猫用のおやつ「CIAOちゅ~る」や、ツナ缶の製造などで知られる「いなば食品」。
2024年4月、SNSなどで炎上状態になったことを記憶している人は、まだまだ多いのではないだろうか。
騒動の発端は、社宅として “ボロ家”をあてがわれたとされる元新卒社員の発信だった。
また内定時に約束していた初任給も覆され、3万円ほど安い条件を入社時に示されたとされるなど、ネガティブな情報が相次ぐ。
それに追い打ちをかけたのが、同社からのプレスリリース(魚拓)だった。その内容は、各種メディアで“怪文書”と評されるなど、およそ広報担当が書いたと思えないほど稚拙なものである。
要旨、一連の騒動は全て、病気で急逝した副社長の責任であるかのように読める内容で、これが火に油を注いだ。
「間質性肺炎の急性増悪で緊急入院」
「詳細な指示が酸素吸入による呼吸困難でほぼできず、空白となってしまいました」
このようなプレスリリースは前代未聞であり、叩かれても当然だっただろう。
もちろん、何が真実で何が虚偽なのか、当事者以外にはわからない。
ただひとつ、あの騒動で多くの人が感じたことはきっと、「書いてあること」からでは決してない。むしろ、「書いていないこと」から、多くの人が経営陣の人柄を敏感に感じ取ったから、あそこまで燃えたのではないのか。
そしてそんな騒動のちょうど同じ時に、ある飲食店から一通の“謝罪文”が、メルマガで送られてくることがあった。
いなば食品のプレスリリースと余りにも対照的で、“謝罪文”にここまで心を動かされたのは初めてだった。
店主・吉川さんの許可を得ているので、まずはそのまま転載したい。
【ご報告とお詫び】(※原文ママ)
こんにちは!!鉄板キッチン「cona」の吉川です。
conaの近所にお住まいの方の中にはもしかしたら知っている方もいらっしゃるかもしれませんが、4月13日土曜日の19時頃に当店の鉄板が内部から出火して消防車3台とパトカー数台が出動する騒ぎを起こしてしまいました。
(自分は店の近くで聴取を受けていた為、消防車とパトカーの話は人から聞きました)
その当時、店内は満席でお客様からのご注文が特に多く、たくさんの食材を鉄板で焼いていました。
そのちょっと前から鉄板の内部で燃えカスか溜まっている油に引火したのは確認していたのですが、たまにそういう事はあり、いつも燃えカスが燃え尽きたら終わりなので、さして気にせず料理を続けていました。
しばらくしても火が消えないので、料理に使う水差しで水をかけたら1度火は消えました。
その後、再び同じ場所から出火し、その火種が落ちて、鉄板の下に溜まっている油にも引火しました。
その段階からは鉄板内部の火も目視できる高さまで上がってきて、店内に白煙が充満してきたので、
「こりゃダメだ」
と消防に電話しました。
そして電話しながら消防の方に対応の指示を仰ぎ、店内のお客様に事情を説明した上でお店の外に避難して頂きました。
その後もスタッフ1名と僕は店内に残って、鉄板の上の食材をお皿に移したりしていたのですが、火の勢いが増してきて、煙が黒くなってきたので、僕たちもお店の外に出ました。
二階にある「欧風バル縁」とお隣の「餃子の王将」に居たスタッフさんとお客様にも念の為、店の外に避難して頂き、店の近辺は騒然としていました。
すぐに消防の方が駆けつけてくれて消火器で消火してくれたので、火災は小火(ぼや)で済みました。
幸い、お客様やスタッフに体調を崩された方やお怪我をされた方はおらず、設備にも全く損傷が無かったのですが、消火器を撒いて下さったので、店内は粉まみれでした。
その日の営業は続行不可能と判断し、お客様の体調を確認した上で、事情を説明してその日はそのままお引き取り頂きました。
その時店内に居たお客様は皆さまご予約をして来て下さっていて、お誕生日のお祝いで来られている方も2組いらっしゃいました。
その方達のせっかくのお食事の時間を台無しにしてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
お食事の進み具合もほとんどの方が2~3割くらいで、最後に来られた方に至ってはまだ何の料理もお出ししていない状況でしたので、お腹も空いていたと思います。
そんな中でいきなり営業の続行が不可能と言われて、お困りになられたと思います。
近隣のお店にも、そこに居たお客様にも多大な迷惑を掛けてしまいました。本当に申し訳ございませんでした。
それからは2時間程の事情聴取があり、設備の安全を確認した後、消防の方と警察の方から翌日以降の営業再開の許可を頂きました。
消防の方と警察の方が引き上げられてからは店内の復旧作業に移ったのですが、先述の通り、消火器を撒いてもらっているので、店内は消火器の粉だらけです。
粉が掛かっている調味料と食材を全て捨て、店にある全ての食器とグラス、調理器具の洗浄と客席と床の拭き上げが待っていました。
残ってくれていたスタッフ2名と駆けつけてくれた妻と一緒に何から手を付ければいいのか途方に暮れながら、少しづつ作業を進めていたら、近所にある「植ティー」という居酒屋の店主さんがご自身のお店の閉店作業が終わってから片づけを手伝いに来てくださいました。
また、「尚希苑」というダーツバーの店主さんは差し入れに大量のレッドブルを持ってきてくれ、conaの二階にある「欧風バル縁」のオーナーさんとスタッフさんに至ってはご自身のお店の閉店作業が終わってから、何度も何度も一階と二階を往復して、conaの洗い物をご自身のお店でもして下さいました。
他にもいろんなお店のお客様や店主さんが店の様子を見に来て下さり、労いの言葉をたくさん掛けてくださいました。
感謝してもしきれません。本当にありがとうございます。僕も周りの人が困っている時に率先して動ける人間でいようと誓いました。
皆さまのお力添えのお陰で、深夜2時30分頃に洗い物と片付けがようやく終わり、次の日から営業が再開できるようになりました。
鉄板の内部にあった燃えカスや油は全て燃えきって煤(すす)になり、その煤を掃除した上で、再発防止の為の策も講じましたし、全ての機器が問題無く使える事は確認しておりますので、その点はご安心くださいませ。
また翌日の日曜日にお店に来られていた方全員にお電話させて頂き、その後体調に異変がないかどうかの確認とお詫びをさせて頂きました。
一組だけご連絡がつかなかった方がいらっしゃいましたが、皆さまから逆に労いのお言葉を頂き、中には「昨日のやり直し」といってご来店下さった方もいらっしゃり、胸が熱くなりました。
色んな人の支えがあって店が営業できている事を肝に銘じ、安心、安全にお食事を楽しんで頂けるようより一層努めてまいりますので、今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。
「たいせつなことは、目に見えない」
この謝罪文をお読みになって、どう感じられただろうか。
まず一般的な“謝罪文”からしたら、言わなくてもいい余計なことだらけだ。
言ってみれば、冒頭のいなば食品と同様に、
「間質性肺炎の急性増悪で緊急入院」
「詳細な指示が酸素吸入による呼吸困難でほぼできず、空白となってしまいました」
と同じとも言える、“いいわけめいた”説明から始まる。
ボヤを出してしまった経緯について、それほど理解・同情できる説明ではないかもしれない。
しかしその後は、ただひたすらにお客様と助けて頂いたご近所・同業他社の経営者に対する感謝の言葉が続く。
そんな内容に思うところがあり、さっそく吉川さんに連絡を取る。
「吉川さん、なぜここまで細かく、状況を説明するような内容を、しかもメルマガで打ったのですか?」
「桃野さん、正直いいますと、反対するスタッフもいました。しかし私は、起こったことをありのままにお伝えすることが大事だと思ったのです。大事なお客様へのご対応だけでなく、助けて頂いた皆様のことをそのままお伝えするのが誠意だと考えました」
そう、吉川さんの文章は“言わなくてもいい言い訳”をしつつも、その目的は“お客様と、助けて頂いた皆への謝罪と感謝”にこそある。その想いが、文章からも行間からも溢れている。
目的が正であれば、“言わなくてもいい余計なこと”だらけであっても、文章が拙くとも、無駄に長い文章ですら人の心を打つことがあるという、“謝罪文”の見本だ。
この“謝罪文”からは、日頃どれだけ常連客と良い関係を築いているのか。
本来ライバルであるはずの、ご近所の同業他社とですら、どんな関係を築いているのかが透けて見える。文字通り、「書いていること」ではなく、「書いていないこと」からこそ、人の本質が透けて見えるということだ。
その一方で、いなば食品の謝罪文からは、経営陣のどのような意志・意図を感じただろうか。
“炎上”という現象には必ずしも賛成できないが、ナチュラルに燃え上がる人・企業がやることには、それ相応の理由があるような気がしてならない。
それだけの火種が、あの”謝罪文”には余す所なく、詰まっていたのではないのだろうか。
余談だが、誰もが知る児童文学の名著『星の王子さま』(新潮文庫)は、こんな名セリフで知られる。
「大切なことは目に見えないんだよ」
正確にこの前後を引くと、以下のような感じだ。
「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」
そしてその伏線となる前半部分には、こんな記述がある。
おとなは、いちばんたいせつなことはなにも聞かない。「どんな声をしてる?」とか「どんな遊びが好き?」「蝶のコレクションをしてる?」といったことはけっして聞かず、「何歳?」「何人きょうだい?」「体重は何キロ?」「おとうさんの収入は?」などと聞くのだ。そうしてようやく、その子のことがわかった気になる。(中略)子どもはおとなに対して、広い心を持ってあげなくては。
私たちは大人になるにつれてどんどん、「本当にたいせつなこと」が見えなくなり、そして見ようとしなくなる。
常識という垢にまみれ、本当に問うべき大事な課題を見失っていく。
しかしそんな生活の中だからこそある日、『星の王子さま』のような作品に出会い、ハッとさせられるのだろう。
「鉄板キッチンcona」の吉川さんが発信された“謝罪文”もまた、そういったものを見せてくれたのだと思っている。
大切なことは、本当に目に見えない。
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(2025/3/27更新)
【プロフィール】
桃野泰徳
大学卒業後、大和證券に勤務。
中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。
主な著書
『なぜこんな人が上司なのか』(新潮新書)
『自衛隊の最高幹部はどのように選ばれるのか』(週刊東洋経済)
など
吉川さんのお店は、奈良県奈良市、グルメ街で知られる富雄にあります!
奈良県にいらっしゃる事があればぜひ、訪問してください。
必ず満足して頂けると思います!
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Photo by:Ben Wicks