大企業が有名タレントを起用したものから、怪しげなお金儲けを薦めてきたり、子供には見せたくないような画像が使われていたりするものまで。
僕がインターネットにはじめて接した20年くらい前は、ネット広告もかなり限られていて、有名なサイトが「広告掲載の依頼がありました!」なんて閲覧者に報告していたのです。
それが、今となっては、「無料のネットのコンテンツには、広告が表示されているのが当たり前」になっているのです。
ネットの自由という面では、「マスメディアのように、広告主の顔色をうかがわなくても良い」というメリットが語られていた時期もあったのですが、実際にお金が稼げる、となると、規模の大小はあれ、「貰えるものは貰いたい」というのもまた人情なのです(もちろん僕もそうです)。
そんな「ネット広告」の暗部を告発した、『暴走するネット広告 1兆8000億円市場の落とし穴』(NHK取材班/NHK出版)を読みました。
「インターネット広告は、今年、地上波テレビを追い抜くだろう」
2019年2月、大手広告代理店・電通は、日本の広告費の推計を発表。発表会見の中で担当者は、今後の広告費の増加への期待とともにこう語った。
発表によると、インターネット広告の2018年の広告費は1兆7589億円、前年より16.5パーセント増え、5年連続で二桁の伸びとなった。
首位の「テレビ」は「地上波テレビ」と「衛星メディア関連」を合わせて1兆9123億円と、前年より1.8パーセント減った。長らく「広告の王者」の地位を占めていた「地上波テレビ」と「インターネット」との差は259億円まで縮まった。
近いうちに「広告の王者」の地位に躍り出ようとしている「インターネット広告」。
本書は、その闇の部分を追跡した「クローズアップ現代+」の三つの番組、「追跡!脅威の”海賊版”漫画サイト」「追跡!ネット広告の”闇”」「追跡!”フェイク”ネット広告の闇」の取材記録である。
ネット広告の現在について、違法にマンガをアップロードして多くのアクセスを集めていた『漫画村』で表示されていた広告を手掛かりに、取材が行われていくのです。
読んでいて驚いたのは、大手広告代理店も介在しているのに
「企業の広告が違法サイト、あるいは企業イメージを損なうようなサイトに表示されていること」に対して、その広告に関する責任者がはっきりしていない、ということでした。
「担当者の手違い」とか
「そんなところに表示されているとは知らなかった。今後はやめてもらうようにします」とか
「担当の者はいま不在なので、取材に答えられません」
あるいは「依頼先については、迷惑がかかるのでお話できません」など、「責任のたらいまわしシステム」が完成されているような印象さえ受けるのです。
こういうのは、広告の世界の話だけではないんですよね。
ネットでは、Twitterの炎上ツイートでも
「そんなつもりで言ったわけじゃない」
「知人にだけ見せるつもりだった」
「自分はただリツイートしただけ」というように「みんなが責任逃れをしやすくなっている」ように思われます。
うまく責任逃れをしながら、それを悪用したもの勝ち、になっているのが現状の「不正なネット広告の仕組み」なのです。
地上波テレビであれば、その番組を観れば、自社のCMがどのように放送されているか確認するのは簡単だけれど、ネット広告を末端までチェックするのは至難です。
いまは、その端末の使用者の属性に合わせた広告が表示されるようになっていることが多くなっていますし。
いま、ネット広告業界で「アドフラウド(広告不正)」が大きな問題となっているのです。
それも、「問題のある広告が表示される」といった単純なものではありません。
「漫画村に大手企業の広告が配信されている」
3月下旬、私たちの元に突如、そんな情報が舞い込んできた。一瞬、何かの間違いではないかと思った。
情報を寄せてくれたのは、関東地方にある大学の研究者。
すぐに研究室を訪ねると、この研究者は漫画村にアクセスした際にダウンロードされるデータ一覧をモニターに表示してくれた。
雑誌の表紙や漫画村のキャラクターに紛れて、ある大手企業の広告のバナー画像が確かにあった。
その場で何度アクセスしてみても、確かにこの画像がアクセスされる。
だが、漫画村のページそのものを見ても、どこにもそんな大手企業の広告は表示されていない。
「ソースコード」と呼ばれるサイトの設計図を分析すると、その仕掛けがわかった。
ダウンロードしても表示しないように、ウェブサイトに細工がされていたのだ。細工の仕組みは次のようなものだった。
漫画村のサイトの中に、「iframe(インラインフレーム)」という「枠」が埋め込まれていた。
ただし、「枠を画面上は見えなくする」ことを意味する、「display:none」という指示が書かれており、さらに、ソースコードにはこの「見えない枠」の中に別の、いわば「隠しサイト」を読み込むように書かれていた。
この隠しサイトは、事件・事故や趣味などさまざまな話題を集めた、いわゆる「まとめサイト」の体裁をとっていた。
この隠しサイトには、複数の広告が掲載されていた。
つまり、漫画村にアクセスすると同時に隠しサイトも読み込み、さらに広告も読み込んでいることになる仕掛けだった。広告は、誰でも知っているような大手企業のものばかりだった。
これまで漫画村の表側に見えていた広告は、アダルト系やギャンブル系ばかりだったので、大手企業の広告画像は明らかに異質だった。
ただし普通に漫画村を閲覧しただけでは、この隠しサイトはおろか、密かに配信されていた広告もまったく見えない。
仮に見えていたなら、「大手企業が、なぜ世間から問題視されている海賊版サイトに広告を出しているのか。違法行為の手助けをするのか」とすぐに問題になっていただろう。
こうしたトラブルを避けるため、漫画村という多くのアクセスを集める巨大サイトには出せない広告を、あえて隠しサイトをかませることで、表示したことにしてしまうのだ。
これは広告費をかすめ取る不正な行為、「アドフラウド(広告不正)」と呼ばれる手法の一つだった。
目に見える表側ではなく、サイトの裏側で広告を読み込む今回の手口を、私たちは「裏広告」と呼ぶことにした。
要するに「閲覧者には見えない広告を、表示したことにするプログラムを使って実績をつくり、それで広告費をもらっていた」ということなのです。
この手法の場合、よほどパソコンやネットに詳しい人が、疑って解析しないかぎり、見つけ出すのは困難だと思われます。
広告主にとっては、閲覧者にまったく届いていないのに、広告費だけ払わされる、ということになります。
こういう手法については、広告代理店も「広告の効果と表示実績を比べてみるとおかしい」と感じていた可能性はあるはずなのですが、「〇〇回以上ネットで見てもらえるように」というようなノルマがあって、それを達成するためには、危ない橋を渡る、あるいは、あえて藪蛇になるようなことはしなかった、のかもしれませんね。
こういう手法が蔓延すると、「ネット広告はあまりも費用対効果が乏しい」ということで、まともな広告が出稿されなくなっていきそうです。
「見えない広告」だけではなく、「画像を加工することによって有名人を無許可で登場させ、いかにもその人が薦めているかのように見せる商品の宣伝」を手掛けている個人サイトも少なからずあって、問題になってきてもいるのです。
「ラクして稼げる」などの情報商材ビジネスの広告や「痩せる」「薄毛が治る」などのフェイク広告が地方新聞社のサイトに表示されていることを取材班は確認し、問い合わせています。
ネット広告に関しては、あまり詳しくない、という担当者もいて、広告代理店に丸投げ、というケースも多いようです。
その広告代理店も、枠を埋めて、表示実績をつくるために、他の会社に丸投げし……というのが、いまのネット広告の現状なのです。
このままでは、「ネット広告は効果に乏しいどころか、企業にとってのリスクになりかねない」とも言えます。
広告を出す側が、あまりにも前のめりに「稼ぐ」ことばかりになってしまったがために、ネット広告の将来は危うくなっているのです。
最後に、消費者庁の小泉勝基・財産被害対策室長の言葉を紹介しておきます。
「誰でも簡単に稼げる、初期投資以上のキャッシュバックがある、そして全額返金保証、この三つがそろっていたら、まず嘘だと疑ってほしい」
どれかひとつで十分、という気もしますし、こんなのに引っかかる人がいるのか?と思うのですが、老後のために2000万円必要とかいうのをネットニュースでみた直後だと、つい、クリックしたくなるかもしれません。
でも、旨い話って、そうそうあるものじゃないです。少なくともワンクリックで届く範囲には。
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【著者プロフィール】
著者:fujipon
読書感想ブログ『琥珀色の戯言』、瞑想・迷走しつづけている雑記『いつか電池がきれるまで』を書きつづけている、「人生の折り返し点を過ぎたことにようやく気づいてしまった」ネット中毒の40代内科医です。
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