アルコール依存ができなくなった人間の末路
おれはアルコールに依存していた。しかし、大病が原因でアルコールを飲めなくなった。
飲めなくなってどうしたのか。アルコールに代わるべつの依存先を探した。探した結果、そのとき行き着いたのがゼロ・コーラだった。おれはゼロ・コーラ依存症になって2ヶ月くらい過ごした。おれはゼロ・コーラを飲みまくった。
「ゼロ・コーラにもなんらかの害はあるのでは?」という疑問を持つ人もいるだろう。そりゃなんかあるだろう。
だが、アルコールの害とゼロ・コーラの害、どちらが大きいだろうか。とくにおれにとっては、差し迫った希少がんの手術ができるかどうかがかかっているのだ。
ゼロ・コーラを飲むのは「より害の小さい依存」にほかならない。AIなどと対話した先では「ゼロ・コーラより水を飲んだほうが健康的です」などと答えるが、それはさすがに人間をやめすぎている。
ゼロ・コーラが飲めなくなった人間の末路
さて、おれは無事禁酒ができた。希少がんの手術を受けることもできた。大腸切除。ストーマ(人工肛門)の一時造設。そうなった。
ストーマができたおれがどうなったか。飲食物に対する恐怖の塊になった。おれは不安症なので、「ストーマになったら何を食べてはいけないか」について、事前によく調べた。非常によく調べた。
だいたい「ストーマには食事制限はありません」という希望をもたせる言葉ではじまったあと、「ただし、以下の食べ物には気をつけましょう」で、食べるべきではないものがたくさん列挙されている。
正直、いんちきじゃないかと思った。それで頭がいっぱいになったおれは、入院中の病院食に出てきた野菜やわかめなどについても、ウェブで確認したり、AIに聞いたりしたうえで、「危険だから食べない」という選択肢をとったりした。病院食すら信じない。
もしストーマが詰まったらフードブロッケージ、腸閉塞でアウトだ。それだけは避けたい。とくに造設後は注意が必要だ。
というわけで、おれは退院してからも警戒を続けている。最初はレトルトのおかゆばかり食べていた。その後食べるようになったのは、以下の二通りの「おれ流オストメイト食」である。
・オストメイトうどん
Amazonブランドの一番安いうどんの乾麺を標準ゆで時間より長く茹でる。水で洗う。皿に乗せる。コンビニやスーパーで売っているサラダチキンと、一番安い3個100円くらいの充填豆腐、卵を1個のせる。めんつゆをかける。
・オストメイト雑炊
パックご飯をレンジで加熱する。雪平鍋に少量の水を入れ、火にかける。あたたまったご飯を入れ、卵を一つ入れて溶き、ヒガシマルの雑炊のもとを入れる。さらにサバ缶あるいはサラダチキンを入れる。缶詰が味付けではない場合、醤油などを垂らす。
この二つである。おれはこの二つを食べている。よく噛んで食べている。
それでもストーマが「キューッとなる」ことはあるが、詰まったことはない。野菜? そんなもの人間に必要ではない。サプリを飲め。あと、「本当にそんな食事だけをしているの?」と疑問に思った人は、おれのXを見ろ。まずそうな食事の写真が並んでいる。なによりの証拠だ。
まあ、それはいい。おれは食事に極度の恐怖を抱いている。その結果、ゼロ・コーラも飲めなくなった。炭酸飲料もガスを発生させるのでオストメイトにはよくない飲み物だからだ。
でも、ガスが発生するだけなら、人前でなければ関係ないんじゃないか? そう思って、一本飲んだ。こわごわ飲んだ。飲んでどうなったか。どうもならなかった。ガスの発生も感じなかった。
ただし、ぜんぜんおいしくなかったし、気持ちよくもなかった。怖がりながら飲むコーラは、まったくよい飲み物ではなかった。おれはそれ以来、一本もコーラを飲んでいない。炭酸飲料を飲んでいない。
アルコール依存の代わりの、ゼロ・コーラ依存もなくなってしまった。
2026年になってX依存になる
アルコールを飲む時間が、ゼロ・コーラを飲む時間になった。そのゼロ・コーラを飲む時間もなくなった。空いた時間ができてしまった。
なにか、べつのことをすればよい。たとえば読書はどうだろうか。読書ならば時間の区切りも自由だ。べつに意義のためにする行為でもないが、有意義といってもいいだろう。
が、おれは退院したあと本を一冊も読んでいない。恥ずかしながら、おれは読書の習慣を図書館に頼ってきた。本を買う金がない。本を置く場所がない。
入院前に、すべての本を返却して、長いこと続いた、「借りる→返す→返すついでに借りる……」のサイクルを終えた。そして、あらたに借りに行っていない。
最初は手術後の肉体の劣化で、近所のコンビニに行くのがやっとだった。図書館には行けない。今は、体力も回復してきて、図書館くらいには行ける。ただ、どうも足が遠のいてしまう。足が遠のくというか、ストーマがある身体で、外に出たくないのである。
ストーマ閉鎖後にLARS(直腸を失ったことによるひどい排便障害)で本当に外に出られなくなるのがわかっているのに、外に出たくないのだ。部屋に閉じこもっていたい。どこにも行きたくない。図書館にも行きたくない。
あと、本を読む体勢が取れない。へその右上にストーマがあって、うつ伏せになれない。おれは本をうつ伏せに寝っ転がって読むことが多かった。そういうことも頭をよぎる。
おれは日本人の平均以上に本を読んでいたが、もう本も読めない人間になった。本を読もうという気も起こらない。
そして、どうなったか。スマホを見るようになった。よく見るようになった。はてなブックマークをよく見る、5chも見ちゃう。でも、どちらも読み始めると、意外に簡単に読み終わってしまう。
……で、出てきたのがX、これである。旧Twitter、これである。
おれがTwitterのアカウントを作ったのは2009年3月らしい。Twitterも普通に使ってきた。使ってきたが、一番の目的ははてなブックマークと連携させることだった。
もしもはてなブックマークがなくなってしまったとき、Twitterにバックアップがあればいいな、と思ったのである。まあ、はてなブックマークは健在だし(すばらしい)、むしろTwitterのほうがどうなるんだよみたいになったこともあった。まあ、Xになったのだが。
で、おれはあまりXを見なかった。はてなブックマーク連携(記事と一言コメントの転載)と、それこそ自分の食事をアップするくらいのものだった。あ、あと、スペースで配信というのをほぼ毎日4人くらい相手に行っているか。
一方で、たまに自分がフォローしている人のタイムラインを見ることはあっても、べつに熱中したりはしなかった。
「おすすめタイムライン」? なにやら荒れていたり、いやな情報で溢れていたり、よくなさそうなので見なかった。本当に見なかった。
が、これが、時間ができてみてどうなった。「ちょっとおすすめタイムラインを見てみるか」となった。そうなるとおそろしいな、これは。
なんとなく自分の興味がありそうな話題、それもバズっている話題が並んでいる。バズっている話題というのは、それなりにバズる理由というものがあるもので、人の興味を引くなにかがある。おれも人の子なので興味を引かれる。正直、おもしろい。
そして、きりがない。これが怖い。どんどんスワイプしていけば、どんどんバズっているポストが出てくる。いくらスワイプしてもきりがない。きりがないと思って最初に戻って更新してみれば、今度は新しい話題がいくらでも出てくる。
おれはもう、椅子に座って、iPhoneの画面から目を離せない。ほかになにもできない。する気もおきない。時間は信じられないスピードで溶けていく。「あと15分」と思っても、気づいたら1時間くらい平気で溶けている。これはすさまじい。えげつない。やばい。そう思った。
そう思ったおれはどうしたか。Xに課金した。こんだけ使っているのだからいくらか払ってもいいだろう、というのと、広告が減る、というメリットを享受したかった。一番安いコースでは「減る」だけで、もしもそんなに減らなかったら、すぐに解約すればいい。そう考えた。
……したらなあ、たしかに減るんだよ、広告。
実感として。数字で見ると、今まで2957件の広告が表示されなくなって、一年間で42時間節約できる計算らしい。
それでもって、選挙なんていうネット言論空間を躁状態にするイベントもあって、ますます目が離せない。
おれのタイムラインではあまり多くないが、生の陰謀論とかも目にすることができて、ああ、これがインターネットか、と思ったりもした。いや、自分はネットの負の側面、SNSの負の側面について知っているつもりではいたが、あくまで知識として知っていただけで、実際にそういう人を目にしてきたわけではなかった。
……とか、なにやら勉強になったみたいなことを書いてはみたものの、じっさいに「ためになったなあ」、「勉強になったなあ」という手応えは少ない。
むろん、X上にも信頼できる思想家、専門家もたくさんいる。とにかくXにはたくさん人がいる。ピンからキリまでなんでもいる。なので、新しい知見を得ることだってある。
が、圧倒的にどうでもいい話が多い。どうでもいいならまだいいほうで、無駄に怒りを煽られたり、偏見を植え付けられたり、そういう情報もむちゃくちゃ多い。
たんにインプレッション稼ぎ、金儲けのためのポストも山ほどある。玉石混淆と言いたいが、じっさいのところ、圧倒的に石が多い。それがばんばん流れてくる。そしておれは、たくさんの石にぶつかりにいきながら、それをやめることができない。
正直なところ、Xの元ポスト→Togetterのまとめ→はてなブックマークのホットエントリと、ある程度しぼられてきた情報だけ見るのが効率的で健康的だ。
タイムラグは少しあるが、そんな時間のなにが貴重だというのか。
遅れてきたX依存症の末路はどうなる?
まあそういうわけで、おれはXをがっつり見ている。これが遅れてきたX依存症の現状である。
昔は「ツイ廃」などという言葉もあったと思うが、おれはあまりポストしないのでそれには当たらないだろうか。X閲覧依存症だ。
おれはこれが、まるで役に立たない、害になる時間の使い方だと思っている。これはよくないと思っている。思っているが、やめられない。だからもう、依存症なんじゃないかと思っている。
それでも、アルコールよりは害の少ない依存でしょう? アルコールは一滴でもがんその他の病因になることがはっきりしている。
それに比べて、Xを見すぎて肺がんの原因になるという研究はないだろう。ゼロ・コーラの健康の害とされるものの可能性より、さらに健康の害にはならないだろう。「より害の少ない依存症に置き換える」、これにぴったりだ。
だが、ちょっと言いたい。「そんなのアルコール依存症の戯言だろう」と思ってもらってかまわない。
「Xってアルコールより精神に悪い影響あるんじゃね?」
どうも、そう思えてならない。アルコールがもたらすリラックス、安楽、気分の明るさ、それらとは対極のもので精神が侵されていく。
精神というと、アルコールが作用する精神疾患などにも使われるので適切ではないかもしれない。そうだな、「心」に悪い。どうもそのような気がしてならない。
こんなことは、もう10年や15年前に発見されていたことだろう。それでもおれはいまになって気づいた。そして、それでもやめられない。それじゃあ、X見るんで、このへんで終わる。
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(2026/2/9更新)
【著者プロフィール】
黄金頭
横浜市中区在住、そして勤務の低賃金DTP労働者。『関内関外日記』というブログをいくらか長く書いている。
趣味は競馬、好きな球団はカープ。名前の由来はすばらしいサラブレッドから。
双極性障害II型。
ブログ:関内関外日記
Twitter:黄金頭
Photo by :Inspa Makers




