身内褒めで恐縮なんですが、以前、子どもに対する妻の言葉選びで感心したことがありまして、ちょっとしたことなんですが文章にしたくなりました。

 

先に書いてしまうと、その言葉とは、子どもに頼んだ家事の進捗を確認する時の「○○(頼んだ家事)ありがとう!」という言葉です。

順を追って書きます。

 

しんざき家は5人家族でして、私と妻、高校生の長男、双子の長女次女で構成されています。

ついこの間生まれたばかりと思っていたら、先日長女次女が小学校を卒業してしまいました。時間の流れが早すぎてビビる他ありません。

 

で、しんざき家では現在、子どもたちを積極的に家事に参加させる方針をとっておりまして、自分が使った皿は自分で洗うことが前提となっていることを始め、料理やら洗濯やら掃除やら、家事が出来るタイミングでは色々な家事を担当してもらっています。

 

これ自体は特別なことではないと思いますが、家事を任せるとなったら「手伝う」という形ではなく、ちゃんと子どもをその場その時の責任者にして、子ども自身が色々と仕切れるようにする、というのが変わった点といえば変わった点かも知れません。

例えば長男が料理となったら何を買ってきて何を作るかまで全権委任しますし、長男の指示で私が料理を手伝ったりすることもあります。

 

子どもは何かの「役割」を持つことが好きですし、「隊長」とか「責任者」という言葉に憧れるため、きちんと任命されれば案外張り切ってくれるものです。

もちろんこの際、ただ名前だけの「責任者」だとすぐに「名ばかりだな」と気づいてしまうので、大人が持つような権限、例えばメニューや材料洗濯の権限とか、家具をどう片付けてどう配置するかの決定権とか、そういう裁量もちゃんと渡します。

 

それが何であれ何かしらのタスクを仕切る経験は大人になっても無駄にはならないと思うので、こういう形式にしています。

もちろん必要に応じてサポートはします。

 

ちなみに、3年ほど前にようやくちゃんと料理を始めた私より、長男の方がだいぶ料理が上手く、特に唐揚げとチャーハンはかなり美味しく作ります。

彼、揚げ物の揚げ具合にはこだわりがありまして、私が二度揚げを怠ると叱られたりします。衣がかりっかりになるのが好きみたいです。

 

***

 

とはいえもちろん「進捗管理」というものが必要なケースはあります。

 

なんだかんだで子どもはタスク管理というものが苦手ですし、他に楽しいことがあったらそっちに走ってしまう生き物なので、しばしばタスクの存在を忘れますし、サボります。

 

干す筈だった洗濯物をそのまま放置してしまったり、洗っておく筈のお皿を放置してしまったり、というのは全く珍しいことではありません。

そういう場合には誰かが進捗を確認してあげないといけないわけで、これは子どもだろうと大人だろうと何も変わるところはありません。

 

で、以前からちょくちょく、妻が「進捗確認」として「〇〇ちゃん、洗濯ありがとう!」とか「掃除ありがとう!」って言い方をするんですよ。

すっごく細かいことですし、もしかすると当たり前のことかも知れないんですが、私、この言い方が凄く上手いなーって感心しまして。

 

もちろんこれ、単に「お礼」とか「感謝」だけの意味ではなくって、見るからにまだ家事に手をつけてないな、という時にも「ありがとう」って言うんですね。

子どもとしては、面倒だから手をつけてないとか、家事の存在自体を忘れていた、なんて時も当然あるでしょう。ただ、妻が「ありがとう!」って言うと、「あっ、忘れてた!今からやる!」となって、割とするすると動き出してくれるんですよ。

 

この言い方、多分幾つかメリットがあると思うんですね。

 

まず、言い方が「叱る」という方向になってない。

親としては、子どもがタスクを放っておいてだらだら過ごしているとついつい「もう〇〇やったの?」とか「〇〇忘れてない?」とか言ってしまいそうになるわけです。私もそうです。

純然たる「確認」ではあっても、ついつい「忘れていた」「サボっている」というのを指摘する形になってしまう。そこにはどうしても「責める」ニュアンスが入ってしまいますよね。

 

ただ、一般的に、子どもって「先回り」されることがすごーーーく嫌いです。タスクを忘れてないか、と確認してみると「今からやろうと思ってたのに!」と返ってくる、という経験、どんな親でもしているんじゃないでしょうか?

たとえ本人に「サボっている」という意識があって、罪悪感を感じていたとしても、「誰かに言われてやることになる」というのは面白くないし、ついつい反抗したくなるんですよ。ソースは私です。

 

けれど、立て付け上「感謝する」という方向だと、責めるニュアンスが入り込む余地がないので、子どもとしてもわりと素直に聞き入れたくなるんですね。

純粋に「あ、忘れてた」という方向に思考が動くし、一方それを認めて動くときにも嫌な気分にならない。するっと「忘れてた」と言えるんです。

 

子どもの気持ちを凄く上手く導いて、ポジティブにタスクに向かわせる言い方だと思うんですね。

 

次に、「お願いしている」という立て付けから全く外れていない。

上で書いたように、タスクの責任者を子どもに任せているなら責任者として接するべきで、子どもとはいえそれ相応の敬意が必要だと思うんですよ。となると、仮にタスクが出来ていなくても、「まだやってないの?」と責めるのはちょっと違う。

 

もちろん、時には叱責が必要な場合だってありますし、叱る時には叱るんですが、こと「任せている」以上はちゃんと相手を立てた進捗確認の仕方の方が望ましいですよね。その点、「ありがとう」という言い方だと、相手を立てつつごく自然と進捗確認が出来る。

 

もう一点、単純に聞いていて気持ちいい。

これはどんな場でも同じだと思うんですが、「誰かが誰かを責めている」場面って、横で聞いていても緊張するし、何かと精神的なリソースを使うんですよ。それは親が子どもを叱る時も同じで、自分が叱る/叱られる立場でなくても緊張感は伝わってくるし、集中力も注意力も削がれる。

 

その点、「感謝」という立て付けだと、結果として叱った時と同じことが起きたとしても、聞いていて平穏な気持ちでいられるわけです。その点、家庭での過ごしやすさとか安心感にすごーく寄与してるなあ、と。

自分では出来ていないことを、さらっと妻がやっていたので、単純な私は頭から感心して、以来なるべく真似しようと務めているわけです。

 

もちろん、こういうやり方がどんな家庭でも適していると言うつもりは毛頭ありませんし、しんざき家でもこの先方針が変わるかも知れません。

とはいえ現状は「感謝」という形で進捗確認をすることを、ケースバイケースではありますがしばらく試してみようと思っていると、まずはそういう話だったわけです。

 

***

 

家庭の話からはちょっと逸れるんですが、「プラスから始める言い方」というのは、仕事の上でもちょくちょく考えます。

「言い方」というものが馬鹿に出来ないことは、昨今様々なところで指摘されている話だと思います。

 

上で書いた「子どもへの進捗確認」でも、「感謝されている」というプラスの状態から物事を始めて、最終的にタスクの遂行に落とし込んでいるわけでして、サボっているところへの進捗確認というとあまり気持ちが良くないようですが、スタート地点がプラスの方向に存在することで、多少嫌な方向に話が動いてもまだプラスの気分でいられるという、そんな言い方って結構あるんじゃないかと思うんですよ。

 

私は一応仕事の上でもマネジメントをする立場なんですが、なんとなーくプラスの位置から話を聞き始められる言い方、というものについて、しばしば考えます。

 

時には「叱る」ことが重要な場面ももちろんあるんですが、単にマイナスに落とすだけだと話す側も聞く側も疲れるので、同じ効果が出るならプラスから始めた方が効果的なんじゃないかと。どこかに、話す側も聞く側も疲れない指摘の方法があるんじゃないかと、職場でも常に首をひねっているわけです。

 

その点、子どもというのは大人以上にデリケートで、モチベーションの維持方法もまだまだつかめていない存在なので、子どもへの接し方から職場での立ち振る舞いについて学べるところもあるんじゃないかと。

妻のちょっとした言葉から、マネジメントのコツを教わったかも知れない、と思って文章に残しておきたくなったと。

 

そんな話だったわけです。

今日書きたいことはそれくらいです。

 

 

【お知らせ】
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。


<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>

第6回 地方創生×事業再生

再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは

【日時】 2025年7月30日(水曜日)19:00–21:00
【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。

【今回のトーク概要】
  • 0. オープニング(5分)
    自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」
  • 1. 事業再生の現場から(20分)
    保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例
  • 2. 地方創生と事業再生(10分)
    再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む
  • 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
    経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説
  • 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
    「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論
  • 5. 経営企画の三原則(5分)
    数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する
  • 6. まとめ(5分)
    経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”

【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。

【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)

 

 

 

【著者プロフィール】

著者名:しんざき

SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。

レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。

ブログ:不倒城

Photo:Sebastian Pandelache