの登場により色々なものが大きく変化したように見えるが、ビジネスパーソンに求められる能力・スキルの根本はこれまでと変わっていない。 ただし、生成AIを使う人と使わない人では大きな差が付くであろう。 クリティカル・シンキングを身に付け、ビジネスの現場で生成AIを大いに活用していただきたい。

 

最後に、GoogleやOpenAIで生成AIの開発に携わったある研究者の言葉を紹介して本稿の締めとする。

原文:AI will not replace you. But another human who’s good at using AI will.

日本語訳:AIがあなたを取って代わらない。AIをうまく使いこなす人があなたに取って代わるのだ。

引用元:https://twitter.com/DrJimFan/status/1713955586310816210

 

[i] まだChatGPTを使ってない人は「人生を悔い改めた方がいい」――孫正義節が炸裂|ITmediaオンライン

[ⅱ]「AIで仕事失いました」あなたの働き方が変わる?|NHK NEWS WEB

 

 

(執筆:佐々木 健太

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