今日は、医療の現場で見かける普通じゃない存在について紹介したい。
普通じゃないと言っても、悪い意味ではない。
逆だ。
特別に、非常に、具合が良い人達についてである。
非常に長く活動し、命の砂時計がゆっくり落ちていく人たちについて述べたい。
1.精神科には元気な高齢者も通院している
ありふれた病院でありふれた精神医療をやっていると、ありふれた患者さんと接点を持つ機会も多い。
精神医療をやっているからといって、極端な精神症状を持っている人ばかり診療しているわけではない。特に外来診療では、「うつ病が治った後にも再発せず、けれども若干の維持療法が必要な人」「睡眠導入剤を定期的にもらいに来る人」なども珍しくない。
最近は、認知症のさらに手前のMCI(Mild Cognitive Impairment)と呼ばれる状態の患者さんを診る機会も増えた。直訳すれば、「マイルドな認知機能の差しさわり」となるだろうか。
認知症の前駆状態ともいわれる状態だが、あっけなく認知症になってしまう方もいれば、しばらくそのままの状態の人、なかにはMCIと診断されたのが体調が良くなかった時点のことで、その後長らく、認知機能の差しさわりが無いようにみえる人などもいる。
一番最後に挙げたタイプの人は、身体的な健康と認知機能が繋がっているようにみえ、実はそのこと自体、脳の機能がギリギリになっていることを示している。若くて健康な人であれば、多少の身体疾患ぐらいでは認知機能はそこまで低下しない。しかし加齢によって脳の機能がギリギリのところで維持されている人は、肺炎や尿路感染症ぐらいの身体疾患によって、MCIや認知症のような機能の低下を示したりする。そういう人の頭部画像所見を確かめてみると、しばしば、脳の萎縮が進んでいたりごく小さな脳梗塞の痕跡がぱらぱら見つかったりもする。
逆に言うと、画像所見だけ見れば認知症を心配したくなる人でも、身体の調子さえ良ければ長谷川式認知機能検査でほぼ満点の認知機能を保ち、生活能力も保てている高齢者がいないわけではないのである。
とはいえ、軽度の身体疾患で認知機能が一時的に低下したり画像所見で気になる所見があったりするようなら、今は生活能力が保てていても潜在的にはリスクがあろうから、脳の機能が良い状態を維持するために人一倍気を付けていただかなければならない。と同時に、いつ認知機能が不可逆に低下しはじめても困らないよう、さまざまに先手を打っておくようお願いしたりする。
2.90歳を過ぎても血液ぴかぴか、手術にも負けない
さて、そうして通院されている人のなかには、80代や90代になっても驚くほど元気な人が一定の割合で混じっていて、えてして、そうした人は精神科外来に通院されている患者さんの既存のイメージを逸脱している。
つまり、米寿を迎える頃になっても物忘れが進まず、せん妄などの認知症の周辺症状があるわけでもない。もちろんうつ病や統合失調症や発達障害などの症状が目に付くわけでもない。通院は、公共交通機関を用いていたり、自分で自動車を運転していたりする。ご家族に連れてきてもらっている場合も、買い物や家事はすべて自力でこなしている。なかには老人仲間に病院までの足をお願いしている人もいらっしゃる。顔が広い。人望もある。「私だけお迎えが来ないねえ」などとおっしゃりながら、近所の頼まれごとを引き受けたりもしている。
で、そうした元気の良い高齢者の血液検査の結果をみせていただくと、これまた凄い。だいたい正常値、異常があったとしてもごく軽度だ。血圧が少し高い、コレステロールが少し多いといった理由で内科系の薬を処方している人ももちろんいるが、80~90代にありがちな、何種類もの錠剤やカプセルをザラザラ飲むような状況からは程遠い。1種類か2種類、薬をもらっているだけだ。
そうした高齢者は手術などへの耐性も高い。たとえば高齢者の生活能力を大きく低下させる出来事として、大腿骨頸部骨折というものが知られている。高齢者がこの骨折を経験すると、手術そのものが成功してさえ、身体機能や認知機能がガクンと落ちることが多い。ところがこの手の高齢者は、なぜか持ちこたえる。術後せん妄のような一時的な問題が出現しても、そこからきれいに立ち直ってみせる。
精神科医になってあまり時間の経っていなかった頃は、そうしたものすごく元気な80代90代の高齢者をみても「この人元気だなー」ぐらいにしか思わなかったが、長くこの仕事をやっているうちに、矍鑠という言葉を超えて、なにやら神秘をみているような気持ちを抱くようになった。「どうして、この人の年のとり方と他の人の年のとり方がこんなに違うのか?」「どうして、この人の命の砂時計だけ、ゆっくりと落ちていくのか?」と。
高齢者の年のとり方の個人差は、驚くほど大きく、ときには残酷なものである。
酒もタバコもやらず、健康増進にも気を遣っている高齢者なのに、70代ともなれば心身の衰えが進み、まもなく認知症が進行していく人がいる。かと思えば、好きなものを食べ、好きなように生きているだけなのに90代になってもピンピンしている人もいる。不思議でたまらないし、理不尽と思う人もいよう。
医療現場全体でみれば、不摂生や不健康をしている人のほうが、そうでない人よりも短命で健康寿命も短いのだけど、ここに挙げている人達はそうした範疇をこえている。90歳になってもまだビールを飲んでいたりタバコを吸っていたり、コレステロールや中性脂肪のたっぷり入った菓子や料理を頬張っていたりする。だけど人よりも年を取らず、人よりも若くすらみえるのだ。
3.そういう高齢者の特徴は?
そうした高齢者たちは、いったいどんな特徴を持っているか。
まあ、みんなバラバラなのだけど、それでも幾つかの特徴は挙げられる気がするので挙げてみる。
ひとつには、よく笑っている。いつもニコニコ、それかガハハとよく笑う。笑顔が自然で、それがよく似合っている。精神医学っぽい表現をするなら発揚気質の人が多いだろうか? 考え方もどこか楽観的でポジティブで、クヨクヨとしない。悩むことがないわけではないが、その悩み方すらどこかポジティブだ。
もうひとつには、役割を持っている。地元の老人同士の付き合いのハブみたいな人物であることもあれば、地元の企業でしぶとく働き続けている場合もある。農業の担い手や介護の担い手であることも多い。必然的に、社交の機会、人と話す機会を持ち続けていて、なんらかの現役選手でもある。そして役割を持つだけでなく、誰かに助けられていたりもする。リタイアし、天涯孤独で、それでもこうしたスーパー高齢者にあてはまる例は私はまだ見たことがない。独居している場合でも、たいてい近くに親族が暮らしているか、共助的な繋がりに属している。
みっつめは、遠慮なく食べていること、だろうか。こうした高齢者の食生活を聴いてまわると、意外と不健康である。塩分の多い食事や糖質やコレステロールの多い食事を改めようともせず、それが健康の秘訣だと思っているふしさえある。とはいえ、ラーメンを毎日食べるとか、大酒を飲み続けるといった、決定的な不健康まではやらないし、体型は中肉中背である。とはいえ、今日模範的とされる高齢者の食事をあまり意識していないのも、また事実だ。漬物を毎日のように食べたり、ビフテキやアイスクリームやクリームパンを食べていたりする。
4.彼らの暮らしぶりは参考にならない
……と挙げてはみたが、正直、よくわからない。さきに挙げた3つの条件が、命の砂時計がゆっくり落ちていく必要条件や十分条件だとはまったく思えない。というより、食生活に関しては一般に薦められているものとしばしば違っている。せいぜい強調できそうなのは、人との繋がりのなかで楽しそうに生きていること、そのおかげで張り合いのある生活を続けている点だろうか。
私としては、そうした高齢者の生活習慣を真似てあやかりたい、という気持ちにはなれない。真似てなんとかなるとは到底思えないからだ。
それよりも、そんな生活を続けていてもなぜか動脈硬化が進まず、手術や入院を経験しても認知機能が低下せず、大半の高齢者よりもずっとゆっくりと年を取っていく彼らの生命力を賛美し、畏怖したい気持ちだ。特別に健康が弱い人や寿命の短い人が存在する一方で、特別に健康が強い人や寿命の長い人が存在するのも、道理ではある。そして研究対象としては重要な人々だろう。
医療現場に長くいると、そういうかたちで世の理不尽、世の不平等、いや、世のことわりを見ることがあったりする。命というのは、まだまだよくわからない。
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現在はネクセラファーマ株式会社で、システムだけではなく、企業風土改革や業務改善をリードし、
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野村総合研究所に新卒入社後、証券総合バックオフィスシステムやオンライントレードシステムなどの開発に従事。
その後、8 Securities(現SoFi Hong Kong)へ出向し、日本人唯一のエンジニアとして国際的なプロジェクトに携わる。
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【プロフィール】
著者:熊代亨
精神科専門医。「診察室の内側の風景」とインターネットやオフ会で出会う「診察室の外側の風景」の整合性にこだわりながら、現代人の社会適応やサブカルチャーについて発信中。
通称“シロクマ先生”。近著は『融解するオタク・サブカル・ヤンキー』(花伝社)『「若作りうつ」社会』(講談社)『認められたい』(ヴィレッジブックス)『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』『健康的で清潔で、道徳的な秩序ある社会の不自由さについて』(イースト・プレス)など。
twitter:@twit_shirokuma
ブログ:『シロクマの屑籠』

Photo:Matt Bennett













