おれはビジネスパーソンを励ましたい
おれとビジネスパーソン、ビジネスパーソンとおれ。おれはいつもビジネスパーソンを励ましたいと思っている。
といったところで、おれが「がんばれ」といっても効果がない。ビジネスパーソンの役に立たない。しかし、励まされるかもしれないなにかを示すことができるかもしれない。
なのでおれは山から降りてきておまえたちに告げる。「ギャルに罵倒されると、励まされるかもしれない」と。
「なにを言っているのか、こいつは」、「もとからおかしいと思っていたが、ほんとうに狂ってしまったのか」などという声が聞こえてきそうだ。ああ、べつに罵ってくれてかまわない。だが、おまえたちはギャルではない。ギャルでないものに罵られてもうれしくはない。
それはそうと、ひとつ断りをいれておきたい。ビジネスパーソンとは言ってみたものの、この記事の対象は「おっさん」になってしまうということだ。
きわめて常識的な男性心理を知りたいという女性でもなければ、今すぐ近くの公園に行って好きな歌を歌ったり、楽しい踊りを踊ったりしたほうがいい。そのほうが有意義だ。あるいは水彩画でも描いたほうがいい。水彩画は心を豊かにする。知らないが。
ギャル罵倒のほのかな目覚め
おれに「ギャルの罵倒」が降ってきたのはいつだったか。ひょっとすると、アニメ『イジらないで、長瀞さん』ということになるかもしれない。アニメでその存在を知ったおれは、すっかり夢中になって漫画も買い求めた。紙の漫画単行本である。おれは宝石のように思う作品でなければ、紙の本を買わない。
イジらないで、長瀞さん(1) (マガジンポケットコミックス)
- ナナシ
- 講談社
- 価格¥594(2025/07/15 12:21時点)
- 発売日2018/03/09
「後輩の女子に泣かされた……!!」ある日の放課後、たまに立ち寄る図書室で、スーパー“ドS”な後輩に目をつけられた! 先輩を、イジって、ナジって、、はしゃぐ彼女の名前は――『長瀞さん』! 憎たらしいけど愛おしい。苦しいのに傍にいたい。あなたの中の何かが目覚める、“Sデレ少女”の物語。
ひとり、美術部で絵を描いている「センパイ」。女子に対しては奥手で、陰キャのタイプ。一昔前の言い方をすれば草食系男子ということになる。ここに、ギャルが襲いかかる。襲いかかるわけではないが、いじってくる。罵倒してくる。もう心はセンパイの気分になる。なにかが目覚める。
しかし、おれはこのときギャルの罵倒というものに目覚めたとは言えなかった。長瀞さんというキャラクターに惹かれていたのだ、と思っていた。そしておれはもとから自分のマゾ的な資質を知っていた。
本当のギャルの罵倒との出会い
ところでおれはあまりYouTubeを見ない。見る習慣がない。たまに思い出したように好きなミュージシャンのミュージック・ビデオを見るくらいだ。あと、大食い動画。
が、ある日、ネットで大喜利得意なアイドルが発掘された、というような記事を見かけた。おれは大喜利を見るのが好きだ。ものはためしに見てみた。
『【緊急企画】タレント福留光帆が大喜利の逸材なのかドッキリ検証したら、爆笑回答連発・フリートークもゲキ強で、仕掛け人トンツカタン森本が震え上がる!』、これである。
たしかにおもしろい。おれは福留さんのファンになった。大喜利はもちろん、競艇へのガチ具合が、同じ公営ギャンブル好きとして深く感じ入るところがあった。愚かものの道。
そこから、だ。そこからこの『佐久間宣行のNOBROCK TV』を見始めたのだ。佐久間宣行という名前は知っていたが、彼のテレビ番組を見たことはなかった。そしてYouTubeのバラエティというものとも無縁だった。
みりちゃむ様
おれはすっかり『NOBROCK TV』にはまってしまった。「100ボケ100ツッコミ」(これは令和ロマンがすばらしい)、「ドーピングドッキリ」、インパルス板倉の操りによる「ぶっこみアイドル越え選手権」……。次から次に動画を見ていった。そこで見つけてしまったのだ。
みりちゃむ様である。ここで後にみりちゃむ様と数々の名場面を繰り広げる錦鯉の渡辺隆も「完璧な企画」、「性癖に刺さりまくる」、「ドMです」と言っている。完璧とはなにか。その答えがここにはある。
「罵倒キャバクラ」シリーズなどにも発展した。ちなみにこの動画の前半、普通のキャバクラ客としての渡辺さんは神客のように見える。キャバクラで神になりたければ参考にすればいい。おれは女の人が接待してくれる店で酒を飲んだことはない。たぶんこれからもない。それは罵倒とは関係ない。
ずいぶんとわざとらしいが(そう言ってしまえばすべてはわざとらしいのだが)、罵倒できな子が罵倒にチャレンジすると、Mから説教されるということもある。それほどまでにみりちゃむ様の罵倒には回転数とキレがある。
ギャルの美学
おれはこの記事を書くのにずいぶんと時間がかかっている。動画を見てしまうからだ。
それはそうと、さっきからおれは「ギャル」という言葉を使っているが、「ギャル」とはなんなのだろう?
こういう言葉は辞書には不向きだ。なにごとにも向きと不向きがある。というわけでWikipediaを読んでみたが、ファッションについて多くが割かれている。なるほど、「ギャル」はさまざまな派生形をもつファッションだ。
だが、どうもおれがみりちゃむ様を「ギャル」というとき、そこにファッションを強く意識しているわけではない。むしろ、その精神性にある。見た目はちゃらちゃらしているかもしれないが、内面で筋が通っている。ゆずれない美学がある。そういうものがあるように、感じる。
それは少し、「美化されたヤンキー」に近いかもしれない。たとえば「オタクにやさしいギャル」という言い回しもあるが、そのときのギャル像も筋の通った人間として描かれるはずだ。『長瀞さん』の長瀞さんも、その友達のギャルもそう描かれている。
「オタクにやさしいギャル」が実在するかどうかは知らない。実在してくれればいいと思う。おれのために? いや、この歳でギャルにやさしくされてもしかたない。世界のためにだ。世界にはやさしさが足りない。違うか?
この「ギャル像」については、東京大学ギャル学部教授などが新書を書くべきだ。論考に値する問題に違いない。
おっさんはギャルに罵倒されるために生きている
まあ、なんであれ、おっさんはギャルに罵倒されるために生きているといってよい。主語が大きいといってよい。しかし、みりちゃむ様の鮮やかな罵倒、おっさんをばっさり斬り捨てていくさまを見ていると、そのような気持ちになる。もちろんおれはドMである。しかし、それを置いておくにしても、だ。
おっさんがギャルに罵倒されるのにはすがすがしさがあるといってよい。ビジネスパーソン……ビジネスおっさんも日々のストレスを解消されるためにギャルの罵倒を接種するのがいいんじゃないかといいたいのだ。
本当に?
しかし、おれがそういうだけではなにかが足りない。足りないので、おれはこんな本を読んだ。
マゾヒズムの発明
- ジョン・K. ノイズ,Noyes,John K.,秀, 岸田,健司, 加藤
- 青土社
- 価格¥6,700(2025/07/15 12:21時点)
- 発売日2001/12/01
- 商品ランキング606,314位
この本のなかに、こんな一節があった。べつにこの本の主な部分でもない。
マゾヒズムを生物学的基盤をもつ状態とみなす考え方は、実践的マゾヒストたちの神話のなかにも生き続けている。六十四歳の異性愛者のマゾヒスト、「ニコラウス」はトーマス・ヴェツシュタインのインタヴューに答えてそれを次のように述べた。
人間は群れをつくる動物だ。最も強いオスが集団を統率し、すべてのメスはそのオスに所属している。子孫は強くならなければならない。生き残り競争に適応していかなければいけないからだ。
他のオスはボスの権利を巡って挑戦し、メスを得るために戦う。彼らは何度も挑戦しては敗れ、メスから軽んじられる。メスの眼にはボスはますます賞賛と崇拝の対象となる。ボスに対する―そしてボスだけに対する―尊敬から、メスには依存と被保護、服従と従属の恍惚が生じる。奴隷のメス、と言ってもいいかもしれない。
ある時点でボスは最も強い存在でなくなる。するとボスは打ち負かされ、追い払われ、いまや元ボスが知るのはメスや他の者からの軽蔑である。敗北者はこの軽蔑を背負って生きてゆかなければならない。彼らはセックスをまったくしない。自然は彼らにその能力を十分に与えているのに……。
その結果、若い女は唯一の主の奴隷となる傾向がある。その主がお役御免になれば、女の服従も終わる。彼は、軽蔑され荒野へと放逐される……。だからこそ、本能に従うなら、男は年をとればとるほどますますマゾ的になってゆくのだ。
しかし、男は、教育に従うなら、「女のボス」であり続けたくなり、馬鹿を晒し、いろいろ問題を起こす。その結果、若い女たちと年老いた男たちは(潜在的に)マゾヒストとなり、他方、若い男たちと年老いた女たちは支配的になりがちで、マゾ的パートナーがいれば、サディズムへと至ることがある。サディズムそのものは生まれながらもっているようなものではない。サディズムはマゾ的パートナーの願望によって生まれる―敗北者の軽蔑というね。
むろん、これは根拠のない「神話」の一部だ。実践的マゾヒストの「ニコラウス」さんの一意見にすぎない。
して、なにやら(若い)女性に対する意見についてはわからぬ。今回はそれには言及しない。というか、おれの考えていることと逆だ。女性に対する見方について、時代が違うのかもしれない。
ただ、おれが共感するのは「本能に従うなら、男は年をとればとるほどますますマゾ的になってゆくのだ」というところだ。争いに負けた、ボスにもなれないような男たちは、マゾになっていく。そして、「ニコラウス」さんとはべつに、若くて強い女性に「マゾ的パートナーの願望」を抱いてしまうのだと。
これが、おれの考える「ギャルに罵倒されたいおっさん」のルンバである。「自分は負け組のマゾおっさんなんかではない」と思うそこのあなた、本当にそうだろうか。みりちゃむ様に罵倒されたくはないか?
……とはいえ、じっさいに罵倒されたらどうなんだろうな
とはいえ、だ。おれはあくまでエンターテインメントの「ギャル罵倒」を見ているだけだ。じっさいに罵倒されたことがあるわけではない。そういうパートナーはいなかったし、そういうお店に行ったこともない。そういうお店があるのかどうかも知らないが。
ここまで変態ぶりをさらしておいてなんだが、男女であれなんであれ、人間同士の関係に大切なのは、互いの尊重ではないだろうか。おれはそのようなつもりで生きてきた。
……というと、嘘になるが、すくなくともパートナーと呼ばれるような女性に対してはそう接してきたつもりだ。もちろん、相手も自分のことをわかってくれる。ときにわかりあえないこともあるだろうが、それでも、どこか信じられる人でなくてはいけない。自分もそうでなくてはいけない。そう思いたい。
で、罵倒ってなんだろうか。もしも、街を歩いていて、見知らぬギャルに、「キモイんだよ、くそジジイ!」とか言われたら、どうなるだろう。即座に「ありがとうございます」とは言えないかもしれない。ショックを受けて泣いてしまうかもしれないし、あるいは怒り出してしまうかもしれない。それは自分にも予想がつかない。
だからなんだろう、「ギャルに罵倒されたいだけの人生だった」といえるのかどうか。回り回って、その疑問に行き着いてしまう。あくまで、優れたエンターテイナーとしてのギャル、エンターテイナーとしてのドMおっさん、それが紡ぎ出す見事な作り物を見て、それに憧れるのがいいのかもしれない。それでひとときのすがすがしさが得られるならば、それでいいだろう。
だが、もし、進んで罵倒される世界に、マゾヒストの世界に進もうという人がいるなら、おれはそれを止めはしない。止める理由もない。おれはそれを励ましたい。励ますだけだ。励ますだけで、近寄りたいとは思わない。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
ご視聴登録は こちらのリンク からお願いします。
(2025/7/14更新)
【著者プロフィール】
著者名:黄金頭
横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。
趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。
双極性障害II型。
ブログ:関内関外日記
Twitter:黄金頭
Photo by :The Ian