もう結構昔の話である。

面接の手伝いを始めた当時、私はあまり気にならなかったのだが、面接官に「スキルアップを志望動機とする応募者」に嫌悪感を示す人がそれなりの数いた。私は「スキルアップ」をなぜ嫌悪するのか、理由がわからなかった。

 

そこで、私は、この話を知り合いの人事をやっている友人に伝えた所、「うちでもその回答、ウケが悪いんだよね」という言葉をもらった。「どういうこと?」と聞くと、

「ウチが人を採用する理由は、応募者のスキル向上のためじゃない、といって採用を見送る面接官が結構いる」とのこと。

「ふーむ」と思う。

「では、どんな志望動機ならいいの?」と聞いてみる。すると

「一番ウケがいいのが、「私の◯◯の経験が、御社のビジネスに貢献できるから」という言い方かな」という。

 

私はこの「テンプレ的解答」が非常にオモシロイと思ったので、

「つまり、利己的ではなく、会社に奉仕をするような志望動機なら、ウケが良い。そういうこと?」と聞くと、彼は

「うーん、まあそういうことになるかな。」と言った。

 

私はさらに、彼にこう聞いてみた。

「ちなみに、その発言の裏はどう取るか?つまり、「本当にそう思っている」のか、「口先だけそう言っている」のか、その真偽はどうやって確かめるのか?」と聞いた。

 

彼は、少し考えていたが、こう答えた。

「いや、それは少し突っ込んだ発言をすれば、本当にそう思っているかどうかはすぐに分かる。例えば、具体的にはどのようなことですか?とか、現在のプロジェクトの実例をあげて、応募者に「こういうシーンではどうしますか?」と聞けばすぐ分かるだろう。ごまかしは効かないと思う。」

私は納得したので、「なるほど。たしかにそうだね」と彼に言った。

 

しかし、なんだろうか。何か違和感がある。発言の真偽が見抜けるのであれば…。

私は彼にもう一つ質問をした。

「例えば、「スキルアップ」を志望動機にした人に対しても、「会社にどのように貢献したいですか?」と聞き、つづけて真偽を確かめれば、どのような志望動機であってもいいのではないか?」

彼は、それを聞き、沈黙した。

 

「うーん、まあそうかもしれないな。「スキルアップ」と志望動機に掲げたとしても、実際は会社に貢献したいと思っているかもしれない。そりゃそうだ。」

「じゃあ、面接官には釘を差しておいたほうがいいかもね。「テンプレ的解答」をした人を優先的に採用する、ってのは不合理なんじゃないか?って」

しかし、彼の回答は意外だった。

「いや、多分それはないな。テンプレ的回答をした応募者は、相変わらず優遇されると思う。」

「なぜ?」

社会人は、「建前」と、「本音」を使い分ける能力も重要だからさ。面接のような場で、「建前を言うこともできない」ってのは、やっぱり未熟なんだと判断されるだろうな。」

「…。」

「特にうちの会社のように大企業になると、「建前」で発言するように求められるシーンがいくらでもある。それが嫌なら、うちには来ないほうがいい。」

「ふーむ。なるほどね…。ちなみに、お前は個人的に「建前」についてどう思ってるんだ?」

無駄に決まってるだろ。

「なんだ、そうおもってるなら、なんで変えようとしないんだ。」

「変わんないよ。でも、変える必要もあまり感じない。それで人間関係が円滑になるならな。」

 

大人の世界とは、難しいものである。

 

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