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世の中には2種類の人間がいる。セックスしたい者としたくない者だ。私は後者の人間である。

セックスしたくない人間は性的少数派(性的マイノリティ)であり「アセクシュアル」と称される。私もそんなアセクシュアルの1人だ……と書くと自信に満ち溢れていそうだが、私がそう自認したのはごくごく最近のことだ。それまでは自分がLGBTQ+の一員だなんて夢にも思っていなかった。

この稿ではそんな私がどのように「アセクシュアル」という言葉と出会い、自認に至ったか、経緯を書いていきたい。

 

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ここまで読んで「性的指向? 自分は『普通』だから関係ないや」と思った方もいるかもしれない。けれど、性的指向には「普通」なんて存在しないことをまず述べたい。

異性に性的欲求を抱く人のことを「ヘテロセクシュアル」と呼ぶ。ヘテロセクシュアルが普通でそれ以外が異常ということはない。性的指向は人の数だけあり、みんな対等だ。

 

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2024年現在の日本では性的マイノリティは「LGBT」と総称されることがまだまだ多い。だが性的マイノリティはLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)以外にも沢山存在する。アセクシュアルもその一つだ。そのため最近では「LGBTQ+(+=LGBTQ以外のセクシュアリティ)」や「LGBTQIA(Q=クィア・クエスチョニング、I=インターセックス、A=アセクシュアル)」と表記することが多くなっている。

「+」の記号ひとつにパンセクシュアル、ノンバイナリ、ジェンダーフルイド、デミセクシュアル等、様々な性的マイノリティが込められている。実に色んな人たちがこのちっちゃな「+」にぎゅっと詰め込まれているところを想像すると「+」がなんだか愛おしく思えてくる。「+」におつかれさま、と一声かけたいような気分だ。

 

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「アセクシュアル」とは他者に性的関心を抱かない人のことだ。恋愛感情を持たない人は「アロマンティック」とよぶ。恋愛感情を持つ人は「ロマンティック」である。アセクシュアルの中にはアロマンティックも、ロマンティックもいる。さらに付け加えると、アセクシュアルには性欲がある人も多い。つまりアセクシュアルでも恋愛する人はするし、セックスする人はする。同じアセクシュアルといえど、そこは人それぞれだったりする。

性的関心もなければ恋愛感情もない私は厳密には「アロマンティック・アセクシュアル」ということになる。

 

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私が「アセクシュアル」「アロマンティック」という言葉と出会ったのは2010年代だったと思う。SNSで見つけたのだが、そのとき感じたのは

「ちゃんと名前がついてるんだ!」

という驚きだった。

 

それまで「自分はどうもロマンスの才能に欠ける」という自覚はあった。恋愛映画やドラマは「笑かしだよね?」としか思えない自分。異性と付き合った期間もあるが、それはとても辛い日々だった。従って「自分、男女交際、下手だ」とも自覚していた。

いっぽう、性欲に関しては「ない」という自覚に至るに少々時間がかかった。無を証明するのは難しい。しかし知人に「最近セックスしたのいつ?」と聞かれ「覚えてないけど10年くらい前かな?」と答えるとものすごく驚かれた。

狼狽した知人に「で、でも一人ではしてるよね?」と再度問われ「全然しないな~」と答えて「はっ」と気づいた。

 

ひょっとして私のように10年以上性活動(ソロ含む)を行っていない人は少ないの!?

みんなしてないと勝手に思い込んでいたが勝手な思い込みほど自分ではなかなか気づけないものである。私にとってそれは青天の霹靂だったのだ。

 

■■自認が遅かった訳①とくに困ってなかった

今でも自分がアセクシュアルだと考えると「いやいや、私なんかが名乗るなんておこがましいですよぉ」という気持ちになる。

「アセクシュアル」という言葉を知り、恋愛に興味ナシの性欲ナッシングに気づいてはいても、アセクシュアル自認はなんとなくできないでいた。自認せずともとくに不便はないからだ。

アセクシュアル全員がそうではないだろう。なかには「結婚しろ」という家族の願いをプレッシャーに感じ、応えられない自分に悩んでいる人も多いようだが、私個人は世間体を気にしたことがないのでアセクシュアルでもさほど困ってない。

 

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「あの人が好き!」というときめき。アセクシュアル以外の人々にはそういうきっかけがある。そこから恋愛を通じて性的自認に至るのではないだろうか(と想像する)。

私にはそういったときめきがない。ときめきがないのは幸いである。悩みもないからだ。ところが悩みがないところには発展も成長もないのも事実。

「私は〇〇(←任意の性的指向を入れてください)!」だと自分で認めるには腹をくくるきっかけが必要だ。自分が性的マイノリティだと自認するには、私には決め手がずっと欠けていた。

 

■■自認が遅かった訳②「いつか運命の人が現れるよ」問題

アセクシュアル自認が遅れた理由にはもう一つある。多くのアセクシュアルたちが経験したと語る、通称「いつか運命の人が現れるよ」問題だ。

世の多くを占めるロマンティックたちは学校で、職場で、親戚の集まりで、私にささやき続けてきた。

「いつか運命の人が現れるよ」と。そうなったときには私も恋に落ちて結婚するんだよ、と。

 

なまじロマンティック下手を自覚していた私はそれを信じ込み、愚直に待った。四半世紀待った。眠り姫でも床ずれで起きてしまう時間を待ち続け、現在に至るが運命の人は現れていない。あるいは、現れているのかもしれないが、それはどちらでもいいことだ。

待ち続ける間に、運命の人の出現は関係ないことに気づいてしまったからだ。恋愛も結婚も、自分の中に「したい」という欲求がなければ実現しない。

待ち続ける間に【真実】にも気づいた。それは「シングルでも、結婚してなくても、どうってことはない」ということである。

 

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アセクシュアルに対して、ロマンティック指向の人たちは「人に興味のない冷酷な人間なんじゃないの?」と思うらしいが、そんなことはない。私にだってちゃんと寂しいという感情はあるし、友だちも100人くらい欲しい。

結婚やお付き合いに興味はないけれど、人と共にあることを諦めたくはない。

数か月前にアセクシュアルが集まるイベントに行ってみた。そこで人生で感じたことのないフィット感を感じた。

「初恋って来ました?」

「来ない(笑)!」

「一生来ませんよね(笑)!」

「あれって都市伝説でしょ?(笑)(笑)」

と笑いを共有できる喜び。こんなに居心地が良いということはやっぱり私もアセクシュアルなんだな、自分の中で腑に落ち、ようやく私は自認するに至った。

 

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今現在私は「アセクシュアルでよかった!」と思うことが多い。

日本の市場は恋愛至上主義、それも異性愛至上主義に満ちている。言い換えると世の中の異性愛者(ヘテロセクシュアル)たちは一番財布を狙われている。街に出ようが、スマホを眺めようが、お金を使うよう誘惑され続けるなんてこの物価高では死活問題だ。

ロマンス詐欺にも気をつけなければならない。先日、国際ロマンス詐欺の犯罪ドキュメンタリーを見た。詐欺師の高度な手口に恐怖しながら見たが、同時に、アセクシュアルとしてはこの手の詐欺には引っかかりようがないな、とも思った。

日々あらゆる場面で危険に晒されているヘテロセクシュアルは、私には務まりそうにない。アセクシュアルでよかった。

 

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恋人もおらず結婚もせず「運命の人」を待ち続けた年月の末に辿り着いたのは「『運命の人』、いてもいなくても関係ない」という事実と、「恋人がいなくても、結婚しなくても、どうってことない」という真理だった。

 

今、私はアセクシュアルという自認に辿り着いてよかったと思っている。もし現在、恋愛至上主義の世の中に違和感を感じている人がいるなら「あなたは一人じゃない」と伝えたい。この国が、全ての人々にとって居心地の良い社会になるよう祈っている。

 

 

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【著者プロフィール】

大和彩

約10年前に失職したきっかけで持病が悪化、現在主治医に就労を禁止されている。働くことこそが私のアイデンティティであり、私から仕事を取ったら何も残らない、とその頃は思い込んでいたが、さて。今現在でも一番辛いことはあまり働けないことである。

失職して生活保護を申請した経験を基に『失職女子。(WAVE出版)』という本を書いた。

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