昔、面接官をやっていた時のこと。
我々は「どうすればコンサルタントの適性を持つ人材を集められるか」を追求していた。
長くても30分ほどの面接で、適切に候補者の選別を行うこと。
それは、「面接官の思いつきの質問」をするだけでは非常に難しかった。
我々は面接のやり方を試行錯誤した結果、「書かせること」で、かなり正確に候補者の能力を選別できることに気づいた。
一般的には面接では「話してもらうこと」を中心にすることが多いと思う。
が、我々はその場で「書いてもらう」ことにした。
*
そのやり方は、以下のようなものであった。
まず、お題を出す。
多くは現場の状況を切り取ったもので、次のような趣旨のこと書かれたいくつかの「資料」と「質問」を渡す。
背景
オーガニックカフェ「ナチュラルテイスト」は、都市部で成功を収めている小規模カフェチェーンです。(財務諸表・組織図・現状調査表は別添資料)新鮮で健康的な食材を使用したメニューと、リラックスできる雰囲気で人気があります。現在、都市部での成功を背景に、地方都市への展開を検討しています。
現在の状況
- 市場分析
- 都市部ではオーガニック食品や健康志向の高い顧客が多いが、地方ではその需要が未知数。
- 地方都市の人口は減少傾向にあり、購買力も都市部に比べて低い。
- リスク要因
- 地方でのブランド認知度が低いため、集客に時間がかかる可能性がある。
- ローカルフードの人気が強く、新しい飲食店の定着に時間がかかる。
- 競争状況
- 地方都市には既存のローカルカフェが存在し、地元住民に根付いている。
- 大手カフェチェーンも地方展開を進めており、競争が激しい。
質問
「ナチュラルテイスト」は地方都市への展開を進めるべきでしょうか?あなたの見解をYESまたはNOで表明し、その理由を手元の紙に書き出して説明してください。
これを10分程度でやるようにお願いする。
ただし、この問題自体にはさほど意味はない。
そして、正解があるわけでもない。
実際に、我々が見たかったのは、この状況に対しどのように「対応するか」と「アウトプットの質」だった。
10分後、皆で一斉に、書き出したものを面接官に見せてもらい、それをプレゼンテーションしてもらった。
なお、プレゼンテーションの順番を決めるのも、候補者たちに任せた。
交渉力や、リーダーシップを見るためだ。
10分程度であるから、出てくる答えの質はさほど高くはない。
だが、繰り返すが、その中には候補者の能力を示す情報が数多く詰まっていた。
例えば、基本的なこととして
・「YES/NO」を表明しているかどうか
・どの程度網羅的に検討しているか
・具体的な数値が含まれているかどうか
・あいまいな言葉を使っていないか
といったことが対象になる。
例えば、以下のような回答をした候補者がいたとしよう。(こういう学生が、少なからずいた)
地方進出のチャンスがある
・都市部でのノウハウを活かして、地方でもブランドを広めることができると思います。
・地方でも健康志向が高まる可能性があります。
これは「良くない」と判断される回答の一つだ。
まずYES/NOを表明していないので、質問にこたえていない。
また「ノウハウ」や「ブランド」という、難解な言葉を軽々しく使っている。
読む人の立場になって考えられない典型的な例だ。
さらに、数値が入っている資料を渡しているのに、時間がないのか、数字を読むのが苦手なのかわからないが、それを全く利用しようとしていないのもマイナスだ。
例えば、次のような回答と比べたら、候補者の能力の差を感じるだろう。
結論:地方都市への展開を進めるべきである
理由1:地方都市における健康志向の高まりは、成長の潜在的な機会と判断できる。資料3の市場調査データによると、地方でも有機食品や健康的なライフスタイルに対する関心が増加しており、「ナチュラルテイスト」の製品・サービスが受け入れられる余地がある。
理由2:都市部での成功事例は、地方においても特に20代の女性に訴求力があるとみなせる。したがって、広告やイベントを通じて「ナチュラルテイスト」が資料4に定義されているようなブランド価値と商品価値を提供しているのかを伝え、地域住民に親しみを持ってもらう活動が可能。
繰り返すが、ここで重要なのは「内容の正しさ」ではない。
思考を文書化する過程が、能力の差が浮き彫りにし、面接官はそれを見逃さないようにしていたというだけの話だ。
*
「書かせて」「それを話してもらう」ことで、少なくとも次のような能力が把握できる。
・情報収集能力
・語彙力
・論理的思考力
・仮説構築力
特に、仮説の構築力は重要で、情報が十分に与えられていない状況であっても「ここは仮説だ」とおいて、議論を進めることができる力は必須だった。
仮定が出来ない人はIQが低いという研究もある。
もちろん、仕事で必要とされる能力はこれだけではない。
リスクを取れる勇気や、実行力など、突き進んでいく能力も重要だ。
が、すくなくとも「自分の思っていることを的確に文字にできる」能力は、とくに知識労働と呼ばれる分野では重要だった。
ではこのような力はどうしたら身につくのか。
これは非常にシンプルで、それまでにこなした「読み書き」の量で決まる。
「国語力」といっても良い。
また、数学者の藤原正彦は、「論理を身につけるには数学ではなく、国語を学ぶべき」と言っている。
現実世界の「論理」とは、普遍性のない前提から出発し、灰色の道をたどる、というきわめて頼りないものである。そこでは思考の正当性より説得力のある表現が重要である。すなわち、「論理」を育てるには、数学より筋道を立てて表現する技術の修得が大切ということになる。
これは国語を通して学ぶのがよい。物事を主張させることである。書いて主張させたり、討論で主張させることがもっとも効果的であろう。筋道を立てないと他人を説得できないから、自然に「論理」が身につく。読書により豊富な語彙を得たり適切な表現を学ぶことも、説得力を高めるうえで必要である。
この主張には強く同意する。
「思考を上手に書きだせる」人物は、知識労働者として大成する可能性は高い。しかしそれは才能と言うよりも、単なる訓練の積み重ねで身につけることができる。
「読み書きそろばん」は、現代でもなお、重要であることに変わりはない。
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【著者プロフィール】
安達裕哉
生成AI活用支援のワークワンダースCEO(https://workwonders.jp)|元Deloitteのコンサルタント|オウンドメディア支援のティネクト代表(http://tinect.jp)|著書「頭のいい人が話す前に考えていること」60万部(https://amzn.to/49Tivyi)|
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Photo:Glenn Carstens-Peters