ある記事を見た。
スタートアップ初期に重要ではない20の項目と最も重要な2つの事
上の記事は、ある会社のオウンドメディアの記事だ。
「重要ではない20の項目」は皮肉が効いていて面白いが、それより強く主張したいのは「最も重要な2つの事」のことだろう。
下記の2つだけの事柄に関してはスタートアップを始めた直後から最重要項目である。
- ユーザーに求められるプロダクト
立ち上げ時から最も重要な事柄の一つは、ユーザーが求めるプロダクトを作る事。そしてそのクオリティーを追求する事。会社になっていなくても、従業員がいなくても、オフィスが無くても、デザインがしょぼくてもとりあえずユーザーが求めるなにかしらのプロダクトをリリースする事に注力する事。
- ユーザーの獲得
ユーザーが欲しくなるプロダクトをリリースしたら、次はユーザーを獲得する事。獲得施策は多々あるが、あらゆる方法を使ってでもどうにかユーザーの獲得をしなければならない。資金調達とか組織作りはその後だ。(flesh trax)
至極まっとうな話だ。
そしてここで挙がっている重要な2つである「ユーザーに求められるプロダクト」と「ユーザーの獲得」は、ピーター・ドラッカーの言う「企業がやらなければならないことはたった2つ、マーケティングとイノベーションである。その他は全てコストだ」*1という言葉そのものである。
だからこそ、「重要ではないこと」はすべて、会社の活動から排除しなければならない。実際には「やってはいけないこと」は、20どころではなく、「殆どのことは、やってはいけないこと」なのである。
元インテルのCEOであるアンドリュー・C・グローブは、著書の中で次のように述べる。
私の仕事は決して終わらない。家庭の主婦と同じように、マネジャーの仕事は決して終わらない。もっとなすべき仕事が、もっと為さねばならない仕事が、そしてなしうる以上の仕事がいつも控えているのだ。
マネジャーは多くのボールを空中に上げておき、自分の部門のアウトプットを最高に上げると思われる活動に自分のエネルギーと注意を注がなければならない。言い換えれば、自分の”テコ作用”が最大となりそうな点に移るべきなのである。*2
彼の言説は的を射ている。
経営者やマネジャーは「自分の力がマーケティング、およびイノベーションに対して最高の成果をあげる」ところにだけ、注力しなければならないのである。そこには無駄な仕事の入り込む余地は一片もない。
しかし、この2つを同時に行っていくのは大変である。
例えば、
「凄いプロダクトを作って世の中をあっと言わせたい」
「○○することで社会を変革したい!」
と言う、経営者は山ほどいるが、
「凄いプロダクトを作って、それを世の中に伝える努力をしないといけない」
「○○で社会を変革して、それを世間に伝える努力をしないといけない」
と、はっきり言う経営者はあまりいない。
それはAppleやFacebookのプロダクトの素晴らしさは語ることができる人は多くいるが、それらのマーケティング戦略のことを語れる人が少ないことからも理解できる。
経験的に、多くの経営者は、端的に言うと「凄いプロダクト」を作ればそれが勝手に浸透していくと思いがちか、もしくは「普通のプロダクトでも営業力と、マーケティング力で売れる」と思いがちである。
もちろん、彼らに聞けば「両方大事」という。
しかし、資金的な問題や人的リソースの問題で「イノベーション」か「マーケティング」かと言う二者択一は常に求めらる。また、経営者の能力もどちらかに偏りがちだ。
その結果、知らず知らずのうちに「イノベーション」か「マーケティング」のどちらかだけにフォーカスしてしまう。
そして、特に失敗のパターンとして多いのは「イノベーション」だけに注力してしまうパターンである。
営業やマーケティングが得意な経営者やマネジャーは逆に「とりあえず売上は伸びるので、なんとか生き延びてしまう」事が多い。(これはこれで、後々、もっと大きな別の問題が持ち上がるのだが)
だが、営業やマーケティングは苦手なのはマズイ。下手をするとキャッシュがつきて、すぐに消えてしまう。
これは実に勿体無いことである。
「特に優れてもいないプロダクト」が営業力とマーケティング力で世の中に出て、「優れたプロダクト」が消えていくという状況は、世の中全体のことを考えてみても、大きな損失である。
では、多くの企業が不得意としているであろうマーケティングはどのようにしていけば良いのだろうか?
グーグルアドでバナー広告を大々的に行うことであったり、マスメディアにアピールしたり、豊富な資金があるのであれば、テレビCMを打ったりすれば良いのだろうか。
まさか。
多くの場合はその「マーケティング」に予算をつぎ込むほどの資金がなかったり、開発がまだ完璧でないうちにそのような手法は簡単に使えないと考えた方が良いだろう。
そもそも知名度がないままにそのようなマス媒体を利用しても、ほとんど効果はないだろう。
例えば、Appleの最初の成功を知っているだろうか。
それは創業前の話になるが、最初の成功はまだパーソナルコンピューターという言葉もない頃、コンピューターオタクの集まりで自分たちの製品をアピールしたことだった。
それは、世界で初めてのパーソナルコンピューターの大量販売のきっかけを掴むことにつながる。*3
また、Facebookの最初の成功は、ハーバード大学の名簿をハッキングし「女子学生のランキングサイト」としてweb上に公開したたことだ。
褒められた話ではないが、それは学生に熱狂的に支持され、やがて「Facebook」と名づけられた大学生向けの名簿サイトは、「登録されることが名誉」となり、東海岸のIVYリーグなどの有名大学に広がっていった話は有名な話である。*4
アップルやfacebookを例に挙げるまでもなく、最初は多くの人に無理に伝えようとすることではなく、そのプロダクトが必ず響きそうな人たちをごく少数でも探すことであり、そしてそのネットワークに入り込んで、継続的に情報を発信することが重要なのである。
それは量ではなく質である。
シリコンバレーの有名なベンチャーキャピタルYコンビネータが、その卒業生であるAirbnbのCEOネイサン・ブレチャージクに語った言葉が的を得ている。
「まず、100人に愛されるものを作りなさい」(NewsPicks)
幸いにも、今は有効なネットワークやコミュニティにアクセスする方法は簡単に手に入る。
自分たちでオウンドメディアを持つことであったり、SNSで発信することである。手弁当でイベントを開いても良いだろう。それらを活用すれば、低コストで、それらにアクセスできる。
もちろん企業の大好きな「イノベーション」と同様に知恵が必要だし、やり続けるという努力も必要になるだろう。
だからこそ無駄なことをやめて、「ユーザーに求められるプロダクトの開発」と「ユーザーの獲得」この2つのみ集中することが本当に大切なのだ。
ティネクト(Books&Apps運営会社)提供オンラインラジオ第6回目のお知らせ。

<本音オンラインラジオ MASSYS’S BAR>
第6回 地方創生×事業再生
再生現場のリアルから見えた、“経営企画”の本質とは【ご視聴方法】
ティネクト本音オンラインラジオ会員登録ページよりご登録ください。ご登録後に視聴リンクをお送りいたします。
当日はzoomによる動画視聴もしくは音声のみでも楽しめる内容となっております。
【今回のトーク概要】
- 0. オープニング(5分)
自己紹介とテーマ提示:「地方創生 × 事業再生」=「実行できる経営企画」 - 1. 事業再生の現場から(20分)
保育事業再生のリアル/行政交渉/人材難/資金繰り/制度整備の具体例 - 2. 地方創生と事業再生(10分)
再生支援は地方創生の基礎。経営の“仕組み”の欠如が疲弊を生む - 3. 一般論としての「経営企画」とは(5分)
経営戦略・KPI設計・IRなど中小企業とのギャップを解説 - 4. 中小企業における経営企画の翻訳(10分)
「当たり前を実行可能な形に翻訳する」方法論 - 5. 経営企画の三原則(5分)
数字を見える化/仕組みで回す/翻訳して実行する - 6. まとめ(5分)
経営企画は中小企業の“未来をつくる技術”
【ゲスト】
鍵政 達也(かぎまさ たつや)氏
ExePro Partner代表 経営コンサルタント
兵庫県神戸市出身。慶應義塾大学経済学部卒業。3児の父。
高校三年生まで「理系」として過ごすも、自身の理系としての将来に魅力を感じなくなり、好きだった数学で受験が可能な経済学部に進学。大学生活では飲食業のアルバイトで「商売」の面白さに気付き調理師免許を取得するまでのめり込む。
卒業後、株式会社船井総合研究所にて中小企業の経営コンサルティング業務(メインクライアントは飲食業、保育サービス業など)に従事。日本全国への出張や上海子会社でのプロジェクトマネジメントなど1年で休みが数日という日々を過ごす。
株式会社日本総合研究所(三井住友FG)に転職し、スタートアップ支援、新規事業開発支援、業務改革支援、ビジネスデューデリジェンスなどの中堅~大企業向けコンサルティング業務に従事。
その後、事業承継・再生案件において保育所運営会社の代表取締役に就任し、事業再生を行う。賞与未払いの倒産寸前の状況から4年で売上2倍・黒字化を達成。
現在は、再建企業の取締役として経営企画業務を担当する傍ら、経営コンサルタント×経営者の経験を活かして、経営の「見える化」と「やるべきごとの言語化」と実行の伴走支援を行うコンサルタントとして活動している。
【パーソナリティ】
倉増 京平(くらまし きょうへい)
ティネクト株式会社 取締役 / 株式会社ライフ&ワーク 代表取締役 / 一般社団法人インディペンデント・プロデューサーズ・ギルド 代表理事
顧客企業のデジタル領域におけるマーケティングサポートを長く手掛ける。新たなビジネスモデルの創出と事業展開に注力し、コンテンツマーケティングの分野で深い知見と経験を積む。
コロナ以降、地方企業のマーケティング支援を数多く手掛け、デジタル・トランスフォーメーションを促進する役割を果たす。2023年以降、生成AIをマーケティングの現場で実践的に活用する機会を増やし、AIとマーケティングの融合による新たな価値創造に挑戦している。
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(2025/7/14更新)
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